あいまいまいんの生物学

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まいばいお28 チャボのなぞ

先日こんな記事を発見しました。

research-er.jp

 

この記事をざっと読むと、大雑把に

  • チャボは短脚のニワトリである
  • チャボ同士をかけると1/4の確率で孵化しない卵が出る
  • チャボではIHH(インディアンヘッジホッグ)遺伝子が壊れていて短脚であることが分かった(IHHは骨の伸長に関わるものである)
  • チャボではNHEJ1遺伝子が壊れていて1/4確率で孵化しないことが分かった(NHEJ1はDNA損傷修復に関わるものであり、NHEJ1が完全に駄目な雛では発生中のDNA損傷が蓄積されて死んでしまうと考えられる)

という感じの情報が得られます。

最初はへ~と思い、Twitterでもシェアしたりしたのですが、だんだんと疑問が浮かんできて納得いかない部分が出てきました。

結局調べて一応満足行く結論を得られたので、ここで報告してみようかな~と思った次第です。

 

 

何が疑問だったのか

まず、自分がこのプレスリリースを読んだだけで感じた疑問を挙げていきます。

① チャボはIHH遺伝子やNHEJ1遺伝子について、欠損と正常のヘテロ体ということでよろしいか?

「NHEJ1遺伝子が壊れているため、1/4で致死することが説明できる」とあることから、恐らく普段のチャボはヘテロで、欠損ホモになった時だけ死ぬのだろうとまず想像しました。しかしプレスリリースの中にはそれを明言する文章はありません。ヘテロなのかを知りたくなりました。

加えてIHHについても、欠損ホモがチャボなのかヘテロがチャボなのかが知りたいと思いました。どちらでも行けそうな気がしますが、IHHは骨の伸長を司る因子ですので、それが両方とも欠損している場合生きられるのか……?という素朴な疑問が浮かびました。

そんな時、IHHについてフォロワーの方一人から、興味深い情報が得られました。

 「チャボ同士でも1/4で正常な手足の長さのニワトリが生まれる」……ということは、IHH遺伝子についてもチャボはヘテロで持っている可能性が高いと考えることができるでしょう。そうした場合、正常/正常ならWT、正常/異常ならチャボ、という風に考えることができます。そこで思ったのが、「IHH異常ホモはどういう形態を示すのか?」ということでした。

② IHH異常ホモの場合致死ではないのか?これだけで1/4孵化しない話は説明できるのではないか?

IHHについてチャボが本当にヘテロである場合、チャボ同士の交配においては1/4の確率でIHH異常ホモが発生します。

IHHは骨の伸長に関わるものですから、これが破壊されているものがホモであれば、骨の伸長や形成に異常があり、死んでしまうのでは……。

だとすると、じゃあNHEJ1遺伝子の異常の話がなくてもIHH遺伝子の話だけで1/4致死は説明できちゃうんじゃないか?

チャボでNHEJ1遺伝子が異常なのは事実だとして、致死についてNHEJ1遺伝子を無理やり絡める必要はないのでは……?と思ったんですね。

そして出てくる最後の疑問。

③ もしIHH遺伝子の異常ホモ=死、NHEJ1遺伝子の異常ホモ=死という構図ならば、IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子は「完全連鎖」でないと1/4致死の説明にならないのでは?

今回のプレスリリースでは、2つの遺伝子の関係性(独立・不完全連鎖・完全連鎖)については述べられていませんでしたが、もしチャボがIHH遺伝子ヘテロかつNHEJ1遺伝子ヘテロであると規定されるのであれば、この2つの遺伝子は「完全連鎖」の関係じゃないといろんな事象に説明がつかないのではないか?と思い始めました。

IHH遺伝子について正常をI、異常をiとします。

NHEJ1遺伝子については正常をN、異常をnとします。ただし今回、大文字小文字は優性劣性表現ではなく、便宜的に用います(異常ホモを探しやすくしたいだけなので……)。

この場合、チャボはIiNnで表現される遺伝子型の個体になるわけですが。

この2つの遺伝子が独立または不完全連鎖であった場合、チャボが作る配偶子の種類はIN, In, iN, in です。

こうすると、掛け合わせの結果表現型は [IN]:[In]:[iN]:[in]=9:3:3:1 になります。

ここで例えばIHH遺伝子異常ホモ=致死とした場合、4/16が死にます。

NHEJ1遺伝子異常ホモ=致死とした場合も、4/16が死にますね。

どちらか一方の遺伝子のみに致死性を求めるならいいのですが、もし両方ともに致死性が発生する場合、死ぬのは7/16になってしまいます。

チャボ同士の交配で1/4死ぬという話がおかしくなってきます。

「IHH遺伝子異常ホモでは死なない」と仮定したとしても、独立または不完全連鎖を想定すると、チャボはIINnとIiNnの二通り発生することになり、そうすれば自ずとチャボ同士の交配の結果が変わってきてしまいます。これは「1/4死ぬ現象が見受けられる」とか、「1/4野生型が見られる」ということの説明が困難になります。

よって、最もすっきりするのが、IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子が完全連鎖である(しかも異常-異常と正常-正常という乗り方をしている)と考えることだと思われます。

そうすれば、チャボIiNnから出る配偶子の遺伝子型はINとinのみになり、

できる子供の遺伝子型比はIINN:IiNn:iinn=1:2:1、うまく収まるのです。

致死の個体の遺伝子については常にIHH遺伝子についてもNHEJ1遺伝子についても異常ホモになりますから、どっちに死因を求めても良くなります。

 

ということで、この考えたことが合っているのか調べてみよう、と思いました。

 

調査①チャボのIHH遺伝子破壊について

調べ始めてまず分かったことは、「チャボでIHH遺伝子が壊れていることは今回のプレスリリースより前の研究で知られていたらしいぞ?」ということでした。

以下の研究がそれに該当すると思われます。

www.nature.com

2016年に発表されているので、プレスリリースの研究で初めてIHH遺伝子がだめになっていることが分かったのではないようです。てっきり名大の研究で初めて分かったと思い込んでいたのに……。

この論文をざっと見ると、

  • チャボではIHH遺伝子がだめになっている
  • チャボはIHH遺伝子異常と正常のヘテロである
  • IHH遺伝子異常ホモは骨の形成が正常に行われないので死ぬのだろう

ということが述べられています。

やっぱりIHH遺伝子が駄目なだけで、形態だけでなく1/4致死まで説明がつくと思われていたようです。

 

調査②チャボのNHEJ1遺伝子破壊について

次にプレスリリースの元になった論文を参照してみました。

www.nature.com

するとまず、IHH遺伝子異常だけでなぜ1/4致死の説明ができないかについて述べてありました。

なんでも、IHH遺伝子異常ホモ胚は、骨形成が起こる前の段階で既に死んでいることが多いのだそう。なるほど、それなら確かにIHH遺伝子異常のせいで死ぬという話は難しくなります……。

ということで出してきたのが、NHEJ1遺伝子なんですね。

論文の中では、

  • IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子は第7染色体において隣接する
  • IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子がある領域についてがっつり欠損が生じている
  • チャボではIHH遺伝子についてもNHEJ1遺伝子についてもヘテロである

ということが導かれています。やはり、完全連鎖だったのだ!

IHH遺伝子およびNHEJ1遺伝子について異常ホモになった個体は、NHEJ1の機能がないせいで変異が蓄積し、骨形成前に死ぬのだと想像できます。とはいえNHEJ1はダイレクトに胚を殺すようなものでもないので、もしかしたら骨形成に行けるものもあるのかもしれません。骨形成まで行ったとしても、IHH遺伝子が駄目になっているので骨が伸びない。どのみち死んでしまうというのが、結論ぽいですね。

 

ということでまとめ

研究の具体的な中身を全然説明はしませんでしたが、論文を読んでもらえばそれは分かるので今回は私の疑問に関して答えをまとめます。

  • チャボはIHH遺伝子もNHEJ1遺伝子についても正常・異常のヘテロである
  • 2つの遺伝子は完全連鎖である
  • チャボ同士の交配結果1/4が死ぬのはIHH遺伝子もNHEJ1遺伝子も異常ホモ個体だからである
  • (ということは1/4で出る野生型は本当に何もないふつーの野生型なのだろう)

何気なくいつも読んでいるプレスリリースですが、やはり論文を読まないと駄目ですね……。

ていうかこれめっちゃ良い遺伝の問題になりそうだな。作問しようかな。