あいまいまいんの生物学

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まいばいお7 液体のりで細胞培養

www.u-tokyo.ac.jp

これについてまとめたので紹介しておきます。

ほぼプレスリリースと一緒ですが…

 

 

✿「献血って必要ですか?」

iPS細胞の分野を学習すると、よく出てくる質問が「献血って必要ですか?iPS細胞から造血幹細胞を作って赤血球や血小板を作れば血液は手に入るんじゃないですか?」というものです。

確かにそう思うのに、実際はそうじゃない。なんででしょう?

 

✿細胞培養って案外大変なんです

iPS細胞でも造血幹細胞でも、体外で増殖・維持するためには「細胞培養」という行為をしなければなりません。

この細胞培養が実は曲者です。

細胞を培養するためには細胞ごとに、様々な細かい条件が要されます。

例えば、組織間液を模した液体を培地と呼びますが、この培地も細胞によって必要なものが異なり、使い分けがいります。

 

更に、培地だけでは足らず血清を加えなければなりません。

血清には培地サプリメントだけでは補えない種々の細胞増殖促進物質、細胞障害保護因子、栄養因子などの成分が含まれるためです。

血清にはウシ胎児血清(FBS)を使用されることが多いですが、FBS は高価で、更にはロット差(ボトルごとに微妙に中身が違うこと)があり、

対象細胞に最適な血清は予備実験を通してしか分かりません。

 

✿血清が造血幹細胞の未分化性に影響する

実は造血幹細胞を細胞培養すること自体は以前から取り組まれていました。

しかし、血清成分にある微量な混入物が、造血幹細胞自身を分化する方向へ誘導してしまうという現象が発生し、造血幹細胞を未分化なまま増やすことは非常に困難な状況でした。

更に、血清中に含まれるアルブミンが、細胞培養の間に酸化され、細胞老化を誘導してしまうということも明らかになりました。

 

そこで造血幹細胞を未分化なまま培養するために、混入物の除去と、アルブミンを酸化しないような化学物質で代替することが求められてきました。

この課題に取り組んだのが東京大学です。

 

2019年5月30日、東京大学は「PVAがアルブミンの代替物質として有効である」という研究結果を報告しました。

PVAとは皆さんがよく知る「液体のり」の成分です!

PVAは培養液中で酸化されない安定な物質であり、造血幹細胞の老化も抑制しつつ数ヶ月間にも渡る長期間増幅を維持することを発見しました。

細胞もちゃんと増殖することが明らかになりました。

 

更に、マウスから1つの造血幹細胞を採取し、1ヶ月間培養・増幅させた後、複数の放射線を照射したマウスに移植するという実験が行われました。

通常造血幹細胞に異常をもつ患者に対して造血幹細胞を移植する際、放射線によって骨髄を破壊してから移植を行います。

つまりこの実験は実際の患者にPVAで増やした造血幹細胞が移植できるかの試験ですが、

結果すべてのマウスで移植した増幅造血幹細胞の骨髄再構築が確認できました。

この結果は、ドナーからごくわずかな造血幹細胞を得てその得られた造血幹細胞を増幅することで、複数の患者へ移植可能な造血幹細胞が準備できることを示しています。

 

更に、上で述べたように「造血幹細胞は骨髄破壊的な処置を行わなければ骨髄への生着は難しい」と今まで考えられてきましたが、

「大量の造血幹細胞を個体へ移植すれば骨髄破壊的な処置を用いずに造血幹細胞の生着が可能である」という可能性が最近あがってきていました。

この方法はドナーから得られる造血幹細胞の数に限りがあるため無理だと思われてきましたが、今回のPVAによる培養を使えば大量の造血幹細胞が準備可能です。

そこで研究者は、50個という少ない造血幹細胞から充分量の造血幹細胞をPVA培養によって得る、骨髄破壊的な処置を用いないでマウスに移植を試みました。

結果、回復が確認できたのです!

 

✿命を救うのは医者だけじゃない

今回の研究により、今までより安価で、献血に頼らず造血幹細胞が得られることで、救われる命がどれだけ多いことでしょう…。

私たちは普段、命を救う存在は医者だけだと考えがちですが、私はそうじゃないと思います。

このような研究をして生命活動の原理を探ること、

このような研究を促すような機器やシステムを開発すること、

これらの仕組みを運用するための経済的方法を考えること…

いろんな方法で人は命を救うことができる、救うことに関われるのだと私は思います。

今回の技術についても、実用化には今後多くの時間と様々な役割の人の手間がかかると思いますが

なるべく早期の実用化に期待したいですね!