あいまいまいんの生物学

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コアセルベートの作出実験

タイトルの通り、先日、本校の理系生物選択者向けに、「コアセルベートの作出実験」を行いました!

私にとっては初めての体験だったこと、加えて、調べてみてもあまり情報がないことから、誰かの参考になれば……と思い報告記事を書き留めたいと思います。

 

 

コアセルベートとは

高校の「生物」では、進化についての学習を行います。

その中で「生命の起源」に関する学習があり、この地球上の最初の生命体はどのように産まれたのか?ということを説明する場面があります。

自然発生説が否定され、フィルヒョーが「細胞は細胞からしか産まれない」と唱えたことから、最初の生命体は「原始細胞」でもあっただろう……

ではその原始細胞はどのように産まれたのだろう……というところで登場するのがオパーリンです。

オパーリンはロシア(ソ連)の生化学研究者で、化学進化説の概念を唱えた人でもあります。原始の海で有機物が生物の力関係なく出来てきて、それが寄り集まって反応したり凝縮したりした結果原始細胞=生命ができたという説です。

オパーリンが原始細胞のモデルとして作って提示したのが「コアセルベート」です。コアセルベートは、コロイド粒子に富む相が小胞を形成して、粒子に乏しい相と分離して溶液中に浮遊するもので、周囲との区別があります。加えて分裂・合体なども見られますし、代謝に似た反応もこのコアセルベート内で起こせるんですね(酵素等を導入すればの話ですが)。

昔はコアセルベート=原始細胞そのものだと思われていたようですが、現在では一応「原始細胞のモデル」と紹介されています。

 

なぜコアセルベート作出実験をしたか

私は今までコアセルベート自体は知っていましたが、自分で作出したことは一切なく、勿論授業でも作出実験を取り入れたことはありませんでした。

ではなぜ今年度急にコアセルベートを作るぜ!となったかというとですね…

非常に優秀な新任の方が本校に赴任してくれたからです!

 

その優秀な新任のH先生のスペックを紹介すると、

  • 人格に優れ優秀
  • 化学の教員なので化学的な説明がバッチリできる(私はできない)
  • 大学での研究内容が「隕石に含まれる有機物」に関すること、特に細胞膜に関することだった=生命の起源に関するバリバリ専門の人

という感じ。

正直H先生と最初に会って「隕石の研究してて~」ということを聞いた瞬間に、何か面白いことができるんじゃないか!?と狙っていました。

で、たまたま私が「生命の起源」に関するオパーリンの説明も含まれた所をやっていた研究授業をH先生が観に来てくださって、

授業後その内容含めてわちゃわちゃ話していたんですね。

そしたらH先生が「新任研修で一個実験授業みたいなの作らないといけないんですよ~どうしようか悩んでて……」みたいなことをポロッと仰るので、

「それなら生物・化学教科横断型授業ということで、生物で扱うオパーリンのコアセルベート作出実験をやって、コアセルベートがなぜできるかの化学的説明をしてからH先生の専門を紹介する……みたいな授業をやったらレア度高い上に面白いのではないか」という話になって、優秀なH先生の活躍であれよあれよと実現したのが今回の企画なんです。

本当私ほとんど何もしてない間にH先生が全てを作り上げてくれました。H先生に圧倒的感謝を、この場を借りて申し上げます。

 

コアセルベート作出実験はできるのか?(検討)

というわけで、私とH先生はコアセルベート作出実験やろうぜ!となったのですが、二人とも「どうやったらできるんだ?」という知識がほぼ無の状態でした。

ゼラチンとアラビアゴムの溶液を混ぜるとできる、と教科書にはありましたが、濃度、量の比、混ぜ方のコツetc……そういう情報は一切ありません。

そこでH先生も私もネットで軽く調べてみたのですが、幾つかのページがヒットしたものの、作出方法が割とバラバラ。かつ、画像なども乏しく、細かい注意点が分からないという状態でした。

なので、H先生が調べた上で提案してくれた方法で取り敢えず予備実験を行いました。

 

用意するもの

2%アラビアゴム水溶液

2.5%ゼラチン水溶液

0.2%塩酸

スライドガラス、カバーガラス、顕微鏡、こまごめピペット、試験管

 

方法

ざっくり言うと、アラビアゴムとゼラチンの混合タンパク質溶液に対し、塩酸でpHを調整することで溶解度を低下させ、コアセルベートを作出するという実験になるので、以下のような手順で行います。

  1. アラビアゴム水溶液2mLと、ゼラチン水溶液2mLを試験管で混ぜる。軽く振って混合。
  2. 1の試験管に塩酸を1滴ずつこまごめピペットで加えていく。一滴加えると白く濁るが、最初の頃は降ると濁りが消える。ある程度加えると完全に白濁するので、そこで塩酸追加を止める。
  3. 2で作成した試料を一滴スライドガラスにとり、カバーガラスをかけてから観察する。ここでコアセルベートが見えるはず。

 

結果

方法2の白濁は下の写真のような状態です。写真で左側の試験管が塩酸追加前の状態、右側が白濁した状態になります。

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私たちの予備実験では、大体20滴も塩酸滴下しない内に白濁状態に到達しました。

また、白濁してもしばらく滴下したところで白濁は消えないのですが、そこそこ滴下を続けると今度また透明になっていく現象が見られます(下の写真の右側)。これはアミノ酸の等電点が影響しているようです。

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予備実験ではまず、アラビアゴムとゼラチンの水溶液を混ぜただけの液体を観察してみました。

下の写真のような状態でした。

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ここから一連の観察では、しぼりをしっかり絞った状態で観察を行っています。

この時は、基本的にはゴミ?しか映らず、細胞のような球体構造は見られませんでした。

 

塩酸を加えて白濁したものをとり、観察すると、下の写真のようになります。

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これは倍率が300倍の視野です。

丸い構造が沢山出ているのが分かります。

しかし探すとうにゃうにゃっとした謎の大きな塊も時々見受けられます。上の視野でも真ん中あたりに一つ歪なものが見えます。

また、丸い構造についても、時間が経つとあっという間に溶けるように消えていってしまいます。よくよく見ていると、これはスライドガラスかカバーガラスのせいで伸展しているような気がします。

 

うにゃうにゃの塊も恐らく、スライドガラスにカバーガラスをかけた時にこすり合わされてくっついたコアセルベートなのではないでしょうか。真偽のほどは分かりませんが……。

塩酸を大量に加えて白濁通り越して透明になった時の試料も観察しました。

何か見える気がしますが、丸い構造は基本ないです。
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ということで、まずは上の手法でもコアセルベートが作出できることは分かりました。

しかし溶けていってしまう現象を解決しなければいけません。

H先生の情報によると、「50%グリセリン溶液を加えるとコアセルベートが強化される」というものもありましたが、加えてみたところであまり変化はありませんでした。

そこで一度、カバーガラスをかけない状態=スライドガラスに試料が盛ってある状態で観察をしたところ、かなりの数のコアセルベートが良い状態で見られることが分かりました。

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奥行がある分沢山見えます!ちょっと感動です。

しかし、カバーガラスがない状態で生徒に観察をさせると、高倍率で見たくなって対物レンズが試料に付着…なんていう悲劇が容易に想像されます。

そのため、カバーガラスなしは良くないなと思い、発想を変えてホールスライドガラスを使用してみることにしました。

ホールスライドガラスは凹面があるスライドガラスで、これを用いれば微生物が潰れず観察できるという代物です。

ホールスライドガラスに試料を入れ、カバーガラスをかけたところ、非常に綺麗に見え、コアセルベートも崩壊せず、高倍率観察も可能になることが分かりました。

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これは600倍で観察したところです。かなりたくさんのコアセルベートが見えます。

 

他に検証したことを幾つか列挙しておきます。

  • 「メチレンブルーを加えると見やすくなる」という情報があり、検証しましたが、これはあまりうまくいきませんでした……それよりは、しぼりをちゃんとしぼる方が効果的な気がしました。
  • ゼラチン溶液は温かい方が大きなコアセルベートができました。しかし、冷たい作り置きのものでも、作出・観察は可能です。
  • コアセルベートの合体・分裂については、スライドガラスに盛った状態で流れを作ると活発に観察することができました。しかし、プレパラート状態=静的な状態にすると、見られない気がしました。もしかしたらしているのかもしれませんが……

 

そんなわけで、私たちの検証をまとめた結果、以下のプロトコールに落ち着きました。

最終版:用意するもの(各班)

2%アラビアゴム水溶液 2mL(試験管に入れておく)

2.5%ゼラチン水溶液 2mL(試験管に入れておく)

0.2%塩酸 適量(エッペンチューブに入れておく)

ホールスライドガラス2枚、カバーガラス2枚、顕微鏡、こまごめピペット2本(1本は試料をとる用、もう一本は塩酸を滴下する用)

 

最終版:方法

  1. 試験管に入っているアラビアゴムとゼラチンの水溶液をどちらか一方の試験管に統合し、軽く振って混ぜる。
  2. 1の試料を一滴ホールスライドガラスにとっておき、プレパラートを作成する(比較用)
  3. 1の試験管に塩酸をこまごめピペットで一滴ずつ滴下し、その都度振って白濁が消えなくなる&最も濃くなるまで行う。
  4. 最も白濁した試料を一滴ホールスライドガラスにとり、プレパラートを作成する。
  5. 顕微鏡で低倍率から観察(しぼりを絞る!)、コアセルベートのスケッチを行う。

この作業自体は作成・観察まで含め大体20分程度でできてしまいます。

説明も合わせて30分程度見積もれば十分かと思います。

 

注意点としては、こまごめピペットの使い分けと、塩酸の取り扱いくらいでしょうか。

あとは、生徒がコアセルベートを見ても、「どれがコアセルベート?」となるので、写真で提示して「こういうのが見えたら正解だよ~これがコアセルベートだよ~」と生徒に伝えるとスムーズです。

 

実際の授業の流れ

実際の授業では、H先生がPowerPointでスライドを作成してくれ、同時に授業の流れも作ってくれました。

  1. 上のコアセルベート作出実験を行う
  2. Q&Aに取り組ませ、「コアセルベートはなぜできるのか?」「細胞の膜を作り出す物質に必要な性質は何か?」「原始細胞の膜は何でできていたと考えられているか?」「隕石説が支持される根拠は何があるか?」などを考えさせる。
  3. Q&Aに対する答えを説明しつつ、理解を深めさせた後、H先生が研究してきたことについて仮説・方法・結果などを提示しつつ紹介する。

という流れになりました。

1は上でも述べたようにとても簡単なので、どの学校でも実践可能だと思います。実際実験を行った際も、ほとんどの生徒が難なく見ることができました。ただ、観察対象として気泡を間違えて見ている生徒もいましたが……

2の過程が化学の先生によって説明して貰えたことで、生徒からすると生物学の観点だけの説明よりも印象強く残ったのではないかと思いますし、

加えてH先生の研究が非常に興味深いものだったので、生徒はかなり興味津々で聞いていたなと思います。

私一人では1~3までを全く同じようにやることはできませんが、例えば3の内容を講演会で聞いた話やニュースで見た話などに変えたら他校でも実践可能なのではないかという印象です。

H先生のご尽力のおかげで、非常に素敵な授業を自分も体験することができました!改めてH先生ありがとうございました。