あいまいまいんの生物学

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2022年度入試問題 生物 所感まとめ

東大は既に個別で記事を書きましたが……

i-my-mine.hatenablog.com

 

北海道、東北、名古屋、京都、大阪、慶應も解いたので、軽くですが所感を書き留めておこうと思います。

 

 

各大学 所感

北海道大学

ネタは、

1 精子形成(減数分裂生殖細胞形成、ホルモン)

2 メンデル遺伝

3 進化と分類(実践)

4 Ⅰ 生体を構成する化学物質 Ⅱ 光合成と気孔

という感じ。

例年同様、基本的に多くの問題は教科書に忠実で、ちょっとだけ題材が違っていたとしても教科書的な知識があれば普通に答えられてしまう問題ですね。やさしさ。特に4なんてもはや題材すらよく見るやつです。

遺伝の問題は、問題文の言い回しが遠目にへんてこそうだったので最初ぎょっとしましたが、よく見るとめちゃくちゃ普通かつ簡単に求められるものばかりだったので安心しました。

今回の問題群の中では特に大問3のⅡで戸惑う生徒が多かったのではないかな、と思います。私もこんな問題ほぼ経験ないです。単系統群について説明され、系統樹を再構成したり、自分で同属種を見出したりします。やることは割と簡単だし、できてくるものも捻りはないのでストレートに答えられるのですが、手間取るというか、こういう作業は慣れないというか……ちょっと不安になってくるような問題でした。なんなら、進化の授業のときに実践として取り入れたらいいアクティビティなのでは?などと思ったり。一度解いてみてもいいかもしれません。

 

東北大学

ネタは、

1 Ⅰ 植物の受精、植物ホルモン Ⅱ 植物の根の層構造形成の探究

2 Ⅰ 眼の構造 Ⅱ 視交叉 Ⅲ 桿体細胞の情報伝達のしくみ

3 Ⅰ 免疫 Ⅱ マダニと細菌

という感じ。

特にへんてこな問題も飛び抜けて難しい問題もなく、普通でした。1-Ⅰ、2-Ⅰ,Ⅱ、3-Ⅰは極めて普通の問題で、それ以外が実験問題でした。

2-Ⅲは知っている人ならサクッと答えられるけれど(桿体細胞が普段から脱分極状態で光が入った時だけ過分極状態になる、というやつ)、教科書で習ったこととはちょっと反することだからためらいがありそう。

個人的には3-Ⅱの問題がぞわぞわするけど好きでした。マダニの全身細胞に広がって生き続ける細菌、そしてそれに刺されて感染するヒト……いやはや、おぞましいですね。おぞましいけど、面白い。実験を興味深く眺めさせていただきました。

 

名古屋大学

ネタは、

1 発芽種子における各遺伝子のPTR比(タンパク質量/mRNA量)

2 チャボ

3 動物と植物のホルモンと受容体(複数対応するパターン)

4 免疫(抗体および抗体の糖鎖修飾とNK細胞)

という感じ。

チャボ来た!!!!!!!!!!絶対問題になると思ってたやつ!!!!!!!!!!記事も書いてたもん!!!!!!!!!!!!!!!

i-my-mine.hatenablog.com

これめちゃくちゃ面白いから絶対いつか問題として出るんだろうな~って思ってたんですよね。出たな。やはり出たな。

そして問題の中で戻し交配をあっさり出してきてその意義を問うという。戻し交配どれだけの学校で取り扱うんだろうね。考えれば勿論分かるけれど、いきなり受験生に問うのはなかなか酷だなぁと思ったり。

ちなみに戻し交配はコメの品種作出の話としてまいバイオの実験のところにて真ん中あたりにスライドを載せてたりする。


チャボの問題は良かったけれど、他に関しては相変わらず名古屋大学は文章が長いし、微妙に表現がわかりにくいし、聞かれてることもぼやっとしててつかみにくい。特に記述は何を求められているの?って恐る恐る書かないといけないんですよね。

なんとなく解くときにストレスが溜まる……あちこちでつまづくからだろうなぁ。

ネタ自体はなかなか見ないものばかりで良いなと思ったけれど、もうちょっと上手に調理してもらえたらな……という気持ちが否めません。

 

 

京都大学

ネタは、

1 複数リガンドに応答して流量を変える塩化物イオンチャネルの探究(合成生物学的技術や探究手法がメイン)

2 女性ホルモン曝露によりメス化するメダカの遺伝+GFPランダム挿入で考えられることと観察結果の照合

3 A:植物の暗条件下での成長とエチレン B:トウモロコシとインゲンマメの混植

4 A:ツリアブモドキ科の昆虫とアヤメ科の花の共進化 B:種内競争と種間競争と共生

という感じでした。京大、相変わらず横断的で面白い。

特に1はかなり最先端の分子生物学というか、合成生物学の知見に触れてたり、蛍光イメージングの技術を軽く知っていないとイメージが厳しいのでは……?と思わせられるほどリアル生物学研究でした。もはや手法よね。だってUAGのコドンを自然界に存在しない人工アミノ酸指定に変えちゃうんだよ?これまでに1,2回ほどコドン置換みたいな問題は見た覚えがありますが、それでもまだなかなかない気がします(私の中では)。こんな文章が普通に問題文で見られるようになっていくんですかね。

2でも女性ホルモン曝露したXYメスメダカを用いてばんばん交尾させていくのとか、かなりシビレました。遺伝の問題じゃん、と言われてしまえばそれまでですが、こんなことできちゃうんだ、と思うと楽しくなってしまいます。

3-Bも、トウモロコシとインゲンマメを混植した場合、単植よりも面積あたりの生物量が増加するというのは面白い話でした。解くのもパズルがハマっていくようで快感でした。

とはいえ、京大は京大なので、例年どおりちょっといじわるというか、注意力が試されるというか……。カチッとしてるんですよ。頑張って、テキパキ処理をしないといけない問題が多く見受けられました。気を抜くと足をすくわれてしまいそう。グラフがパッと見気持ち悪くて身構えることも何度かありました(特に4-Aとか)。

でもいい問題です!今年はあからさまな教科書逸脱もなく、聞かれる知識問題は教科書範囲内の普通な単語ばかりでした。

 

 

大阪大学

ネタは、

1 A 様々な呼吸基質 B 肝臓

2 A 耳 B 硬骨魚類の視覚

3 マウスの拒絶反応

4 太陽コンパス

でした。4以外は多くが基本に忠実な問題で構成されていて、妙なひねりもなくさくさく解き進めることができます。3は怒涛の実験と結果ラッシュが続くのでパット見のインパクトがありますが、中身は至って平凡なものばかりなので見た目ほどの怖さはありません。

1-Bの問6では、肝硬変患者においてタンパク質摂取後に肝性脳症が起きやすくなるのはなぜか、という問いがあり、なるほど~と思いました。

4は太陽コンパスの実験問題で、これはいいなと思いました。鳥が太陽の向きと餌場の位置のずれ角度を記憶していて、体内時計に従って太陽の位置を推定して餌場として認定する位置もずらしていく……という。

勿論、太陽コンパスの入試問題は過去にもある上、教科書でも扱われている内容なのでネタとしては新しくはないですが、細かく実験系を見せていって導くタイプはあまり見ない気がしました。いい問題ですね。

 

 

慶應義塾大学

ネタは、

1 細胞の構造と共生説(歴史と議論)

2 DNAの半保存的複製

3 細胞外マトリックスと化学親和説

でした。

相変わらず歴史的な話を持ってくるのが大好きというか、どういう経緯でこうなって、どうなって……みたいなことを語ってくれる問題群です。ありがたい。勉強になるから。

それでも今年はかなり標準的な問題に収まってるなという印象でした。特に2とか王道も王道、といった感じ。1と2がちょっとはみ出てて面白いかな?

1の最後は個人的には衝撃的でしたね。「真核生物は、アクチンを持つアーキアを宿主として、鞭毛を持つ小型アーキアが細胞内共生した結果、核が生じた」って本当??????????でも問題文でも述べられてるように、真核生物と同じ鞭毛構造を持ったアーキアがいない、っていうのと、細胞質基質に独立したDNAの痕跡はない……ってところから、怪しいんじゃないかなぁ。膜進化説ではだめ?

 

 

個人的なおすすめ良問大学

やっぱりダントツでいいのは当たり前ですが東大ですね!!

ネタの新規性、問題の綺麗さ解きやすさ、ストーリー性、大問1つで問えている範囲の広さ……どれをとっても東大が最も良問でしょう。

少々いじわるにはなりますが、注意力を上げられるような良問を解きたいなら京大ですかね。何かを挑まれている感がありますが、やはり題材はいいですし、問題も綺麗に作ってあります!学びもあります!!

それ以外の大学は、良問もありますが玉石混交といった感じです。基礎をしっかり確認しつつ、ちょっとステップアップした知識も得たい、という人にはどれもおすすめです。各大学の良問は上のコメントでも書き添えたので、それを参考に見てもらえたらなと思います!

 

出題分野の状況

とりあえず上記の大学だけでざっくりすぎる出題状況をまとめてみました。

私の分類がざっくりすぎるのであまり参考にはなりませんが……

よく出たもの(3大学以上)

  • 遺伝
  • 細胞周辺(細胞構造、細胞膜、細胞外物質)
  • 植物ホルモン(題材になるだけで問題として突っ込まれたかは微妙)
  • 免疫

そこそこ出たもの(2大学以上)

  • PCRPCRをする、とかプライマー設計する、とかではなく、ここにプライマーをつけたらどうなるか?とか、泳動像を読み解くとかの使い方)
  • 進化
  • 遺伝子の転写調節
  • 神経
  • 動物の反応と王道
  • 代謝
  • 細胞内共生説
  • 細胞の情報伝達

という感じ。

ほか、解いた感触的な話

東大も京大も、今年は合成生物学的な話というか、かなり最先端のテクニックを当たり前に用いた実験系を出題してきました。

コドンを置き換えて人工アミノ酸を持たせるなんて、まさに合成生物学です。

DNAを紐として使う、という発想もかなり近年のもの……。

大学入試の問題の中にも、いよいよ本格的に合成生物学やDNA工学が入ってきそうな予感がします。

 

去年は受精・発生や光合成、バイオテクノロジーといった問題がかなり多く見られましたが、今年はすっかりなくなってしまいました。

特にバイオテクノロジーなんて、上で述べたようにPCRの結果を使うだけで、プライマー設計もないし、温度設定の問題もないし……と、まったくもって突っ込まれていません。

プラスミド設計もないし……。

問題の中でも、GFPをくっつけた遺伝子が出てきたり、プラスミドを持たせる話が出てきたりはするので、教養は勿論要ります。が、バイオテクノロジーそのものを問うというのがなかったので、なんだか物足りない気持ちになりました。

なんだか今年は妙に膜とか細胞とか生体を構成する化学物質とか、そんな感じで細胞注視の問題が多かったな~と思います。逆に進化・生態・分類みたいなでっかい感覚があんまり残ってない。完璧に感覚の話なので別にどうでもいいのですが、なんでなんだろうな。

あとは依然として遺伝は強いな、ということですね。遺伝は絶対やっとかなきゃだめ!今年は中間雑種も出ています。教科書に載って無くても、ちゃんと訓練しておこう!!