✿免疫VS抗原、永遠の戦い
私たちの身体には免疫機能というものが備わっており、免疫が多様な抗原に対応して侵入者を排除できる仕組みがあるおかげで私たちは生きていられます。
しかし抗原の方だって免疫に負けてばかりいるわけにもいかない。
…この世には、免疫に対抗する術を手に入れた抗原たちがいるのです。
✿自然免疫のしくみをざっくり
私たちの体内に異物が入り込んだ時、最初にはたらくのが「自然免疫」です。
自然免疫では、好中球、樹状細胞、マクロファージといった細胞が、異物をエンドサイトーシスにより取り込んでリソソームを用いて分解します。
しかしある種の細菌達は、エンドサイトーシスを「利用して」細胞内に侵入する術を手に入れました。
エンドソーム膜を溶かして細胞質に逃げ込んだり、エンドソーム膜の性質を変えてリソソームと結合できなくしたり、
リソソーム中の活性酸素に抵抗性を示すなど、その逃れる方法は細菌種によって様々です。
✿溶血性A群レンサ球菌
1994年に「人食いバクテリア」として有名になった溶血性A群レンサ球菌という細菌がいます。
これは、エンドサイトーシスを使って細胞内への侵入を果たす有名な細菌です。
A群レンサ球菌がエンドソーム内に取り込まれると、溶血毒素ストレプトリジンOというものを分泌し、それによりエンドソーム膜を溶かします。
そして速やかに細胞質へと脱出し、エンドソーム・リソソームによる分解を逃れてしまうのです。恐ろしい…
しかし実際にはA群レンサ球菌が細胞内で増殖した事例は未だ発見されていません。なぜでしょう?
…実は、免疫細胞の方も負けじと奥の手を用意しているのです。
その奥の手とは「オートファジー」。
エンドソームから逃れた細菌がいると、細胞内に突如オートファゴソームの膜構造が現れ細菌類を捕獲してしまいます。
そしてリソソームと融合し、内部の捕獲細菌を消化してしまうのです。
A群レンサ球菌の場合は、細菌を構成する細胞壁の成分が、免疫細胞の細胞質内にあるNalp4, Nalp10という分子で認識されるとオートファジーが引き起こされることが知られています。
つまり免疫細胞は、最初からエンドソーム膜を破られても大丈夫なように多重に対策を練っていたのですね…さすが!
✿免疫と細菌のいたちごっこ
エンドサイトーシスに加えてオートファジーまで用意してあるなら大丈夫!…と思うでしょうが、いやいや、勿論細菌側も黙っていません。
それでも切り抜けてやる!と切り抜ける術を手に入れた細菌が実は存在するのです。
そんな凄技を持つ代表例が赤痢菌です。
赤痢菌は食物や水とともに侵入し、胃酸による殺菌作用を受けながらも大部分が生き残って腸管内に達します。
腸管内に達した赤痢菌は、腸管上皮にあるM細胞という、リンパ球やマクロファージに異物の提示や受け渡しを行う細胞に取り込まれ、これを介してマクロファージにエンドサイトーシスで取り込まれます。
しかし赤痢菌はそのマクロファージのアポトーシスを誘発する能力を持ち、マクロファージを殺してしまうのです。
そして赤痢菌はマクロファージ外に脱出、腸管の基底膜側細胞表面に接着し,Ⅲ型分泌装置というものを使います。
これは注射針のようなもので,細胞内にIpaと呼ばれるタンパク質を注入することで,細胞骨格を構成するアクチンを再構成させるのです。
結果、赤痢菌が付着した周辺で細胞の形が変化し,エンドサイトーシスを促進する構造が形成されます。
エンドサイトーシスによって赤痢菌は細胞内に侵入し、侵入直後は一時エンドソームに捕獲されるも脱出します。
本来ここで赤痢菌が表面に持つVirGタンパク質にオートファジー関連タンパク質であるAtg5が結合してオートファジーの誘導が起こるのですが、
赤痢菌はIcsBというタンパク質を分泌してVirGとAtg5の結合を競争的に阻害してしまうのです。
このように様々な病原菌たちが免疫と戦ったり、はたまた免疫を利用したりという術を身につけています。
私たちは免疫も進化してきましたが、現代では薬や医療技術で病原菌に対抗もしていますね。
生物が「進化」という機能を持つ限り、この戦いに終わりは来ないのかもしれません・・・。
話は変わって
これはちょっとした悩みなのですが、生物の広報誌、ここで載せている「まいばいお」も、一体どんな内容が求められているかだんだん分からなくなってきてちょっと迷走中です。
自分が面白いと思ったことを勿論書いてまとめているんですが、ストックの中からどれを発行しようか、載せようかとなるととっても悩みます。
これは軽すぎか?とか、これはニッチすぎか?とか、深すぎか?とか、とかとか…
うーん、よくないことだ…