あいまいまいんの生物学

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【本】発酵の科学

先日買ったこの本。 

 読み終えました。

非常に面白い内容でした…!!

 

そもそも、「発酵について学びたいな、できれば科学的な視点から書かれていて、発酵のあらゆるテーマを扱っていて、深い知見が得られるやつ…」という動機で今回発酵についての本を探しました。

最初目星をつけていたのはこの本ではなくて「発酵の技法」という本だったのですが↓

発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

 

わざわざ本屋に足を運んで「発酵の技法」を流し見してみたところ、詳しく書いてはありそうですが筆者の経験談がちょっと煩わしいのと、

Makeの本だけあって「作る」が中心になって構成されていて、

自分がほしい知識がだいぶ散在していそうだなという印象と、そもそも眠くなりそうだなという印象を受けました(◯◯に行った時誰々が~みたいな語り口調があまり得意ではなく興味もないので読み飛ばしがち)。 

そこで「そういえばブルーバックスでちょっと前に新刊が出ていたな」と思い当たり、Amazonの紹介ページなどからこの本を選んだのですが

この本を選んで正解だったなと思えるほどには面白かったです。大満足です。

もう読み進めるたびに「へー!あっなるほどー!!」と思うことの連続でした。

 

個人的になるほど!おもしろい!と思ったところを以下最小限抜粋します。

 

大豆の栄養と微生物の関係

植物は光合成により炭水化物を作ります。

大概の植物は、この炭水化物をデンプンや糖の形で貯め込むか、油などの脂質に変換して種子に貯蔵を行います。

しかしタンパク質に関しては、その合成のために窒素分が必要になり、植物は窒素分を硝酸イオンやアンモニウムイオンの形でしか利用できないことから中々タンパク質を無尽蔵には作れません。

そのため植物からは中々十分量のタンパク質を私達は得られないんです。

しかし大豆は私達も知っているように「畑の肉」と言われるほどタンパク質が豊富です。なぜ大豆はタンパク質をそんなに豊富に持てるのかというと、それは根に共生する根粒菌が窒素固定を行って窒素分を供給してくれるからなのですね!

「大豆はタンパク質が多い」ということと、「大豆は根粒菌をもつ」ということを独立で知っていましたが、言われてその2つが結びつくことに初めて気づきました。

また、大豆が持つタンパク質は固い構造かつ難分解性の繊維質が絡まっているため分解が難しく、煮豆などにしても半分以下しか消化できないそうです。

そこで大豆がもつタンパク質をちゃんと栄養としてとるために

・大豆のタンパク質が固まる前に収穫しちゃう=枝豆

・砕いて繊維質を除いた煮出し汁を固めちゃう=豆腐

・発芽させることで自身でタンパク質を分解しちゃうよう仕向ける=もやし

・細菌に分解を頼む=納豆、味噌、醤油

…と、これらの食べ方が存在すると。なるほど!と感動しました。

 

様々な微生物の性質と使い分け

発酵の話ですから、発酵に用いられる様々な微生物についての話も勿論載っているのですが、今までどのような存在だったかわからなかった微生物についても学ぶことができました。

◯ 麹菌

カビ。生育が早く、有機酸を作るのでpHを下げて雑菌混入も防げる。

作るアミラーゼが生のデンプンを分解する能力に優れている。

日本の麹菌は似た種が作る毒であるアフラトキシンの合成遺伝子を持つが、突然変異のためにアフラトキシン合成能は持っていないことが証明されている。

菌糸が引きちぎられても隔壁孔をオロニン小体が塞ぐことで内容物の流出を防ぐため、撹拌に耐えうる。

明るいところで胞子を作らない性質を持つおかげで醸造過程(明るい)で胞子を作らせずに済む。

塩水をかければ麹菌は死滅するが酵素は残るというスグレモノ!

◯ 乳酸菌と酵母

乳酸菌は糖分から乳酸を作りpHを下げ、雑菌繁殖を防ぐことができる。

酵母菌は糖分からアルコールを生産する。

生育スピードは乳酸菌>酵母菌。

酒造りなどの場では乳酸菌よりも公募を優先して生育させるために様々な工夫をしている。

亜硫酸塩に対して乳酸菌は弱く酵母は強いので、ワイン製造では亜硫酸塩を使う。

ホップ成分に対しても同じなので、ビールではホップを使用。

清酒の場合は乳酸菌よりも酵母菌が低温で生育するため低温に。加えて、実は乳酸への耐性も乳酸菌<酵母菌なので、乳酸菌が乳酸で自滅してから酵母菌は増えることができる。乳酸菌に雑菌を殺させておいて、乳酸菌亡き後で酵母菌が純粋に育つという構図が可能!

酸素についても、乳酸菌は駄目だが酵母菌は耐性あり。この特徴が、糠漬けの時には役に立つ。酵母が空気と接する表面に膜を作って繁茂し、酵母の膜内部を嫌気条件にすることで乳酸菌が内部で活発に活動する。

◯ 納豆菌

納豆菌は高温かつ乾燥しているという通常別の雑菌には繁殖が難しい場所で胞子が耐えられる。だから日干しした稲藁に生き残る。

稲藁に蒸した大豆を包み込むと納豆ができたのはこのような背景のため。

糸引き成分であるγ-ポリグルタミン酸は納豆菌にとっては食料貯蓄らしい。他の微生物には分解しにくい成分として、個体群密度が高くなった時作り出す。そして栄養分が枯渇するとこれを分解して自らの栄養源として使用する。

 

これらの微生物の違いや特徴をうまく使いこなして発酵食品の作成法が編み出されていることが本書には多く紹介されています。巧妙だなぁと感じるものばかりです。

 

パンのひみつ?

小麦粉に水と食塩とパン酵母だけを用いる製法だと、麦本来の味を楽しむフランスパンのような固いパンが作られます。

逆に上記の材料に砂糖と油脂を加えると、ふっくらした食パンや菓子パンができてきます。

この違いはどうして生じるかというと、実は酵母がデンプンを分解することができないところにあります。

前者の場合、酵母は小麦粉に含まれているわずかな糖分を用いて発酵を行うため、膨張が少ないパンになり、結果固くなります。

後者の場合は加えた糖分を用いて酵母は盛んに発酵し、大きく膨張、ふわふわのパンになるのです!!

今まで自分がパンを焼くとき、材料に違いがあるというところは知っていましたが、こういう理由であるということを認識したことはありませんでした。

 

ここでは紹介しきれないほど面白みがぎゅっと詰まっています。

何よりそのロジカルさに圧倒されること間違いなしです!

発酵って凄いな、英知の結晶なんだな、と思うことばかりなので、是非読んでみてください・・・!!