今回は、DNA折り紙とはなんぞや?どういう経緯でできたんだ?みたいな話をしようと思います!
DNA折り紙、と聞いて…
折り紙といえば、日本の文化的な遊びの一つで、紙を折って鶴などの形を作るものを想像しますね。
では「DNA折り紙」と言われたら、皆さんは何を想像するでしょう?
DNAを折る遊び…?いえいえ、違います!
入念に計算されたDNAのパーツを混ぜて、あっためてから冷やすと、勝手にDNAが組みあがりある構造ができあがる!これがDNA折り紙です。
「DNAでナノサイズの構造が作れるんじゃない?」
そもそもDNA によって平面構造や立体構造を作成する原理は、1982年、ニューヨーク大学のSeemanによって提唱されました。
Seemanはまず、DNA組換えの時に出現する2本鎖DNAのホリデイジャンクションという構造に注目しました。
ホリデイジャンクションは,下図にあるように四方向に分岐した DNA 構造を持っています。
これを 1 つのユニットとして、これらの末端の 1本鎖 DNA 同士を相補的な塩基対を使って結合させ,2 次元のシート状構造を作れるのではないかと考え、実行しました。
DNAは相補性を使って勝手に特定の場所(相補的な塩基配列を持つ場所)に貼りつく性質があるので、これがいわゆる「のりしろ同士をくっつける行為」になるんですね。
この考え方をもとに、1998 年には、Seemanはまた異なる平面構造を作る挑戦をしました。
今回は、2 本鎖 DNA が 2 本並んだ構造体(ダブルクロスオーバー構造と呼ばれる)を1つのユニットとし、
両末端の4 本の1本鎖 DNA を使いその相補的な塩基対形成によって自己集合させることで,マイクロメーターサイズの2次元DNAナノ構造体を作成しました。
このような小さすぎる構造は、普通の顕微鏡では見えないので、原子間力顕微鏡(AFM)により観察されます。
観察の結果、自己集合したユニットが周期的に正しく並んでいる構造が確認され、
これにより、DNA鎖を1次元のひも状ではなく、横並びに配列することで、2次元の集合体を作成できることを実証しました。
DNA折り紙とは?
ではDNA折り紙はSeemanのものと何が違うかというと、より複雑な構造を作る技術に発展したところです。
2006年にカリフォルニア工科大学のRothemundによって開発されました。
「オリガミ」とはもちろん日本語の折り紙から連想したものであり,あるものから形が組みあがることから 命名されました。
この方法では,長鎖の1本鎖 DNA(環状1 本鎖DNA、7,249 塩基)と,構造にあわせて配列設計した相補鎖 DNA(多くは32塩基でステープル DNA と呼ばれる)を混合し、
85 ℃に熱してから徐々に室温まで冷却させます。
冷却している間に、長鎖DNAのあらかじめ決められていた相補的な場所に短鎖DNAがくっついていきます。
結果、自己集合によって平面構造体ができあがるのです。
折り畳まれた平面構造内では,2 本鎖 DNA は互いに横並びの状態でそれぞれのステープルDNA が架橋して、隣接する2本鎖 DNA を結び付けています。
その架橋の間隔は 32 塩基対でらせん 3 回転分となり、架橋の位置がちょうど二重らせん上で同じ方向を向き、隣接する二重らせんと結合して平面構造を保つようになっています。
また、その構造体の末端は直線的にそろえる以外に階段状にもできるため、三角形や星形、さらにはスマイルマークのような複雑な形状もデザインできてしまいます。
このように、DNA折り紙は100nmサイズの様々な形状の構造物を作ることを可能にした技術なのです。
画像が見たい人はリンク先をチェックしてみてください!
https://www.nature.com/articles/s43586-020-00009-8
https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/dna-origami
加えて特筆すべきは、DNA折り紙には構造体のすべての位置に特定の塩基配列、すなわちアドレス代わりになるものが備わっているという点です。
この特徴によって、ステープルDNAに機能を持つ分子や粒子を結合させて構造体を形成させるなどの自由な構造上の物質配置も可能になっています。
その後、2本鎖DNA同士の幾何学的な結合を平面方向に対して垂直方向を加えることで3次元のDNAオリガミ構造体の構築方法も確立されました。
あわせて、DNAオリガミ設計用のソフトウエアcadnanoが開発されました。
DNA折り紙の応用技術
DNA折り紙を活用する先の一つに、医療行為があります。
なぜならDNA折り紙で作ったナノ構造物は、生体適応性が高く、金属などの他の物質に比べて免疫応答を引き起こしにくいということが知られているからです。
2018年には、DNA折り紙で作ったナノロボットによってがん細胞を破壊するという研究が発表されました。
このナノロボットは、90nm×60nmの長方形平面DNA折り紙を円筒形に丸めて作られています。
加えてこのシートには平均4個のトロンビン分子とDNAアプタマーが搭載されています。
アプタマーとは、特定分子と特異的に結合する核酸やペプチドのことで、今回の場合は細胞の核小体構成物質であるヌクレオリンに対して選択的に結合するDNAです。
ヌクレオリンは、腫瘍内皮細胞の表面に大量に存在しますが正常細胞の表面には見られないという特徴があるため、がん腫瘍を標的とするために利用できるのです。
このナノロボットを血液中に送り込むと、がんに栄養を送っている血管のところに届き、トロンビンで血管内の血液を凝固させることによって腫瘍への血流を止め、死に追いやることができます。
メラノーマを起こさせたマウスに対してナノロボットによる治療を行ったところ、8体中3体で腫瘍の完全な縮小が見られ、生存期間中央値は20.5日から45日へと2倍以上に伸びました。
2019年にはドラッグデリバリーへDNA折り紙を応用した研究も発表されました。
この研究では抗菌性ペプチドであるリゾチームを、アプタマーを搭載したDNA折り紙によるナノ構造で直接標的細菌に輸送し、細菌を破壊することが試みられました。
というのも、現在医療の世界では、「抗生物質耐性」というのが問題になっています。
抗生物質耐性が細菌たちに発生することにより、以前使えていた抗生物質が効かなくなるという現象が生じているのです。
このような問題を解決して細菌を効率的に排除する方法の一つとして今回のDNA折り紙によるリゾチーム輸送は提案されました。本実験ではグラム陽性(枯草菌)およびグラム陰性(大腸菌)標的に対して効果を確認しており、この治療法が細菌増殖を遅らせるのに効果的だという結果が出ています。
普通にリゾチームを撒いてしまうと、色んな有用な菌まで殺されてしまうし、特定の菌だけを狙って減らすことは難しいわけで…
そういう意味でこのデリバリーシステムは非常に有用だと考えられます。
ただ…ぶっちゃけ、なんでこの方法だと「抗生物質耐性」の問題が解決されるのかが自分の中で理解できてないです。この方法でも抗生物質耐性菌、というかこのシステムへの耐性菌が出る可能性はあるんじゃないですかね?たまたまアプタマーが付きにくいタイプの壁を持ってるやつとかいたら生き残って増えるし…そういう問題ではないのだろうか?(知ってたら教えてほしい)
あとちょっと前にも関連で面白いニュースがあったので貼っておきます(もう気力が尽きた)
何はともあれDNA折り紙はおもしろい!まるでいわゆる「折り紙」のような楽しさがあると個人的には思っています。
そもそもナノサイズのロボとか、メカとか、面白くないですか?わくわくしません??