あいまいまいんの生物学

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高校生物を語る会を振り返る

11/18に、Twitterのスペース機能を用いて「高校生物を語る会」という企画をしました!

スピーカーとして3人の方に参加していただき、私含めて4人でわいわい楽しくお喋りさせていただきました。

好きな分野や好きな部分について語り合える・わかり合えるという良さもあったのですが、思った以上に「発見」も沢山ある会でした。やっぱり人と話すと自分が見えていなかったものが見えてきますね!

今回の記事では、その時出た話や感じたことを少し書き留めておきたいと思います。

 

 

五感で感じる

自分が高校の時にどういう授業や分野が印象的だったか?という話をしているとき、

「おもしろかった」「記憶に残ってる」という理由でよく出てきたのが五感で感じる授業でした。

五感で対象物そのものを感じる授業は、やっぱり残りやすいものなのだなぁと改めて感じさせられました。

例えば食べること。ヘンテコなものを口に入れる勇気や、その時味を感じるというこは記憶にとってはプラスに働きますよね。授業中に「食べる」という背徳感やわくわくも寄与してるかも?

嗅ぐこと。普段身の回りにあるものですらあまり嗅ぐ機会はないと思うので、へぇ~という驚きがありそう。

触れること。これは解剖などがそうだと思うのですが、ぷにぷにしてる、ぐちゃぐちゃしてる、などの意外性やドキドキ感は学習にとって良さそう。

見ること、聞くことは、普通の教室の授業でも画像や動画で提供できますが、やはり実物に勝るものはないのではないかと思います。立体的なのがいいんだろうか。

 

五感で感じられるということは、現実世界で自分の身体感覚の延長線上にあるということなので、言葉だけで説明されるよりも学習者と対象物・現象の距離がぐっと近くなるのかもしれません。

 

通常授業していると、「五感で感じる」が大事だとはわかっているけれど、準備するのが大変だというのもあって疎かになりがちです。

解剖一つとっても、生ものなので、計画的に取り寄せて、クラスが複数ある場合は腐らないような授業の組み方をして、器具を用意して、全部後で綺麗に洗って……

「食べる」という行為も昔は緩かったですが、今では色々厳しいので、ちょっとむずかしいところもあるでしょう。

とはいえ、コストを下げてできる「五感で感じる」取り組みはいくらでもあるはずで、そういうものを軽く取り入れていくのは大事なのではないかな、と改めて思いました。これはある意味自戒です笑

解剖だって、業者から取り寄せるものじゃなくてもスーパーで手に入るものもある。

嗅ぐ、聞く、触る行為なら、バイオームの章のときに一歩外に出てどんぐり集めを指示したり、葉っぱ集めを指示したりすればかなり実現できる(危険性が生じないよう、注意事項や下調べ、制限はつけなければなりませんが……植物って危険沢山あるからね)。

自分の身の回りの自然やスーパーを活用して簡便に実現できる「五感体験」を、ちょっと立ち止まって考えてみて、取り入れられそうなものは組み込んでもいいのではないかな、と思いました。*1

 

 

分野ごとの格差 ~地域と「当たり前」感覚~

次に面白かったのが、「地域ごとに分野でも納得度が違うらしい」ということが判明したことです。

具体例として挙げられたのが、バイオームの分野の話でした。

 

高校生物で学ぶ「日本のバイオーム」は、本州中部をメインに据えて、いわゆる温帯の照葉樹林を中心にしっかり勉強します。

照葉樹林の優占種や特徴は勿論、「垂直分布」といって本州中部での標高とバイオームの関係性も勉強します。

授業では北海道から沖縄まで一応勉強はしますし、それぞれのバイオームにおける優占種も勉強しますが、紹介される種数が照葉樹林より少ない上に、全国的な試験を見ても出題されるのは照葉樹林についてであることが多いです。ちょっとアンバランスなんですね。

そのせいで、照葉樹林=自分の身の回りの自然、という環境ではない人にとっては、なんの話????というまるで実感を伴わない分野になってしまっているんですね。

 

北海道在住の人にとっては、照葉樹林の優占種として紹介されるほとんどの植物を見たことがない、どんぐりの多様性を感じたことがない、ということで、そうか~!と新鮮な驚きがありました。

逆にシラカンバは沢山あるんですけど……と言われたときには、「当たり前」の感覚が全然違うし、もはや違いすぎて想像すら及ばないことを痛感しました。

自分も自分で、北海道のバイオームのイメージが全然作れてなかったんですよね。

 

で、「寒いところにいそうな植物」をざっくり幾つか挙げてみて、自分の手元で北海道にいるのかいないのかを検索してみることにしました。無知を晒すことになりますが、ここで幾つか紹介します。

 

まずダケカンバ。

ダケカンバは、被子植物門ブナ目カバノキ科カバノキ属の植物です。

ラカンバ(シラカバ)に似てるけど樹皮が白くないやつですね。

wikiによると、シラカンバよりも更に高い高度に生えるらしい。ハイマツとかに交じるそうで、全然知りませんでした。

分布については、

日本、千島列島、サハリン、朝鮮、中国東北部、ロシア沿海州、カムチャツカなどに広く分布する。日本では、北海道〜近畿地方、四国の亜高山帯に生える。

とのこと。シラカンバとともに北海道にある、と聞いていましたが、水平分布垂直分布ともに広く存在しているのがわかります。

 

次にトウヒ。

裸子植物門マツ目マツ科トウヒ属の植物です。

なんと、エゾマツの変種らしい。えー、知らなかった……。

wikiで分布を見るとこう書いてあります。

北海道および北東アジアに広く分布するエゾマツの変種。本州の紀伊半島大台ヶ原から中部山岳地帯を経て福島県の吾妻山までの、海抜1,500-2,500 mにかけての亜高山帯に分布する。

てことは、北海道にもいるし垂直分布にもいる。

 

じゃあエゾマツはどうだ、ということでエゾマツ。

裸子植物門マツ目マツ科トウヒ属ですね。そりゃそう。

分布は、

千島列島、樺太渡島半島以外の北海道、中国東北部、シベリア東部、カムチャツカなどに分布する。

とのことで、ちゃんと北海道にありました。名前蝦夷だしな。なかったら困る。

トドマツとともに北海道の針葉樹林の主要樹種であり、「北海道の木」にも指定されている

という文もあったので、トドマツも北海道にありますね。

 

次、シラビソ。

裸子植物門マツ目マツ科モミ属の植物です。日本の固有種らしい。

こちらの分布はこう。

日本の本州と四国にのみ生育する。

北海道いないじゃん!

オシラビソについても、

中部地方から東北地方の亜高山帯に分布する。分布の西端は白山、南端は南アルプスまたは富士山、北端は青森県八甲田山である。本州中部では海抜1,500-2,500m、東北では1,000m以下から分布する場所もある。

やっぱりない。

シラビソ、オオシラビソは垂直分布で出てくるとはいえ、北海道にもいるんだと勝手に思っていました。いないんだ……

 

え、じゃあ垂直分布で出てくるツガは?

マツ科ツガ属の植物ですね。

日本の本州中部から屋久島にかけてと韓国の鬱陵島に分布する。暖温帯(照葉樹林)から冷温帯(落葉広葉樹林)の中間地帯(中間温帯林)に主に分布する。その範囲では比較的普通に見られる樹木であり、時に優占種となる。モミと混成することがあるが、モミが山腹に生育するのに対して、ツガは尾根筋によく生育する。なお、一部の地域ではトガサワラも混成する。

北海道いないんだ……。

 

この検索を通して一層、「自分が当たり前じゃないバイオームの感覚は得にくい」ということを強く感じました。

と同時に、逆にこういう意外性―同じ日本に住んでいるはずなのに、「身近な植物」が全然違うという驚き―を日本中で共有できたら、面白い学びになりそうだな、とも思いました。

語る会の中では、「身近な植物というタイトルで押し葉標本を作り合って、遠い地域同士で送り合う」というワークの案が出ましたが、かなり面白いのではないかと個人的には思っています。遺伝子交雑等の問題とかはあるけれど、可能ならやってみたい取り組みです。

 

他にも面白かった「地域によって身近な感覚が違う」事例は、キーストーン種のラッコのところ。これは北海道の人には「そうだよね~」となるところらしいですね。

気づいていないだけで、案外生物の教科書には地域格差がかなり潜んでいるのかもしれません。それを掘り起こして面白い形に持っていけたら、教育的にも良いと思うのだけれど……そういう格差に今まで気づかなかったので、今回の会は私にとって本当に驚きでした。

 

私が感じる「分子の面白さ」にはどうやってつなげたらいいのだろう

会を通して一つ思ったのは、自分が好きな分野である「遺伝子」とか「セントラルドグマ」とかの所謂目に見えない分子の魅力というか、

カニカル故に面白い、みたいなところをどうやって伝えたらいいのかな、というところでした。

会において自分が好きなところを語ったんですが、なんだかうまく伝えられなかった気がするんですよね……。

こう、もっと「だよねー!!!!」みたいに盛り上がると思っていたが、そんなことはなかった笑

 

高校生物学は色んなスケールの面白さ、色んな毛色の違う面白さが内包されているところに一つ良さがあると個人的には思っています。

分子が苦手でも器官なら楽しめる、とか、分類は好きだな、とか。誰がやってもどこかで救われるところがある、好きになれるところがある、というところが好きなところのひとつです(本当は全部好きになるべきなのだろうけど、どこから興味の入り口にするかは各々自由でいいと思っている)。

でも、どうしても自分が分子好きであるが故に、「自分が感じている分子の魅力を全部伝えたい!!!!!!!」って思っちゃうんですよね。でも、なかなかうまくやれていない。手応えがない……。

見せ方の工夫や、自分が本当は「どこ」に魅力を感じているのか、みたいなのを掘り下げていけたらなにか編み出せる気もするのですが。そういうのも含めて、次回は語ってみたいですね……!!!!!!

*1:全然関係ないけれど、菌界を食べて制覇しようとすると担子菌類は適当なきのこ、子嚢菌類はブルーチーズで乗り切れるが接合菌類だけがどうにも候補が思い浮かばなかった。接合菌類食べられるのだろうか。

TLに流れてきた細胞死で作問しました

問. 下のTwitterで添付されている動画は、タイトル通りある「細胞死」の動画である。この細胞死の動画を見て、A~Cの3人が発言をしている。それぞれの発言の内容を下に示す。A~Cのそれぞれの発言内容について正誤を判定せよ。

【元となるツイートと動画】

【A~Dの発言】

A:これはアポトーシスという細胞死だね。

B:細胞が死ぬ時は常に一方の端から壊れていくんだね。

C:細胞死においては、常に細胞膜が最初に分解されるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答え

A~Cの発言は全て間違っています。

ここで、細胞死の基本について勉強をしましょう。そして、良い教材を見比べてその違いを学んでみましょう。

 

 

まず、細胞死には主に2種類あります。

アポトーシス(apoptosis)とネクローシス(necrosis)です。

 

アポトーシスは、簡単に言うと能動的な細胞の死です。

例えば、私達の手は5本の指がありますが、発生時には手は一度沢山の細胞の塊として、まるでドラえもんのような形が作られます。

そのドラえもんの手において、5本の指の間の空間に位置する細胞は、「プログラム細胞死」といってあらかじめ死が予定されていて、能動的に死んで削れていきます。そうして残ってできたのが、この5本指の手です。

このようなプログラム細胞死という現象では、細胞は「アポトーシス」という死に方をとります。他にも、がん化した細胞の自殺はアポトーシスですし、成人の体内でも恒常性維持のために毎日アポトーシスは発生しています。

アポトーシスという死に方は、ざっくり言うと、周囲に迷惑をかけない、自己完結的な死に方をするのが特徴です(後で詳しく話します)。

 

一方、ネクローシスは傷害死です。アポトーシスに対して、受動的な死とも捉えられます。

ネクローシスの発生は偶発的で、事故(火傷、圧力、化学物質を被るなど)が主な原因となります。

 

この2つは進み方が全く異なり、同じ「細胞死」といっても全く違う特徴を呈します。それぞれ見ていきましょう。

 

アポトーシスの特徴

アポトーシスは上でも述べたように、「周囲に迷惑をかけない」死が特徴的です。

では、細胞が「周囲に迷惑をかけ」るとはどういうことか?

例えば、細胞質(細胞膜の中身)を細胞外にばらまく、などがこれに該当します。

細胞質の中には、分解酵素をはじめ様々な物質が含まれます。これらは、正常な生細胞であるときに、ちゃんと細胞内で制御下におかれるものです。しかし、細胞の外に出て、適切な制御がなくなると、まぁ変な動きをしますよね。結果として、周囲の細胞に炎症反応を生じさせることになります。

こういうことが、アポトーシスでは生じません。すべて、自己の細胞膜内で完結させ、膜で内と外を区切ったまま、中身を崩壊させていくというのがアポトーシスの特徴です。そういう意味で、「周囲に迷惑をかけない」死です。

 

アポトーシスでは、大抵以下のイベントが発生します(シグナルが入ってから動くカスケードの話は置いておいて、とりあえず今回は大きめな変化のみに注目します)。

  1. 細胞収縮((他の細胞とくっついていた場合、剥がれ、丸っこくなっていくように見える)
  2. 核濃縮(クロマチン凝縮)が生じる
  3. 細胞膜でのブレブ形成と一層の細胞収縮(水泡のような構造が幾つも膜上に見えるようになります、膜は無傷です)
  4. DNA分解、核の断片化、アポトーシス小体の形成(細胞が幾つもの小胞に分割されます)
  5. 細胞膜表層へのホスファチジルセリンの提示(普段は膜の内側レイヤーにあります)
  6. 細胞骨格などの分解
  7. 貪食細胞による貪食

※ 上の順序は生じる順序ではなく、かつ全てのイベントが必ず生じなければアポトーシスしないわけでもありません。

 

このイベントを踏まえて動画を見ると、なるほどとなると思います。一度見てみましょう。

 

www.youtube.com


www.youtube.com

 

 

ネクローシスの特徴

ネクローシスは傷害死なので、その傷害の種類によって死に方の見た目が異なります。

例えば下の動画はネクローシスの一例なのですが……


www.youtube.com

急にふっと見えなくなりますよね。

これはNaOH添加をトリガーとするネクローシスなのですが、細胞の形が見えなくなるのは細胞膜の消失に起因します。細胞膜が壊れて、細胞質基質が外部に一気に流出しているのです。水風船を割った時を思い描くといいと思います。

実際には細胞膜破壊と細胞質流出以外に、一部細胞小器官の膨張または崩壊、細胞自体の膨張なども生じているはずです(というか、膨張によって細胞膜が壊れて……という流れになっているはず)。

傷害の原因によって見た目は変わるものの、基本的にネクローシスには細胞膜崩壊と細胞質基質流出が伴うと考えていいと個人的には思っています。もちろん当てはまらないものもありますが……

 

 

今回の動画を見てみると

これらを踏まえて今回の動画を見てみると、

  • 端から段々崩壊していっている
  • 細胞膜が破れて細胞質基質が流出する様子が見受けられる

というところから、アポトーシスというよりはネクローシス的な特徴を示していることがわかります。

そして、ネクローシスだとしても細胞全体の細胞膜が一気に傷害されるのではなく、「端から」進んでいることから、何かしらの傷害が端から進んでいると考えることができます。端から、ということが実現できるのは、例えば圧をかけること……カバーガラスが上から段々被さってくるなどの状況を想定することができますよね。

 

実際、上の動画の引用元のインスタグラムを参照すると

 
 
 
 
 
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The cell was crushed by the coverslip due to evaporation, clearly not apoptosis.

という一文もあるので、ほぼ確実にネクローシスでしょう。

 

A~Dの発言を振り返ります。

【A~Dの発言】

A:これはアポトーシスという細胞死だね。

 →間違い。ネクローシスである可能性が高く、アポトーシスである可能性は低い。

B:細胞が死ぬ時は常に一方の端から壊れていくんだね。

 →間違い。ネクローシスの場合、一方の端から壊れていくときももちろんあるが、それは常ではない。アポトーシスでは一端から崩壊していく様子は見られない。

C:細胞死においては、常に細胞膜が最初に分解されるんだな。

 →間違い。細胞膜分解(崩壊)は「最初」だとは決まっていない。アポトーシスの場合これは生じない。

 

 

 

とはいえ、細胞死は奥が深く、未だにどういうメカニズムでそれが生じるのかわからないことがあったり、無秩序に見えて実は秩序があったりと、色々と発見が続いている分野でもあります。

また、上ではカスパーゼの話などの分子的な面白い話もしていませんし、ネクロプトーシスやオートファジーといったもうちょっと踏み込んだ話も一切していません。あくまで今回はアポトーシスネクローシスを見分ける、という主題でブログを書こうかなと思い、このような形にしました。より詳しく知りたい方は、幾らでも資料がネットや本にあるのでぜひ探してみてください。

まいばいお32 ウイルスは「使える」

ウイルスは「使える」!!!!

皆さんはウイルスにどんなイメージを持っているでしょうか。

コロナウイルス」、「インフルエンザウイルス」などの言葉を頻繁に耳にするため、「ウイルス=病気、悪いもの」というマイナスイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

 

しかし!現代の生物学では、ウイルスは大変重要なツール(道具)になっています。

ウイルスというツールがなければできない実験も沢山あり、ウイルスは大いに役に立っています。

それどころか最近では、ウイルスは私達の身体を治す医療行為としても使われ始めています。

ウイルスは「使える」。今回はそれを学んでいきましょう。

 

ウイルスに何ができるのか

ウイルスは、タンパク質の殻に核酸(DNAまたはRNA)が入った構造を基本とする物質です。

単純な構造ゆえに、ウイルスは自身のみで子孫を増やす(コピーを作る)ことができません。

ウイルスが子孫を増やすには、核酸を複製する仕組み、タンパク質を合成する仕組みを備えている「細胞」構造が必要です。

よってウイルスは、生物がもつ細胞に感染し、自身の核酸を注入することで、遺伝情報を基に大量のタンパク質と核酸を複製させて子孫を作ります。

 

ウイルスはどんな細胞にでも入り込めるわけではなく、自身がもつ殻の表層タンパク質を受容する細胞膜構造があるもののみに入ります。

そのため、感染する生物種や細胞種はウイルスごとに異なります。

 

上の性質をまとめると、ウイルスという物質は

①特定の細胞に

②自身がもつ核酸(遺伝情報)を届けることができる

という能力をもつことになります。

届け先の細胞においては、以下のようなイベントが期待できます。

  • 届いた遺伝情報に基づいたタンパク質の発現
  • 届いた遺伝子が宿主DNAに組み込まれることで生じる、恒常的なタンパク質の発現
  • 届いた遺伝子がもともとあった遺伝子を分断するように組み込まれることで生じる、分断された遺伝子の機能喪失(有害な遺伝子の機能を止める、などの活用)

病原性があるウイルスはツールとして使えませんが、病原性をなくし適切に設計されたウイルスであれば、目的の細胞の遺伝子やタンパク質をいじることができます。

ウイルスは遺伝子の「運び屋(ベクター)」として、大変有用なツールなのです。

 

「ウイルスを使わずに運ぶ方法はないの?」と思う人もいるかもしれません。

実際は他の方法も試されています。例えば、膜で包んでみるとか、タンパク質にくっつけてみるとか、核酸に飾りをつけてみるとか……

しかし生体において、DNAやRNAを無傷のまま狙った細胞にだけ届ける……というのはかなり至難の技なのです。それを核まで届けるとなると、難易度が更に上がります。

工夫なしに裸のDNAを血管に入れれば、DNAは分解酵素でバラバラにされてしまいます。

ウイルスは長い年月をかけて自身の遺伝子の「運び屋」をしてきた分、洗練された仕組みを持っているとも言えるでしょう。

 

どんなウイルスが使われるの?

研究の場で使われるウイルスにはどのような種類があるのでしょう。

代表例として、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスなどが挙げられます。

ウイルスごとに細胞傷害性、発現期間(どれだけ発現を維持できるか)、感染する細胞の種類、運べる遺伝子の長さ等、特徴が異なります。

ウイルスの大きさも異なるので、密な臓器の中で奥深くまで届けたいなら小さいものを選ぼう、とか、

ウイルスによっては最初に打ち込まれたところにばかり感染してしまうものとそうでないもの(綺麗に分散してくれるもの)があるので、そこも考慮して……

そんな風に、様々な特性とパラメータをもつウイルスの中から、目的に合わせて適切なベクターを選ぶことが重要です。作りやすさ、扱いやすさも勿論問題になりますね。

 

例えばアデノウイルスは細胞傷害性があり、様々な細胞に感染しますが、

レトロウイルスは傷害性がないものの分裂細胞にしか感染できません。

近年よく使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)は、細胞傷害性がなく、発現期間が長く、様々な細胞で発現できますが、運べる遺伝子の長さは短めです(4.7kb)。

 

狙った細胞種のみにうまく感染させたり、ある特定器官の細胞に効率的に感染させたりするために、様々な種類のウイルスが自然界から探索されたり、変異によって作られたりしています。

AAVを例にとると、自然界だけでもAAV1~AAV10など多数種類があり、どれも感染細胞などの特性が異なります。

 

ウイルスを研究に

研究の場でウイルスを使う方法はいくらでもありますが、わかりやすくするために具体例を一つ考えてみましょう。

 

例えば、「バランスをとるには小脳でA遺伝子が発現していることが大事だ」と仮説を立てたとします。

手元にはA遺伝子を全身で欠損している平衡感覚のないマウスがいます。

どういうウイルスベクターの活用をすれば、仮説を検証できるでしょうか。

 

この場合、小脳だけに感染するA遺伝子をもたせたウイルスベクターを設計・感染させます。その上でバランスが改善されたかどうかを見ると、仮説の検証ができますね。

勿論、正常なマウスを用意して、「小脳のみに感染し、かつB遺伝子を組み込んでA遺伝子を分断する」ウイルスを感染させるアプローチもできます。

 

このように、遺伝子の機能、遺伝子の発現の様子等、様々なことが従来よりも簡単に・細かく調べることができます。

ウイルスを医薬品に

AAVをベクターとした遺伝子治療薬も既に承認を受け、販売されています。

具体例としてゾルゲンスマとラクスターナという薬が挙げられます。

 

ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症の治療薬です。

脊髄性筋萎縮症は、先天性の遺伝子疾患です。運動神経を生存させるための遺伝子SMN遺伝子に異常があると、成長に伴い筋力低下や筋萎縮が進行していき生存が難しくなります。

SMN遺伝子は常染色体上にあり、機能損失型の遺伝子は劣性であるため、2つの常染色体のどちらにも変異遺伝子が乗ると発症します。ということは、正常なSMN遺伝子が1つでもあれば、発症を防げる病気です。

 

ゾルゲンスマは、AAV9ベクターに正常なSMN遺伝子を持たせたもので、これを静脈注射することで運動神経等に正常SMN遺伝子を運びます。

正常SMN遺伝子が正しく導入されると、患者においてSMNタンパク質が発現するようになり、脊髄性筋委縮症が治せるのです。

 

脊髄性筋萎縮症は今まで根本的な治療法がない病気でしたが、このようにウイルスベクターを用いた遺伝子治療が可能になったことで希望が見えるようになりました。

 

ウイルスは「使える」ということが少しでもわかってもらえたでしょうか。

ウイルスは今後一層、「使える」ツールになっていき、私達にも身近なツール化していくことでしょう。

悪いやつ、と先入観を持たず、どう使えるか考えるという視点も、大切なのかもしれません。

まいばいお31 2021年のノーベル生理学・医学賞 PIEZO

前回は、2021年のノーベル生理学・医学賞を自分なりにまとめて紹介していこうとしたら、TRPチャネルだけでものすごく長くなってしまったという回でした。

これね↓

i-my-mine.hatenablog.com

 

今回は続きとして、機械刺激、すなわち圧力・触覚の受容体についての紹介をしていきたいと思います!間違ってるかもしれない!間違ってたら教えて!!!!!!

 

 

✿機械刺激受容体PIEZO

前回の記事では、温度受容体が波に乗って(?)どんどん見つかっていく過程を紹介しました。

しかしその傍ら、謎のまま取り残されていたのが「脊椎動物の機械刺激受容体」についてです。

細菌、線虫、ショウジョウバエといった生物種では既に機械刺激受容体は特定されていました。加えて、脊椎動物に機械刺激感受性があることも明らかになっていました。

だったら脊椎動物でも細菌・線虫・ショウジョウバエらの受容体が機能してそうじゃない!?と思うのですが、それらをテストしてみるとどうも脊椎動物においては機械刺激の受容能がないのです。

いることはわかっているけど捉えられない……それが脊椎動物の機械刺激受容体でした。

 

今回ノーベル賞を受賞したPatapoutianは、そんな機械刺激受容体を突き止めることに成功した人物です。

では、どういう方法で突き止められたのでしょう?

 

まずPatapoutianらは、マウスとラットの細胞株を7種ほど用意し、

それらに機械刺激を与えて電流を測定するという実験を行いました。

脊椎動物の神経系においては、機械刺激が受容された際特有の活性化電流(MA電流)が発生することが知られていたため、MA電流のようなものを発生させる細胞を探そうとしたのです。

機械刺激を受け取ったときMA電流を発生させる細胞があれば、そこに機械刺激受容体が発現している可能性があるからです。

 

結果、Neuro2A(N2A)マウス神経芽細胞腫細胞株と、C2C12細胞株において電流が確認され、

これらの細胞に機械刺激受容体がある可能性が示唆されました。

 

次にPatapoutianらは、N2A細胞で発現しているであろう機械刺激受容体の探索に移りました。

まずはN2A細胞で豊富に発現するタンパク質のリストアップです。リストアップしたものの中で、機能が未知のものや、カチオンチャネルのものの優先度をあげて、順位付けを行いました。

そのリストの中で順位が高いものから、ひたすらに各タンパク質の機能を確認していき、機械刺激受容体を突き止めればいいわけです。

 

とはいえ「突き止める」方法にも色々あります。

TRPV1の際はどのように突き止めたか、覚えていますでしょうか?

TRPV1探索、すなわちカプサイシン受容体探索の際には、

  1. カプサイシン受容能がある細胞からcDNAライブラリーを作成する
  2. カプサイシン受容能のない細胞にcDNA(タンパク質の設計図として機能するもの)を導入してみる
  3. カプサイシン受容能の獲得が生じたら、導入したcDNA中にカプサイシン受容体があると判断する

という手順で候補を絞っていったのでした。

ではPatapoutianらはどうやったのか?

siRNAノックダウンという方法を使いました。

 

siRNAは、small interfering RNAという名称からも推測されるように、mRNAからのタンパク質発現を妨害・干渉するような低分子二本鎖RNAです。

siRNAが細胞内に注入されると、siRNAは一本鎖に分離し、自身と相補的な配列をもつmRNAに結合します。

結合が生じたmRNAは分解され、そのmRNAにコードされていたタンパク質が発現しないという結果に繋がります。このような現象をRNAi(RNA interference, RNA干渉)といいます。

上でも述べたように、siRNAは自身と相補的な配列のmRNAに影響するので、あるタンパク質の発現を止めたい場合、そのタンパク質をコードするmRNAに相補的な配列をもつsiRNAを作成・導入します。ということは、狙ったタンパク質のみの発現を制御できるということです。

更に、mRNAを分解する、ということは、基のDNAにおいて遺伝子が失われるわけではないので、siRNAの干渉効果はsiRNAを入れたときだけ・存在している間だけ、ということになります。まさに「ノックダウン」です。*1

 

ということでPatapoutianらは、機械刺激を受容する細胞に対して、リストアップしたタンパク質上位から一つずつノックダウンを行っていきました。

実験に使う細胞は元々機械刺激を受容するものですから、機械刺激受容体が発現しているでしょう。機械刺激受容体がノックダウンされたら、刺激時の電流変化は普段と違う形になるはずです。

ですから一個ずつノックダウンしては、刺激し、電流を確認し……という作業を行っていったわけです。

 

この結果見つかった機械刺激受容体候補がPiezo1です。

Piezoは、ギリシャ語で圧力を意味する「πίεση」から来ています。

Patapoutianらは、普段機械刺激感受性のないヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)でPiezo1を発現させると、機械刺激への感受性を獲得することを見出しました。こうしてPiezo1が脊椎動物初の機械刺激受容体として同定されたわけです。

 

脊椎動物のもつ遺伝子を見ていくと、Piezo1と配列が似ているものがもう一つありました。それがPiezo2です。

その後の研究により、後根神経節感覚ニューロンの機械刺激入力にはPiezo2が重要な役割を果たすことが明らかになりました。

Piezo1、Piezo2はそれぞれ脊椎動物において、異なる役割を担っているんですね。

一例ずつ挙げるならば、Piezo1は赤血球の体積維持、Piezo2は膀胱の膨張感知が挙げられます(勿論他にもたくさんあります)。

どちらに関しても言えることは、機械刺激や圧力というのは発生時・生活時どんな場面でもどの部位でもかなり大切なものなので、Piezoが狂うととても大変だということです……。

体勢がとってられない、協調的な動きができない、肺の圧力感知が変だから呼吸できない、尿が出せない、赤血球が異常になり貧血になる、そもそも発生ができない、触ってもわからない、なんか痛い……などなど、考えてもゾッとすることばかりです。いやぁ、機械刺激受容って大事ですね。

 

ちなみにPiezoってめちゃくちゃ不思議なタンパク質でもあります。超でかいんです。38回膜貫通します。意味がわからないですよね。

写真を検索してもらうとわかると思うんですが、形も意味がわからないです。プロペラ?ってなると思います。でかすぎて結晶化できないので、構造解析はとても大変だったらしいですね。

未だにこのチャネルが、どのように機械刺激を受容しチャネル開閉につなげるのかは明確にはわかっていないらしいです。夢が膨らみますね。

 

 

 

あと、

これは本当に本当に余談ですが、

Piezo1って、赤血球に発現してるんですよ。

このPiezo1を活性化して脱水をさせる化合物があるんですけどね、これがYoda1って名前なんです。

ヨーダがフォースを操るってワケ!Jedi2とかもそうなんだけどね……たのしい……

*1:これはちょっと込み入った話になるのですが、DNAから遺伝子を完全になくしてしまうノックアウトと、一時的に発現を消すノックダウンでは全然実験上の使い勝手が異なります。ノックアウトの場合、生物の成長段階で一時期必要なタンパク質とかをノックアウトしてしまうと、もはや機能確認まで発生させることができません。そういう意味でノックアウトは響く範囲が広すぎるのです。ところがノックダウンは、無傷で育った成体においてそのタンパク質の機能を知る……なんて使い方ができます。とはいえノックダウンの場合はもとの遺伝子が存在し続けるわけで、タンパク質を「完全に」消すことができないという欠点がありますが……。両方必要なんですね。べんり~

まいばいお30 2021年のノーベル生理学・医学賞 TRPチャネル

✿2021年ノーベル生理学・医学賞は「温度と触覚の受容体発見」

2021年10月4日、ノーベル生理学・医学賞が発表されました。受賞者はDavid JuliusとArdem Patapoutianのニ名です。

ニ名は、温度や圧力(機械刺激)という重要な環境要素をどのように生物が知覚するのかを突き止めた、すんごい人たちです。

TRPチャネルについては授業でもよく取り上げ、話をします。hotが辛い、熱いの意味をもつのが興味深くて……みたいな。鉄板ネタですね。

鉄板ネタになるくらい身近ですごい話なわけです。

ということで今回は、自分なりにノーベル生理学・医学賞をまとめて話していこうと思います!(他にもいい解説記事がいっぱいいっぱいあるとは思うけど、自分の勉強のためにもまとめる!間違ってるかもしれない!間違ってたらコメントで教えて欲しい!!)

 

✿皮膚と感覚

私達は皮膚を通じて様々な感覚を得ています。

触覚(圧覚を含む)、温覚、冷覚、痛覚……多様な感覚を受容できる皮膚ってすごいですね。

これらの感覚は、それぞれに特化した神経細胞によって受容されます。

しかし、「どのように」刺激源を受容しているのか、その分子基盤は長いこと明らかになっていませんでした。

 

✿温度受容器TRPチャネル

唐辛子を食べると私達は、辛い!(痛い!)と同時に熱い!を感じます。

このような、「熱と痛み」の関係性は以前からよく知られ、研究もなされていました。

ちなみに上記のような反応は、唐辛子が含むカプサイシンが原因で生じます。

 

David Juliusは1900年代後半、カプサイシン受容体を探れば痛みのメカニズムに迫れるのではないかと考え、カプサイシン受容体の探索に乗り出しました。

でも、どうやって探すんでしょう?

 

生物の身体には、カプサイシンに反応する細胞と反応しない細胞があります。反応する場合は、興奮が生じますが、カプサイシンの場合は細胞内陽イオン濃度の上昇が発生します(陽イオンとは具体的に、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどです)。

普段からカプサイシンに反応する細胞には、カプサイシン受容体をコードしたmRNAがあるはずです。

一方反応しない細胞は、カプサイシン受容体がないはずですね。この細胞にカプサイシン受容体候補を発現させたら、カプサイシンに反応するようになるでしょう。


ということで、Juliusらはカプサイシンに反応する感覚神経に注目し、この細胞体を含むげっ歯類の後根神経節からmRNAを抽出しました。

mRNAを逆転写することで、各タンパク質をコードしたcDNA*1ライブラリーを作成することができます。このライブラリーの中にカプサイシン受容体のcDNAがいるはずです。

 

これらのライブラリーを試すためのカプサイシン非感受性細胞として、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞が用意されました。

HEK293細胞に上記のcDNAを導入し、カプサイシン曝露時の応答(細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するかどうか)をチェックしていけばいいわけです。応答があれば正解です。

 

とはいえ、cDNAライブラリーは大きいため、一つずつのcDNAを個々の細胞に導入してチェックするのは大変です。

そのためJuliusらは、cDNAライブラリーを最初約16,000のプールに分け、

そのプール1つを1つの異なるHEK293細胞に導入する、という形でチェックを開始しました。

約16,000種類のHEK293細胞の中で、応答性が出たものを見つけ、

その細胞に導入していたプールを更に細分化し、また各々HEK293細胞に導入し……ということを繰り返したのです。なかなか果てしない作業ですね。

最終的に、カプサイシンへの応答性を与えることができる単一のcDNAクローンを単離することができました。すごい!

 

このcDNAで発現するタンパク質は、塩基配列から6つの膜貫通ドメインを持つ内在性膜タンパク質をコードすると予測されました。

加えてこのタンパク質は、カプサイシンとレシニフェラトキシンへの応答性を細胞に与えます。

カプサイシンとレシニフェラトキシンは、どちらもバニリル基とよばれる官能基をもつバニロイドという化合物の一種です。

このことから、彼らは見つけた受容体をVR1(vanilloid receptor 1)と名付けます。

後にVR1は、多種の陽イオンを通すチャネルであるTRP(Transient receptor potential)チャネルのファミリーに属することがわかり、VR1からTRPV1という名称に変わりました。

 

この後も、TRPV1がカプサイシン受容体として生体内で機能していることを証明するためにたくさんの実験がなされます。

例えばアフリカツメガエル卵母細胞で発現させて、電位を測ってみたり……

カプサイシン以外の薬剤をふりかけてテストしてみたり……

カプサイシンの連続曝露で細胞死が再現できるか確認したり……

TRPV1の生体内での発現部位を確認したり……などなど。

「TRPV1がカプサイシン受容体である」ということを証明するだけでも複数の視点からの実験・証拠集めが必要です。根気がいる作業ですね。

 

このような実験を重ねていくことで、TRIPV1がカプサイシン受容体であることは確定的になりました。

その後Juliusは、熱によってもTRPV1が活性化されることを見出します。

TRPV1を発現させたHEK293細胞において、周囲温度を22℃から45℃に急上昇させると細胞内カルシウム濃度が顕著に増加することを観察したのです。

 

さらなる詳しい研究により、TRIPV1はすべての熱刺激を受容するのに機能するのではなく、

「痛み」を伴う熱刺激を主に受容し、活性化することが判明しました(43℃以上の高温)*2

TRPV1が発現している神経細胞が痛覚受容の感覚ニューロンであったことからも、TRPV1がカプサイシン・熱・痛みを受容する分子基盤であることが明らかになりました。

 

TRPV1をノックアウトしたマウスでは、炎症時の熱性痛覚過敏が抑えられます。しかし、無害な温度の感受は問題なくできてしまいます。

このことから、TRPV1以外にも温度を受容する受容体があると考えられ、探索が盛んに行われました。TRPM3、TRPA1、TRPM8などなど、各温度の感受を担う受容体が発見されていきました。

それぞれ受け取る温度や結合物質が違います。例えばTRPM8は28℃以下の温度を受け取る受容体で、かつミントの成分であるメントールを受容します。ミントを食べると涼しく感じますよね~。

さらに低い温度の受容体がTRPA1で、約17℃以下の温度で活性化します*3。ワサビ成分のアリルイソチオシアネートをはじめとする、多種の有害刺激を受容するチャネルでもあります。

こういった複数の受容体によって温度が受容されることで、私達は細やかな温度感受が可能になっています。

温かいとか冷たいとかの区別も、これらの受容体が複合的に寄与しあって、神経の興奮や抑制がうまく組み合わさることで実現していることがわかってきています。なかなか面白いですね。

 

 

これらの温度・痛みに関する受容体への理解を基に、遺伝的疾病の解釈や、鎮痛剤の開発といった医療応用が試みられています。

そんなに簡単なことではないので、特に後者はあまり進んでいないようですが……。

ついでに言うと、なぜ熱変化でチャネルが開閉するのかについても、分子的なメカニズムはよくわかっていないらしいです(そうなの!?ってびっくりしてしまった)。まだまだ興味深く、探求しがいのあるチャネルなんだなぁ。

 

 

ちょっと長くなりましたので、機械刺激の受容体PIEZOの話は次に回します!

*1:complementary DNA。mRNAと相補的な配列をもつDNAなので、これを転写・翻訳するともとのmRNAから発現されるであろうタンパク質を発現させることができる

*2:主に、であって、実際は後の研究で43℃以上の熱刺激以外でも反応する場面があることが明らかになっている。暖かさの受容に必要ぽい?

*3:17℃以外でも反応が確認されているよ

2回目コロナワクチン記録

1回目はこちら↓

i-my-mine.hatenablog.com

 

2回目ワクチンを打ってきた!!!!

のでつらつらと記録を書いておこうと思う。

 

1回目ワクチンの反省を活かして

1回目のワクチンでは、心配さやドキドキさのあまり体温が37.4℃まで上がってしまうというミスがあった。

ので、それを回避するため、

  • なるべく平穏な心で迎える
  • あまり心配もしない

というのを心がける。

準備も早めに着々とした。2回目のワクチンでは解熱剤が必須だというので、

などを用意した。

 

接種当日

接種当日は平穏な心で迎え、時間も早めに会場に向かった。

……はずだったのだが、予期せぬイベントが発生し、走る羽目になってしまった。

走って会場入りし、割とすぐに促されて体温計測定に向かう。

イレギュラーイベントで心動かされたり、走ったりしたことで体温が上がってしまっていないかヒヤヒヤした。が、体温は無事(?)36.4℃だった。セーフ!

 

そのまますんなり注射を済ませ、すんなり終わり、すんなり出てきた。

 

 

接種後の体調

接種が終わってすぐ体調が悪くなることは一切なく、なんなら注射できた喜びで心も身体も軽かった。

ので、そのままケーキ屋さんに行ったり、百均に行って毛糸玉を選んだり、なんか色々した。

帰ってきてからも余裕だったので、元気にご飯を食べたりケーキを食べたりした。

 

 

接種から5時間くらい経って、段々腕がぴりぴりしてきたのを感じた。

また腕が痛くなるのかな、と思ったが、結局1回目ほど腕は痛くならなかったし、痛さの上昇も緩やかだった。

 

接種から12時間くらい経った頃、段々身体がだるくなっているのを感じた。

熱を測ると少しずつ上ってきていて、37.5℃を超えている。

これは……と思い、しばらく様子を見ると、どんどん上がっていって、38℃を超えた。

寝ようと思っても苦しくて寝付けない、ぐるぐるもやもやと胸のあたりがかき乱され、吐き気も出た。頭も痛い。

とにかく身体がへんてこな感じで、浮遊感がある。

 

自分は熱が出ると思考が止まらなくなるという癖がある。頭の中が、止めてほしくても考えが止まらない状態になって、文字や数式で溢れてしまう。で、それがうるさくて眠れなくなるのだ。

 

その状態に陥って、うんうんうなって、ずっと横になってごろんごろんしていた。本当は編み物とかしたかったけれど、そんなことができる体調ではなかった。

勿論ご飯も一切食べられなかった。

 

ずっと熱は下がらず、38℃超えをキープし、そのまま戦い続けたが、ふと「解熱剤用意してたじゃん!」と思い立つ。

で、解熱剤を思い切って飲んでみた。

解熱剤を入れて、しばらく横になっていたら、安心したのかいつの間にか寝ていた。3時間も経っていた。

身体が楽になったのを感じて熱を測ると、なんと37℃。かなり解熱剤が効いているらしい。

 

その後また上がるかなと思っていたが、5時間経っても10時間経っても下がる一方で、なんだか知らない間にワクチンの副作用は終わっていた。

左腕の痛みも知らない間に消えていた。

 

 

体調があまりにも悪かったせいで、全然体温や状態のトラッキングができず、

「解熱剤を飲んだら楽になった」という学びだけで終わってしまったのが大変悔しい。

それに、もっと早く解熱剤を使えば、色んなこともできたはずなのに、無駄に高熱や暴走する頭や吐き気と対峙し続けたのも虚しい。反省しかない。

皆さんには是非早め早めに解熱剤をフル活用していただきたい。

 

途中、あまりにも体調が悪くなったので、「もしやコロナ本番なのでは?」と心配になったが、その時は血中酸素濃度計が役に立った。

血中酸素濃度計で自分の心拍や酸素濃度を数値で可視化・フィードバックすることで、いくらか安心・安定することがわかったので、これは今後もやっていきたい。

Blenderで周りの人をモデリングして動かしてみた その2

前回

i-my-mine.hatenablog.com

唐突にやり始めた人体モデリング

ここで学んだ技術を基に、今度はResearchatの いたのりさ ちゃんを作ってみることにしました。

Researchatはめちゃくちゃ面白い生物系研究者のPodcastです。

researchat.fm

全人類聴きましょう。

でもって いたのりさ ちゃんとは、Researchatメンバーの一人たまきさんが考えたキャラクターです。

かわいいですね。

かわいいので作ってみたいと思いました(安直)。

 

今回はちょっと長い挑戦なので目次を先に立てておきます。

 

取り敢えず3D立体を作る

三面図どうするの

さて、いたのりさちゃんを作りたくなったのですが、三面図がありません。

三面図がないと自分で三面図を描かないといけないので、それが億劫でごろごろしていました。

すると、Twitterを通じてremonさんという天才絵師さんが「三面図描きましょうか?」と手を挙げてくださるという……!

remonさんの絵は繊細・的確・美麗です。Twitterとブログを貼っておきます。

twitter.com

https://runningremon.wordpress.com

remmonさんとはresearchatを通じて知り合ったので、志同じくしてりさちゃん作成に協力してくださったという次第です。ありがたや。

 

てことで、remonさんが三面図を提供してくださりました。大人ではなく、敢えて幼いちびりさちゃんを作って頂きました。

瞳、スカートのテクスチャも描いてくださったので、早速3Dにしていきます。

 

3Dにするぞっ!

今回は前回の反省を活かし、

  • あんまり面の数を増やさない
  • なるべく四角い面を作る(三角の面を張るとなんか尖るので)
  • 変な点や線・面を連動して意図せず動かさないように注意する
  • モディファイヤーの適用はギリギリまでやらない

ということを守って実行しました。

前回の経験があったので、今回はとても手早く&いい感じにできました。三面図もそれ用に作ってもらったので、きっちり合ってて使いやすかった……。

……のですが、私がアホなので最初三面図を読み違えて、短パンスタイルにしてしまいました。

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本当はチェックスカートでした。そんな間違いある?????????

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りさちゃん、こだわって白衣を着せてあります。

白衣の襟を作るのが個人的には大変でした。

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白衣を脱ぐとCas9Tシャツが出てきます。

稚拙ですが私が描かせて頂きました。ほしいなこれ。

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ヘッドフォンにはDNAを描き込みました。勿論右巻きです。

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今回の作成過程で一つ困ったのが、服や髪の毛を作る時のメッシュの形状です。

基本的にミラーモディファイヤーをとサブディビジョンサーフェスを適用しながらモデリングをしていて、最初身体を作り、他の部位は身体のメッシュを基準に複製して作っていきます。

のですが、複製したメッシュではミラーの中心に切れ目が入ったり、謎のくぼみが生じたりするんですね。所謂スカートでいうと後ろのスリットみたいなのが、どの部分にも出るのです。

どうにもならんなこれと試行錯誤しましたが、結局これは、一度モディファイヤーのミラーを消して、再びミラーを適用すると直すことができました。

もしかしたらモディファイヤーのミラーとサブディビジョンサーフェスの順序のせいもあるかもしれない。なんにせよなんとかなることはわかってよかったです。

 

あともう一つ困ったのが、頑張ってしたテクスチャペイントが消えてしまう現象。

フェイクユーザーで保存をかけたり、逐一オブジェクトモードに戻って保存する必要があるみたいです。が、細かいことはわかりません。10回くらい泣きました。Cas9……。

 

とはいえモノができてよかった!

なかなかかわいくできたのではないでしょうか?

 

動かしたーい!

とはいえ、ガワができても動かないと悲しいものです。

前回の幼女さんでは達成できなかったボーン入れに、再度挑戦してみることにしました。皆やってるんだから私のだってできるはず!!!!!!!!今回綺麗めに作ったし。

 

ということで、まずは

モディファイヤーをすべて適用→全部のメッシュを統合→ボーンを適用

という順で実行しようとしてみたのですが、やはり自動ウェイトではうまくいきません。一切適用してもらえず。

 

そこでふと、前回の幼女さんの髪の毛ボーン事件を思い出しました(勝手に命名しました)。

「前回髪の毛だけのメッシュにボーンが入ったように、すべてバラバラのメッシュの状態にしたままで、身体メッシュのみにボーン適用したらいいのでは?」と思ったんですね。

やってみました。

モディファイヤーの適用も、あえてせずにやってみよう、とトライしてみたんですね。

すると!あっさり身体にボーンが入り、肉体のみが動くようになりました。すごい!

 

とはいえそのままだと髪の毛も目玉もすべて置き去りにして肉体だけが動くことになります。怖すぎ。

他の部分も連動させなければなりません。

肉体に一個ずつメッシュ統合してみたらどうか?とやってみましたが、これは駄目そうでした。メッシュが3つくらいになると、もう自動ウェイトがきかなくなります。

結局色々試してみて、一番良いのは

目・髪・靴下・靴・ヘッドフォン→特定のボーンのみに追随すればいいので、ボーンに親子関係を設定する

服(Tシャツ、白衣、スカート、パンツ)→空のウェイトを設定しておいて、身体のウェイトを服に転送する

という形でした。ウェイト転送については下のサイトを参考にしました。

www.stjun.com

もしかしたら靴、靴下もウェイト転送の方がいいかもしれません。

とはいえこれでいい感じに動くようになりました。やったー!

ウェイトペイントをうまいこと併用すれば、もっと思い通りに動くようになりました。念願のヒト型モデリング動かし成功です!!!!!!!!

無事にボーンが入ったのでアニメーションを作ってみました。

youtu.be

 

……とはいえ、ちょっと不気味ですね。なんか満足いかないので、より自然にするにはどうしたらいいか?と考えました。

きっと必要なのは、そう、「まばたき」です。

 

シェイプキーで表情を作るぞ

不自然さ脱却を目指して、まばたきをさせるぞ!と決意したのですが、やり方を知りません。

なので調べてみると、シェイプキーというものを使えばできそうだということが判明しました。

amaotolog.com

シェイプキーを作れば、逐一メッシュをいじらなくてもまばたきを自由なタイミングでさせられることができます!HAPPY

早速挑戦です。

 

とはいえ、自分のりさちゃんのアイラインはテクスチャペイントで、記事ではメッシュになっています。ペイントの場合どうなるのかな?と思いながら無理やりまぶたを閉じさせた所、こんな感じになりました。

youtu.be

アイラインがぐしゃっとなって化粧崩れみたいになるね!?!?!?!?

かなしい。

次からはアイラインもメッシュで作成した方がよさそうですかね。

……と思ったのですが、よく考えたらテクスチャペイントがぐしゃるのは、そのペイントがされてる面の面積が変わるからなので、それが変わらないようになればたぶん崩れないんですよね。

実践したところ普通によくなりました。テクスチャペイントでいいや。

 

とにかくこれでまばたきはできるようになったので、きっと口も動かせられるだろう。なんならほっぺも膨らませたりできるかも!

などと考えながら、口まで実装しました。

アニメーションも作っちゃお!と思ってノリで作ったら、謎回転が実装されました。なんじゃこれ。一回転してほしかったのに。

youtu.be

 

次はカメラワークでしょう!

さて、だいぶりさちゃんに人間味が出てきたので、次なる欲はカメラワークです。

今まで一生懸命カメラを動かしていましたが、勝手に動いて欲しいしなんならかっこいい感じでアングルが変わっていってほしーい!

こういうのは調べれば出てくるはずなので調べてみます。するとあっさり出ました。

 

Blender、設定さえちゃんとすれば、カメラがオブジェクトを勝手にトラックしてくれるようになるんですね。今までの苦労はなんだったんだ。

加えてカーブを使って道を作ると、その上をカメラが走ってくれるようにもできるとのこと。

自分は円ではなく、段々上がりながらオブジェクト周りを回るルートを作成してみました。

your-3d.com

 

これでアニメーションを撮って終わりでもよかったんですが、どうせならResearchatの文字が急に出現してくる感じにしたい!と思い、

オブジェクトを途中で出現させる方法と

www.ame-name.com

文字メッシュの作成法を学びました。

blender-cg.net

本当になんでも出てくるね!!!!!!!!!!!!

 

そうして完成したのがこちら。

youtu.be

 

わーい!かなり人間らしくなってきたよ!!!!!!!!!

気をつけた点としては、胴体を動かすようにしました。「胴体動いたほうが人っぽくみえるよ」とアドバイスを受けたので……。

 

次は環境を作りたいな~~

かなりやれることが増えてきたので、次は背景や環境にこだわっていきたいですね。

りさちゃんのバックがただのピンクだと悲しい。

一応ちょっとしたものを作ってみましたが、なかなかうまくいかず。思ったようにならぬ。環境は奥が深そうです。

youtu.be

あとは、複数カメラを作ったカメラワークとか、エフェクトを使ったアニメーションにも挑戦してみたいところ。

そこまでいくとアニメーションのプロットが必要になってくるので、しばらく勉強と案を練ることをやっていこうと思います。

 

 

すべてを通して学んだ一番大事なこと

2回のヒト型モデリングを通じて改めてわかってきた一番大事なこと。それは、

「とにかく最後までサブディビジョンサーフェスの適用をするな」ということです。

これをするともう全然メッシュが動かせなくなってしまう。細かい点になるので。

ボーン入れようがシェイプキー入れようが、適用するモディファイヤーはミラーまでだぜ!

サブディビジョンサーフェスはもう絶対最後まで適用しない、と心に強く刻み込みました。

 

こんなことしてなんになるの?って思われるかもしれないけど……

楽しいからやってるんですが、なんとヒト型モデリングを通して学んだことで、カエルの発生モデリングがもしかして動画化できるんじゃないか?というヒントが自分の中で掴めてきました!これはちょっとびっくり。

なんでもつながるもんですね。

一段落したらカエルのリトライもやっていきたいところです。

 

余談

今回学んだことを活かして(?)、有隣堂しか知らない世界のブッコローを3Dで作り、アニメーションにしてみました。

www.youtube.com

めっちゃ好きな番組。

youtu.be

本じゃなくてキムワイプを作ればよかったかも~~。キムワイプ作りたいな。

あと、モデリングの際羽根を閉じた状態で作ったせいで、ウェイトのかけかたがちょっとおかしくなりました。やはりモデリングするときには、ウェイトを見越してTの形に腕を広げさせておいた方がいいですね。学び。