絵を描くって難しいですね。
例えば生物の模写でも、素人がなんとなく形を捉えて描いたつもりが、
「いやこれは歯の形が違う」「歯の数が違う」「○○歯の数が違う」etcと
専門家視点(というかちょっと詳しい人目線?)でいった時に踏まえるべきポイントが踏まえれてなくて、しょんもりすることがあります。ありませんか?
お絵描きという行為は純粋に楽しいからやるわけで、そんな細かい学問なんか知るかいなという気持ちになるかもしれませんが、
学問を真面目にやっている人からすると譲れないところというのがあるもので、そういう人にとっては「その絵でそのものとしてくれるな!」という気持ちになってしまうんですよね。悲しい衝突ですね。
そういう事例の中でも最も多く見かける事例、それがDNAです。
DNAを描いた、DNAをデザインした、そういうものが出るたびに、割と高頻度で「これはDNAじゃない!」議論が紛糾します。なぜ。
勝手な推察ですがDNAは、
- 文理関係なく一般的に知られている物質であり、誰もが安直に描きかねない題材であること
- 「DNAってかんたんな構造だな」とパッと見思われがちで、ざっくりとした印象だけで描かれることが多いこと(らせんだな、線があるな、etc)
- DNAを描けばなんとなくサイエンスっぽい雰囲気を醸せるので世間一般にサイエンス感を訴えるにはもってこいの題材なこと
などの理由で雑に描かれやすく、同時に
- 広ーく生物学系の人であればこだわりがある一品であること(生物学の中での分野や専門生物に関係なく、皆が知識を持っている)=許せない!の声が大きくなっちゃう
- DNAはれっきとした化学物質であり構造がかなり厳密に定義されるものであること
- DNAは割と大事なものなので雑に扱われたくない!という「真のDNA信仰」みたいな気持ちが生物学徒のどこかにあること(?)
などの理由で叩かれやすいのだと思われます。これらは本当に個人的な想像ですが。
雑にまとめるならば、「侮られやすいけど実際は侮るなかれ」なものがDNAなわけです。たぶん。
最近そういう議論を眺めていて、
もうこれ、どこを守れば(踏まえれば)「DNA」として認められるモチーフが描けるのか、生物学の人目線での基準を決めたらいいんじゃない?
という気持ちになってきました。なってきませんか?
だってね、そもそもDNAをちゃんと学んでいない&日常的にも形なんてどうでもいいっていう人にとっては、後からぎゃんぎゃん言われたらつらくなっちゃいますよ。
私だって、例えば軽い気持ちで埴輪とか描いて、「これは埴輪ではないです!許されん!!」とかキレられたらちょっとたまらないな。もう怖くて二度と描けなくなっちゃう。トラウマものですよ。
生物学の人サイドだと、「描く前に一度ちゃんと学んだらいいんだよ!物をしっかり見ながら描けば間違えないよ!」って言う人もいるんですけど、それってかなり難しいことだと思うんですよね。
恐らく、DNAをパッと見てみて、どこが大事か、なにが大事か、どこがDNAをDNAたらしめるクリティカルな構造・特徴かなんて、見抜けないと思うんです。
だからね、決めよう。
なにを守ればDNAが描けるのか決めようよ。
取り敢えず今まで見た批判事由を基に考察しよう。何を守ればいいのかを。
ということでやっていきます。恐らく多くの人が譲れないものをなるべく上位に持ってこようと思います。
※あくまで雑なモチーフとして「DNA」を描く、という体でいきます。
①巻きの向きが左だとウッてなる
これは一番よく見る事例です。DNAを左巻きで描いてあるやつ、ウッてなります。
ちょっとDNAのこと知ってる人だと「DNAでも左巻きverありますよ!」という援護射撃もありますが、中々難しいところです。
まず、DNAは右巻きも左巻きも構造として存在はします。
しますが、それらは条件が異なる環境下での構造であったり、出現頻度が全然違う構造であったりします。ので、「DNA」を最も一般的な条件下の構造として描き表そうとするならば、B-DNA(B型DNA)という右巻きタイプを描くのが無難だというのが個人的な見解です。
ちなみにざっくり一般論を紹介すると、
A-DNA(A型DNA)が脱水した時の構造(右巻き)
Z-DNA(Z型DNA)が幾つかの条件が揃った時だけ部分的に出現する構造(左巻き) になります。
そんなわけで、ここからの話は基本、DNAはDNAでも「B-DNAを描く」ために守ることの話になります。
「いやいやDNAはDNAなんだから左巻きでもよくない!?」とか言われると、じゃあ3重らせんのもの見せてこれDNAですよって言うんですか、4重らせんでもOKですか、みたいな話になってくるので、やめましょう*1
……ちなみに、「右巻き」ってどういう状態かすぐ想像できますか??
上の絵だと、左側の絵が右巻きで右側の絵が左巻きです(この文章酷いな……)。
右巻きと左巻きの見分けが難しい人は、こっそり聞いてください。そしたらこっそり自己流のものを教えます。公に言うとつっこまれるかもしれないので、安直に言えないのだな……。
②2重らせん構造がある方がいい
DNAの見せ方は色々あるので、2重らせんではなくいわゆるはしごみたいな図を描く場合もあるのでなんとも言えないのですが、シンボルとしてDNAを描く場合は2重らせん構造にするべきかなぁと思います。
2本線を描いて、くるくる右巻きにするわけです。
③2本線の間は塩基対を作ってくれ
2本の線がくるくるーっと描いてあるだけだとただのリボンみたいなので、2本の線を橋渡しする横棒が欲しいです(まさにはしごですね、はしごの足場がほしいのです)。
本来のDNAでいう塩基対の部分を表現します。
B-DNAの場合、らせん1回転につき10塩基対が等間隔で配置されています。ので、この対の数も守れると大変よく描けている!ってなる気がします。
ちなみに、A-DNAだと11、Z-DNAだと12という風にらせん1回転あたりの塩基対数は変化します。つまり10という数を守って塩基対を表現するとこれは納得感があるわけです。
④無理してヌクレオチドは描かなくていいよ
デフォルメの場合はヌクレオチドを描き込む必要はない気がします。あくまで2本の「線」を長くらせんで描いて、その間を直線で橋渡しするみたいな。それで多分納得されます。
ヌクレオチドを描き始めると今度はヌクレオチドにも色々こだわりポイントがあるので大変だという気持ちもあります。
⑤塩基対はAとT, GとCで作っていることを色か形で表現できたらすごい
DNAにおいては基本的に4種類の塩基が塩基対形成に関与します(勿論例外もありますが、今は一般的な話なので)。
AはT、GはCと対を作ります。
色で表現するなら、Aを赤、Tを青、Gを黄、Cを緑とか……そういう風に割り振るとして、塩基対を描き込んで行く際に必ず赤-青、黄-緑をセットにして塗っていけばいいかと思われます。
文章でうまく表現ができないのですが、はしごの足場を真ん中ではんぶんこして、
片方は赤、なら片方は必ず青 という風に配色していくのです。これは伝わるんだろうか!
色ではなく形でも表現できます。はしごの足場の真ん中を切る時に、切り口を変えるのです。
Aの切り口が=> ならTの切り口を>= にすれば A=>>=T ではまります、みたいな……。
ちょっとこれ文章だと難しいな。
でも多分、④までのことを守ってたら、塩基対のところはただの黒い線でも許される気がします。
⑥major grooveとminor grooveを意識してらせんを描いてると感動!
A-DNAとB-DNAでは特に顕著な構造として、主溝(major groove)と副溝(minor groove)があります。
らせんを描いた時の溝の幅が違う、ということなんですが……絵で見たほうが早いので、雑な波線を組み合わせただけの雑な説明を作りました。
おわかり頂けましたでしょうか。
こういうことです(文章での表現を諦めた)。
なんで主溝と副溝ができるのかetc、今まで挙げたものについて「なぜ?」と気になる人は調べましょう。今回はあくまで「描き方」の話なので詳しく仕組みは話しません。
ということでまとめます。
DNAを描くとき守るといいところ(優先順位も兼ねる)
- 右巻き
- 二重らせん
- 塩基対を1回転につき10対、等間隔で配置
- ヌクレオチドを描かなくていい
- A-T、G-Cの対を表現
- major grooveとminor grooveを意識する
とはいえ、これが絶対ではなく、1,2,4,6だけ守ってもいい感じにDNAぽくなるよという声もあります!あくまで個人的な意見としてお納めくださいませ。
また、他にも「こういう点を押さえるといいよ!」etc、意見あればコメントでください!
*1:DNAの構造のシンポジウムとかなら有りな気がする……けど一般的なシンボルとしてのDNAに相応しいかという話なので。あとZ-DNAならジグザグさせようよ!って気持ちもある。ちょっとだけ。