この前「髪の毛がストレスのせいで白くなる仕組みを解明!」みたいな記事を見たんですが、
なんでこうしたんだろとかなんでこうなったんだろとか他にどんなことしたんだろとか色々気になって、元の論文をあたってみました。
そしたら中々面白かったので紹介したいと思います。
natureの論文紹介ページはこれ↓
実際のPDFは下から読めるはず↓
- ストレスと白髪はそもそも色々言われていた
- どのストレスが白髪を引き起こす?
- ストレスは毛包のどの細胞をどう変えて白髪にするか?
- ストレス→?→MeSC減少→白髪
- ストレス→?→ノルアドレナリン→MeSC減少→白髪
- ストレス→交感神経→ノルアドレナリン→?→MeSC減少→白髪
- 結論!
ストレスと白髪はそもそも色々言われていた
取り敢えず大前提として、なんかストレスって髪の毛が白くなるのと関係ありそうだよねっていうのは皆経験則で知っていたと思います。
「マリーアントワネットの髪の毛が処刑への恐怖で一夜にして白くなった」という伝説もあるし。
自分も「若白髪は苦労や努力の象徴だ」みたいなことを聞いたことがあります。
でも本当かどうかわからないし、どうしてストレスが白髪を引き起こすのかそのメカニズム知りたくない?ってことで、今回の論文の出番です。
どのストレスが白髪を引き起こす?
まず研究者たちは黒毛のマウス(C57BL/6J)を用意し、どの種類のストレスが髪の毛の白化を引き起こすのかを調べました。
物理的ストレスとか精神的ストレスとか色々あるからね…
今回は拘束によるストレス(restraint stress)、
慢性的で予測不可能なストレス(chronic unpredictable stress)
そして侵害刺激受容誘発刺激によるストレス(カプサイシン類自体:RTXの注射によるストレス)の3種類が検討されています。
というか、そもそも拘束ストレスってなんだよって思って調べてみたら、すごいね。
今回は違うみたいだけど、もっと調べたらコニカルチューブに閉じ込めるのとかもあるらしい。
慢性的で予測不可能なストレス(chronic unpredictable stress)っていうのも謎なのでやった方法を読んでみると、
ストレス因子の2つを毎日適用した。
ストレス因子はケージ傾斜、隔離、湿った寝具、急速な明暗の変化、夜間の発光、拘束、空のケージおよびケージの3回の交換を含んだ。
すべてのストレッサーを連続週にランダムに反復した。
だそうです。地味な嫌がらせをずっとやられる感じか。私なら耐えられん。
とにかくまぁこういうストレス3種類やってみて、
結果、すべてのストレス刺激において無色素の白髪が生じるのが確認されました。
しかし、拘束ストレスと慢性的予測不可能ストレスでは白髪が3~5回の毛周期後に見られたのに対し、
RTXによるストレスは注射後次にくる毛周期で白髪が見られるという急速で強い応答を引き起こしたとのこと。
RTXは通常、侵害刺激受容性感覚ニューロンの活性化によって侵害刺激の感覚を引き起こします。
マウスの痛覚はブプレノルフィン(bup)という薬剤の投与によってオピオイド受容体をブロックすることで妨げることが可能だと知られているので、研究者はRTXをbupと共に注射してみました。
この場合には白髪が発生しないことが分かりました。
ここからRTXが白髪を引き起こすのは痛みのストレスを通じてであることが確かめられました。
でまぁ、こういうことした結果RTXが一番強いからこれを使って今後は実験していこうという感じになったみたいです。
でもきっと楽だったっていうのもあるんだろうな、と個人的に思う…
それにしてもトウガラシのカプサイシンを注射で突っ込まれると思うとゾクゾクしますね。改めて自分は嫌だ。
あとストレスって形が違っても心でも身体でもストレスなんだな~と改めて思った。完全に一緒ではないけど白髪を引き起こすという点では一緒だね。
ストレスは毛包のどの細胞をどう変えて白髪にするか?
次に研究は白髪という現象に迫っていきます。
そもそも毛髪は、毛包という構造で作られます。
毛包のバルジと呼ばれる部分にはメラノサイト幹細胞(MeSC)があり、この幹細胞が移動&分化することでメラノサイトという細胞を作ります。
メラノサイトは毛包の成長期に、光を吸収するメラニン色素を様々な組み合わせで産生することで毛髪に色を与えます。
成長期が終わると毛包は、変性(退行期)、休止(休止期)という段階に進み、この際メラノサイトは死んでしまいます。
しかし、バルジに豊富なMeSCが残っていれば、次の成長期のメラノサイトも供給され、有色の毛髪が生え続けます。
この仕組みを考慮すると、「白髪が発生する」には色んな原因の可能性が考えられることになります。
メラノサイトがメラニン色素を作らないとか、MeSCがメラノサイトに分化しないとか、MeSCが減ってしまうとか…。
そこで、どの可能性が正しいのかを検証するために、MeSCもメラノサイトも両方存在し、かつ別の場所にそれぞれが存在している「成長期」に狙いを定め、RTXの注射を行いました。
すると、メラノサイトの数は不変でしたが、皮膚全体のMeSCの数は著しく減少し、5日間のうちにバルジにあったMeSCは完全になくなってしまいました。
メラノサイトは引き続き色素を作り続け、その間毛髪は有色のまま作られましたが、退行期と休止期に突入しメラノサイトが死んでしまうと、新たなメラノサイトが供給されないせいで次の毛周期では白髪が生えてくるようになりました。
ストレス→?→MeSC減少→白髪
研究はどんどん細かいところを埋めていくように進んでいきます。
次は「ストレスがなぜMeSCの減少を引き起こすか」、その間を埋めていくのです。
そもそもストレスはどんな変化を身体に引き起こすかというと、現時点で幾つか知られていて
などが分かっていました。どれが白髪に繋がる経路か見極めたいですよね。わかる。たしかめよう!
まずは免疫です。
免疫を介して白髪を引き起こすか確かめるため、T細胞とB細胞を欠損している変異体マウスにRTXを注射しました。
すると、このマウスで白髪は引き起こされました。
つまり…ストレスによる白髪に免疫は関係ない。
次に、ストレスで起こるコルチゾールの血中濃度上昇を検討しました。
MeSCにあるコルチゾール受容体を遺伝子操作で欠損させ、そのうえでRTXを注射しました。
するとマウスで白髪は引き起こされました。
加えて、コルチゾールを餌に混ぜてストレスなしにコルチゾール濃度を上げた場合も、やはり毛髪の白化は引き起こされませんでした。
コルチゾールもストレスによる白髪の原因ではなさそう…。
ではノルアドレナリンです。
MeSCの細胞膜上にあるADRB2がノルアドレナリン受容体なので、遺伝子操作によってマウスのMeSCからADRB2を取り除きRTXを注射しました。
すると、白髪は発生しませんでした。
ほかにも、
- MeSCはADRB2を持ったままで、MeSCと同じ場所にいる他の細胞のADRB2を取り除いた場合はRTX注射で白髪は発生する
- ストレスがない状況下でノルアドレナリンだけを局所的に注射すると、野生型マウスでは白髪が発生するが、MeSCにADRB2がないマウスでは白髪が発生しない
などの知見から、MeSCの減少の直接の原因はノルアドレナリンだと分かりました。
ストレス→?→ノルアドレナリン→MeSC減少→白髪
でもこのノルアドレナリンはどこから来たものなんだ?
ということで次はストレスによってどこの供給源から出るノルアドレナリンが白髪の原因になるかの調査です。
研究者はまず副腎のアドレナリンが供給源だと考えました。副腎は有名。
確かめるのも単純明快。副腎を除いたマウスにRTXを注射しました。
結果、白髪は発生したため、副腎は白髪の発生に必要ではないと分かります。
他の候補は交感神経の神経末端から放出されるノルアドレナリンです。
交感神経といえばfight or flight responseですね。
ということで、まず神経活動のレポーターとして機能させられるFOS発現レベルをRTX注射時に調べてみる。すると、顕著なFOS発現レベルの上昇がみられました。
更に、最初の実験でも出てきた痛みブロック用のbupとRTXを同時に注射すると、FOS発現の上昇は見られない…
すなわち交感神経は侵害刺激により誘発されるストレスに応答して活性化していることが分かります。
更に、6-OHDAという交感神経に選択毒性を持つ薬剤で処理したマウスにRTXを注射したところ、白髪は発生しませんでした。
交感神経末端からのノルアドレナリン放出を遮断するグアネチジン29を用いてからのRTX注射も行われましたが、これもやはり白髪が発生しませんでした。
これらのことから、ストレスにより交感神経が活性化し、そこから出るノルアドレナリンがMeSC減少を引き起こすのだと結論づけられます。
ちなみにストレス抜きにして交感神経からのノルアドレナリンだけでも白髪になるのか?ということも検証していて、
そのために研究者はまず人工的にデザインした薬剤のみで活性化する受容体を作って、外部からストレスなど引き起こさないはずの薬剤を入れれば活性化する交感神経というのを作っています。
すると、薬剤投与した時に白髪は発生し、広い範囲でランダムに活性化させた場合でも受容体が活性化している神経によって支配されている毛包のみがMeSC消失が見られる…というところまで突き止めています。
え…つまりそれって、交感神経が活性化すればするほど白髪になるってこと…???ちょっと……交感神経異常な私はどうすれば………(絶望)
ストレス→交感神経→ノルアドレナリン→?→MeSC減少→白髪
だいぶ攻めた気がしますが、まだまだ勢いは止まりません。
次はMeSCの減少についてフォーカスしていきます。
MeSCが減少するといっても、その理由は沢山可能性が考えられます。
アポトーシスやネクローシス、細胞の過剰分化、細胞移動、分裂ストップなどなど…
アポトーシスやネクローシスの検証は、免疫蛍光法を使ったカスパーゼなどの検出によって試みられましたが、RTXやノルアドレナリンを注射した後も活性型カスパーゼはみられませんでした。
また、壊死のために重要なキナーゼを欠いたRipk3変異マウスも、RTXを注射すれば白髪ができます。これは壊死やアポトーシスが関係ないという証拠です。
しかし、MeSCが細胞分裂の間期に入っているマウスにRTXやノルアドレナリンを注射すると、分裂期に入るMeSCが著しく増加し、約50%のMeSCがM期のマーカー陽性になりました。
一方でメラノサイトにおける増殖やアポトーシスなどの変化は観察されなかったため、ストレスはMeSCの過剰増殖を引き起こすことでMeSCの数を減らす可能性が高まります。
そこでより詳細に分化や動きをモニターするために、MeSCであればGFPを発現するような仕組みをマウスに作り、RTXを注射します。
その結果、RTX注射後著しいGFP+細胞の増加(MeSCが増えた)、そして分化後の特徴である樹上分岐の開始、その後下方・真皮・表皮への異所移動とそれに伴うバルジ内のすべてのGFP+細胞の消失という結果になりました。
つまりMeSCの減少は、ストレス後の急増殖と分化と移動のせいで起こっていたのです。
この後間期の消失さえ起こさせなければMeSCは枯渇しないし大丈夫…っていう実験が最後の一押しであるんですが、ちょっと疲れたのでここまでにします…(ごめんなさい)
結論!
ということで、
ストレスは、
- 交感神経の興奮を引き起こす
- 交感神経末端からノルアドレナリンが放出される
- ノルアドレナリンがMeSC上のADRB2に受容される
- MeSCの間期がなくなって過増殖と分化・異所移動が発生する
- MeSCがバルジからいなくなることで新たなメラノサイトの供給が途絶えた結果白髪が発生する
ということが研究から分かったそうです。ね!
案外しっかりつめつめやってった実験だったんだなぁという印象を受けました。
あと執念に近いものを感じるというか…すごいね。こんな綺麗にストーリーがつながったら気持ちいいわよね。
自分は今のところ白髪はないんですが、交感神経が常に優位らしいので、やばいなというお気持ちです。生き抜きたい…
(そういえばストレスで禿げるっていうのも本当なんですかね?本当っぽいけど論文あるんだろうか。)