あいまいまいんの生物学

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まいばいお19 ウイルスという物質

自分の生物学の連載「まいばいお」、

ジャンル分けせずに更新していくと何か特定ジャンルのネタを探している人にとっては面倒だよなーと思って、新たにカテゴリーを作ってみたんですよね。

で、過去のやつを振ってみました。

 

やってびっくり。植物のこと全然書いてないんだもの。

遺伝子の話ばっかりじゃん!!!!!!!!!!!!

いやー反省しました。

元々自分が遺伝子と神経の界隈の話が好きだということがあからさまですね。

反省したんだけど、今日も植物の話ではなくウイルスの話です。

 

 

✿ウイルスは何者か

私が今いる学校では、生物の最初の授業は「生物の定義」をやります。

生物の定義は以下の条件で説明されます。

  • 細胞構造を持つ
  • 遺伝子としてDNAをもつ
  • 代謝を行う
  • 生殖を行う
  • 恒常性をもつ(刺激に対して反応する)
  • 進化する

この生物の定義を踏まえた時、「ウイルスは生物か無生物か」という設問が教科書にありまして。

で、答えから言っちゃうとウイルスは「無生物」とか「生物と無生物の間」なんていう風に言われるんですね。

すると大体その授業のあと何人かの生徒から質問を受けるんです。「ウイルスって本当は何者なんですか。」と。

本当は何者なんでしょうね。

 

✿ウイルスは「借り物の生命」である

ウイルス(virus)は、タンパク質の外被(キャプシドと呼ぶ)に詰め込まれた少数の遺伝子となる核酸とで構成される感染性の粒子、すなわち化学物質です。

ウイルスは最小直径20nm、最も大きな既知のウイルスでも直径数百nmほどであり、規則正しいタンパク質の外被構造を持つことから結晶化することができます(細胞は規則的に集まらないので結晶化できません)。

一部のウイルスはタンパク質外被の外にエンベロープという細胞膜構造を持ちます。

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こういう感じで色々ある。画像はパブリックドメイン


ウイルスは代謝酵素リボソームなどのタンパク質合成装置も持ちません。

栄養分のある培地に置いても一切増えません。

つまりウイルスは「絶対細胞内寄生体」です。他者の細胞に自身の遺伝情報を入れ、細胞内の全ての仕組みを自身の複製のために活用します。

ウイルスの遺伝子からキャプシドを作らせ、ウイルスの遺伝子の複製を行わせ…そうして増えたウイルスの遺伝情報とキャプシドは、分子の自発的な自己集合が起こって勝手に新たなウイルスが組み立てられるようになっています(凄い!)。

 

ウイルスの遺伝情報は2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNAのいずれかにより構成されます。

これまでに知られている最小のウイルスは、なんと遺伝情報の中にわずか4個の遺伝子しか持ちません。

最大のウイルスは数百個から1000個の遺伝子を持ちます。

比較のために細菌を取り上げると、細菌は200個から数千個の遺伝子を持ちます。

ウイルスは少ない遺伝子で構成されていることがわかるでしょうか。

 

例えばウイルスの一種バクテリオファージは、大腸菌に感染します。

ファージの遺伝子で最初にタンパク質化されるのは宿主細胞のDNAを分解する酵素です。

大腸菌DNAを分解したら、細胞を活用しファージのキャプシドとDNAを作らせ、子ファージを増やします。

最後子ファージは細胞を突き破りますが、感染から子ファージ放出まで20~30分(37℃)です。

 

 

でも、もしファージがこんなにも早いペースで大腸菌への感染と破壊を繰り返していったら…大腸菌はあっという間に絶滅してしまいますよね?大丈夫なんでしょうか?

 

実はファージは、「溶菌サイクル」と「溶原サイクル」という2つの手段をとれることが知られています。

上で話したのは溶菌サイクルです。

溶原サイクルでは、ファージは自身のDNAを大腸菌に入れたら、なんとそのDNAを大腸菌のDNAの特定部位に組み込んでしまうのです。

つまり、大腸菌のDNAと一体化してしまいます。

この状態のファージDNAをプロファージといいます。プロファージは、大腸菌が元気に細胞分裂をする度に、大腸菌DNAと一体になって複製され、増えていきます。

ひっそりと隠れて増えていくんですね。

そして大腸菌が危険そうな環境にあることを感知すると、急にプロファージは大腸菌DNAを抜け出して溶菌サイクル(上で述べたもの)を始めます。なんだか、とっても賢い仕組みですよね…。

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パブリックドメイン

 

この溶原サイクルの話、ヒトに関係のない話ではありません。

食中毒を引き起こす腸管出血性大腸菌O157:H2株を知っていますか?

ヒトの消化管には常在性大腸菌がいますが、O157:H2株は実は常在性大腸菌がプロファージを持った姿なのです。

このプロファージ部分にベロ毒素(リボソームのタンパク質合成を阻害する毒素タンパク質)の遺伝子が含まれるので、プロファージを持つO157:H2株の大腸菌は食中毒を引き起こします。  

 

 

✿ウイルスはどうやって見つかったのか

ウイルスが見つかったきっかけは、タバコモザイク病でした。

タバコモザイク病は、タバコの葉が斑状またはモザイク状に変色して生育が停止する植物の病気です。

 

1883年、発病した葉から擦り取った汁液を健全なタバコの葉になすりつけると、病気が伝染することが確認されました。

ここから、汁液中に非常に小さな細菌がいて、感染を引き起こしたと考えられました。

しかし、その後の実験で、感染したタバコの汁液を細菌除去フィルターで濾過してからの汁液も、感染させる能力があることがわかりました。

これはすなわち、細菌が原因ではないということですよね。

 

実験者は、感染を引き起こす細菌がフィルターを通り抜けるほど小さいか、細菌が産生する毒素がフィルターを通過し病気を引き起こしていると考えました。

これを検証するために実際に行われた検証実験は以下の通りです。

なぜこういう実験をするのか、どういう考察ができるのかを考えてみると楽しい。

 

【実験手順】

① タバコモザイク病にかかったタバコから汁液を採取する

② 細菌除去フィルターを用いて汁液を濾過する

③ 濾過した汁液を正常なタバコの葉に塗りつける

④ 正常だったタバコがタバコモザイク病を発病する

⑤ ④のタバコモザイク病にかかったタバコから汁液を採取する

⑥ ②、③を行う

【結果】

・⑤の汁液も他のタバコを発病させる感染源としてはたらき、その感染力は初代タバコと同程度であった。

・実験を何周分行っても、感染力は維持された。

 

まず、細菌除去フィルターを濾過したことから、この感染は細菌によるものではないと考えられます。

また、タバコの株から株へと何世代も継代しても病原性が薄まらないということは、この感染を引き起こす病原体はタバコの中で「複製」すると考えられます

この時点で毒素という単純な化学物質は候補から外れます。

 

ということで、「細菌でも毒素でもなく、しかし増殖できる非常に小さな病原体」がタバコモザイク病を引き起こすことがわかりました。

更にその後、この病原体は栄養培地や試験管、ペトリ皿では増えないこと-つまり細胞構造がなければ増殖しないことも判明し、最終的には1935年タバコモザイクウイルス結晶化に成功したことでウイルスは正式に「発見」されました。

エレガントな実験でしたね!

 

✿ウイルスはどこから来たのか

ウイルスは、地球上のすべての形態の生物に対して、それぞれに感染するウイルスが見出されています。

細菌や動物・植物だけでなく、古細菌、菌類、藻類などにも感染するウイルスが見つかっています。

ウイルスの増殖は細胞に依存することから、細胞出現以前の生命体の子孫がウイルスであるとは考えられません。

ウイルスは、ある細胞から別の細胞へと、傷ついた細胞表層から移動する裸のDNAまたはRNAの断片から発生したという仮説が現在最も有力です。

他のウイルス祖先候補として、「プラスミド」や「トランスポゾン」も挙げられています。

「プラスミド」は細菌などが持つ本体DNAとは別の小さい環状DNAで、勝手に増殖をし、細胞同士でやり取りも行われます。

「トランスポゾン」はある生物において、DNA内のある場所から別の場所へ勝手に移動するDNA断片です。私たちのDNAにもトランスポゾンが存在します。

 

✿ウイルスよりも単純な感染病原体「ウイロイド」と「プリオン

ウイルスより単純で、驚くべき病原体が存在します。ウイロイドとプリオンです。

ウイロイドはわずか数百塩基の長さの環状RNAのみからなる物質です(キャプシドすらありません)。

ウイロイドはタンパク質の設計図すら持っていないのですが、植物に感染し、植物細胞の中で宿主の酵素を流用して自身の複製を行います。

 

プリオンは感染性のタンパク質です。

ヒツジのスクレイビー、牛の狂牛病、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病とクールーは、全てプリオンが原因です。

プリオンは食品を通じて感染するので、狂牛病に感染した牛を食べた人々は感染する可能性があります。

プリオンは通常の加熱では破壊することも不活性化することもできず、ほとんど壊れないタンパク質です。

 

プリオンはタンパク質ですから、タンパク質は複製など不可能なはずです。

どうやって病気を引き起こすのでしょう?

元々プリオンは、脳細胞に存在するあるタンパク質が異常な折りたたみ構造を持ったものらしく、

プリオンが正常型タンパク質を含む細胞に侵入すると、正常型タンパク質をプリオンへと変換してしまうのだそうです。

プリオンになった分子は集合して凝集体を形成し、他の正常タンパク質もどんどんプリオンに変換します。

大きくなると正常な細胞機能を妨げ、発病、という流れです。脳がスポンジ状になって死んでしまいます。

プリオンへの対抗策はまだ見つかっておらず、事実上治療不可能な病気です。

 

✿ウイルスは進化の原動力?

ヒトのDNA上の約半分は、ウイルスに関係のある配列であると言われ、

私たち生物はウイルスの遺伝子を組み込まれたり、それに対抗したりを繰り返した痕跡をこのDNA上に残しています。

加えてウイルスはある生物から別種生物へ感染する際、移動元の生物の遺伝子を運んで別種生物にその遺伝子をもたせる媒介役としても機能することが知られています。  

そのように別の生物の遺伝子を誰かに分け与えたり(まるでまだ銃を知らなかった日本に銃がもたらされたかのように・・・(?))

ウイルスの遺伝子が入り込んだせいで元々あった遺伝子の配列が崩されて新たな遺伝子の獲得または消去が行われたりとしたことが

今までの生物の進化(勿論今も)を推進してきた力なのではないかという説があるんですよ。

(もっと知りたい人は「破壊する想像者」を読んでください。これ割と面白かった。

破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 

 

 

ウイルスは今では、生物学にもよく用いられていますね。

歴史的に有名なハーシーとチェイスの実験でも使われましたし、

最近は遺伝子を輸送するベクター(運び屋)として用いられることも多いです。

 

個人的に高校で初めて学んだときからウイルスはめっちゃ好き。面白くないですか?

ということで、ちょっと長くなりましたがこれくらいで~