あいまいまいんの生物学

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「破壊する創造者」

非常に刺激的な内容だったので記録。

 

大筋:

ウイルスは我々の進化の原動力の一種であり、かつ共進化をしてきた存在として捉え直すことができるのではないか。

外のウイルスが感染によって攻撃的な進化のふるいをかけ、その後内在化ウイルスとなってもなお私たちの身体の多くの現象に関わっていると考えられる。

現在の進化論である「総合説」に加え、進化原動力としてウイルス、遺伝子重複、異種交配、エピジェネティクスなどを入れるべき。

 

 

・エリシア・クロロティカはウミウシの一種で、藻類の細胞壁を破って中身を吸い出す。葉緑体だけを体内で選り分け、十分貯まると口が退化し、その後葉緑体がずっと光合成し続ける。葉緑体維持に必要なゲノムは本来元いた細胞の核にあるのだが、エリシア・クロロティかの細胞核にそのゲノムが受け渡されていることが知られており、かつそれにレトロウイルスが関与しているらしい。

このレトロウイルスは無害に見えるが、ウミウシが卵を産み付けた直後急増、身体を攻撃し、病気にして殺す。(攻撃的共生と作者は呼ぶ)

・ウイルス進化は細菌の1000倍の速度、ヒトの10000倍。

・ハンタウイルスの進化の系統樹を書いていくと、哺乳類の進化の木と密接な関係が現れる。原始的な有袋類と真獣類に寄生するウイルスのRNA配列を比較すると、似てるけど同じではない。

・西アフリカでは、マンガベイ属のサルに感染するHIVによく似たSIVというウイルスがあるが、サルは感染しても増殖しても病気にはかからない。共存しているようにも見える。ヒトのようなよく似た異種にこのウイルスが渡され、HIVとして猛威をふるっているように見える。これは、元々の宿主動物によって利益となる(近縁種の死は資源獲得を意味する)。ウイルスの共生関係による侵入者排除機構に見える。

・ウイルスは新たな宿主に感染し、良好な関係を結べない個体を殺す。しかし最終的には生き残った個体と共生し、その個体のDNAの中に持続的に残る。自然選択はこのウイルス-宿主間の関係に作用すると考えられる。

・寄生蜂の生殖細胞に組み込まれているポリドナウイルスは、蜂が卵を産むと完全なかたちのウイルスとなり姿を現す。そして寄生先の幼虫の免疫システムを麻痺させ、ホルモン系を撹乱させ変態を止める。完全に寄生蜂用に作り変える。7400万年前からの共生のようだ。

・ハイイロリスはリスポックルというウイルスをもち、ハイイロリス自体は何の病気も発症しないがアカリスがリスポックルにかかると致死性の病気を引き起こす。ハイイロリスとアカリスの縄張り争いに活用される。

・ヒトゲノムの中に過去に感染したウイルスの名残と思われるHERVが9%, LINE21%, SINE13%も存在する。

・ヒトでは、胎盤で胎児の抗原と母親の血球が接しないよう、内膜直下筋層を構成する細胞は融合し、全体で一枚の薄いプラスチックの膜のようになる(シンチシウム)。私たち脊椎動物には元々そのような合胞体を作る能力はない。レトロウイルスにはある。結局、HERV(ヒト内在性レトロウイルス)でこの合胞体合成に必要なタンパク質のコードが発見された。ウイルスがヒトをヒトたらしめた?

・正常なヒトの様々な組織でヒト内在性レトロウイルスの遺伝子は発現が見られる。

・ファージは「中毒モジュール」というものを持ち、細菌体内に自己のゲノムコピーを置き、元のゲノムをプラスミドに隔離しプロファージの形で存在するという形態をとれる。プロファージからの代謝産物は宿主に致死的毒性を持つ産物と、その毒性産物から宿主を守る産物である。ある種他のウイルスに対する保護機能として働く。例えば前者の毒性に欠陥が出れば、原始的な免疫システムを持つ細菌になることになる。これが自己非自己を生み出した始まりに見える。

・抗レトロウイルス薬(逆転者酵素阻害剤)を加えると、腫瘍細胞の増殖が急激に抑えられ、細胞の正常な分化が促進されることが分かった。

・門の全く違う動物間で異種交配が起きれば、それは大きな進化の原動力となる。

・トランスポゾンも進化の原動力となる。

・遺伝子の数を増やすメカニズムとして、重複は必ず進化の原動力として存在する。

・大野の「2R仮説」によると、脊椎動物の進化の中で四倍体化が2回起きている。1回目は脊索動物→魚類、2回目は魚類→両性類。

・胎生発生時女性のX染色体の二つのうち一つが不活性化され、男性の発現量と等しくなる。エピジェネティックなシステムによる。

・エピジェネティックな変化の蓄積で進化が生じるという考えが産まれている。これはまさにラマルクの「獲得形質の遺伝による進化」という説の復活である。

 

 

この本を通して、「ウイルスは無生物である」という考えではなく、「ウイルスは我々とともに進化を進める共生者である」という考え方、すなわち生物の一員としての考えが生まれてきました。

加えて、進化の推進力として総合説では不足していることを感じました(本のp.463に分かりやすい表がある)。

生物を構成するパーツは、限定して見れば見るほど本質から外れていくような感覚を私は持っています。

「絶対これはない」と弾かれる要因は多分ほとんどなくて、何らかの形で実際には全てが網目状に複雑に絡み合って生物というものは構成されている気がするのです。

この本ではその思いを更に具体的に、かつ確実にしてくれました。

 

やっぱり生物って単純じゃないから面倒で面白いなぁ。