あいまいまいんの生物学

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「潰しが効く」ってなんなんだろう

今日、授業終わりに一人の生徒がやってきた。

一年生は今文理選択の真っ最中で、もうすぐ決定というところ。

 

「先生、非常に悩んでいるので相談にのって欲しいんです。

僕は生物を選ぼうと思っていたのですが、担任の先生にその旨を伝えると

『潰しが効かなくなるので物理にした方が良い』と言われました。

僕はどうするべきだと思いますか?

本当に潰しが効かなくなりますか?」

 

潰しが効く とはなんだろう。

大辞林をひいてみると、こうある。

 

〔金属製品は溶かして別の製品にすることができることから〕

それまでの職業をやめても、他の職業や他の分野の仕事で十分やっていく能力がある。

 

私はこの言葉を軽々しく放つことに非常に違和感を持った。

物理を選んで選べる職業と、生物を選んで選べる職業は大きく異なる。

そもそも選択肢自体が違うよ、という言葉なら分かる。

しかし当の本人のやりたいことによってそれら選択肢が「潰し」になるかどうかはまた別問題だと私は思う。

だって生物系のことをやりたいのに、物理方向の「潰し」があることは、その子にとって本当に「潰し」なんだろうか。

実は潰しが皆無になってしまうんじゃないか。

 

確かに物理の方が「物理」を活かした選択肢は多い。進める道も多い。応用も色々効く面もある。選択肢としては多いので、生物はそれに比べて非常に狭量だ。

「生物」を活かした職業につけるかどうか、というと狭き門だし、職種もまだまだ少ないだろう。工業化が日々進むこの日本では、物理を活かした市場の方が大きい。

だが生物に選択肢がないわけではない。生物を用いた研究職、生体を扱う仕事、微生物の開発・・・これらは物理出身者ではなく生物出身者が重んじられる。だってノウハウがあるからだ。

ついでに言うと物理だろうが生物だろうが、進む分野によって市場の種類は更に変わってしまうし狭さも変わる。物理でソフトをやるか、ロボットをやるか、宇宙をやるか、素粒子をやるか。これらが全て同じなわけがなく、つまりは物理だって進みようによっては所謂「潰しが効かない」ほどに自分の能力を活かせる市場は狭くなる。

 

そしてぶっちゃけ物理や生物を活かそうなんていう考えを捨ててしまえば選択肢はいくらでもある。どっちをやっていたって変わりない。

 

そもそも物理や生物を一生使っていこうという呪いなんて必要ないと私は思う。

その時やりたいことをやれるように、選び取れる状況にしておけばなんら問題はなく、何を学んだっていいんだと思う。

文系就職したら自分のアイデンティティは死ぬのか?そんなわけはない。

今まで物理や生物で学んだ思考の方法や世界の見方は常に自分のものとしてそこに存在する。

 

将来の安定のために「潰し」を考えることは大事だと思うが

ぱっと見の市場の広さ=潰しの可能性 ということにはならないだろうとやはり思うのだ。

 

ついでにいうと、

じゃあ潰しを効かせましょう、広い市場が在る方にしましょう と物理を選んでみたところで

その物理をまさに「潰しが効く」ほどにモノにできるのかは些か疑問である。

そこまで深められるか?

自分の職業として活かせるほど、売りにできるほど、欲されるほどの能力がつくほど鍛錬できるか?

どんな分野に進んだって、生半可につけた知識は無に等しく、役に立たない。

役に立つほど能力をつけた者が選り抜かれ引き抜かれていくこの世界で、彼らに肩を並べられ「潰し」が多い状態にできるだろうか。

自分が得たモノを「潰し」に活かすレベルまで仕上げるのは簡単じゃないぞと私は思う。

そういう覚悟があって潰しを取りに行くなら良い。そんな覚悟があればどんな分野でだって生きていけるだろう。生物だってなんだって、潰しを作れるほどに勉強すればなんの問題も基本はない。

なんなら潰しを自ら創造するために余分に勉強すれば良い。生物学を専攻しつつソフトの勉強をする、それは普通にできることだ。その勉強だけでどれだけ「潰し」が増えることか。所謂「検定や資格をとれば『潰しが効く』」というところか。

 

とにかく

簡単に「潰しが効く方を選びなさい」という表面上のアドバイスだけではちょっと違うぞと私は感じずにはいられない。

「自分がやりたいことがやれなくなることがないように選びなさい」なら分かる。

「そもそも潰せるのか?」すら疑問に思わずその「潰しが効く」というアドバイスに従う人にもちょっと不安を感じる。

自分の中の違和感を整理しきれずに相手にしてしまった生徒に申し訳なさを感じる。

そもそも自分が考えていることがどこまで正しいのかも分からないので偉そうなことも言えない。まさに私が「潰しが効く」と簡単に言い放った人と同じように、考えの浅い発言をしているのかもしれない。曲がった考えを持っているのかもしれない。

本当は潰し云々ではなく生物と物理の市場事情をちゃんと伝えた方が良かったのかもしれない。生物は実際狭いわけで、物理はじゃあどう活かせるのかとか。今の自分が抱くこの「生物を活かした潰しは大学院まで行かなきゃできないな、教育くらいしか道がないな」というちょっぴりとした後悔の念とか自分の道のなさに対する不安とか。

そもそも何を軸にするかの時点でだいぶ考えた方が「潰し」が広がる、なんてアドバイスの方が良かったのかもしれない。私も生物が軸じゃなくて、他に好きだったものづくりや、パソコンで色々プログラミングするのとか、そういうのを軸にしてたらもっと潰しが効いただろうなと今は思う。ちょっとさみしくもある。

 

何を話すべきだったんだろう。

どこまで話すべきだったんだろう。

自分のすべきことがわからなくて、伝えきれなくて、自分情けないな、無力だなって思った。そんな今日。