この学校に来てからこれで3年目になります。
3周目の課題研究の時期がやってきました。
課題研究は毎年悩まされている題材です。毎年何かしらの記事を書いておる。
今年度は、1年目に担当したのと同様1年生の課題研究に携わることになりました。ただし、今回はメイン教員ではなく、補助教員です。
補助教員として1年生の実験実施・準備を助けるのに加え、実験計画の時から生徒間を巡回し質問への対応や指導などを行います。
現在、実験計画が終了し、次に予備実験をするぞという段階なのですが、
例年課題研究のテーマ決めや計画の指導に苦心していたところを、今年度は割とうまく導けたのではないかなと思っています。まぁ、補助教員という気楽な立ち位置だったからというのもあるのかもしれませんが……
ちょっとずつコツが掴めてきたかなと思う所もあるので、今年度の様子を書き留めようと思います。
今年の方針
まず、今年度私が大幅に変更したのは、「グループで計画の議論をしている段階から頭を突っ込んでいく」という所でした。
例年は、あまり計画中の会話に深く突っ込んでいくことはしていませんでした。
というのは、まずは自由に考えてもらった方がいい、生徒間で議論を重ねていって色んなことを考えた方がいい、と思っていたからです。
しかし、実際には生徒間だけで議論していくと、問題点には気づきにくく、現実的な想像もしにくいというのがここ2年見てきた実感としてありました。
生徒任せで議論をさせていて、ここに気づいてほしいなと経験もないことに関して思うのは無謀なのです。
とはいえ、最初から教員が頭を突っ込みまくり、「こういう実験ならうまくいくよ」と何も生徒に考えさせないまま決めるのは良くないわけで、なるべく頭は使ってほしい。
そんなわけで、こういう戦法にすることにしました。
まず最初は、生徒だけで実験計画や発案を行わせます。
この際、例年伝えている注意事項は伝えておきます。注意事項は以下のものです。
- まず教科書は見なくていいし図説からも離れよう
- 題材は手に入れやすいもの、飼育や維持がしやすいもの、成長段階が揃えやすいものにしよう(だって対照実験組むの大変だよ?)
- 検証可能なことを調べる対象にしよう(例えば二酸化炭素濃度の変化は多分検出できない。でもヨウ素でんぷん反応なら検出できる。こんな風に調べたいことは検出できる方法から考えて実現可能性を検討する)
- 自分の身近なもので今まで見てきて不思議だなとか、こうならないのかなとか、そういう「違和感」を感じたことを引っ張り出そう。食品とか、道端の植物とか、眺めていて少しでも気持ちに触ったものがあればそれは良い。もしそういうものがなければ、当たり前だと思っているものが変わったらどうなるのかを調べる対象にしよう。例えばりんごを塩水に切ったらつけるけど、それを変えたらどうなるの?とか。
加えて、
5. どうにも思い浮かばなかったら検証方法はいいので、調べてみたい対象物や現象・キーワードだけ挙げてみよう
という形にします。
これを伝えた上で、グループで議論する時、紙に出た意見をとにかく書き取らせます。
すると、紙に幾つもの実験案(といっても、タイトル―何を調べたい・知りたい―と、軽い検証方法のイメージ)が羅列されてきます。
次に生徒に、出た実験案の中でどれを採用すべきか絞っていく作業をするよう伝えます。
上で述べた注意事項に照らし合わせながら吟味するよう促します。
すると生徒たちの間では、注意事項に沿うかどうか、現実的にできそうかどうか、どうやったら現実に調べられる方法に落とせるか、という思考が発生し、議論が進みます。
でもきっと限度があるし、思いつかない方法があってよいテーマが切られたりします。
そこでいよいよ教員が頭を突っ込む所です。
ここが腕の見せ所でもあるわけですが、各グループの所に赴き、実験案が羅列されている紙を見せて貰いながら、議論が現在どういう状況にあるか?何に詰まっているか?というヒアリングを行います。
多分2,3分でヒアリングも状況把握もできます。
実験案をざっと見て、実現可能か不可能かは教員に判断がつくはずなので、それを素直に生徒に伝えてあげます。
この実験はできると思うよ、この実験は器材がないから難しいかな、と生徒では分からない施設状況や大体のかかりそうな手間・時間・要される手先の器用さ等から判定をして伝えます。
加えて、とても良いテーマや良い実験案が出ている場合は、これはとても良いよと素直に褒めてあげ、より良い実験にできそうなら議論をグループにいる生徒たち全員に対して吹っ掛けることで導いてあげても良いかと思います。
基本は問いかけ、または糸口の提示です。全てを教員が決めると本当に面白い研究案はできませんし、皆同じようなものになってしまいます。
生徒自身が調べたいもの、面白いと思うものを研究させてあげないと課題研究は頓挫します。
生徒の中にあるものを引っ張り出したり刺激したりするような形で、グループと対話するのです。
全然うまくいっていない班だとキーワードや無理難題な実験案ばかりが羅列されていると思います。
そういう場合生徒は放っておいてもつらいだけで頭をフル回転させられるような良い時間にはなりません。
教員が生徒の一員であるかのように振舞いながら、グループを活性化させられると理想的だと思います。
私自身は、面白そうなテーマに繋がりそうなキーワードが上がっているならば、「このキーワードに関してどんな疑問が挙げられるだろうね?」という問いかけから始めました。
例えばこんなことを不思議に思わないか、と具体例を一つ挙げてしまってもいいかもしれません。
最終的には生徒が「自分はこういうことを疑問に思うかも?」とつられてつぶやいてくれれば儲けものです。
それをなるべく採用して、生徒自身の疑問をスタート地点に置いた実験計画を作っていける土台を作ります。
とにかく大事なのは、注意事項の共有(ここは譲れない)、
そして「生徒発」を引き出すことと「生徒発」を深める、良いものにすることです。
一度作ってしまった紙粘土は固まってしまうと直すのが大変ですが、こねている最中なら幾らでも柔軟に変えられるのですよね。そのイメージに近い気がします。
こねている最中の紙粘土みたく、グループで議論中という生徒の頭が活発に動いている、かつ自由な発言が許される最中に頭を突っ込んでいくと、かなり良い方向に流していけるなという風に今回は思いました。
また、議論中に頭を突っ込むことで、自分が知っている過去の事例や色んな研究例から「こういう風に検出ができるよ」「こういう器具を用いるとうまくいくよ」といったちょっとした工夫なんかもシェアしやすいのが良いなと思いました。
例えば「二酸化炭素発生量を調べたい」という実験案で、生徒は大抵気体検知管での検出を計画してきます。
しかし実際はシリンジに液を満たしてシリンジが動く幅を見たり、やひっくり返した水中の試験管にたまる気体量を見たりすれば、もっと簡単に出てきた気体量自体は検出ができます(それが二酸化炭素であるという確約はありませんが…)。
そういうテクい?ことは生徒の経験がないと分かりませんので、積極的にシェアすることが生徒の「へぇ~」「なるほど!」と増やすのかな、とも思いました。
ついでに、そういう情報を提供すると、生徒は割と敏感に反応して「それって今回の場合こういう風に工夫したらもっといい感じに使えませんか?」とか、「その方法ってこのスケールの場合使えるかな、〇〇という点で難しいんじゃないかな、それを解決するには◇◇したらいいんじゃないかな」などと、生徒が勝手に深めていくんですよね。私もそれら気づきや発想を聞いててなるほど!と思う所が沢山あり、勉強になりました。
出てきた実験案にコメントを書いて交流する方法や、班長とのみディスカッションする方法では、このような小さな気づきの交流があまりなく、またグループの皆の頭脳を集約していって作り上げていく感覚がありません。でも生徒が皆でわいわい言い合える状況だと、その場にいる全員のブレインと気づきが要され、それが一つの形に集まってくるのを感じます。これはとても良い傾向だと思います。
とにかく生徒の議論中に頭を突っ込むこと、これがかなり最終的に出てきた案への朱入れ負担を減らし、計画を一から書き直しという悲劇もなくし、かなり良いことが沢山あるなぁと感じました。自分が気を付けることとしては、どこまでを考えさせて、どこからを提供するか、どうやって発展させるか の辺りだと思います。
実際喋っていると生徒は物凄く良い興味の発端やアイデアを持っているけれど生徒間で話している時にはちょっとあまりにもさりげない話題なので出せていなかったりするようです。生徒は大きなテーマじゃないと、パッとしているような見栄えするものじゃないと駄目なんじゃないかと思っちゃうみたいです。気持ちはよくわかりますが、そういうものより小さい疑問の方がいい実験ができたりするんですよね。本質的だったりするし、調べて結果を出しやすいシンプルな系を組みやすかったりするし…
だから教員が議論中に頭を突っ込むのは課題研究でとても大事なのではないかと感じました。
話しながらちょっと思ったこと
生徒は沢山いい疑問を出す能力も研究を考案する能力もあるんですが、
どうしても「課題研究やるよ!テーマを考えよう!」ってなると立派なものや派手なものを考えなきゃだめだ!やらなきゃだめだ!ってなっちゃってるみたいなんですよね。
もっとシンプルで、些細な疑問から入れるといいなと思うんですけど…「良い疑問はシンプルかつ些細なものなんだよ」ということを生徒自身が分かり、そういう方針で色んな意見が出せるようになるにはどうしたらいいのかなぁ、と思いました。
自分が思った一つの解決法は、「一流の研究も素朴な疑問から始まっている」ということを伝えるというか、知ってもらうということです。
大学とか研究所で現在やっている研究は、どうしても専門的な機器が必要なものばかりかもしれないんですけど…
例えば古典的な実験で、素晴らしい着眼点とアイデアでやってるものって沢山ありますよね。
高校生や中学・小学生の自由研究で非常に評価されているものも良い見本かもしれません。
着眼点や疑問点だけなら、現在の大学や研究所でやっている研究も参考になるかもしれません。
とにかく、「皆どれくらいの実験をやっているんだろう?」という指標がないから、立派なことをしなきゃ!になるんじゃないかなぁと思うわけです。
その見本を見せてあげられたら、この認知の違いを正せるかもしれません。
あとはやっぱり自分の引き出しや知識が足りない!!!!!!!!!!!
教員がどれだけこういう研究についてテクニックややり方や事例を知っているかが肝ですよね。
特に学校の設備や高校生が手の届く範囲内でどんなことまでできちゃうのかを知らないと、全然助言ができない。
〇〇を育てる培地はどんな培地?作れる?育てられる?
こういう研究はできないの?
これを調べる試薬は?方法は?
……全然出てこない。めっちゃワンパターン回答になっちゃう。
ネットで調べられる環境を作っておいて、生徒に調べさせてもいいのかもしれませんが、あんまり最初からネットを置いておくと、自分たちが知っている知識をどう使えるかみたいな思考すらなくなっちゃうし、そういう思考をしないと検索も難しいだろうし……
やはり教員がある程度ネタを持っているのが一番良いかなと思うんですが、自分には足りないです。精進必須。
今回の手法がいつでも使えるわけじゃない…
他に思ったこととして、今回はそこそこうまくいったとはいえ、
教員が頭を突っ込んで深い十分な議論をするのにはどうしても時間がかかりますし、中々難しいところがあるのではないかと思いました。
班の数が嵩む分、時間が嵩むし、自分の頭も使われていきます。疲れます。単純に。頭回らなくなっていく。
なので、どうしても限界がありますよね…。
「指導できるグループ数」がどの程度で限界があるかをやっていって把握していく必要があるかもなと思いました。
ちなみに、私は今回、6班分を30分程度で指導しました。1班5分関わっていくイメージでしょうか。5分つきっきりではなく、2巡くらいしてこの時間です(問やきっかけを蒔いて後で確認に回るイメージ)。
だとすると50分で10班?…きつそう。8班くらいしか見れないんじゃないかなぁ……
一緒に議論するというのは理想的な方法ではあるけれども、現実的なものかどうか考えつつ、教員の配置数や担当グループ数を調節する必要があると思います。時間も体力も有限なので。
ということで、3周目の振り返りでした。
ここから予備実験・実験と進むとき、どうやって指導してどうやって発展させられるかが大事!
より完成度が高い課題研究ができるようにお手伝いできるようにしたいね!