あいまいまいんの生物学

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まいばいお24 COVID-19

今回のまいばいおは、学校で配布したCOVID-19に関する情報と同一のものを掲載したいと思います。

ただちょっとマニアックな内容になってしまった気がするので、普通の学習をしたい人にはあまりおすすめしません。ごめんなさい。

 

COVID-19とは何者か?

ウイルスについては既にブログでも扱いました。

タンパク質でできた殻、中に入った遺伝情報が基本の構造です。

エンベロープと呼ばれる脂質+糖タンパク質でできた膜がついているウイルスもいます。

ウイルスの遺伝情報の持ち方で分けたとき、最も一般的なのが一本鎖RNAウイルスです。

 

COVID-19はウイルス学的には、ニドウイルス目・コロナウイルス亜科・コロナウイルス科に分類されるコロナウイルスの一種です。ウイルス名としてはSARS-Cov-2の方が相応しいんですが、今回はCOVID-19で統一したいと思います。

コロナウイルスは直径約100nmの球形、表面には突起が見られ、形態が王冠“crown”に似ていることからギリシャ語で王冠を意味する“corona”という名前が付けられました。

脂質二重膜のエンベロープの中に一本鎖RNAのゲノムをもつ、RNAウイルスの一種です。

コロナウイルスは実は普通にひく風邪の10~15%を引き起こす種類を含んでいて、日常的に感染する4種類のコロナウイルスは、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1だと言われています。

しかし一方で過去に大きな波乱を引き起こしたSARS-CoVやMERS-CoVコロナウイルスの一種です。

 

「プラス鎖」「マイナス鎖」RNA

コロナウイルスは一本鎖RNAウイルスの中でも「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」に分類されます。

一方有名なインフルエンザウイルスは「一本鎖マイナス鎖RNAウイルス」です。

プラス鎖やマイナス鎖って何?と思うかもしれませんが、「プラス鎖」はそのままmRNAとして機能するもの、「マイナス鎖」はmRNAの相補鎖に該当する配列を持つものです。


よって一本鎖プラス鎖RNAウイルスは、ウイルスゲノムRNAがそのままmRNAとして翻訳されウイルスタンパク質が作られていきます。ただしHIVなどのレトロウイルスは、逆転写酵素で一度DNAに遺伝情報を移してから転写・翻訳を行います。

一本鎖マイナス鎖RNAウイルスは感染後にウイルスゲノムと相補的なRNAを作らなければタンパク質が作れないので、粒子内に元からRNA依存性RNAポリメラーゼを含んでいます。感染後RNAポリメラーゼによって相補的なRNAを合成し、それがmRNAとして機能します。

遺伝子の複製は両方とも、(1)ウイルスゲノムRNAと相補的なRNAが読まれ、(2)それを鋳型として次のウイルス粒子に取り込まれるRNAを作る という方法で行います。

 

コロナウイルスの細胞内への侵入

COVID-19は気道上皮細胞やII型肺胞に主に感染することが知られていますが、これら細胞内にCOVID-19はどのように侵入するのでしょうか?

先にも紹介したように、コロナウイルス脂質二重層と外膜タンパク質からなるエンベロープ(外膜)でウイルスゲノムRNAが囲まれています。

COVID-19が細胞内に侵入するために重要な役割を果たすのが、エンベロープに存在するSpikeタンパク質(Sタンパク質)です。

このタンパク質はS1とS2という二つの領域からなり、S1はヒト細胞で発現するACE2受容体と結合することでウイルスを細胞に導く役割を持っています(ACE受容体は心臓・腎臓・肺内皮細胞と腎小管上皮細胞で発現しています)。

最終的には、ヒトの細胞と自身のエンベロープが融合することでウイルスの中身を細胞内に入れるようになります。

この膜融合を引き起こすメインの部分は、「S2の立体構造の変化」です。

侵入経緯を以下で詳しく説明します。

 

まず体内に侵入したCOVID-19は、Sタンパク質中のS1部位がACE2受容体と結合することで細胞にたどり着きます。

細胞にくっつくと、Furinと想定されるヒト細胞由来のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によりSタンパク質はS1とS2二つの部分に切断されます。

S2は更にヒト細胞表面のセリンプロテアーゼであるTMPRSS2(呼吸器上皮で発現している)で切断されることで、機能する構造をとるようになります。

元々S2分子内にはα-へリックス構造の2種類のhepatad repeat(HR)と、疎水性アミノ酸領域からなるfusion peptide(FP)が存在しているのですが、FBは疎水性であるため、同じく内部が疎水性である細胞膜に刺さることが可能です。

よってFBは標的細胞の細胞膜に挿入され、ウイルスのエンベロープと細胞膜が繋がれたような形をとるようになります。

次の瞬間、S2全体がヘアピンのようにぐいっと曲がり、3量体のHR1の外側に3本のHR2が覆い被さるように位置する構造(6 helix bundles)をとることで、一気に細胞膜とエンベロープの両者が近づけられます。

結果として、隣接した二つの膜間で融合が生じ、ウイルスゲノムが細胞質内に入れるようになるのです。

COVID-19の細胞内侵入にACE2とTMPRSS2が必須であることは、Hoffmannらにより2020年1月に解明されました。物凄いスピード感ですね…。

 

多くの研究が猛スピードで進んでいる

COVID-19に関して様々な視点からの研究が行われ、日々新たな知見が得られています。

例えばCOVID-19のゲノム配列解析は1月に終わっており、COVID-19はSARS-Cov-1と79.5%相同であること、そしてSタンパク質についてSARS-Cov-1よりはACE2受容体との親和性が低いことなどが明らかになっています。

一塩基置換すると、かなりACE2受容体と親和性の高いSタンパク質になるとか…

ゲノムに続きタンパク質の立体構造や重症化経緯の解明も続いており、各知見を基にワクチンや治療薬が現在検討されています。


他にもCOVID-19の耐久性についての研究も多く行われています。

例えばエアロゾル(空気中の液体粒子)や物体の表面にどれくらいウイルスが残存するかについては、3月17日にAerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1という研究成果の発表がありました。

著者Neeltje van Doremalenらは、COVID-19と SARS-CoV-1二つを用い、結果を比較しました。

エアロゾルについての実験では、液を霧化する装置ネブライザーを用いてウイルスが入った液体を粒子径5μm未満のエアロゾル化させ、ドラム中に置き、開始時点・30分後・1時間後…と一定時間ごとにゼラチンフィルターを用いてウイルスを回収し、それを培養細胞にかけることでウイルスがどれくらい残存しているかを調べました(ウイルスが機能していると細胞に感染し、細胞はコロナウイルスにかかると形が変わるようになっている)。

結果は、この実験の条件下だと3時間後も残存していることが分かりました(ただし気温21~23度、相対湿度65%環境下)。

 

また、物質表面でのウイルス残存時間を調べる実験では、各素材の板にウイルス培養液を滴下し、滴下直後・1時間後・4時間後・8時間後・…と一定時間後に滴下場所の表面に培養液1mLを垂らしてウイルスを回収し、エアロゾルの時同様培養細胞にかけて確認しました(気温は上同様、湿度40%)。

結果は上のグラフにある通り、プラスチックでは72時間後も残存が認められることが分かります。これらの知見は感染拡大を防ぐために重要です。

 

COVID-19に感染している可能性を確かめる技術も日々試行錯誤されています。

現在の病原体検出マニュアルはNIIDのHPから見ることができ、この方法ではウイルスゲノムRNAを検出するために、

①下気道由来検体(喀痰/気管吸引液)または鼻咽頭由来検体を得る

②検体からRNAを精製する

RNAの逆転写によってcDNA(RNAと相補的なDNA:complementary DNA)を得る

④cDNAを用いてPCRを行う という手順をとります。

PCRはDNAポリメラーゼによるDNA複製の仕組みを活用したDNA断片増幅方法のことです。

PCRは時間が相当かかるので、より早く・簡易で・正確で・安価な方法が求められています。