あいまいまいんの生物学

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2022年度大学入試共通テスト2次日程 生物基礎 所感

共通テスト本試、追試両方終わりましたね!

受験生の皆様は本当にお疲れさまでした。

 

 

追試の問題、今かいまかと出るのを待ち望んでいたのですが、普通に検索しても一向に引っかからず……

躍起になって探したらやっと見つかりました。感無量です。

www.minyu-net.com

 

ということで、今回も早速追試を解いて、感想を書いていこうと思います。

 

 

第1問

A 人工細胞を作る取り組み

まさかの最新の話題が出てきた!人の手で細胞を作る試みが取り上げられている。題材としては授業の発展で、かつ興味深いので良いのではないか。

問1 全生物に共通して見られる特徴を問う問題。これはただの知識。選択肢もふつう。

問2 ある人工細胞ではRNAとADPが作れないが、それらを与えて光照射するとRNAの情報に基づきタンパク質を作れるという。光照射でADPからATPができることが必要だということを証明するための実験として、足りないものを足す問題。実験デザインに近い思考問題。

RNAとかATPとかにあんまり意味がない問題になってしまっているけれど、それでも実験デザインとしては良問ではないか。

問3 動物細胞の体細胞分裂後期をイラストから選ぶ問題。知識だなぁ。意地悪もなし。

 

B ゲノム

めちゃくちゃありきたりなゲノムの文章。

問4 ヒトと大腸菌どちらか一方のみが持つ細胞特徴を選ぶ問題。知識。真核と原核の定義。

問5 遺伝子の発現に関する記述で誤っているものを選ぶ問題。捻りのない知識。

問6 ゲノムの表を見て適当な記述を選ぶ問題。

ゲノムの表を見比べることはありがちだし、授業でもやりがちだから、新規性はなさそう。表の数値の出し方がひねってあるわけでもない。

ちょっと記述を選ぶ際に計算が必要なので、そこで手間取る人も出るかも(とはいえざっくり計算する術が身についていればそんなこともないが……)。

 

総評

Aは人工細胞と言い出すからちょっと興奮したけど、そこまで人工細胞につながるような発展的な問題ではなかった。

A,B通して知識が多めになっている気がする。しかも捻りがない、あまり考える必要もない。問3の体細胞分裂図の選択肢も、悪意がないというか、純粋だった。もうちょっといやらしく作ることもできたと思う。

そんなわけで、Aのリード文には良さを感じたが、問題の中身は本試ほどの躍動感がなく、平凡に終わったなという感じ。

 

第2問

A 濁度をもとにした培地中の細菌数推定

急にリアルな実験手技の話が出てきた。

ある高校の生物部が、ニンニクの細菌増殖抑制効果を調べるために培地中の細菌数推定を用いたという設定。高校生すごい。

使う菌が乳酸菌というところは気になるけれど……(pH条件とかちょっと特殊すぎない?)

問1 濁度から細菌数を推定する問題。

グラフや表や計算を駆使してがんばらねばならない。

しかも与えられた濁度と細胞数の対応表は/mL、今回問われているのは10mLの培地の細胞数なので×10を忘れると悲惨。悪意……。

でもこういう処理を慎重かつ的確にやれるのは大事だからね。

問2 ニンニク実験の対照実験を選ぶ問題。実験デザイン的。即答だろう。

問3 実験結果のグラフを見て考察をする問題。

……なんだけど、「抗菌作用はあると確認された」と問題文で言っちゃってるので、実はその上で実験結果のグラフがどうなるか、みたいなのも一緒に問うてる問題。

その上でグラフの読み取りもやっぱり求めてくる問題。

色んな要素が絡んでてちょっと問題としてはアンバランスな気持ち。いや、解けるんだけども。不安な気持ちになっちゃう。

 

B チロキシンと変態

オタマの中でのチロキシン濃度が変態の進み具合で変わることが説明され、変態に影響を及ぼす化学物質Xの解析実験へとつながる。

オタマとチロキシンの関係は授業で必ずやるとは思うし、グラフもそこそこの頻度で出題されがちだけど、普通に面白い題材なので私は好き。

問4 カエルにどの体部位のすりつぶし液を注射すると変態が速く進むか?という中々グロい問題。知識。

知識だけど、変態が速い=チロキシンが増えるということと、チロキシンのフィードバック制御について知って考えないといけないので、ちょっと頭を使う部類。

とか言いつつ、フィードバックのことばっかり考えてるとチロキシンそのものをつっこめばいいじゃん、という考えが消えて間違えかねない問題。案外曲者だ。

問5 実験結果のグラフが与えられるが、そのグラフがいずれの処理群のものかが伏せてある。

どのグラフがどの処理群のものかを、冒頭のチロキシンと形態指標の変遷グラフや実験条件(3週間飼育する)などと組み合わせて導き出すという問題。

複数の情報を処理しなければならず、かつ素直に答えが見えてくるので面白い。

 

総評

AもBも題材が程よく発展的で、問題の作り込みも適度にされていてよかった。

柔らかすぎず、硬すぎない、ちょっと頭を使う必要があって、その上無理がないのが良いなと思った。難易度もほどほど!でも足を引っ掛けられた人が多いのではないかな。

 

第3問

A 人工林の間伐

日本のスギ人工林が作られた経緯と、その現状、そして間伐が及ぼす影響の実験について述べられている。

発展的で、その上間伐の効果が身についた知識から解釈できるのはいい題材だと思う。

問1 バイオームの知識問題。

問2 間伐ありとなしでの違いをグラフから読み取るというもの。

グラフがあまり見るタイプのものではないので、グラフの縦軸横軸を読み取る力、そしてその上で遷移を考えたときにどちらが陰樹でどちらが陽樹のグラフか……などを判断する力が必要になる。

素朴な問題だけども、グラフを読み取る力とともに植生の知識が問える。

 

B トキの生態

日本産トキの絶滅と、中国産トキの再導入について述べられている。

この再導入されたトキの採餌行動がテーマとなり、観察結果が与えられる。

問3 結果読み取り。

2つのグラフを見比べながら解釈しなければならない。グラフを複数使うというのは新傾向的でよい。

問4 結果から餌をとれる環境として適した条件を選ぶというもの。

正直、考えなくても選べそうだが……。

問5 絶滅や生物個体数減少などの生態系変化に関する記述として適当なものを選ぶ問題。

ちょっと考えるのも必要だが、基本的には知識問題。大して難しくはない。

 

総評

トキという題材自体は絶滅生物として非常に象徴的であるし、その上トキがどのような餌場を用いるか、どういう採餌行動をするかを問題に沿って考えさせることはいいことだと思う。

今回の問題では触れてはいないが、結局この問題から分かることは「トキは人の手入れする里山環境を基盤にして生きている」ということだ。

そうであるならば、もしかしたら「人の手入れする里山環境が減ったことがトキ絶滅の一因としてあった」のかもしれない、という仮説を立てることができる。受験生がここまでのことに気づいてハッとするかはわからないが、結局絶滅には人の生活も一役買っているのだと知らしめられる題材であると私は思う。

 

Aのスギ林についてもそうだ。間伐をしなければ種数が減る。それは絶滅に繋がりかねない現象でもある。

結局人の生活は生態系の一要素であって、人が自然に手を入れないこと=生態系を守ることではない、というのがはっきりと示されているのだ。

 

そういう意味で、今回の第3問はただのバイオーム、ただの生態系、ただの外来種……という感じではなく、なんだか教訓めいたものが貫き隠されている気がして個人的にはすごく良かった。難易度もほどよい。バランスの良さを感じた。

 

 

全体を通して

本試と比べると少々知識多めであったり、躍動感がなかったりする部分もあるけれど、共通テストとしてバランスよく、いい感じに発展的な題材を基に物を問えている問題だったのではないかと思う。難易度は本試よりも若干低そうだけれど、第2問で足引っ掛けがあるから割と同じくらいになるんじゃないかな。

「おもしろい!」という興奮がそこまでなかったとしても、なんだか淡々と大切なものを教えるような試験が今回の追試だったような気すらした。濁度からの細菌数推定という実験手技も、スギも、トキも……こういうことができるんですよ、こういうことがあるんですよ、そこからあなたは何を考えますか、みたいな。深読みしすぎだろうけれど。

でも、なんていうかこう、はっちゃけてなくて、地に足のついた出題で、とても落ち着いて解き進め考えることができた。そういう意味で安定感のある問題で、解き心地はよかった。本試みたいにワクワク興奮するものも好きだけど、今回のように落ち着いて先を考えられる問題も好きだなぁ。