昨年末のことになるんですが、同じ職場で働いているある先生から「青いカーネーション」を頂いたんですよね。
「これ欲しいですか?」って見せられた瞬間に、「わぁぁぁ!?!?!?!『あの』青いカーネーションだ!?!?!?!!!!」って大声で反応してしまいました。
それくらいびっくりしました。
なぜそんなにびっくりしたのかというと、青いカーネーションは遺伝子組換えによって作られた自然界には存在しない色のカーネーションだからです!
これは高校生物を教えている教員にとっては垂涎ものですよ……
青いカーネーションが作られた経緯についても軽く知っていたので、こちらでもちょこっと紹介したいと思います。何はともあれ美しいよね……感動した……。
青いカーネーションは元々、サントリーで「青いバラを作るプロジェクト」があり、その派生として作成されました。
青いバラ作成ストーリーを詳しく知りたい方は、下のリンクから読むことができます。
青いバラも青いカーネーション同様自然界には存在せず、またどんな交配を行っても現れることがありません。
……そもそも青い花ってレアな気がしますよね。私のただの肌感覚なので当てにはならないのですが、普段から生活している時に「青い花」があまり目に入ってこない気がします。
と、思っていたら同様の考えをしている人が日本植物生理学会の「みんなのひろば」で質問してました。
これを読むと、青色素はアントシアニンの中でも、デルフィニジン系のものが担っている場合が多いようです。*1
デルフィニジンは下図で示すような経路で作られます。ついている官能基が違うと、色が変わるのね。詳しく知りたい人はこちらを参照してね。
ですが、デルフィニジン合成酵素遺伝子がなければ、デルフィニジンを作ることができない、と。
てことは、青いバラを作るにも、デルフィニジン合成酵素遺伝子なりなんなりデルフィニジン合成に関わる遺伝子セットを判明させなければならんということですね。
しかも、デルフィニジン合成の系をどこかから見つけてきたとして、その仕組みがバラの細胞でちゃんと機能するのかは分かりません。細胞ごとに使っている遺伝子・酵素、転写調節の系、周囲にある化学物質etc、全部違いますからね……だから入れてみるまで分からない。
中々大変な道のりです。
サントリーはフロリジン社と組んで、共同でデルフィニジン合成に関わる遺伝子群=青色遺伝子の探索を開始しました。
最初にターゲットにしたのは紫のペチュニアです。
サイトでも説明されているように、ペチュニアは青色遺伝子に関する色んな知見が溜まっていたのもあり、ターゲットにされたとのこと。
それら知見を基にペチュニアがもつ3万種の遺伝子候補の中から、青色遺伝子候補を300種まで絞りこんだそうです。凄いですよね。
方法として、最初はペチュニアに候補遺伝子を戻して花の色が変わるかのテストを行っていたそうなのですが、これだと花が咲くまで待たねばならず時間がかかるので、途中から酵母に候補遺伝子を入れて活性をテストする方式に変えたのだそう。
方法を途中から改良して時短をするのは、大隅良典先生のオートファジーの研究でも行われていましたが、やはり大事ですよね……!個人的にはこういう展開は胸アツです。
そんなこんなでやっと青色遺伝子を取得!
バラに入れてみましょうということで採用したのが組織培養とアグロバクテリウムの組合せ。
組織培養は、バラの一部の細胞を持ってきて、オーキシンとサイトカイニンで処理して脱分化させてカルス化させ、それにまたオーキシンとサイトカイニン処理を行うことで再分化させる方法ですね。
こうすることで最初に細胞を持ってきた元個体と同じ遺伝情報を持つ新個体を1から作ることができ、クローンを増やすことができます。
一方アグロバクテリウムは植物の遺伝子組換えによく使用される土壌細菌です。
アグロバクテリウムはTiプラスミドというでっかい環状DNAを持っていて(Ti = Tumor inducing)、その内の一部領域がT-DNA領域(transfer DNA)と呼ばれます。
アグロバクテリウムは通常、植物体に感染すると、自身のT-DNA領域の断片を対象細胞に注入します。するとこのT-DNAは相同組換えによって植物細胞のゲノムに挿入されます。
T-DNA領域にはオーキシンとサイトカイニンを作るための酵素が含まれているため、これを挿入された植物細胞ではオーキシンとサイトカイニンによって腫瘍化が発生します。そうやって本来は瘤を形成させ、アグロバクテリウムにとって都合のよい栄養素を作らせるのです。
しかし、遺伝子組換えを起こしたい時にそういうことをされては厄介なので、T-DNAのオーキシンやサイトカイニン合成遺伝子だの栄養素形成のための遺伝子だのというのを全て削って、T-DNAの相同組換えに必要な領域だけ残し、
取り除いた遺伝子たちの代わりにT-DNA領域中に「導入したい外来遺伝子」を入れておいて、
そのTiプラスミドを持たせたアグロバクテリウムを植物体にふっかけるわけです。
すると、入れたいと思っている外来遺伝子をT-DNAとして植物ゲノム中に挿入することができる、という仕組み。巧みですよね。
ただ、植物ゲノムのどの場所に入るかは割とランダムなので、細胞集団に一度に感染をさせたとしても細胞ごとに違うゲノム領域に挿入されてしまう可能性が高いです。
組織培養とアグロバクテリウムを組み合わせれば、少数細胞で構成されたカルスに対して挿入を行い、
一つの細胞由来で増えた細胞塊を一個体まで育て上げることもできるわけで、
ゲノム中に挿入された部位が同一の細胞たちから一個体を作ることも可能になります。
ということで実際遺伝子導入したバラを一生懸命作ってみたわけですが、花が青くならない……。
そんな折に、このペチュニアから取り出した青色遺伝子を導入して作られたのが、「青いカーネーション」だったのです。カーネーションでは、ペチュニアの青色遺伝子たちがうまく働いてくれたんですね。
(品種によってはパンジーの青色遺伝子が使われているものもあるらしい)
青いカーネーションができた流れはこんな感じです。
ちなみにバラについては、その後色んな青い花の植物の遺伝子を試し、遂にパンジーの青色遺伝子の導入で成功まで漕ぎつけたそうな。
pHの調整だのと色々大変な道のりで、読み応えがあるストーリーなので、是非先ほど紹介したURLを参照してくださいませ。
余談なんですが、青色遺伝子探索の時には「葉では働かず花弁で働く遺伝子」を基準のうちの一つとして行われたようなので、「本当に葉とかには青色が出てないのかな……」と観察もしてみました。
目視のみの確認にはなりますが、茎は緑で、青い色素はちゃんと花弁にのみ発現しているようです。なんならがくもちゃんと緑ですね。
せっかく頂いたので、商品ページになにか面白い情報ないかなと思い、ちょっと検索してみました。
これらサイトを見て初めて、色のバリエーションが6つもあることや、発色をよくするために高地栽培されていることなどを知りました。うーん、面白いなぁ。
6つの色のバリエーションはどうやって作っているんでしょうね?プロモーターが違って発現量が違ったりするのかな。それとも単純に照射UV量で遺伝的には同じものを変化させているのかな。
個人的に一番驚いたのは花言葉があることです。
ムーンダストの花言葉は「永遠の幸福」だそうな。
……うん、ちょっと大げさな気もするけれど、そう言っても差し支えないくらいには綺麗だったよ!!!!!!
明日・明後日は、私が3年間教えた子たちが共通試験に挑みます。
彼らに「永遠の幸福」が齎されますように……!!!!!!!と心から願っています。
ついでに自分も永遠の幸福に見舞われたい。永遠の幸福降ってきてくれ~!!!この記事を読んでくれてる皆にも降ってくれ!!!!!