あいまいまいんの生物学

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遺伝的浮動を授業で体感させる(要改善)

 

はじめに

現在本校の生物の授業では「生態系と生物多様性」の単元をやっています。

そこで、個体群の分断と孤立化がどのように「絶滅」につながるのか、所謂「絶滅の渦」の説明があります。

個体群が小さくなったとき、絶滅につながる主な2つの理由として

①近交弱勢

遺伝的浮動の効果の増大

が挙げられます。

前者は割と説明しやすいのに対し、後者はまだ進化の章もやっていないような生徒にとっては、中々イメージがつきにくい部分があるのではないかと思います。

 

そこで、自分なりに「遺伝的浮動が小集団では大きく働くこと」を実感できるようなアクティビティや、効果的な教え方はないものか…?と思い、うんうんうなっていたのですが、

先日思いつきでちょっとしたプリントを作成し授業で実践してみました。

今回の記事ではそれを紹介し、実際やってみてどうだったかを、誰かの叩き台になれば…&自分もなにかコメントがもらえて改善できれば…と思い、晒したいと思います。

対象学年は3学年、理系の生物選択者です。

 

実践

事前準備

まずはプリントを用意しました。

プリントタイトルは「遺伝的浮動を体感する」とし、

目的として以下の文章を掲載しました。

アクティビティを通して、

①集団の遺伝子頻度には偶然の力が作用すること

②小集団の場合偶然の力が大きく、遺伝子頻度が大きく変化すること

を学びとる。

そして、アクティビティ用の図やガイドの文章、設問を載せました。 

以下の項目で授業の流れとともに説明します。

 

授業

最初に、小集団での遺伝子頻度を観察していきます。

プリントは以下のような図が掲載されています。

f:id:I_my_mine:20200719103113p:plain

ボトルネック効果から繋げてA:a=1:1から始めても良かったのですが、今回はaという突然変異が新たに現れた場合、その変異が集団内でどうなっていくのかを観るアクティビティにしました。

生徒に以下のことを説明します。

  1. 遺伝子頻度とはなにか、遺伝子頻度の計算方法(1代目のイラストを用いながら指導する)
  2. この集団が生活する環境は環境収容力的に3個体しか生息できないとする。
  3. 各生徒に、親の代の個体を自由に交配させ、子を作って次の代を形成させるよう指示する(ただし自家受精はなしとする。交配相手は毎回同じでもいいし、違う組み合わせでもよい。AaからはAとaの配偶子が出るが、どちらをとってもよい)。

そうして2代目を各生徒に形成させ、遺伝子頻度を算出させます。

これを3代目も同様に行います。

そこでまず遺伝子頻度に着目させます。遺伝子頻度はよほどのことがない限り大きい変動があるはずです。遺伝子頻度の変動があったかどうかを記述させます。

次に周りの生徒と見比べさせます。周りの生徒と集団や遺伝子頻度がかなり違う事がわかります。ここから、「プレイヤー(今回だと生徒)」という偶然の決定主によって、集団内の遺伝子頻度や遺伝子の広がり方が変わることがわかります。

 

次は大集団に移ります。

N=100を想定しますが、この場合上のようなアクティビティをやるのはちょっと骨が折れます。

極めて多数の個体からなり、個体によって生存・繁殖力に差がなく、すべての個体が自由に交配をし、集団内で新たな突然変異が生じず、他集団と交流がない場合、ハーディー・ワインベルグの法則を用いた計算が可能になるので、生徒にもそのように説明します(大きい集団では偶然もならされるようなイメージだよ、と…)。

そこで大集団の交配を配偶子レベルで考えていきます。

上のN=3集団に合わせるために、

1代目をAAが99個体、Aaが1個体の集団であると仮定します。

Aの遺伝子頻度は199/200、aの遺伝子頻度は1/200です。

配偶子を作る場合もA:a=199:1の比で出現するので、それをもとに掛け合わせの表を描きます。

f:id:I_my_mine:20200719104722p:plain

この黄色い部分が2代目の子供の構成比を示すので、例えば100個体集団なら個体の数は

AA: 100*199^2/(199^2+2*199+1) 

Aa: …

とかメンドウな話になるわけですが、どうせ100個体に整えようが整えまいが出てくる遺伝子頻度自体は比の状態で考えても変わらないわけなので、それぞれの個体の比から遺伝子頻度を算出します。

個体の比は

AA:Aa:aa=199^2:2*199:1

ですから、2代目における

Aの遺伝子頻度は(2*199^2+2*199)/{2*(199^2+2*199+1)} = 199/200

aの遺伝子頻度は(2*1+2*199)/{2*(199^2+2*199+1)} = 1/200

となって、1代目と2代目では遺伝子頻度が変動しないわけです。

つまり遺伝的浮動が機能したとしても、大集団だとそれがあまり大きい力を持たず、ある遺伝子が急に広がったりなくなったりすることが稀になるよ、と…

そういう結論付けでもっていきました。

ついでにwikiに載ってるような有名なGenetic Driftの画像も見せました。小集団だと全然違う結果になることが、最初生徒たち間で結果が違ったことととつながるはずです。

ja.wikipedia.org

 

やってみた感想

やってみた感想としては、まず前半は割とうまく行った気がします。

生徒間でかなりの差も出ました。2代目から完全にaが消失した子もかなりいました(笑)。

しかし、3はちょっと少なかったかなという気がします(遺伝子頻度にかなり大きく差が出せるかなというのと、時間的にも簡易に済むかなというので採用しましたが…)。6個体とかでやってもよかったかもしれません。

また、上でも言いましたがボトルネック効果から繋げて1:1とかから始めても良かったかも。今回は絶滅の話だったので、余計にボトルネックの方が良かったかもしれませんね…。

 

大きい集団についてはこれで良かったのか?と、自分の中でもちょっと不安があります。

かといって実際にやらせるわけにはいかないし…

あと、初見でいきなりハーディー・ワインベルグの法則に関する計算を生物選択の子たちにやらせるのもちょっと無理がありました。説明を丁寧にすれば改善できるのかもしれませんが、自分の咄嗟の技量では無理がありました。

あんまり理解度が良かったような気がしません。感触がない…

 

あとはなんの工夫ができるかなぁと色々考えてみたのですが、例えばシミュレーションをやってみるのもいいかもしれませんね。生徒にプログラムを作らせて、個体数Nを自由に設定して、遺伝子頻度を記録させていくようなプログラムを組んで、やらせてみるとか…でもそうすると実動のイメージがなくなるから、いきなりやるには難しい気がするけれども。おまけとしては効果大かもしれません。

参考?)

www.biology.kyushu-u.ac.jp

nesseiken.info

note.com

でもシミュレーションだといきなり配偶子だけで扱い始めるので、それをどう説明するかも難しい気がしたりしなかったり…それは説明力の問題かなぁ。

 

 

他にもいいアイデアないかなと思っています…もし良い考えや実践があれば教えていただきたい限りです。(皆どうやってやってるんだろう…)

また、今回自分が教えたことがどこか間違っていれば指摘してもらえたらいいなと思います(なにせ集団遺伝学に疎いので…)