あいまいまいんの生物学

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中島さんの培養話を聞く会を振り返る 後半

前半はこちら↓

i-my-mine.hatenablog.com

 

後半も内容盛りだくさんですよ!!

 

 

イルカの口内細菌の研究

中島さんがサブテーマとして取り組んでいる研究についてもお話を伺いました。

1つめは温泉の細菌叢について。関東某所の温泉に、どのような細菌が生息しているのかを調査しているそうです。どんな性質を持つ細菌がどれくらい住んでいるのか、私も気になります。

2つめはイルカの口内細菌について。

私は知らなかったのですが、世界ではウシ、ウマ、ブタ、イヌ、鳥など様々な生物の口内・腸内にどんな細菌がいるのか、よく研究されているのだそうです。

上で挙げた動物は身近であったり家畜であったりするので、研究されても当然かなという気がしますが、

動物園のカバやハゲタカといった生物についても、腸内細菌が調べられたりもしているらしいんですね。

 

そんな世界的な調査対象のひとつに「イルカ」があるのですが、

先行研究において、イルカの口内細菌を調べたところ、当時、新門相当の新種が2種も見つかったというのです!

実際、海水、イルカの口内、アシカの口内からそれぞれ細菌をとってきて、出てきた種を比較すると、

勿論それぞれに特有の細菌がいるのですが、イルカの口内はその中でも非常に特徴的な口内細菌叢を持っているらしいことがわかるそうです。

となるとやはり気になるのが、「その特徴的な細菌たちはどこからやってきたの?」「どうしてイルカの口の中だけが特徴的になるの?」ということで……

それはおいおい研究成果が発表されるかもしれません。わくわくしますね!

 

淡水中の細菌の謎

中島さんが博士課程の時に行ったサブテーマには、琵琶湖の細菌の分離培養というものもありました。

海水ではなく淡水だという点で勿論海とは異なりますが、湖は「孤立している」という点でもかなり海とは違いますよね。それぞれの湖の細菌がどれくらい違うのか、はたまた同じなのか、どういうものが培養できるのか……というのは、とても興味深いテーマだな、と思いました。

ある研究者の方なんかは、日本中の湖を巡って細菌を調べあげる……みたいなことをしているそうで、その成果でカタログが作れるくらいのものになっているのだそうです。すごいですね。

 

ちなみに、バイカル湖(すごく深い湖)の深いところでは、なんでも深海と同じような細菌たちが生息しているらしいです。えっ、淡水と海水なのに?なんでそんなことができるんでしょう。不思議です。

 

 

真核生物のロドプシンは大変?

古細菌や細菌の話を今までしてきましたが、真核生物はどうなのでしょうか?

なんと、真核生物の場合はもっとすごい場合があり、ロドプシンを10個も持っているような藻類までいるそうです。凄まじい!

しかも、10個の内訳はプロトンポンプが2個も3個もあったりと、それって必要なの?何がいいの?と一瞬では理解できないような構成です。

中島さん曰く、例えば同じプロトンポンプでも、補助色素やアミノ酸配列の違いによって吸収波長をずらして、

光合成では活用できない波長の光を最大限活用できるようにするとか、そういう可能性があるそうです。

とはいえ、10個も持っていたら解析は大変そうですし、ノックアウトやノックダウンを組み合わせても本来の役割が見出だせるのかはよくわからないですよね……。

なかなかアプローチが難しそうです。

 

途中から佐藤さんにも参加してもらった

途中から、中島さんのお友達である佐藤さんにもスペースに参加していただきました。

twitter.com

佐藤さんは、なんと知る人ぞ知る「TEMPURA」という素晴らしいデータベースを構築していらっしゃる方です!

私はTEMPURA自体は存じていたのですが、まさかそれを作った方とお話できるとは思っていませんでした。超びっくり。

ちなみにTEMPURAというのは、原核生物の生育温度データベースのことです。原核生物について解析したり研究したりする際に、温度のデータがどこにもないなぁと思って作り始めたのだそう。

togodb.org

温度データベースがあれば、培養の時の条件検討で参考にできたり、遺伝子発現や代謝機能の理解のために役に立ったりと、大変便利だと思われます!!!

 

佐藤さんが参加してくださったことで、話はリボソームRNAのことにシフトしました。

というのも、佐藤さんがかつて取り組んだ研究テーマが、好塩古細菌リボソームRNAだったからです。

 

リボソームRNAといえば、前半の記事でも少々触れましたが、細菌と古細菌を見分けるだけでなく、それぞれの種を判別する際に重要になるRNAです。

通常の原核生物においては、16S, 23S, 5Sという3種類のrRNAが存在し、この順で並んだオペロン構造を形成しています(オペロンというのは、一括で転写される単位のことだと思ってください。DNAを見ていくと、16S, 23S, 5S rRNAを作るための塩基配列が順に並んでいて、転写されるときは一気に全てされていく……というイメージです)。

16S rRNAはリボソームの中でも小サブユニットと呼ばれる、だるまの頭のパーツみたいなところを構成するのに必須なRNAです。これはリボソーム運営のためにも特に重要な部位であり、細菌・古細菌ではよく保存されています。逆に言えば、重要が故に変異が入りにくいため、塩基配列を見比べることによって系統解析を行うのに重宝される存在でもあります。

 

そんな16S rRNAについて、なんとある種の好塩古細菌の場合、配列が異なる2種の16S rRNAを有しているというのです!*1

なんのために?

 

その好塩古細菌の生息場所は、名前からもわかるように塩濃度の高い環境です。

塩濃度が高い環境ということは、恐らく周囲に植物が生えにくい……

すると、植物がないことによって、砂漠みたいな環境、すなわち寒暖差が激しい環境になっているのではないか?

だとすると、2種類の16S rRNAは、温度が高い時と低い時で使い分けをされているのではないか?佐藤さんはそう考えたそうです。

そこで、検証を行うために各温度で古細菌を培養し、2種類の16S rRNAの量を調べました。その結果、温度によって2種類のrRNAは発現量が違うことがわかりました。高温で多いrRNAをrRNA①、低温で多いrRNAをrRNA②と便宜上置きましょう。

さらに、変異株を作成してrRNA①のみを持つ株(株①)、rRNA②のみを持つ株(株②)を手に入れて各温度で培養してみると、

低温では、株①も株②も野生株より世代時間が長くなり、

高温では、株①の世代時間が野生株とほぼ同じになることがわかりました。

ということは、低温の増殖にはrRNA①②どちらも重要だけれど、高温の増殖では特にrRNA①が重要な役割を担っていると考えられるわけです。面白い!

 

周囲の温度が違う時にどのような応答が生じてrRNAの発現量の変化が出るのかも気になるところです。

プロモーターの配列のせい?rRNAは一度作られるけれどその分解速度が速かったり保護機構があったりする?などなど、想像が膨らみます。

 

色んなrRNAの持ち方

rRNAの話をしている中で、生物によってrRNAの持ち方にはバリエーションがあるのだということも学びました。

例えば、上で述べた16S, 23S, 5Sのオペロンがちぎれて、一つの要素が遠くに離れて配置されてしまっているものがあったり……(unlinkedと表現されるらしい)

16S rRNAの中に超大なイントロンが入ってしまっているものがあったり。それって大丈夫なの?って感じですが……。

とにかく、典型通りではなく、色んなものがいる!というのがミソですね。モデル生物だけやっていたら、そういうバリエーションにはなかなか触れることはできません。非モデル生物というか、生物全体を見渡す目があると、「それでもいいんだ?」という機構に出会って、面白い発見につながるのかもしれません。

 

unlinkedなrRNAについてもっと知りたい方はこちら↓

qiita.com

 

 

巡り巡って戻ってくる

今回の話を聞くことで、科学的に面白いと思うところは大量にありましたが、

中島さんの研究歴というか、辿った道のりも大変おもしろいなと個人的には思いました。

スタート地点は極限環境の古細菌と細菌、

そこから水産と微生物に行って、

ロドプシンというテーマに沿って様々な発見と研究を繰り返し、

その結果JAMSTECという極限環境と隣の場所に来ている……。スタート地点で夢見た場所とほぼ同じところにたどり着いている、というのがすごいですよね。

 

まとめ

今回の会では、私があまり知識のない古細菌・細菌について、

特に「非モデル生物」を使って研究をする、ということに焦点を当てながら、多くのことを丁寧に教えていただきました。

会を通して古細菌や細菌の解像度が少し高まった(まだまだだとは思いますが)だけでなく、

思った以上に思ったとおりではない、というか、

まさに「モデル生物」ではモデルになりきれず、見つけられないものもある、という、そんな当たり前だけど重要な部分について、実感を伴って知ることができました。このような感覚は、モデル生物を扱った実験しか経験していないとなかなか気づかないというか、思い及ばない領域だったのではないかと思います。

その、モデルを外れていく知識がこんなにも興味深いもので、面白いものだということも知りませんでした。

 

とはいえ、非モデルには苦労もあるわけで、通常思いつくようなアプローチ―RNAiしよう、とか、ノックアウトしよう、とか―があっさり適用できないもどかしさというのも会を通して少し感じることができました。

培養条件ですら検討が必要なのですから、研究手法なんてなおさらですよね。

改めて、この世には掘り残しがまだまだいっぱいあること、でもそれを掘るにはある種のガッツがいることを感じられました。

 

 

この文字起こしでどれだけスペースで感じた面白さや楽しさを伝えられているのかはわかりませんが、少しでもみなさんに伝わるといいなと思います。

*1:後から佐藤さんにお伺いしたところ、実は塩基配列の異なるrRNA遺伝子をもつ原核生物は珍しくないそうです。また、好塩古細菌よりも塩基配列の違いが大きいrRNA遺伝子をもつ微生物も存在するとのこと。本当に色々いるんですね