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タイトル通り、毎年恒例のぷち大学入試全国行脚を慣行した。良い問題あり悪い問題ありでこのアツい気持ちを新鮮な内に放り出したい。ので放り出す。
あまり詳しい分析や解き方などは期待しないでほしい。
北海道大学
例年と変わらぬ雰囲気。
大問2
土壌中の無機窒素化合物は不均一分布だけど、それに対して植物はどういう風に応答し対処するのだろう?根を左右で分けて違う条件にさらす「根分け」実験をしてみよう!というやつ。この題材はまぁぽろぽろ入試問題で見られるとはいえ、毎回見る度に植物偉いなと思う。問2-2で
次の(A)~(D)を分子量が小さい順に記号で答えよ。
(A)100アミノ酸が連結してできたタンパク質
(B)グリシン
(D)ATP
という問題が出てきて一瞬びびった。
接ぎ木実験も行い、どのタンパク質が地上部や地下部で必要かを考えるところまで発展させている。パズルチックで楽しい。
大問3
前半は非還元性配偶子について。非還元性配偶子ができるパターンふたつについて紹介をされ、それを活かして考察をする。非還元性配偶子について授業ではめちゃくちゃ詳しくはやらないだろうから、こういうところで勉強できるのはいいなと思う。
後半はまた木原均先生だ!北海道大学といえば木原均、木原均といえばパンコムギ。北大受けるってなったら絶対勉強しないといけないのではないか?というレベルで入試問題に登場する。
大問4
これは面白い問題だった。スズメにパンをまくと、どういう風に撒くか&パンを最初見つけたのがオスかメスか、によって集合声を発するかどうかが違うというものだ。細かくくだいた場合と塊であげた状態では声の発し方が異なる。なるほどそりゃそうだよな、と言われてみれば思うけれど言われるまで考えたことがなかったので非常に興味深かった。ちなみに細かく砕いた方が集合声を発することが多くなる。面白い行動だなぁ。
昔イヌにおやつをあげようとしたとき、「イヌは餌のサイズは気にしていないが個数は気にしているので細かく裂いてあげた方が満足度が高い」ということを誰かに言われたことがあり、未だにそれが正しいのかウソなのか分からずにいるが、今回の実験に少し通じるところがある気がする。動物によって数の概念とか量の概念とかって違いそう。餌を何にするかによっても違うのかな?
東北大学
めちゃくちゃバランスがいい問題だった。
大問1[Ⅱ]
生物はグルコースを解糖系で分解するが、逆にグルコースを合成する反応もやっていて、ひとつの細胞内で同時に行うことの意義を考えようという問題。良い。一見意味不明な反応の必要性が分かるのがいい。心地よい誘導でそれもまたよい。
大問2問(2)
エキソサイトーシス制御について調べるために実験系を組み、考察するというもの。純粋に見たことがなかった系だったので「へぇーこんな系でできるんだ」と勉強になった。ちなみにこんな系だよ。
- 細胞(物質Xを含む小胞を持つ)を細胞質基質に似た溶液中に懸濁する(ただしタンパク質はなく低Ca2+濃度)
- 試薬を用いて細胞膜のみに小さな孔を作り、細胞質基質のタンパク質やATPを濃度依存で拡散させて細胞内濃度を薄める
- 調べたい薬剤や物質が含まれた溶液を加え、Ca2+溶液を加え、30℃加熱し1分後に反応を止め、細胞を取り除いた後の溶液中物質X濃度を測定する
この大問中に含まれる問(3)で、唐突に「平均的な体格の健康なヒト成人の空腹時の血しょう中に含まれるグルコース総量を概算せよ」と問われてちょっとびびった。与えられる値は
- 心臓の左心室は一回収縮あたり約60mLの血液を大動脈に送ること
- 安静時1分間に心臓が送り出す血液量は全血液量と同程度であること
- 血液の体積約50%は細胞成分が占めること
だ。ヒトの血液が5Lくらい、その半分が血液で血糖値は100mg/100mLを知っていれば概算はできるが、導き方はこれでいいんだよな……?一個目の情報を使うとしたら、1分間の心拍の大体の値を知っていて総血液量を概算するという感じか?なんだか若干不安になる。
ちなみに問(5)ではインスリンが51アミノ酸からなるが分子量はどれくらいかという問題も出ている。1アミノ酸を大体分子量100で計算すればいいだけだが、この値も覚えることが必須なんだなぁとしみじみ。
大問3
個人的にはこれが一番推し。ライオニゼーションの仕組みを活用した探求問題だ。設定としては
- 軸索の突起の退縮は突起を取り囲む複数の細胞が出す特定タンパク質を神経細胞が認識することが引き金となる
- X染色体上にある遺伝子Pを欠損すると退縮せずに長いまま突起が残る
- 遺伝子Pは退縮する突起側の細胞と周囲の細胞、両方に発現しておりどちらで遺伝子Pが働くことが退縮につながるのか不明
という状況だ。そこで遺伝子PとGFP遺伝子をX染色体上で連鎖させて、GFP遺伝子なし突然変異遺伝子PもちX染色体とのヘテロメスマウスを作成すると、そのマウスの中では遺伝子Pを発現している細胞が蛍光を発し、そうでないものが蛍光を発しないという可視化が可能になるのだ。すると
という観察がなされ、結果軸索側で遺伝子Pが働くことが退縮に必須だと判明する……というまい!巧みすぎる。賢い。
何がいいって最後の問(7)がまた良い。X染色体上にGFP遺伝子+遺伝子Pのオスマウスと、GFP+遺伝子PのX染色体と突然変異遺伝子PのX染色体をヘテロでもつメスマウスをかけ合わせ、その子供から遺伝子P欠失変異とGFP遺伝子両方もつメスマウスを選んで実験に使おうとすると指導教官から「だめ」と言われるのだ。なぜ?というもの。いいね。見かけに騙されちゃだめだよ。ちゃんとそれがわかるのがいいよね。本質を理解できているか問えていてとてもいい流れだと思う。
名古屋大学
相変わらず腑に落ちない問題が出る。
大問Ⅰ
プラスミドのセレクションの話からのクロラムフェニコールの副作用の話。クロラムフェニコールの話は最初聞いたとき「めっちゃおもしろい!なるほど!」と思ったなぁ。今はもう既知なので感動があまりないが……。
大問Ⅱ
とあるシグナル分子XとYはどちらも細胞増殖のために必要な酵素Aの活性化等を生じさせるはずなのに、X投与では細胞増殖が起こるのにY投与では起こらないよ。どうして?というのを探求するという問題。リン酸化動態みたいなものが見られて題材は結構面白い。
大問Ⅲ
植物の道管が作られるまでの過程と、それについての実験。こんな感じで進んでいくんだな、という面白さはある。あまりすっきりしないところもあるが。
大問Ⅳ
トカゲの移入等の話なのだが、最後の問題に違和感しかない。「トカゲCからトカゲBへの間接的な負の影響」のサイズはどう判断すればいいのだ?変わらない、という風にも判断できそうだし、小さくなる、という風にも判断できそうだし。うまくまとまりきらないけれど、これは問題がある気がする……。
大阪大学
訂正が多すぎてびびったし、問題が消えたり完全に変わったりしていてびっくりしてしまった。何?
[1]
制限酵素で切断する箇所を見つけるのがあまりにも面倒すぎて辛い気持ちになった。受験生だったらやってられないぞ。とはいえSNPによってサイトカインAの動態が変わるのは面白いし、それが細胞質内輸送や細胞膜外部分切り取りなどの過程に落とし込めるのも結構面白い。と思う。
[4]
ハタネズミのオスのメスに対する選好性、絆形成についての実験。皮下にポンプを埋め込んで連続的に脳内に物質を突っ込んであるはずのない絆を形成させたり消したりするのほんとにこう……。
京都大学
Ⅰ
ステムループ構造、リボスイッチ、ウッ頭が……。現象としてはもちろん面白いのだけれど。
問7ではショウジョウバエの分節遺伝子が出題された。東大でも出題されてたのに京大でも!?!!?人気!!!?!?!?なぜ!!!?!?!?!?!?!?
Ⅲ
(B)の島ごとのコオロギ変異の話が面白い。メスを誘引するためにオスコオロギが鳴くはずだったのに、諸島に移入後鳴かないオスという変異タイプが出現して、島ごとにその割合が違うんだって。その挙動とかを実験で見ながらいろいろ考察していくわけだが、変異コオロギの戦略がなかなかよかった。
Ⅳ
褐色脂肪細胞じゃん!!!!!うれしい。褐色脂肪細胞好きなので。
実験も面白かった。褐色脂肪細胞へのグルコース取り込みってこうやって調節されてるんだな、って勉強になった。
九州大学
[3]
問2、またもショウジョウバエの発生!!?!?!?!?!?どうして!!!?!?!?!?!?!?流行ってる!!!?!?!?!??!?!?!?!?!?なに!!?!?!?!?!?!?
慶應義塾大学看護
[Ⅰ]
一遺伝子一酵素説のよく見るやつの応用ver。パズルチックで楽しい。
[Ⅱ]
問6がおすすめ。いわゆる「結合するタンパク質があると電気泳動のバンドが変わるよ」のやつなのだが、抗体とどういう風に結合しているのか等考えるので楽しい。
[Ⅲ]
ニューラルネットワークと遺伝的アルゴリズムについて紹介したリード文。わぁ、と思ったけれど中身はなんというか……情報処理ゲー?でも楽しいからよい。こういうものがある、という紹介だけでも意義があるもんね。
ちなみに問5では人間の質問にAIが答えるやりとりがあり、間違って答えられた文章を直す……というくだりもある。なんとタイムリー(?)な……。AIに頼り切らない、大事だね。
慶應義塾大学医
Ⅰ
酵素Xは2量体×2で形成されるが、一塩基多型によって生じる別のタンパク質が混じった四量体はどういう性質を示すだろう?というのを探求していく問題。ミカエリス定数が出てきてうぉっと思ったけれど凄まじいものではなかった。
Ⅱ
核の大きさを規定する要因を探そうぜ!というもの。色んな大きさの空間に突っ込んだり、いろんなものの阻害剤を入れたりモータータンパク質を与えたりする。楽しいし面白い。そういう風に決まるのか~と素直に勉強になった。
Ⅲ
マツカサウオに住む発光バクテリアと同じ菌(ただし系統が違う)を住まわせる小型発光イカについての問題。そもそもイカの存在が面白い。し、発光バクテリアが発光器になぜいるか?という疑問に対する答えが見えてくるのが面白い。海水中の発光バクテリア濃度が一日の中で変化しているのもすごく良くて、「こんなことしてるんだ」と感動した。完全に知らない話だったので非常に興味深かった。