あいまいまいんの生物学

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高校生物を語る会を振り返る

11/18に、Twitterのスペース機能を用いて「高校生物を語る会」という企画をしました!

スピーカーとして3人の方に参加していただき、私含めて4人でわいわい楽しくお喋りさせていただきました。

好きな分野や好きな部分について語り合える・わかり合えるという良さもあったのですが、思った以上に「発見」も沢山ある会でした。やっぱり人と話すと自分が見えていなかったものが見えてきますね!

今回の記事では、その時出た話や感じたことを少し書き留めておきたいと思います。

 

 

五感で感じる

自分が高校の時にどういう授業や分野が印象的だったか?という話をしているとき、

「おもしろかった」「記憶に残ってる」という理由でよく出てきたのが五感で感じる授業でした。

五感で対象物そのものを感じる授業は、やっぱり残りやすいものなのだなぁと改めて感じさせられました。

例えば食べること。ヘンテコなものを口に入れる勇気や、その時味を感じるというこは記憶にとってはプラスに働きますよね。授業中に「食べる」という背徳感やわくわくも寄与してるかも?

嗅ぐこと。普段身の回りにあるものですらあまり嗅ぐ機会はないと思うので、へぇ~という驚きがありそう。

触れること。これは解剖などがそうだと思うのですが、ぷにぷにしてる、ぐちゃぐちゃしてる、などの意外性やドキドキ感は学習にとって良さそう。

見ること、聞くことは、普通の教室の授業でも画像や動画で提供できますが、やはり実物に勝るものはないのではないかと思います。立体的なのがいいんだろうか。

 

五感で感じられるということは、現実世界で自分の身体感覚の延長線上にあるということなので、言葉だけで説明されるよりも学習者と対象物・現象の距離がぐっと近くなるのかもしれません。

 

通常授業していると、「五感で感じる」が大事だとはわかっているけれど、準備するのが大変だというのもあって疎かになりがちです。

解剖一つとっても、生ものなので、計画的に取り寄せて、クラスが複数ある場合は腐らないような授業の組み方をして、器具を用意して、全部後で綺麗に洗って……

「食べる」という行為も昔は緩かったですが、今では色々厳しいので、ちょっとむずかしいところもあるでしょう。

とはいえ、コストを下げてできる「五感で感じる」取り組みはいくらでもあるはずで、そういうものを軽く取り入れていくのは大事なのではないかな、と改めて思いました。これはある意味自戒です笑

解剖だって、業者から取り寄せるものじゃなくてもスーパーで手に入るものもある。

嗅ぐ、聞く、触る行為なら、バイオームの章のときに一歩外に出てどんぐり集めを指示したり、葉っぱ集めを指示したりすればかなり実現できる(危険性が生じないよう、注意事項や下調べ、制限はつけなければなりませんが……植物って危険沢山あるからね)。

自分の身の回りの自然やスーパーを活用して簡便に実現できる「五感体験」を、ちょっと立ち止まって考えてみて、取り入れられそうなものは組み込んでもいいのではないかな、と思いました。*1

 

 

分野ごとの格差 ~地域と「当たり前」感覚~

次に面白かったのが、「地域ごとに分野でも納得度が違うらしい」ということが判明したことです。

具体例として挙げられたのが、バイオームの分野の話でした。

 

高校生物で学ぶ「日本のバイオーム」は、本州中部をメインに据えて、いわゆる温帯の照葉樹林を中心にしっかり勉強します。

照葉樹林の優占種や特徴は勿論、「垂直分布」といって本州中部での標高とバイオームの関係性も勉強します。

授業では北海道から沖縄まで一応勉強はしますし、それぞれのバイオームにおける優占種も勉強しますが、紹介される種数が照葉樹林より少ない上に、全国的な試験を見ても出題されるのは照葉樹林についてであることが多いです。ちょっとアンバランスなんですね。

そのせいで、照葉樹林=自分の身の回りの自然、という環境ではない人にとっては、なんの話????というまるで実感を伴わない分野になってしまっているんですね。

 

北海道在住の人にとっては、照葉樹林の優占種として紹介されるほとんどの植物を見たことがない、どんぐりの多様性を感じたことがない、ということで、そうか~!と新鮮な驚きがありました。

逆にシラカンバは沢山あるんですけど……と言われたときには、「当たり前」の感覚が全然違うし、もはや違いすぎて想像すら及ばないことを痛感しました。

自分も自分で、北海道のバイオームのイメージが全然作れてなかったんですよね。

 

で、「寒いところにいそうな植物」をざっくり幾つか挙げてみて、自分の手元で北海道にいるのかいないのかを検索してみることにしました。無知を晒すことになりますが、ここで幾つか紹介します。

 

まずダケカンバ。

ダケカンバは、被子植物門ブナ目カバノキ科カバノキ属の植物です。

ラカンバ(シラカバ)に似てるけど樹皮が白くないやつですね。

wikiによると、シラカンバよりも更に高い高度に生えるらしい。ハイマツとかに交じるそうで、全然知りませんでした。

分布については、

日本、千島列島、サハリン、朝鮮、中国東北部、ロシア沿海州、カムチャツカなどに広く分布する。日本では、北海道〜近畿地方、四国の亜高山帯に生える。

とのこと。シラカンバとともに北海道にある、と聞いていましたが、水平分布垂直分布ともに広く存在しているのがわかります。

 

次にトウヒ。

裸子植物門マツ目マツ科トウヒ属の植物です。

なんと、エゾマツの変種らしい。えー、知らなかった……。

wikiで分布を見るとこう書いてあります。

北海道および北東アジアに広く分布するエゾマツの変種。本州の紀伊半島大台ヶ原から中部山岳地帯を経て福島県の吾妻山までの、海抜1,500-2,500 mにかけての亜高山帯に分布する。

てことは、北海道にもいるし垂直分布にもいる。

 

じゃあエゾマツはどうだ、ということでエゾマツ。

裸子植物門マツ目マツ科トウヒ属ですね。そりゃそう。

分布は、

千島列島、樺太渡島半島以外の北海道、中国東北部、シベリア東部、カムチャツカなどに分布する。

とのことで、ちゃんと北海道にありました。名前蝦夷だしな。なかったら困る。

トドマツとともに北海道の針葉樹林の主要樹種であり、「北海道の木」にも指定されている

という文もあったので、トドマツも北海道にありますね。

 

次、シラビソ。

裸子植物門マツ目マツ科モミ属の植物です。日本の固有種らしい。

こちらの分布はこう。

日本の本州と四国にのみ生育する。

北海道いないじゃん!

オシラビソについても、

中部地方から東北地方の亜高山帯に分布する。分布の西端は白山、南端は南アルプスまたは富士山、北端は青森県八甲田山である。本州中部では海抜1,500-2,500m、東北では1,000m以下から分布する場所もある。

やっぱりない。

シラビソ、オオシラビソは垂直分布で出てくるとはいえ、北海道にもいるんだと勝手に思っていました。いないんだ……

 

え、じゃあ垂直分布で出てくるツガは?

マツ科ツガ属の植物ですね。

日本の本州中部から屋久島にかけてと韓国の鬱陵島に分布する。暖温帯(照葉樹林)から冷温帯(落葉広葉樹林)の中間地帯(中間温帯林)に主に分布する。その範囲では比較的普通に見られる樹木であり、時に優占種となる。モミと混成することがあるが、モミが山腹に生育するのに対して、ツガは尾根筋によく生育する。なお、一部の地域ではトガサワラも混成する。

北海道いないんだ……。

 

この検索を通して一層、「自分が当たり前じゃないバイオームの感覚は得にくい」ということを強く感じました。

と同時に、逆にこういう意外性―同じ日本に住んでいるはずなのに、「身近な植物」が全然違うという驚き―を日本中で共有できたら、面白い学びになりそうだな、とも思いました。

語る会の中では、「身近な植物というタイトルで押し葉標本を作り合って、遠い地域同士で送り合う」というワークの案が出ましたが、かなり面白いのではないかと個人的には思っています。遺伝子交雑等の問題とかはあるけれど、可能ならやってみたい取り組みです。

 

他にも面白かった「地域によって身近な感覚が違う」事例は、キーストーン種のラッコのところ。これは北海道の人には「そうだよね~」となるところらしいですね。

気づいていないだけで、案外生物の教科書には地域格差がかなり潜んでいるのかもしれません。それを掘り起こして面白い形に持っていけたら、教育的にも良いと思うのだけれど……そういう格差に今まで気づかなかったので、今回の会は私にとって本当に驚きでした。

 

私が感じる「分子の面白さ」にはどうやってつなげたらいいのだろう

会を通して一つ思ったのは、自分が好きな分野である「遺伝子」とか「セントラルドグマ」とかの所謂目に見えない分子の魅力というか、

カニカル故に面白い、みたいなところをどうやって伝えたらいいのかな、というところでした。

会において自分が好きなところを語ったんですが、なんだかうまく伝えられなかった気がするんですよね……。

こう、もっと「だよねー!!!!」みたいに盛り上がると思っていたが、そんなことはなかった笑

 

高校生物学は色んなスケールの面白さ、色んな毛色の違う面白さが内包されているところに一つ良さがあると個人的には思っています。

分子が苦手でも器官なら楽しめる、とか、分類は好きだな、とか。誰がやってもどこかで救われるところがある、好きになれるところがある、というところが好きなところのひとつです(本当は全部好きになるべきなのだろうけど、どこから興味の入り口にするかは各々自由でいいと思っている)。

でも、どうしても自分が分子好きであるが故に、「自分が感じている分子の魅力を全部伝えたい!!!!!!!」って思っちゃうんですよね。でも、なかなかうまくやれていない。手応えがない……。

見せ方の工夫や、自分が本当は「どこ」に魅力を感じているのか、みたいなのを掘り下げていけたらなにか編み出せる気もするのですが。そういうのも含めて、次回は語ってみたいですね……!!!!!!

*1:全然関係ないけれど、菌界を食べて制覇しようとすると担子菌類は適当なきのこ、子嚢菌類はブルーチーズで乗り切れるが接合菌類だけがどうにも候補が思い浮かばなかった。接合菌類食べられるのだろうか。