あいまいまいんの生物学

あいまいまいんの生物学

生物学が好き。勉強したり遊んだり。

日頃感じたこと思ったこと、出来事など

勉強して面白かった話

授業で使えそうな生物学の知識・雑談・小ネタ

などなどを紹介していきたいと思います

コメント大歓迎!気軽にコメントして下さい

ゲームサイトはこちら

まいばいお31 2021年のノーベル生理学・医学賞 PIEZO

前回は、2021年のノーベル生理学・医学賞を自分なりにまとめて紹介していこうとしたら、TRPチャネルだけでものすごく長くなってしまったという回でした。

これね↓

i-my-mine.hatenablog.com

 

今回は続きとして、機械刺激、すなわち圧力・触覚の受容体についての紹介をしていきたいと思います!間違ってるかもしれない!間違ってたら教えて!!!!!!

 

 

✿機械刺激受容体PIEZO

前回の記事では、温度受容体が波に乗って(?)どんどん見つかっていく過程を紹介しました。

しかしその傍ら、謎のまま取り残されていたのが「脊椎動物の機械刺激受容体」についてです。

細菌、線虫、ショウジョウバエといった生物種では既に機械刺激受容体は特定されていました。加えて、脊椎動物に機械刺激感受性があることも明らかになっていました。

だったら脊椎動物でも細菌・線虫・ショウジョウバエらの受容体が機能してそうじゃない!?と思うのですが、それらをテストしてみるとどうも脊椎動物においては機械刺激の受容能がないのです。

いることはわかっているけど捉えられない……それが脊椎動物の機械刺激受容体でした。

 

今回ノーベル賞を受賞したPatapoutianは、そんな機械刺激受容体を突き止めることに成功した人物です。

では、どういう方法で突き止められたのでしょう?

 

まずPatapoutianらは、マウスとラットの細胞株を7種ほど用意し、

それらに機械刺激を与えて電流を測定するという実験を行いました。

脊椎動物の神経系においては、機械刺激が受容された際特有の活性化電流(MA電流)が発生することが知られていたため、MA電流のようなものを発生させる細胞を探そうとしたのです。

機械刺激を受け取ったときMA電流を発生させる細胞があれば、そこに機械刺激受容体が発現している可能性があるからです。

 

結果、Neuro2A(N2A)マウス神経芽細胞腫細胞株と、C2C12細胞株において電流が確認され、

これらの細胞に機械刺激受容体がある可能性が示唆されました。

 

次にPatapoutianらは、N2A細胞で発現しているであろう機械刺激受容体の探索に移りました。

まずはN2A細胞で豊富に発現するタンパク質のリストアップです。リストアップしたものの中で、機能が未知のものや、カチオンチャネルのものの優先度をあげて、順位付けを行いました。

そのリストの中で順位が高いものから、ひたすらに各タンパク質の機能を確認していき、機械刺激受容体を突き止めればいいわけです。

 

とはいえ「突き止める」方法にも色々あります。

TRPV1の際はどのように突き止めたか、覚えていますでしょうか?

TRPV1探索、すなわちカプサイシン受容体探索の際には、

  1. カプサイシン受容能がある細胞からcDNAライブラリーを作成する
  2. カプサイシン受容能のない細胞にcDNA(タンパク質の設計図として機能するもの)を導入してみる
  3. カプサイシン受容能の獲得が生じたら、導入したcDNA中にカプサイシン受容体があると判断する

という手順で候補を絞っていったのでした。

ではPatapoutianらはどうやったのか?

siRNAノックダウンという方法を使いました。

 

siRNAは、small interfering RNAという名称からも推測されるように、mRNAからのタンパク質発現を妨害・干渉するような低分子二本鎖RNAです。

siRNAが細胞内に注入されると、siRNAは一本鎖に分離し、自身と相補的な配列をもつmRNAに結合します。

結合が生じたmRNAは分解され、そのmRNAにコードされていたタンパク質が発現しないという結果に繋がります。このような現象をRNAi(RNA interference, RNA干渉)といいます。

上でも述べたように、siRNAは自身と相補的な配列のmRNAに影響するので、あるタンパク質の発現を止めたい場合、そのタンパク質をコードするmRNAに相補的な配列をもつsiRNAを作成・導入します。ということは、狙ったタンパク質のみの発現を制御できるということです。

更に、mRNAを分解する、ということは、基のDNAにおいて遺伝子が失われるわけではないので、siRNAの干渉効果はsiRNAを入れたときだけ・存在している間だけ、ということになります。まさに「ノックダウン」です。*1

 

ということでPatapoutianらは、機械刺激を受容する細胞に対して、リストアップしたタンパク質上位から一つずつノックダウンを行っていきました。

実験に使う細胞は元々機械刺激を受容するものですから、機械刺激受容体が発現しているでしょう。機械刺激受容体がノックダウンされたら、刺激時の電流変化は普段と違う形になるはずです。

ですから一個ずつノックダウンしては、刺激し、電流を確認し……という作業を行っていったわけです。

 

この結果見つかった機械刺激受容体候補がPiezo1です。

Piezoは、ギリシャ語で圧力を意味する「πίεση」から来ています。

Patapoutianらは、普段機械刺激感受性のないヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)でPiezo1を発現させると、機械刺激への感受性を獲得することを見出しました。こうしてPiezo1が脊椎動物初の機械刺激受容体として同定されたわけです。

 

脊椎動物のもつ遺伝子を見ていくと、Piezo1と配列が似ているものがもう一つありました。それがPiezo2です。

その後の研究により、後根神経節感覚ニューロンの機械刺激入力にはPiezo2が重要な役割を果たすことが明らかになりました。

Piezo1、Piezo2はそれぞれ脊椎動物において、異なる役割を担っているんですね。

一例ずつ挙げるならば、Piezo1は赤血球の体積維持、Piezo2は膀胱の膨張感知が挙げられます(勿論他にもたくさんあります)。

どちらに関しても言えることは、機械刺激や圧力というのは発生時・生活時どんな場面でもどの部位でもかなり大切なものなので、Piezoが狂うととても大変だということです……。

体勢がとってられない、協調的な動きができない、肺の圧力感知が変だから呼吸できない、尿が出せない、赤血球が異常になり貧血になる、そもそも発生ができない、触ってもわからない、なんか痛い……などなど、考えてもゾッとすることばかりです。いやぁ、機械刺激受容って大事ですね。

 

ちなみにPiezoってめちゃくちゃ不思議なタンパク質でもあります。超でかいんです。38回膜貫通します。意味がわからないですよね。

写真を検索してもらうとわかると思うんですが、形も意味がわからないです。プロペラ?ってなると思います。でかすぎて結晶化できないので、構造解析はとても大変だったらしいですね。

未だにこのチャネルが、どのように機械刺激を受容しチャネル開閉につなげるのかは明確にはわかっていないらしいです。夢が膨らみますね。

 

 

 

あと、

これは本当に本当に余談ですが、

Piezo1って、赤血球に発現してるんですよ。

このPiezo1を活性化して脱水をさせる化合物があるんですけどね、これがYoda1って名前なんです。

ヨーダがフォースを操るってワケ!Jedi2とかもそうなんだけどね……たのしい……

*1:これはちょっと込み入った話になるのですが、DNAから遺伝子を完全になくしてしまうノックアウトと、一時的に発現を消すノックダウンでは全然実験上の使い勝手が異なります。ノックアウトの場合、生物の成長段階で一時期必要なタンパク質とかをノックアウトしてしまうと、もはや機能確認まで発生させることができません。そういう意味でノックアウトは響く範囲が広すぎるのです。ところがノックダウンは、無傷で育った成体においてそのタンパク質の機能を知る……なんて使い方ができます。とはいえノックダウンの場合はもとの遺伝子が存在し続けるわけで、タンパク質を「完全に」消すことができないという欠点がありますが……。両方必要なんですね。べんり~