あいまいまいんの生物学

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2021年度東京大学入試問題 生物 所感

待ちに待った東大の問題が出た!!!!!!!!!!!

早速解きました!

ここから見れる&解けますので興味有る方は是非。

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せっかく解いたので、毎回誰に需要があるんだかよくわからないけれど所感を書きます。

 

概要

大問数は例年通り3題。

問題文の分量は例年より少なめ?な気がしました。感覚だから違うかもしれません。

ただ、前回は論述たくさんだったのに今回は総指定行数が減った気がします。例年並みに戻ったかな。

東大といえば毎年、良い題材がって、それを基に幅広い分野を横断しつつ、考察力を問うというものなんですが、

今年もまさにそんな感じの出題でした!大満足。

毎年東大凄いなぁと思うのは、その文章の読みやすさと回答のブレを作らせない誘導なんですが(答えがバチッと決まる!)、今年もその能力はいかんなく発揮されていましたね。

考察問題も昨年同様物凄く難しいものはなくって、リード文や実験状況を正しく落ち着いて読み取ることができれば答えが導ける問題で構成されていました。

 

最初にも述べたように論述指定行数が減っているため、時間に余裕をもって回答ができたのではないかと思ったり。

難易度は総合的に見て昨年度並みかやや易化、というところかな?

 

各大問ごとの所感

第1問

使う知識の分野としては、生体膜、遺伝子発現、シグナル伝達、呼吸……といったところ?

実験考察を中心とした問題です。

リード文に書いてある情報を丁寧に拾って整理できれば問題はないわけですが、複数の資料や実験が絡むので、まぁちょっと大変かもしれません。

個人的にはとてもいい塩梅な気がするが!

もはや論文読み取りに近い気がします。普段から論文読んでる人には楽なのではないか。

Ⅰ 水と生命、クマムシの乾燥ストレス耐性

水が生命活動維持に必須の存在であり、多くの陸上生物がそれを確保することを最優先課題とすることを述べた上で、

「水をほぼ完全に失っても一時的に生命活動を停止するだけで生きられる生物」としてクマムシを例に挙げる……という導入。

クマムシ!!!!!!!!!嬉しいね。テンション上がるわ。

クマムシ博士とか、昔流行ったけど今どうなってるんだろうなぁ。

 

さて、問題では、乾燥ストレス耐性の耐性度合いが異なるクマムシに関し、遺伝子発現との関連性を見ながら実験が行われます。転写阻害剤で処理したり~翻訳阻害剤で処理したり~……。

Aでは、水が生体膜安定化に果たす役割の説明を求められます。これってすごく基礎的な内容だけど、色んなことの意義を考えてみたり、なぜ?を普段から感じたりしながら生物の授業受けてないと、あんまり考えないだろうな。

教科書でもキャンベル生物学でも、「生物は化学物質だ!水が大事だ!」から入り、生物を組成する化学物質から理解する所を求めてくる訳ですが

そういう化学的視点というか、生物の素材を知った上での論理展開ができるのは大事だなぁと思ったり……。

Cは少々捻った実験解釈問題。乾燥耐性に関係ありそうな3つの遺伝子について、転写阻害剤と翻訳阻害剤暴露後乾燥を経験させ、それでmRNA量を見るという。

このグラフから、ストレス情報伝達経路の初期遺伝子がどれかを見極めるんですね。

シグナル伝達経路と転写調節の多段階的な繋がりのイメージを構築できないと答えられないなぁという印象でした。

簡単だけど、試験会場で焦ってたら「どゆこと!?」ってなりそう。良問。論文ですよ。真面目に。

Dは比較的単純なグラフ予想。「遺伝子がある」ことと「遺伝子が発現している」ことが別物だと分かっているかが問われている感じですかね。

Eは各薬剤がどのシグナル伝達段階を阻害する可能性があるかを結果から考えるもの。Cが理解できていればこれは答えられます。過不足なく答えられる正確さが肝ですわ。

特にEは、色んな議論をするときに大雑把な人だと難しそう。グループディスカッションとかやっても、雑に「ここらへんに効いてそう」で終わらせる人っているんだよな。

でも実際はそうじゃなくて、資料から厳密に「ここからここまでの間で効いてそう、これより後だと○○という結果になるはず……」って深く考えるのが大事なんだよ。


Ⅱ 線虫の乾燥耐性

線虫のトレハロース蓄積の話は自分が大学生の時には既に聞いた気がするな~と思って軽く調べてみると、2010年代までには分かってたことっぽいですね。

今回の問題では、線虫の乾燥耐性にはトレハロース蓄積が関わること、

トレハロースを作る基になる物質は呼吸経路の中で作られることが述べられています。

加えて、糖新生の話にも少々触れ、異化経路が逆方向に進められることを提示するなどしています。

このリード文に含まれる、乾燥耐性とトレハロース合成と呼吸と糖新生が全て最終的に問題で繋がってくるから、めちゃくちゃ良い!!!!!!アトラクションみたいな興奮があります。

さて、このあと耐性が低い変異体について実験を提示していくわけですが。ここで乾燥耐性が駄目な二種類の線虫株を用意し、さらに二重変異体の結果まで出してくるんですね。

結局問題を解くにはこの二重変異体の結果まで含めて細かく吟味しないといけなくなります。丁寧な検証作業が要されます。

いやぁ、でもね、本当にそれ大事な能力だから……!!!!!東大はいい問題作るなぁ……。


第2問

使う知識は、植物の環境応答(屈性、食害)、植物ホルモン、細胞膜の性質、チャネル……あたりかな?

こちらも実験考察を中心とした問題です。

またリード文の丁寧な読み込みと、たくさんのの実験データを整理・関連づける必要があります。

特に今回のグラフは、「屈曲角」の定義といった前提条件の把握が必要になるので、一筋縄ではいかないかも。

縦軸なんだこれ、と調べながらやるのって、もはや論文……。

Ⅰ 屈性とオーキシンオーキシンの酸成長説

Ⅰでは屈性やらオーキシンやら酸成長説やらが丁寧に説明されています。酸成長説の歴史的変遷とか、知ってるけど東大で説明されるとは。

この問題ではBがなかなか試される感じでした。問題としては、実験と結果の情報を見て、(1)~(5)の各記述に対し支持されるか否定されるかを答え、否定の場合根拠となる結果を提示しなさいよ~っていうやつなんですけど。

……なんと、(1)~(4)まで×が続くんですよ!怖くないですか?何を試されているんだ??

自分の思考に自信がないと正しく回答できないね。当てずっぽうな人や、やはり雑な人を削ぎ落としたいのだろうか。

Cは、IAAの極性輸送でなぜ排出輸送体の制御だけが重要になるのかを考えて説明せよという問題なのですが、これね、目からウロコでした!

与えられた情報から論理的に導けるんですけど、自分で導いて自分でなるほどね!って感動しました。勉強になるなぁ。

 

Ⅱ 植物の食害応答とカルシウムイオン

食害応答について述べ、食害応答をはじめ様々な入力に対しシグナル分子として機能するカルシウムイオンについて実験を行うというものです。

カルシウムのウェーブみたいなやつ、Twitterで動画が上がってたよね。去年かな?と思ったら、もはや3年前でした。年……

ちなみに動画はこういういやつな。

www.youtube.com

www.youtube.com

この問題自体も一応実験解釈問題なんですが、個人的には色んな事例とか知識を結びつけて考えれる面白い題材だな~と思いました。

例えば「細胞小器官にカルシウムイオンチャネルがあって、それを阻害すると風刺激時に細胞内カルシウムイオン濃度が上がらなくなりますよ」って伝えられます。これどういう仕組みでカルシウムイオン濃度上がってるの?って聞かれるんですが、ぱっと思いつく類似現象って多分「筋小胞体」なんですよね。

筋収縮のとき、細胞質基質のカルシウムイオン濃度を上げるのは、筋小胞体に蓄えられているカルシウムイオンが、小胞体膜上のチャネルが開くことで生じるじゃないですか。

それを連想すれば「じゃあ植物もそんな感じじゃね?」となるかな……と。

もともと全ての仕組みを知っていることも大事なのかもしれませんが、ある現象から「仕組み」「仕掛け」として何か特徴を抽出してきて、

他のことを考える時にそれを適用できるのって、大事ですよね。

……そういえばグルタミン酸の話は出なかったな。植物と神経を絡めるように発展しそうだったのにな……。


第3問

使う知識は性決定、発生、ホルモン、生態系、遺伝、脳のあたり。

性決定を題材にしながら、様々な視点で問いが立てられている楽しい問題です!*1

ただの知識暗記ゲーではなく、論理的思考力を要される問題になっています。

でもね、とにかく誘導がジェントルだから。そのまま引っ張ってって貰えれば答えれちゃうから。東大のエスコート力は半端ないぜ。

Ⅰ 脊椎動物の性決定

「皆、生物はオスかメスかの二者択一みたいに思ってるけど、本当はそんなことないよ?脊椎動物には様々な性決定や表現型が発生するんだよ?」というリード文。

この中身が単純にまず面白いですね。

色んな例を挙げてくれるんですが、それがどれも嫌味なく、しかも問題を解くのに過不足もなく、

読みやすく、わかりやすく、感動と驚きがある!

東大の文章力、凄いですよねぇ。大抵こういう例示どんどん挙げていく系って、後で「ほぼ無駄じゃん」みたいに思われるんですが。それを感じさせないんですね。

ちなみに性を取り上げるだろうことはなんとなく予想していました。ここ最近ずっと話題だからね。

Aでは雌雄モザイクのキンカチョウの発生原因を考察します。

私の頭の中では完全にミツバチの雌雄モザイクの話を思い浮かべながらやってました。ミツバチって、オス×オスでできた子とかおるんやで。

Bは、雌雄モザイクという存在によって、「全身の性は性ホルモンで規定される」という考えが疑問視される理由を論述します。いや~、いいですね!

Cは、外見メスで精子を作るオス個体が、繁殖戦略上どんな利点があるかを考えます。

つまり……女装するけれど男性生殖器を持ち女性を生殖対象とする生物?

そういう形態に利点があるのかなんて今まで考えたことなかったんですが、この問題で考えるきっかけになりました。そうか、オス同士の闘いに巻き込まれずに配偶者を獲得できるんだね!面白いですね。

Dは雌雄同体生物であるマングローブキリフィッシュを用いた遺伝の問題。ただの一遺伝子の問題なので簡単ですが、題材は楽しい。

ちなみにマングローブキリフィッシュは今年名大も出していました。大人気!

i-my-mine.hatenablog.com

 

EとFでは、制度と性決定のリンクを鮮やかに見せる問題になっています。

  • 一夫多妻ハレムの場合、大きい個体がオスに性転換する例がある
  • 一夫一妻の場合、大きい個体がメスに性転換する例がある

これらはそれぞれ利点があるのですが、制度によって性決定の方向性が全く変わるのは面白いですよね。

 

Ⅱ ヒトの男性脳と女性脳

「ヒトの性が二者択一で捉えられがちで、脳機能についても男性脳と女性脳と言われるけど、実際はどうかちゃんと考えたことある?」という、世間に疑問を投げかけるような問題でした。

中身自体はロジックパズルなんですが、大変おもしろく、また考えさせられる題材でした。

何より自分としては、男性脳女性脳のいわゆる俗な話題がまさか「生物の大学入試問題」という非常に高尚なものに昇華できると思っていなかった面があり……

「こんな風に問題にできちゃうんだ!!しかも凄くちゃんとしてるし、サイエンスの立ち位置から吟味できてるし、凄い……」という感動がありました。

こういうナイーブだったり揺れ続ける話題だったりを、例年東京大学は割と取り上げて平気で素晴らしい問題に昇華してしまうわけですが。

もうさすがだなぁとしか言いようがありません。凄いっす。

 

総評

題材も調理も最高に素晴らしい、まさに東京大学の問題といった感じの問題でした!

私は大満足です。今年もこんな良問に出会えてよかった。

やはり生物の問題の面白さは、一つは題材、もう一つは調理なわけで、

どれだけ面白い題材を持ってきても、問題がショボいとあまり盛り上がりませんし

良い問題を作ってみても、題材が並だとそこまで興奮できません。

しかし東大はそのどちらも完璧なので、もう大変興奮します。解いていて常に楽しいです!

加えて、丁寧さですね。作りがとても丁寧で、文章が「読める」、問題がすんなり「解ける」。これって凄いことですよ。

大抵の大学入試問題では、「何語を喋ってるんだ?日本語変じゃない?」ってひっかかったり……

向こうの聞きたいことが伝わってこなかったり……

「これ答え一意に決まらなくない?」ってもやっとした気持ちになったり……

そういうストレス源が絶対あるんですが。

東大はこれがないんですね。一切ないんです。

教科書準拠で、逸脱した知識問題とかもないんです!これも凄いです。大抵の大学は、難易度上げるよ~ってなると大抵逸脱してくるからな。愚かなり。

  • 教科書に載っている基礎知識を理解するとともに確実に身に着け、それを用いて丁寧な論理的思考を展開できる。
  • 複数の資料や情報を取りまとめ、整理・解釈する力がある。

そういう力を持っていれば東大の問題は解けちゃう!素晴らしい!

やはり東大は神です。

そして問題解くの純粋に楽しすぎる。毎月出してほしい。タダで味わえるアドベンチャーみたいで最高ですよ。

 

 

真面目に、一度でいいから東大の作問会議に立ち会ってみたいですね。

または作問してる人の作問中の頭の中を覗かせて頂きたい。

一体どういうブレインでどういう思考回路をしてどういう会議をしたらこんな良問ができてくるんだろう……と不思議でなりません。

私の中には美学があっても、それを実現できる作問力がないので……

生きている間に一回でいいから、東大の問題作りを側で取材とか勉強とかしたいなぁ……

*1:Twitterつながりの方から、「新学術領域じゃない?」とご指摘を頂き、確認したところ、それだー!ってなりました!!

新学術領域研究「性スペクトラム」トップ

もしかして過去の問題も新学術領域から出されているのかな……?