あいまいまいんの生物学

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2021年度名古屋大学入試問題 生物 所感

2/25、26は大学入試二次試験前期日程の日!

まだ東大や京大は生物の問題が出てきていませんが、現時点で出ている名古屋大学(名大)の問題を解きましたので、所感を書き留めたいと思います。

 

ちなみに問題や回答はここから見れます。

名古屋大学 前期 | 国公立大二次試験・私立大入試 解答速報 | 大学入試解答速報 | 大学受験の予備校・塾 河合塾

 

概要

大問数は例年通り4題。

問題文の分量は例年並みですかね。

例年よりも、考察力を問いたいという意図の出題を軸に据えている気がします。とはいえ考察問題が極端に難しいというわけではないのですが……

リード文や実験状況を正しく落ち着いて読み取ることができれば答えが導ける問題で構成されていると思います。

例年だと、「これ本当に答え出るか?一意に決まるか?」と微妙な気持ちになる問題が時々あるのですが(これ事象丸暗記してないとここに提示してある実験からだけでは導けないのでは?みたいな気持ちになるのとか)

今年はきれいさっぱり解けました!すっきり。

 

題材も、全てではありませんが面白いものも取り上げていて、個人的には楽しい気持ちになりました!

真新しい題材でも、理解しやすい説明がなされていていいですね。

一部でアクセントとなる難易度高め問題がいい感じの配置で入れられているのもポイント高い(大問1の3遺伝子ハーディ・ワインベルグ、大問4の遺伝子マッピングなど)。

 

名大といえば単純な穴埋め問題(語彙知識を問うもの)がかなり多いイメージがあるのですが、今年は少なめでした。この方がすっきりしてていいと思う。

論述問題数は昨年とほぼ変わらないですが、昨年度はかなりベースの知識を必要としたのに対し、

今年の論述は実験をちゃんと読み解けていれば解釈・回答ができそうな良問になっているように感じます。

また、実験デザイン系の問題が名大では毎年出題されていますが、今年は多め(3問)です。

 

一番の驚きポイントは、昨年消え去った遺伝の問題があっさり復活し、しかも大問1と大問4の二つでメインに据えるという大きな扱い方をされていたところですね。

名大はやはり遺伝の対策が必須ですね……。

難易度は総合的に見て昨年度並みか、ちょっとだけ難化?難易度はかなり安定してるんじゃないかなって思います。考察系や処理系が苦手だと厳しいかも。

 

各大問ごとの所感

問題Ⅰ 血液型(遺伝、ハーディ・ワインベルグ、酵素反応)

難易度は並ですね。入り口感溢れるほど良い難易度の問題が最初に配置されているなという印象。

血液型の遺伝子やその周辺の酵素がメインです。

 

基本は典型的な遺伝の問題ですが(家系図など)、

三遺伝子のハーディ・ワインベルグ計算や、酵素反応グラフについてちょっと捻った聞き方をするなど、「丸暗記をしているだけか否か」をチェックするような問題が見受けられます。

まぁ、自分が出題者でもそれは突きたい所だよな。

 

〔文1〕血液型を決める遺伝子と酵素

リード文はよく見る文章ですね。なんなら授業でやるのでは?めちゃくちゃ普通の血液型の話です。

(1)は難易度0の基本問題。

(2)は血液型を規定する三遺伝子について、ハーディ・ワインベルグ計算を行う(ただし使用するパーツが決まっている)もの。

難しくはないんですが、初見で焦るとできないかもしれません。

特にハーディ・ワインベルグの計算の仕方を覚えていない丸暗記型のタイプには厳しいですな。導出方法をちゃんと覚えていれば、なんてことはない。ただの数式遊びだよ!でもそういうのが皆できないんだよなぁ……。

 

〔文2〕酵素E変異による免疫不全の遺伝

リン酸化酵素である酵素Eの遺伝子が変異すると免疫不全になる、というリード文からスタート。

(3)は家系図を見て優性劣性や性染色体・常染色体を答えるもの。なんですが、ここで「顕性、潜性」を表に出していることにちょっと感動!こんな時代になってきた。

とはいえ問題自体は、単純・簡単です。

(4)はよく見る酵素のグラフです、が、縦軸が反応速度で、横軸は基質……ではなくATPなんですね。酵素Eはリン酸化酵素なので、ATPをひっ捕まえてリン酸を貰ってくるわけですが。

聞かれていること自体はよくある「なぜこのグラフでは横軸が大きくなっていくと反応速度が頭打ちになるのか」なんですが、ここ丸暗記受験生だと恐らく「全ての酵素酵素-基質複合体を作るため」という回答をするでしょう。

しかし今回の問題文では基質とATPは別物扱いをしているので、この回答ではいけないわけで……

これもやはり理解がないと正しく答えられない問題だと思われます。なかなか細かい問題だな。

(5)は競争的阻害剤があるときのグラフ。簡単簡単。典型よ!

 

問題Ⅱ 「植物ホルモン」

難易度は並か、ちょい難くらい?文1はただの知識問題なんですが、文2がかなり沢山の情報が与えられるので、そういうのを処理する人には難しいかな。

ただ、文2はリード文に書いてある情報を正しく読みとって、冷静に処理できれば実際は全然難しくないです。

受験で沢山の情報をどば!と与えられた時、どれだけ平常心でいられるかがポイントだろうな~。

 

〔文1〕馬鹿苗病菌の発見

馬鹿苗病菌の歴史みたいな話がリード文になってます。

(1)では、「馬鹿苗病菌が分泌する化学物質が異常伸長の原因」であることを導くための実験をデザインします。ほとんどヒントはあるので、空白を埋めるだけなのですが……

難しいものではないんですが、培養液のイメージ(培養液には菌と分泌物が入っている)がないと答えられないかな?ともちょっと思います。

そんなイメージは生物学の過去の実験(破傷風とか、タバコモザイクウイルスの実験とか?)を学んでいれば幾らでも着く気がするんですが。ちょっと実践的な問題だなって気がしました。

(2)はただのオーキシンと重力屈性の話。知識。

(3)も植物ホルモンの知識ですね。知識ばかりで易しいね。

 

〔文2〕ジベレリンとDELLAタンパク質による伸長制御

文2は実験フェーズなわけですが、ここで情報量が一気に増えるので冷静な整理・処理が必須です。

内容・実験は全く難しくないんですが処理数が単純に多いですな。

かなりリアルな実験イメージを与える文章だなぁとも感じました。

(4)は簡単な実験デザイン(結果まで入れる)。

このデザインは、人体のホルモンの所でインスリンの学習をしていれば思いつくんじゃないかという気がしました。Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病の違いを勉強するでしょ?

(5)はリード文や結果が正しく解釈できているかを試す論述ですね。

読み取れていれば普通に答えられます。読み取れていれば。

(6)、(7)は(5)ができていないと総倒れする連鎖問題でした。これ落とすと辛いなぁ。

 

問題Ⅲ 「細胞接着(密着結合)」

実験解釈問題に加え、馴染みがあまりない現象に関する生理的意義について考察させるなど、中々アクティブな問題でした。

こちらも第2問に引き続き情報量が多いです。

難易度は並または少々難かな。


〔文1〕小腸とカスパリー線

(1)で中学生レベルの単語を問われるので逆に戸惑っちゃいました。柔毛、根毛て!

中学校の知識を定着させておくのは大事ですね……。高校でわざわざやらないぞ?

(2)は細胞接着に関わるタンパク質の知識問題。難しくないですよ。

でも、ギャップ結合に関わるタンパク質って、コネキシン?コネクソン?どっちで答えればいいのかな?この問題文だと、どっちでもOKな気がするんですが。

チャネルだと言われたらコネクソンだけど……

(3)は実験デザイン問題に近く、「なぜこの方法でこの目的に沿う選別ができるのか?」という質問でした。ちなみに選別したいものは、カスパリー線を作るやつと作らないやつです。

前提を理解していれば難しいことはないのですが、類似の実験系を見る機会がそうそうないだろう特殊なケースなので、ちょっと発想が難しいかもしれません(が、前提をちゃんと読んで整理すれば分かるとも思う)。

解いてて私も「へ~なるほどね~そうやれば確かめられるじゃん、頭良いな」ってなりました。

(4)では、リード文で説明された、カスパリー線形成に関わるタンパク質の細胞膜上での配置について、生理的意義は何かを問うというものでした。

図2が大ヒントになっているので分かるといいんですけどね。図2があからさますぎてちょっと笑っちゃったよ。

とはいえ焦ってると気づかないだろうなぁ。発想できないと難しい。

この問題も「へぇ~、植物、賢いジャン」ってなる。

 

〔文2〕乳腺上皮組織での密着結合形成

ひたすら沢山の条件と実験と結果を処理する問題ですね。

放射性同位体を用いた実験なので、検出される=どういう現象が起こったと言えるか、を理解できないと解けません。

今回の名大、色んな物質や素材を使って、「これ使ってこうなるってことはどういう意味なん?君にこの意味分かるの?」って聞いてくるの多い気がするな。なんか新傾向的だな。

実際実験やるときはそういう考え方や発想は大事だからとてもいいんだけども……。

(5)は放射性同位体検出の意味が分かればなんてことはないっすね。

(6)は処理ゲーム。

ただし糖質コルチコイド=副腎のみ と思い込んでいると間違えるので、あくまで資料ベースで処理せねばあかんです。自分の知識だけで解いちゃだめよ!

(7)は(6)まで解けていれば間違えないっしょ。


問題Ⅳ 「遺伝(ちょっとだけ進化)」

マングローブキリフィッシュという雌雄同体生物(自家受精をする)を題材にした問題。

単純に面白い!良い題材を持ってきたなぁ!

とはいえ中身のほとんどは遺伝の問題ですので、特に連鎖について理解ができていれば解けるでしょう。

〔文1〕マングローブキリフィッシュの紹介、自家受精が続いた時のホモ接合体の割合

(1)は物凄く丁寧で優しい誘導ありきなので、慌てずやれば解けるでしょう。

もしできない場合は焦りすぎか、遺伝の基礎の基礎がぐらついているのです。

〔文2〕自家受精による4つの連鎖遺伝子の染色体地図作成、色素遺伝子マッピング

この問題が恐らく一番の山場!

この問題の概要としては、

  • 全ての遺伝子がホモ接合の系統Pと系統Qがいる
  • 系統Pと系統Q由来の対立遺伝子は見分けられる
  • PとQをかけて雑種F1を作る(全ての対立遺伝子がp型とq型でヘテロ
  • ある染色体上に連鎖するA~Dの4つの遺伝子について、F1の自家受精により得られた10個体を得て、A~Dまでがp型かq型かを見、遺伝子型を表1にまとめる

という感じ。

そんなわけで、表1には個体1~10について、各遺伝子についてpとqの遺伝子型がダーッと並んでいるわけですが……

これはもう表1の見方が分からないとまず手がつけられないですよね。

こういう表を書き出して、色々処理する系の類題は、稀ではありますがあるんですよね。例えば2016年の京都大学とか。それを経験していれば大丈夫?な気がします。

しかし未経験だとまず無理な気がするな。

(2)では表1を使って、各遺伝子間の組換え価を出し、染色体地図を作ります。

組換え価は二遺伝子間でしか出せないことを忘れていなければ、あとは表の見方が分かっていればできるはず。

※ 組換えが生じていない時の配偶子は、A~DについてPPPPまたはQQQQであるはず。組換えが生じている時の配偶子は、A~DについてPだけorQだけで揃っていない時だぜ!

(3)はA~Dの遺伝子をマーカーとして、色素遺伝子をマッピングするというもの。

マッピングはねぇ……授業とかでどれだけやるかなぁ……かなりリアルな実験ぽいのでそりゃ知ってほしいけれど、中々伝わらないよ?

マッピング、今度ブログで説明しよかな。

だから今回も正答率低いと思う。

マッピングについて知らなくてもできるかもしれないけど、大抵は戸惑ってできないんじゃないかな……。

 

〔文3〕マングローブキリフィッシュは自家受精しかしないのか?

この文章では、マングローブキリフィッシュが自家受精だけを繰り返していくと、皆ホモ化しちゃって困るんじゃない?

本当に自家受精しかしてないの?という疑問を提示し、それを解明するための実験を行います。

X地点とY地点という2地点で個体を捕獲し、対立遺伝子の構成を調べてみるんですね。

その結果を見て何が起こっているかを考えるもの。

これは普通に楽しいわ。

(4)は進化的な背景というか、何がどうなってこうなったか、みたいなストーリーがばっちり見えていてとても面白いです。

 

〔文4〕マングローブキリフィッシュの雄性両性生殖

最後の文では、結局マングローブキリフィッシュにおいては、雄個体がまれに発生すること

そしてもしかしたら雄と雌雄同体との間で受精するかもしれない という話に発展します。胸アツ!

(5)では雄性両性生殖をしているか否かを確かめる実験をデザインさせます。

単純だけどいい問題です。

こういう「誰かと誰かを受精させて白黒はっきりさせようぜ!」みたいな問題、割と好きですね。*1

(6)は、雄性両性生殖が自家受精のみ生殖や雌雄別個体間での生殖に比べて良い点を挙げるというただの論述です。

これは普段から有性生殖と無性生殖のメリットデメリットが分かっていれば応用して答えられるでしょう。

 

 

総評

今回の名大は楽しかった!良い問題だったのではないかと思います。

個人的には、特に問題Ⅳでテンションが爆上がりでした。

だってこれ……

線虫じゃね!?!?!?!?!?

私線虫でこのロジック使って実験してたわ!!!!!!!!!

って気持ちになったんだもん。

線虫は雌雄同体なんで、放っておくと勝手にホモ化していくんですよ。そうやって純系を作るのは基本です。

が、線虫を35℃とかの高温でしばらく放置してから常温で育てると、X染色体不分離が起こるせいで子供にオスが出現するんですよね。割とレアなんですけど。

で、オスを見分けるポイントは基本しっぽの先がかぎづめ型になっていることなわけです。本当は慣れると太さとか長さも違うなってなってくるんですが。

で、線虫で狙ってヘテロや変異遺伝子を持たせるために、オスを出して交配させたり……

そのF1を大事に育ててセレクションかけたり……

マーカー遺伝子を基準に変異遺伝子をマッピングしたり……

もうなつかしさが半端ない!!!!!!!!!!!!!!

線虫の研究楽しかったなぁ……とはいえ実際はずぶずぶの沼なのですが。

まぁ何が言いたいかというと、私が線虫の研究で使っていた手法やロジックが、問題Ⅳにはてんこもりだったわけです。生物としての生殖形態も似てるし。

そんなわけでテンション爆上がりで解いてしまいました。公平なジャッジではないかもしれませんが、普通に面白いので良しとしてほしい。

というか今気づいたけど、つまりこの程度の問題を全て線虫に置き換えて出題できるってことだな?お、これは作問できそう……。

 

ということで、名大生物所感でした。

次は東大京大を解くぞ~、あとマッピングの記事も書く!

 

*1:どこの問題だったかは忘れてしまいましたが、イネが通常自家受精するのに、開花前一定時期低温に晒されると交雑率が上がるということについて、品種Xと品種Y(どっちかが純ウルチ、もう一方が純モチ、ウルチが優性)を使って実験するぞみたいな問題があってですね。品種X栽培区から離れた所に品種Yを置くみたいなセットを二つ作って、一方の品種Yは低温処理して、もう一方は放っておいて、品種Yにできたもみを収穫して交雑率を算出するぞという流れで、その場合XとYどっちがウルチ・モチならいいかな?という問題がありました。それも良問だなぁと思いました。