前期終わりましたね……!2月ってあっという間だ。受験生の皆さんはお疲れさまでした。
今年もね、東大の問題が出ましたので、解きますよ!!!!
下のリンク先で東大の問題一覧を見ることができます。興味あればぜひ。
https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/1/1355921_5340.html
概要
大問数は例年通り3問。
論述はあんまり量が変わってない気がする。論述で要求されている記述内容はむしろ簡単になったくらい……?
今年の問題はなんというか、「えっこんなこと聞く??」っていうものが悪目立ちする印象でした。いつもだと教科書範囲内に知識がちゃんと収まり、問われることにも納得感があるのですが、なんか今年は逸脱しているものがあるような気が……。自分の気の所為かもしれません。自分が不勉強なせいかもしれない。
例年どおり基本は美しい問題だと思います。崩壊しまくっているものはありません。題材も面白い。でも、とにかく上のことが気になってなんだか素直に賛美できない……。もやりがあります。他の人達はどういう印象だったのかなぁ。
各大問ごとの所感
第1問
必要な知識はDNA、ゲノム、減数分裂、体細胞分裂、組換え、細胞周期、制限酵素……などかな?
Ⅰ 体細胞での組換え
高校だと基本的には減数分裂時の組換えについて勉強しますが、体細胞分裂でも組換えが生じますよ!というお話。組換えと細胞周期、そしてタンパク質を絡めた問題になっています。組換えの発生頻度を測定する実験系が出てくるなど、展開が面白い!
まず、リード文で体細胞での組換え現象についての軽い説明があります。鋳型となる染色体が両者で異なっていることや、乗換えが生じないこと、鋳型においてはDNA配列の置き換えが発生しないなど……。そもそもDNA修復に関与して生じるという点でも異なっていることが記載されています。
実験1では遺伝性乳がん、卵巣がんの原因遺伝子産物のひとつとして知られるタンパク質Xに注目します。タンパク質Xは細胞周期の進行に関わるタンパク質と複合体を形成するらしく、タンパク質Xが異常だと細胞周期に変動が起きそう……という予感があるわけですね。で、タンパク質Xが正常な細胞と異常な細胞の集団を用意して、放射線を照射する前のものと、照射した後24時間経過したものの細胞あたりDNA量を測定する……と。G1, S, G2, M期の細胞数の比が見える例のグラフが提示されて、タンパク質Xの変化が放射線照射後の比の変化に繋がるということがわかるわけです。すごいや。
で、実験2。タンパク質Xの正常、異常細胞でDNA合成量が放射線照射前・後でどう変わるかを見る。これはかなりあっさりした実験で、結果も見やすいです。
実験3では新たな原因遺伝子産物のひとつ、タンパク質Yが出てきます。この子は組換えの中心的酵素と直接結合するらしい。で、ここで「組換え頻度測定実験系」なるものが出てきます。なんだそれは!!!!
この実験系では、以下の2つの遺伝子が用意されます。
制限酵素MもNも普通ヒトの細胞にはありません。
で、そんな2つの遺伝子をつないだレポーター遺伝子を作成!これを染色体に1コピー導入!これで下準備は完了!!
あとは「ある一箇所」に二本鎖切断を誘発すれば、組換えが発生した場合正常なGFP遺伝子ができあがるので、GFP発現遺伝子細胞の割合を見れば組換え頻度が分かるという代物……!!!!!実際は制限酵素Nを突っ込んで、欠失型遺伝子を鋳型に配列置換型を正常GFP遺伝子に直す、っていうシステムなわけですが……。
すごいこと考えますね。はえーって言っちゃった。こんなのよく考えるなぁ。
小問を見ていきましょう!
Aはただの適語補充。Bは減数分裂の組換えの意義の論述(基本的すぎない?)。
Cは細胞周期進行過程の論述(これも基本中の基本……)。
Dは体細胞分裂の組換えがどの細胞周期段階で生じるかを答えるものです!体細胞分裂の組換えでは鋳型として「DNA損傷の入っていない姉妹染色分体」が必要なので、これが存在するG2期、M期が該当することになりますね。簡単だけど、ここまでの道のりが超長い上に把握することが結構多いので、焦ると難しくなりそう。
Eは実験1の読み取り!例のグラフの読み方がわかっていれば難しくないでしょう。
Fは実験1の結果からタンパク質Xの機能を考えて論じるというもの。読み取り自体は結構単純だと思う。
Gは実験2の結果からタンパク質Xの機能を考えて論述!これも実験2のグラフが結構シンプルなので、いけるでしょう!
Hは組換え頻度測定実験系で用いるふたつの遺伝子からなぜ正常GFPができてこないかの記述。結構基本的。
Iは組換え頻度測定実験系でどういう操作をするか、という論述。上で既に述べてしまいましたが、制限酵素Nを入れるわけですね。実験系がちゃんと理解できていて、なにがしたいかわかっていれば即答だと思う。複雑な記述も要らないしね。
Jは組換え修復成功時のレポーター遺伝子の状態を選ぶもの。これも上同様、組換え頻度測定実験系がわかっていれば楽勝。わかっていればな。
Kは遺伝子Yのミスセンス変異について、組換え修復に与える影響を調べる実験を考えてくださいというもの。えっ……こんなのでいいの?と若干不安になりながら答えた。あまりにもシンプルな答えしか出ないので……。普通に戸惑いそう。
Lは突然何を聞いてきたんだ?って感じだった……。「細胞内のDNAに二本鎖切断が生じ、修復に失敗して二本鎖切断が残存したらその細胞はどうなる?」ってさ……。今まで完全に実験の話だったじゃない!なのになぜ突然普通の細胞の話を……?必要かこれ……?しかも結構ざっくりしてて複数回答出そうだけど大丈夫……?私はアポトーシスを推したいところ(絶対起こるんですか?とか言われたら泣いちゃう……)。
Mは中心体数が増えるとどうして異数体が引き起こされるの?という論述。基礎的な話でしかないし、楽勝だね!
Ⅱ がん抑制遺伝子の遺伝
遺伝子Yががん抑制遺伝子で、生殖細胞でヘテロ接合型だとがん発症リスクが高いですよ~という説明がなされます。2つの遺伝子がダメージを食うと、タンパク質Yの機能が欠損してがん発症につながるんだって。
で、家系図。
Nは上の説明文がちゃんと意味分かってるのか?って問題ですね。
Oはただの遺伝の問題。
ということで、Ⅱは結構あっさりしてたんですが、Ⅰはかなりワクワクがあって良かったです!馴染みもあんまりない上に、設定をちゃんとわかってないとピースがはまっていかないというか。個人的には実験系出されるやつ結構好きなので、テンション上がりました(綺麗で素敵な実験系だと興奮しちゃう)。
第2問
必要知識は光合成、窒素同化、植物の身体の作り、植物界の分類、細胞間輸送、植物のホルモンや物質……とかですかね。
Ⅰ 光合成とソース、シンク
光合成産物はソースから体内を移動してシンクにいきますよ~というお話が最初になされます。
実験1では果実を色んな割合で切除し、どの器官に光合成産物がよく貯蔵されるのかをチェックします。結構変わるもんなんですね。すごいや。
実験2では果実をすべて残した果樹で毎年10月に根のデンプン濃度を測り続けます。綺麗に振動してて面白い。
Aでは師部と木部に関する選択問題……なんですが!!!これ、(2)って常識なの……?教科書に書いてある内容??覚えなきゃいけないやつ??なんかめちゃくちゃもやります。(1)も教わるか微妙じゃない……?
なんか……こんなもやもやする知識系の問題、単純に「知ってるかどうか」の問題を出されるとは思わず。もやもやもや……。
Bはまぁただの適語補充かな……。
Cは原形質連絡の内径と糖の変換の工夫がなぜ大量の糖の輸送を可能にするのか論述するというもの。これは面白い!と思いました。植物の仕組み自体が面白いし、考えられる問題になっているのも面白い。びしっと綺麗に答えが決まるのでいいと思いましたね。
Dは実験1の分析。そのまま読み取ればいい上に、「正しいものを1つ選べ」なので比較的易しくしてもらっているなという印象です。
Eは実験2を参考に根のデンプン濃度と果実の総乾燥重量の年変動についてグラフを考えるもの。とはいえこれは実験2がわかっていれば超簡単。瞬殺。
で、F!これが面白い。ちゃんと考えなければならない問題ですが、考えるとしっかり答えが導出できるので素敵な問題だなと思います。こんな単純な選択肢の出題で結構考える。面白い構造の問題だなぁ。
Ⅱ 窒素環境への応答
窒素環境への応答って案外顕著なんだな~とグラフを見て思うなど。
Gはただの化学式作り。難易度はとても低い。
Hは窒素同化がなぜ光環境に依存するのかを論述。とはいえリード文でちょっとヒントも与えられているので、比較的易しくなっている印象です。
Iは植物が持ついろいろな物質について、タンパク質はどーれだ?というもの。ちゃんと勉強していれば分かるかな。
Jは硝酸濃度に応答して植物の地上部・地下部の乾燥重量の比が変化することの適応的な意義を論述するというもの。硝酸濃度が高いと地上部への投資が増えるの、面白いですね。「葉面積」という語句を用いて、という指定があるおかげでちょっと誘導されている気がします。
Kは実験結果を読み取って適語補充!簡単です。
東大の植物の問題、面倒なときはかなり面倒で厄介だなぁという気持ちになることが多いのですが、今年度のものは比較的さっぱりしていたかな?という印象です。題材も結構面白いし、導出できるものも面白いので好き。でも、Aがどうしても受け付けられない。もやる。これ聞いて何か意味あるんですか??
東大なんだから、教科書外の知識の有無を問うんじゃなくて、思考力とか、教科書をちゃんと把握しているかどうかとか、そういうことを試験ではなるべく聞いてほしいなという気持ちです。教科書外を当然のように出題するのは良くないよ。本当に。
第3問
文1 ABO式血液型
ヒトの血液型に関する問題。最初にA型、B型、O型がどのように決まるか、糖転移酵素遺伝子の観点から説明がなされます。
Aは新生児の血液型に対する抗原について適語補充。簡単。
BはA型酵素をコードする遺伝子とB型酵素をコードする遺伝子についてキメラ遺伝子を作成し、酵素活性を見るというものです。面白い。キメラ遺伝子を作るという設定がそもそも面白い。
CはB型遺伝子のあるアミノ酸残基を20種類全て試して酵素活性を見、その場所のアミノ酸残基の性質として求められているものを考えるというもの。アミノ酸の残基構造について知らないと解けない系の問題ではありますが、結構簡単な方な気はしました。
Dは表の読み取り。かなり簡単。
Eは、そもそもH型糖鎖を作れなきゃ血液型ってできないよね、ということで、H型糖鎖を産生する活性を持つ酵素の遺伝子と糖転移酵素遺伝子を両方考えつつ遺伝と血液型を考察するというもの。いいですね!糖転移酵素遺伝子を持ってても、H型糖鎖産生遺伝子の活性が消えてたら血液型ってO型にしかならないんだなぁと改めて思いました。いや、考えれば当然なんだけど。世間ではよく、A型とO型の両親からB型の子が産まれると、「自分の子じゃない!?」みたいな話が出るじゃないですか。でも実際はH型糖鎖産生遺伝子が絡んでるだけで、普通に産まれる可能性もあるんだよな。
文2 COVID-19と遺伝子発現
ここでコロナ来たか!!!!!!!!!!!!!とちょっと興奮してしまいました。共通テストでは出なかったけど、東大で出るとはね……。
Fはただの適語補充。
Gはウイルスに感染された宿主細胞で、タンパク質産生量やリボソーム結合mRNA比などを見、考察するというもの。なんですが、すごいですねこれ。ウイルスに感染されると、タンパク質合成がぐっと減っちゃうんだ。その上リボソームが結合するmRNAの種類の比が変動していくんですね。面白いな~。
文3 HLA
樹状細胞のHLA-Ⅰでは、SARS-CoV-2由来ペプチドが検出されるわけだけど、どれくらい親和性があるのか調べるために一定濃度の対照ペプチドとの競合結合試験をやるよ!というお話。
Hではグラフを読み取るだけ。
Iはグラフと表を対応させるだけ。
Jはペプチド1に対応するペプチドを探せ!というものですが……開始コドンが入ってるからMから始まるやつ、って探したら一瞬だった。こんなやり方で良かったのかな(勿論ちゃんと配列が合ってるかの検証とかは必要だけど……)。
Kは読み枠について考える問題。思考と知識?
ということで、まず題材としてコロナが出たのは面白いですね!しかも遺伝子発現にからめている。タンパク質産生に大きく影響が出るんだなぁ。
ABO式血液型についても、ちょっと踏み込んでるのがいい。題材としてはよくあるけれど、アプローチが良いなと思います。
総評
全体を通して、めちゃくちゃな出題や「何が聞きたいの?」という問題はなく、答えがバシッと決まるものばかりで美しいなと思いました。
題材も良い物を持ってくるなぁ、よくあるやつでも広げ方がいいなぁという印象です。自分が分子寄りだから余計にそう思うのかも。めっちゃ分子分子してるもんね。今年。
とはいえ、やはり引っかかるのが第二問A。あれはどうにかしてほしかったな……。
ということで、もやを抱えたせいで素直に賛美しきれないのですが、他の部分はとてもよかったと思います。