2025年度大学入試共通テスト 生物 所感
基礎はこっち↓
問題はここ↓
では生物、やっていきましょう!!!!!!!!!!!!!!!!!
- 第1問 PTC感受性とSNP(神経、進化、遺伝子発現)
- 第2問 植物のTD酵素による食害応答(タンパク質、バイオテクノロジー、アロステリック酵素)
- 第3問 2種の草本種の物質生産(生態系、物質生産、若干バイオーム?)
- 第4問 アフリカツメガエルの胚発生
- 第5問
- 完走の感想
第1問 PTC感受性とSNP(神経、進化、遺伝子発現)
PTC試験紙、イマドキの受験生は知っているのだろうか……?昔はPTC受容体の感受性が人によって遺伝子の持ち方で違うといって、PTC試験紙なるものを舐めさせられ、苦いとか苦くないとか言ったもので……(遠い目)。今やすっかり聞かれなくなった実験だけれど、実際どれくらいの現場でやられているのだろう。ちなみにPTC感受性が高いと、ブロッコリーが苦く感じられるんだよ~と言われて、ブロッコリーの今感じてる味が既に苦みを含んでいるのか、それとも苦みのないブロッコリーがあの味なのかどっちなんだろう……と思った記憶。自分がどうだったかは忘れてしまった。興味がある人は下のリンク先等が参考になるのではないか?
まぁそんなわけでPTCの名前が出てきた瞬間に「あ!!!!!!!!!PTC!!!!!!!!!!!!PTCじゃないか!!!!!!!!!!!!!!!」と謎の懐かしき友に会ったような喜びが湧いてくるという。全然問題の本筋と関係ない。問題自体はPTC感受性の多様性は遺伝子Rの多型(アミノ酸配列を変える)によるものでっせという話で、4種類の対立遺伝子(AAI,AAV,AVI,PAV)について考察していくスタイル。いい題材だね。ていうかやっぱり共通テストって進化好きだね。
問1は味情報を神経興奮で伝達するというところから派生して、神経がどう刺激の強さの情報を伝えるかという問題。超基礎的知識だから何も問題なし。
問2はチンパンジーの遺伝子Rが対立遺伝子PAVと同じ配列だというところから、各対立遺伝子に含まれるSNP1~3を生じる突然変異が起こった順序を考察するというもの。これも特に難しくはない。というか、対立遺伝子の名称が全部アミノ酸の並びを表現しているものだとわかると並び替えがとっても簡単でラク。PAV→AAV→AAI→AVIという具合。
問3は遺伝子発現に関する基本的な問題+計算問題。これくらいの処理はぱぱっとできないと研究の時に困るのでやればいいと思う。センス鎖とかアンチセンス鎖とか、mRNAの配列や変化とちゃんと結びついて想像できるようになってないとだめだよ。
問4は対立遺伝子を色んな持ち方でした場合(ほとんどホモの表示だが)のPTC感受性を示した上で、考察するというもの。慌ててしまうと何事!?ってなるかもしれないが落ち着いて考えれば結構ストレートでわかりやすい。し、面白いなと思う。こんな風になってたんだなぁ。学び。
総評
題材も内容もバランスが良くてとてもよいのではないか!広げ方持って行き方、難易度もかなり好きな部類。知識も要るし考察もいる、冷静さもいる、そう、共通テストはこういうのでいいんだよ系(だと私は思う)。ただ進化の話だから恒例の遺伝子頻度計算が出るかなと構えていたのでそこは予想外だった。来年度出すのかな。
第2問 植物のTD酵素による食害応答(タンパク質、バイオテクノロジー、アロステリック酵素)
リード文で「ふーんただのタンパク質の話か~」と思っていたら、後半まさかの鱗翅目に対する植物の食害応答の話!!!!!イラスト的にスズメガ幼虫っぽい?しかも個人的にはめちゃくちゃ面白いシステムだと思う。簡潔にまとめると、
幼虫が植物の葉を食べる→植物からTD酵素というトレオニンを有機酸Bに変える酵素が出る→幼虫の腸内でトレオニンが分解されちゃうので成長が抑制される
TD酵素分解で出る有機酸Bは最終的にイソロイシン合成に使われ、イソロイシンがTD酵素をアロステリック阻害する→幼虫の消化管内ではTD酵素のアロステリック部位が部分消化で失われる→幼虫消化管内ではTD酵素がアロステリック制御されない→めちゃくちゃ威力を発揮する!
という話らしい。すごくない?
多分下の論文が出元っぽいので後でちゃんと読んでみたい。
とりあえず問を見ていこう。
問1はただのタンパク質構造周りの知識問題(多少違うものも混じっているが)。特に問題はなさそうでストレート。とはいえ「生徒はこういう風に間違えて覚える場合もありえるのか……!?」と感じられるものもあり、授業内での説明に活かせそうな。
問2はプラスミド導入と選別のシステムを考えるやつ。とはいえかなりストレートな部類のやつなので問題はなさそう。簡単だし。
問3から食害応答!(1)は仮説を立てて、その上での実験結果を予測して穴埋めするというもの。素直でわかりやすいので埋めやすいと思う。(2)がTD酵素がアロステリック酵素であることの説明とともに、幼虫消化管内でその性質が失われる説明がされ、それらをもとにどの説明文が正しいか選ぶという問題。こちらも捻ったものではないので素直に選べると思うが、用語をちゃんと使い分けて理解できていないと足を引っ掛けられる……かも?
総評
TD酵素の仕組みがすごすぎてすごい(語彙力)。こんな巧みな仕組みが世には存在しているのだなぁ。難易度的にも特に問題はなさそう。ワクワクする良い題材だった。
第3問 2種の草本種の物質生産(生態系、物質生産、若干バイオーム?)
北半球の夏緑樹林の林床の光の強さの季節変化と、2種の草本種の変動についての問題。似たような題材はあれどこのグラフを見るのは初めてな気がする。どこのどの調査結果なんだろう?なんにせよ「新規題材」という感じで、その場でいかにうまく受験生が処理できるかちゃんと測れそうで良さそう。
問1は競争や共存の知識問題。結構ストレートに知識。
問2はグラフを読み取る問題だが、これもかなりストレートな方だと思う。とはいえ前提である「夏緑樹林」という背景と、「林床の光の強さ」が何を示すかが分かってないとどういう状況か理解できないと思うので、知識も動員しつつ考えるいい問題になっていると思う。
問3はクロロフィルとルビスコの量について表を見て考察する問題。穴埋めなので乗っかっていけば普通に答えられる。
問4は個体乾燥重量の季節変化を見て適当な記述を選ぶというもの。今までの問題がちゃんと分かって解けているのであればここでも問題はなさそうだが、一応乾燥重量がどのように決まるかという物質収支のイメージが作れていないと変な間違いをするかもしれない。
総評
受験生にとって初めて見る図やグラフをその場で解読しながら考察していく……というタイプの問題で、落ち着いてやれば全く難易度は高くないが焦ると結構怖い問題だろうなと思う。特に今回は夏緑樹林という背景が分かってないとちんぷんかんぷんだったろうなと思う。生物基礎もちゃんとやっておかないとね。
第4問 アフリカツメガエルの胚発生
全然新規性はなく、知識と問題集の演習をちゃんとやってればさらさらっと解けちゃうだろうなという内容。ここに来てめちゃくちゃ普通の題材なので拍子抜けした。
問1は卵形成に関する適当記述を選ぶもので、DNA量や核相を卵原細胞の変遷と結びつけられているか確認するもの。ただの知識ではあるが、あの辺はちゃんと理解できていない受験生も多いだろうなという印象なので、もっとこういう問題は出していいのかもしれない。
問2は中胚葉誘導の仕組みについての問い。問題文中では名前が出されていないが、βカテニンとノーダルのやつ。ざっと中胚葉誘導の仕組みを2つのタンパク質の関与で説明したうえで、操作1だとこうなった、操作2だとこうなったと言ってそれらの操作の影響を考えさせるというものだ。別に難しい問題ではないのだけれど純粋に各答えを読むのが面倒。
問3は神経誘導の仕組みを調べる実験を見て、2つのタンパク質の働きを考察するもの。リード文をちゃんと読んだ上で実験もちゃんと見れば答えは絞られるとは思うが、実験の最後で「タンパク質Cとタンパク質Dを加えて培養」したときに表皮組織が分化したというやつが若干気持ち悪い。加えたタンパク質の量の比を教えて欲しいし、予定外胚葉域断片で発現しているタンパク質Cの量が顕著なのかも知りたい(1個目の実験からすると顕著な量出ている気がするが)。なんとなくこの量のイメージが掴めないせいで腑に落ちきらない……。
総評
特に新規性はなく、普通の問題だった。最後の問題だけ消化不良。
第5問
A 北海道でのイネ栽培(種子発芽、花芽形成、遺伝、植物発生)
リード文でまずへ~となった。明治初期、北海道では本州から持ち込んだイネからコメが収穫できなくて、その後別の品種である「赤毛」を用いたら収穫できるようになったという。赤毛は発芽~開花までの期間が短いことが原因で北海道で成功したらしく、ここから「ゆめぴりか」とかが産まれてきたらしい。知らなかった。
問1は種子発芽の仕組みの穴埋め。めちゃくちゃ普通の知識。
問2は本州イネと北海道イネのフロリゲンmRNAを色んな明期の長さで育てて測定した結果から、北海道イネがなぜ北海道で成功したか考えるというもの。これは面白い。グラフを見ると、見事に北海道イネは明期の長さ関係なくフロリゲンmRNAがめっちゃできてる。本州イネは明期が長いとフロリゲンmRNAができないから、短日型で、日が短くなってこないと=秋にならないと花芽ができない。一方北海道イネは明期が長くてもフロリゲンmRNAができるから、日が短くなる秋を待たずとも花芽が形成されるというシステムだとわかる。
問3は品種改良にからめ、純系である「ゆめぴりか」の遺伝情報や染色体に関する記述を考える問題。これもよくできている。が、1番は「適当」としていいのか????1番は、「ゆめぴりか」で作られる花粉と胚の遺伝情報が同一である……という文章だ。「遺伝情報が同一である」と言うとき、DNA量については考慮しないのか?花粉は発芽していないときは花粉管核、雄原細胞からなるので花粉全体で見ると相同染色体は2本ずつになる。胚は勿論相同染色体2本ずつもつ。のでこのときは一致していると見てもいいが、発芽した花粉は花粉管管と精細胞2つ、つまり相同染色体は3本ずつになる。この問題文では「花粉」とのみ触れられているが、発芽しているものもしていないものもどちらも花粉としたときに、発芽した花粉の遺伝情報も胚と同一であると言い切っていいのだろうか。それとも慣例的に「花粉」と言った場合には発芽したものは含めないのか。それとも相同染色体の本数に関わらず、すべての塩基配列が一致しているのならば1本だろうが3本だろうが「遺伝情報が同一である」とするのだろうか。「遺伝情報が同一」ってなんだ?????????わからなくなってきた。普通に暮らしていれば例えば一卵性双生児は「遺伝情報が同一」という。無性生殖の場合も「遺伝情報が同一」というだろう。私は今までこれらの表現に対し「塩基配列が一致し、核に含まれる染色体数も一致する(DNA量が一致する)」ものだと勝手に思っていたが、果たして……。わからなくなってきた。もうだめだ。誰か教えて下さい。
B ラッカセイの種子形成(屈性)
題材が面白い!!!!ラッカセイってどうして落下するんだろうと思っていたが、こんなところで学ぶとは……。
問4はラッカセイに対していくつか実験をして、重力屈性に関して調べるというもの。子房でオーキシンを作るのが大事で、子房柄でそのオーキシンの分布が移動させられる感じなんだなぁ。面白い。
問5はラッカセイの茎と子房柄での重力屈性の仕組みを考えるというもの。文章に乗っかって埋めていけばいいだけな上に、前半についてはただの知識なので特に難しさはないが、実際のところラッカセイでは何が起きているのだろうと気になる最後である。ので調べてみた。日本植物生理学会がドンピシャの答えを出していたので引用させて頂く。
そこで、ラッカセイの子房柄ではどうなっているか研究されました。その研究によりますと、ラッカセイの子房柄を地面と平行になるように置いた場合、伸長生長の盛んな部位の下側の組織より上側の組織にIAAが多く分布することで、上側の組織の生長が下側より大きいために下側に向かって屈曲するということです。どの植物の場合も成長の盛んな領域の上側と下側でIAAの偏在がおきることで、生長の大きさに差異が生じ、伸長の大きい側とは反対側に屈曲が起きることは同じです。しかし、植物によってIAAが下側に多く分布するか、上側に多く分布するかの違いがでるのはどのようにしてかは、これから調べる必要のある問題です。
オーキシンが重力に逆らって分布するのは、オーキシンの極性移動(PINの配置とか)について知っていればそこまで受け入れ難い話ではない。ありそうだなという印象だけど、なぜラッカセイの子房柄のピンポイントな場所でだけ移動方向をひっくり返すようにしているのかは非常に興味深い。どうしてそんなことになったのだろう。どんな遺伝子に突然変異が入るとこうなるのか……謎。なんにせよ面白いなぁ。というか、今まで不思議だなって思っていたんだからもっと早く調べたら良かったのに。反省。
総評
題材はどちらも面白いし、内容もいいのだが、やはり問3でもやもやする。
完走の感想
今回の共通テスト生物は比較的穏やかでいい感じだったのではという気がする。めちゃくちゃ難しい問題もなく、知識が全然要らないわけでもなく、文章量が異常に多いわけでもなく、物凄く引っかかる表現があるわけでもなく……「適度」な印象を受ける。題材も(アフリカツメガエルはありきたりだったが)良いものを引っ張ってきているなと思う。個人的にはTD酵素、コメ、ラッカセイが好きだった。PTCも好きだよ。問題の展開も納得感があって良かった。ときめきのある試験だった。
全体を通して見ると、今年は実験デザインがないなという印象を受ける。生物基礎では出ていたし、生物でも毎年頑張ってる気がしたけど……。実験を作り上げるというのも大事な技能のひとつだと思うので、共通テストらしさを発揮するためにも入っていてくれるといいのだが。
それにしても遺伝子頻度計算がなかったのは意外だ。来年度出るんだろうなぁと勝手に思うなど。
ということで、あくまで個人的な意見と感想を書き連ねさせて頂きました。違うことを思っていただいても全然構いません。「私はこう感じた」というだけなので、そこはご了承ください。
追試はどんな問題が出るか今から楽しみです!