あいまいまいんの生物学

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まいばいお18 合成生物学その2

ストックはあるのに使おうとせず、新しく書く方ばっかりに傾いてしまう結果、生物の話題の更新が遅れるのはなんでなんでしょうね。(ただの愚か者だと思う)

  

今回もまたストックは使わずに、

前回下のリンクの記事で宣言したものを書きます!

i-my-mine.hatenablog.com

 

何を言っていたかというと、「合成生物学の実装具体例を紹介するよ!」という宣言ですね。

具体例は

Programming gene and engineered-cell therapies with synthetic biology | Science

というreviewから引っ張ってきています。

なるべくゆるふわな、ざっくりな感じでやっていこうと思います!

 

 

✿CAR T細胞の活性を制御しよう

引用元:Remote control of therapeutic T cells through a small molecule–gated chimeric receptor | Science

一つ目に紹介するのはCAR T細胞療法に関する実装例です!

そもそもCAR T細胞って何?ってなるといけないので説明します。

私たちの身体ではT細胞というものがいて、これが結合したものを異物だと判定することによって免疫は発生しています。

特に細胞を殺傷する能力を持つものはキラーT細胞といいます。キラーT細胞は細胞対象に機能するため、例えばがん細胞も攻撃対象としています。

 

キラーT細胞が活性化して細胞攻撃を行うには、抗原提示細胞(APC)によって2つのシグナル伝達が発生することが必要です。(分かりにくいので下図を参照しつつ読んでください)

1つは、主要組織適合抗原(MHC)が提示した抗原ペプチド(がん細胞の目印となる欠片)を認識したT細胞受容体(TCR)からのシグナルです。

これによって、がん細胞を攻撃すべき異物と認識します。

もう1つは、共刺激シグナルと呼ばれ、抗原提示細胞上のある分子とT細胞上のCD28やCD137(4-1BB)といった分子の結合により発生する別経路のシグナルです。

2つのシグナルが入った段階でT細胞は十分に活性化され、増殖し、がん細胞を攻撃します。

 

 

しかし、がん細胞は抗原となる物質の発現を低下させたり、共刺激シグナルを抑えたりしてくることによって攻撃を回避しようとします。

 

ここで考案・開発されたのがCAR T細胞療法です。

まず、患者のT細胞を取り出し、遺伝子を操作することでCAR(キメラ抗原受容体)を発現するT細胞にします。

CARは、がん細胞などの表面に発現する特定の抗原を認識する抗体の認識部位(scFv)+共刺激分子+TCRの細胞内ドメイン(ζ鎖)からなっています。色んなタンパク質の部分を集めてくっつけてるから「キメラ」なんですね。

 

 

CARを持っているT細胞は、CARが結合できる特定のがん細胞抗原に結合すると、

それだけで共刺激シグナルもTCRからのシグナルも入るようになっているので、

抗原提示を受けなくても、かつ2つのシグナル経路を別々の仕組みで働かせなくても、一つの入力のみで活性化しがん細胞を殺すことができます。

しかもCARの先端である抗体から持ってきた結合部位の形は自由に設計できるので、普通の体内の免疫系では認識できないような抗原でも認識することが可能です。

そんなわけで、CAR T療法はがん治療に用いられてきました。

 

しかし、何人かの患者において、このCAR T細胞治療が致命的な症状を引き起こしました。

今まで報告されたものには、まずオフターゲットの問題があります。

ターゲットにした結合抗原ががん細胞以外にもあって、攻撃してしまうというものです。

他にも、神経毒性が出た例や、サイトカイン放出症候群(CRS)の例などがあります。

特に後者のCRSは発熱、低血圧、低酸素症、神経変性などに伴い血清中のサイトカインレベルが著増する状態ですが、これはターゲットになるがん細胞が多すぎるせいでサイトカインを放出しすぎるせいだと言われています。

 

そこでこのような併発する問題を、合成生物学の発想で解決できないかと考えられました。

具体的には、CARが特定抗原でのみ活性化されるのではなく、人工的に投与した薬剤依存的に活性が制御されるように設計をしたのです。

これを実現するために、以下の2つのタンパク質が設計・実装されました。

  1.  抗体を認識するscFvの細胞外ドメイン+共刺激分子ドメイン(今回は4-1BB)+FKBPドメイン
  2. CD3ζT細胞アクチベーター+共刺激分子ドメイン(4-1BB)+FRBドメイン

1は今まで通り抗原を認識してT細胞が活性化されるためにあるのですが、この状態では共刺激シグナルのみしか入らずTCR経由のシグナルが入らないようになっています。

一方2は抗原を認識する部位はないもののTCR経由のシグナルを入れるための部位を持っています。

ここで1にはFKBP、2にはFRBという新たな登場人物が含まれていますが、この二つは人工的に投与したラパマイシン類似体(ラパログ)があるときだけ結合できるようになっているのです!

ということは、抗原がある&ラパログがあるという時のみT細胞の活性化が起こるようになっているのですね。

 

人工遺伝子回路や人工細胞は体内にずっと存在していて制御が困難に見えますが、小分子であれば生体内でも一過性の存在なので正確な制御が可能になります。

ラパログ依存的に人工細胞の活性を制御するというこの二つの特性を組み合わせて活用する感じ、美しいと思いませんか?

 

✿投与する物質濃度依存で3段階応答変化する細胞を作ろう

引用元:A programmable synthetic lineage-control network that differentiates human IPSCs into glucose-sensitive insulin-secreting beta-like cells | Nature Communications

前述したように、外部から投与する薬剤で人工遺伝子回路や人工細胞の活性を制御するという考えは非常に有用です。

ここで、大抵我々が考えるのは「小分子があればON、なければOFF」という二値の制御だと思います。

しかし合成生物学で「低濃度ならX、中濃度ならY、高濃度ならZ」というように濃度によって三段階の応答変化を実装した例が存在します!

 

その例では、iPS細胞から作った膵前駆細胞バニリン酸(VA)の濃度に依存的にインスリン産生B様細胞に分化させる人工遺伝子ネットワークの作製が試みられました。

そもそも膵前駆細胞インスリン産生B様細胞に分化するには3つの遺伝子Ngn3, Pdx1, MafAが3つの発現状態に変化していくことが必要です。

Pdx1のみの発現で膵前駆細胞の維持、

Ngn3の発現で内分泌前駆細胞への分化、

そしてPdx1+MafAの発現でB様細胞への分化が誘導されます。

この3つの遺伝子発現状態を、VAが濃度ゼロ、中濃度、高濃度の3パターンで実現しようとしたのです。

ターゲットになったのはNgn3, Pdx1, MafAの3つの遺伝子、

加えて二つのVA受容体であるMOR9-1とVanA1です。

この中でMOR9-1のみが外部から導入された遺伝子であり、これはVAを受容し活性化することができるようになっています。

VanA1はVA受容体ですが高濃度VAでは阻害されるような受容体です。

それぞれのVA濃度で何が起こるか見ていきましょう。

 

VA濃度ゼロのとき

Ngn3はOFF, Pdx1はON, MafAはOFFという状態です。

この時細胞の分化は発生しません。

 

VA中濃度のとき

VAの濃度が中濃度になると、MOR9-1がVAを受容し活性化が起こります。

すると、活性化因子CREB1が発現するようになっています。

VanA1のプロモーターはCREB1に対して高感受性であるため、CREB1が発現するとVanA1の転写も促され発現します。

VanA1の発現がNgn3の転写を促すと同時に、細胞内に存在するPdx1 mRNAに対するmiRNAの合成を促進します。

miRNAはmRNAを破壊するため、結果としてPdx1の発現量は減少します。

このような変化を経て、Ngn3はON, Pdx1はOFF, MafAはOFFという状態になり、

この状態が膵前駆細胞を内分泌前駆細胞へと分化させます。

 

VA高濃度のとき

VAが高濃度になると、CREB1は過剰に活性化します。

その結果、CREB1低感受性のプロモーターまで活性化されてくるようになります。

CREB1低感受性プロモーターはPdx1とMaf1のプロモーターであるため、両者の発現が促進されてきます。

一方VanA1は高濃度VAに阻害される性質があるため、VanA1の活性は低くなり、Ngn3の発現促進効果が失われ、同時にPdx1 mRNAに対するmiRNA産生もなくなってきます。

そうしてNgn3はOFF, Pdx1はON, MafAはONという状態ができあがります。

この状態が内分泌前駆細胞をB様細胞に分化させます。

 

すべての結果をざっくり整理するとこんな感じです。

f:id:I_my_mine:20191127090336p:plain

 

なんやかんや論文のFigureの方がわかりやすいけどね…

 
 
なんにせよ、3段階の応答が作れるってすごくないですか?
このように、生体内で適切なタイミングに目的の細胞へ分化させられる仕組みは、患者への生着率を高めるらしい。
しかもこれの素晴らしいところは、元々生体内にあったしくみをほとんど使っているところですよね。もともとあった仕組みとMOR9-1という外部から導入されたものとのリンクが非常に緊密であるおかげで、このようなことが可能になるのです。
すごい!
 

  

✿CAR T細胞をより特異的にしよう

引用:Precision Tumor Recognition by T Cells With Combinatorial Antigen-Sensing Circuits

上でも述べたCAR T細胞治療について、オフターゲットを防ぐために

より厳密にがん細胞のみを選別できる仕組みを実装しよう、という考えがあります。

抗原1つだけで活性化するのではなく、複数の抗原認識でやっと活性化するような仕組みにすれば、特異性が高まります。

そこで、synNotch経路を活用した2つの独立抗原で活性化するCAR T細胞の実装が合成生物学の知見を用いて行われました。

普通のNotch受容体はリガンドを受容すると、細胞内遺伝子を活性化する能力がある細胞内ドメインを放つようになっています。

このsynNotch経路の要となるNotch受容体について、細胞外ドメイン(リガンドと結合する場所)と細胞内ドメイン(遺伝子を活性化する場所)に分け、それぞれ人工的に細工したsynNotch受容体を作製し、以下の3つを実装しました。

① 癌の抗原に結合するsynNotch受容体(結合すると人工合成トランス活性化因子を放出する)を置く

② synNotch受容体からのトランス活性化因子で発現するCARをコードしたDNAを置く

③ CARは2つ目の癌抗原に結合するとT細胞を活性化するようにしてある

すると、synNotch受容体に結合する1つ目の癌抗原があったときしかCARが発現しないようになるため、

CARが発現して(=1つ目の癌抗原はある状態)かつ2つ目の癌抗原があったときしかT細胞が活性化しないという形になります。


実際の実験では、GFPとCD19(CD19は癌抗原)があるときだけ活性化するT細胞を同様の原理で設計し、うまくいくことが確認されています。

 

 

✿フィードバック経路を人工的に作ろう

引用元:A closed-loop synthetic gene circuit for the treatment of diet-induced obesity in mice | Nature Communications

人工細胞の活性を変えようと思った場合、今まで挙げた例では外部から投入した小分子の量に応答して活性制御が行われるようになっていました。 

しかし刻々と体内の状況が変わっていく場合には、その微細な変化まで考えて人が外部から投入する分子の量を調節するのは面倒です。

勝手に体内の状況に合わせて活性制御されてくれたら…すなわちフィードバックの仕組みが備わっていれば便利ですよね。

そこで、食生活によって誘発される肥満の治療のための人工遺伝子回路が作られました。

 

現在、肥満治療のためにはアミリンに似ているプラムリンチドという物質が用いられています。 

アミリンは摂食抑制ペプチドであるため、似ているプラムリンチドを投与すると満腹感が促進され食欲が抑えられるのです。

プラムリンチドはペプチドなので、導入遺伝子によって合成させることが可能であり、人工的な遺伝子回路によって肥満解消するのに使えると考えられました。勝手にフィードバック制御されて分泌されるようにすればいいですよね!


これを実現するために、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)のリガンド結合ドメインを

フロレチン応答性リプレッサーTtgR(TtgRオペレーター部位を含む人工合成的プロモーターに結合することができる)に融合することにより、

脂質センシング受容体(LSR)が人工的に構築されました。

同時にTtgRオペレーターを含む人工合成的プロモーターの下流に、プラムリンチドの遺伝子がつながった導入遺伝子も構築されました。

 

LSRはTtgRの領域を介してTtgRオペレーター配列に結合することで目的遺伝子のところまで誘導されます。 

その場所において、PPARαサブユニットが脂肪酸存在下で転写共活性化因子を誘導し、脂肪酸がないときには共抑制因子を誘導することで、

脂肪酸存在下では導入遺伝子の発現を強く、無い時には発現抑制を起こすことができます。

よって、脂肪があるほどPPARαによって転写共活性化因子が誘導され、プラムリンチドの発現が促され、摂食抑制が起こります。

逆にプラムリンチドが効いて脂肪が減れば、転写共抑制因子が誘導されることで、プラムリンチドの発現は抑えられるのです。

きれいなフィードバックが実装できています。

 

加えてTtgRは、フロレチン(リンゴ由来の多くの化粧品に見られる小分子)があるときにはTtgRオペレーター配列から外れることでLSRによる遺伝子発現制御を強制的に遮断します。

よって、フロレチンがあれば遺伝子発現なし、なければありという風に外部からのフロレチン投与で制御できるようになっています(フロレチン投入で止めることができる)。

 

✿乾癬が起こらないような遺伝子回路を実装しよう

引用元:Implantable synthetic cytokine converter cells with AND-gate logic treat experimental psoriasis | Science Translational Medicine

上で述べたようなフィードバック制御は慢性疾患にも適しています。

なぜなら慢性疾患は通常予防治療が難しいくせに、何度も再発するものであるためです。

事後対応しかできないので、フィードバック制御によって勝手に治療されるのは非常に望ましいという。


こういう厄介な疾患の一つが乾癬です。

乾癬とは、自己免疫疾患(自分の免疫が自分を攻撃するやつ)の一つ。

典型的な症状は、皮膚から少し盛り上がった赤い発疹の上に、銀白色のフケのようなものがくっついてポロポロとはがれ落ちるというものです。

乾癬の主原因は、免疫を司る細胞からサイトカイン(TNFαやIL-22)が異常に分泌されることで、毛細血管の膨張と細胞分裂の過剰な促進が起こること。

よって既存の治療法には、TNF-aなどの関連するサイトカインに対する抗体を用いるものや、さまざまな経口または局所治療などがあります。

しかし、そもそもサイトカインは通常の免疫反応でも用いられるものであるため、長期に抑制してしまうと今度は病気に感染しやすくなるなどの副作用が出てしまいます。これは厄介ですね・・・

IL-4やIL-10といった抗炎症サイトカインという物質があるため、これらが使えないかとテストされていますが、これらは半減期が非常に短くずっと投与し続けるなどの継続管理が必要なので難しいです。


そこで、乾癬を治療するために考えられたのが、「TNF-αやIL-22を感知してIL-4とIL-10の発現を促進する遺伝子回路を設計する」という方法です。

これなら、乾癬の症状が出そうになったときに、IL-4やIL-10が作られて勝手に収まりますし、

逆に異常がない平和なときには免疫抑制が発生せずに済むようになります。

現状がフィードバックされながら治療効果を変化させられるのです。

 

これを実現するために、以下の仕組みが実装されました。

・TNF-αの受容体が活性化すると細胞内のNF-κBシグナルカスケードによって導入されたIL-22受容体の遺伝子からIL-22受容体が発現する

・IL-22受容体がIL-22を感知すると内因性JAK-STATカスケードを用いて核にシグナルが伝達される

・人工合成されたSTAT3応答性プロモーターが活性化するとIL-4とIL-10が発現する

この回路では、TNF-αとIL-22が共存するときだけIL-4とIL-10が発現するようになっています。

2つのシグナルを用いることでより応答タイミングを限局しているのですね。

加えて、IL-4とIL-10が出てTNF-αやIL-22がなくなれば、またIL-4とIL-10は作られなくなるようになっています。

素晴らしい設計ですね・・・

 


 

✿色々紹介しましたが・・・

どれも前提知識が割と必要だったせいでなんかごちゃついてしまいました。

わかりにくい部分もたくさんあったろうなと思います(特に最後とか・・・)

あと間違ってるところもあると思う。各自「ほんまか?」ってなったら論文を見て・・・そしてコメントで教えて・・・

 

でも、ちょっとでも私が感じた合成生物学のすごさというか、美しさというか、そういうものが伝わってくれれば幸いです!

実装例は勿論すごいんですけど、これらを実装する根底には正確なゲノム編集を行える技術というのが存在していなければならないわけで、

そういう「道具」についての研究や成果もめちゃくちゃおもしろいので、また時間があったらまとめようと思います!!