あいまいまいんの生物学

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【質問】暗発芽種子ってなんなんだ?

こんにちは。私は最近、質問が多く舞い込んでくる日々を送っています。

それもそのはず、もうすぐ受験本番ですからね。皆本腰を入れてくる時期ドンピシャです。

 

それはそれとして、私はずっと前から「質問箱」という制度を実施しています。

質問箱についてもまた詳しく記事で書きたいのですが、ざっくり言うと生徒から匿名で質問が届けられる制度です。返答はclassroomを介して行います。

現時点で累計100個以上の質問が放り投げられ、なかなかに活用されている印象です。

 

生徒からの質問は考えさせられるものやハッとさせられるものが多く、私も勉強になります。特に、自分は疑問に思わなかったことを指摘されると、「なるほどそう言われてみればよくわからないな」と深く思考させられ、学び直すきっかけになります。

そんなわけで、普段の直接来る質問も質問箱も非常に役に立っているのですが、「これってシェアしたら他の人も学びになるんじゃない?」「ついでに私には得られなかった知識を指摘して貰えたらめちゃくちゃハッピーなんじゃない??」と思ったので、このブログでも少しずつ質問項目をシェアしていこうかなと思います。

 

 

今日の話題は「暗発芽種子」です。

 

前提:光発芽種子とは

生物の教科書では、光発芽種子について説明がなされています。

一応復習までにざっくり書いていくと、光発芽種子というのは「種子の発芽に光照射を要する種子」のことです。光発芽種子は光以外の条件-例えば水、温度-などが揃っても、光を照射されない限り発芽が起こらないとされています(条件によっては例外もある)。レタス、タバコ、マツヨイグサが代表例です。

教科書では、更に光発芽種子の光発芽メカニズムについても説明がされています。キーとなるのはフィトクロムです。フィトクロムというタンパク質は、赤色光吸収型(Pr)と遠赤色光吸収型(Pfr)があり、Prが赤色光を吸うとPfrに、Pfrが遠赤色光を吸うとPrになるという可逆的な性質を持ちます。光発芽種子はPfrによって発芽促進(発芽に必要なジベレリン合成やアブシシン酸の分解といった反応)、Prによって発芽抑制(抑制というか、発芽プロセスが進まない)という風に、どちらのフィトクロムを機能させるかで発芽を制御しています。ですから、太陽光のような白色光でなくとも、赤色光を照射すればPfrができて発芽し、遠赤色光を当てればPrができて発芽抑制がかかるのです。

なぜこんな仕組みを持つのか?それは植物の光合成と深い関係があります。植物は芽生えた後、種子に蓄えがない場合すぐさま光合成をしていかないと生命を営むことができません。種子の上に植物がいると、光合成に必要な光の色は上の植物に使われてしまい、発芽した種子は死んでしまうことになります。よって種子にとっては、上に植物がいるのか否かを検知できるセンサーが必要になります。

光合成では赤色光と青色光が使われるので、太陽光に含まれる赤色光は葉を通過する際減衰します。一方太陽光に含まれる遠赤色光はかなり透過してきます。つまり、葉を通過せず直接太陽光があたった場合の赤色光/遠赤色光の値よりも、葉を通過した光の赤色光/遠赤色光の値は小さくなるのです。

よって、光発芽種子は太陽光そのままが当たる=上に植物がいない場合は、赤色光たっぷりの光を浴びて発芽し、悠々光合成していけます。一方上に植物がいる場合、光発芽種子に当たる光は赤色光よりもうんと遠赤色光が多いため、Prばかりになって発芽抑制が生じ発芽しません。これで上に植物がいる場合は無駄に発芽しないで済むのです。逆に上の植物が枯れて死んだら、一気に赤色光が増えるので発芽促進され、発芽することができます。

光発芽種子が光発芽種子であることは、非常に有益であることが分かります。

 

本題:暗発芽種子とは

教科書で光発芽種子が扱われる際、一緒に紹介されるのが「暗発芽種子」です。

暗発芽種子は、「光によって発芽が阻害される種子」を指す場合と、「光がなくても発芽する種子」を指す場合があります。教科書がどちらの表記だったかを忘れたのですが…。

具体例として、カボチャ、ケイトウなどが挙げられています。

 

…しかし、教科書ではこれ以上の説明が記載されていません。

「こういうのもいるんだよ~」程度で終わるんですね。

「そういうのもいるんだな~」と思いながら自分では納得していたのですが、生徒にこう質問されたわけです。

「なぜ発芽後光合成はしなければならないはずなのに、光が発芽を抑制してしまうような仕組みを持っているんですか?なにか利点があるんですか?」

…確かに。でも分からぬ。

ということで、ちょっと調べてみましょうとな。

 

 

調べてみて分かったこと

まずはざっくり日本語で検索をかけてみました。

いくつかヒットするね。

https://www.takii.co.jp/flower/bn/pdf/20130145.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/11/1/11_1_2/_pdf

jspp.org

 

取り敢えず上の資料たちを見て分かったことを以下にまとめます。

まず分かったこととして、そもそも暗発芽種子は色んなタイプがあるらしいということ。光発芽種子のように、一筋縄では行かないようです。

①フィトクロムが発芽を強く支配していないタイプ

フィトクロムが支配していないので光量によって発芽が制御されない。よって暗い所でも発芽し、明るい所でも発芽する。エンドウ、インゲンマメ、トウモロコシなど。

栽培植物はどこででも容易に発芽することが求められて品種改良されてきたため、このような性質を持ったと考えられる。

 

②タネが作られる過程でPfrがつくられくるタイプ

光発芽種子などの場合、最初はPrが合成されてくるが、最初からPfrが作られてきているため、他の条件さえ揃えば光の量関係なくPfrによる発芽促進が起こる。これなら暗い所でもPfrがあるので、光発芽種子同様の仕組みで発芽する。トマトなど。

これらの種子の場合は、発芽が起こる際に遠赤色光を照射し続けるとPfrがなくなるせいで発芽が抑制されてしまうことが知られている。

利点は…よくわからない。


③フィトクロムとは異なる種子フィトクロムにより制御されているタイプ

キュウリなど。暗い中でもPfrが合成されるようになっているらしい?これも利点はよくわからない。

 

②と③についてはなぜそんな戦略をわざわざとるのか、納得できる理由を説明しているサイトはありませんでした。②や③の植物にとっては、光以外の要素の方が重要視されているのかもしれません。または、光発芽種子ばかり周りにいたときに、自身が暗発芽種子だと、あまり光がない状態でも一歩先に発芽して先をとることができるから、それがいいのかもしれないですよね…空想ですが。

個人的な考えでは、暗い=土の中という意味ですし、あまり光の有無だけにこだわって発芽条件を決めるのもマイナスな面があるのではないか?とか思ったり。栄養素などに余裕がそこそこあり、光合成をすぐさまする必要性もあまりないような植物なら、「暗くても発芽できる」の方が勝率がいい気がします。

実際の野生の植物を見ても、同一植物体の種子でも異なる光発芽性を示す種子を作るようなものもいるそうです。というのは、単一条件下でのみの発芽にしておくと、ある地域で絶滅しかねないからだそうです。そういう情報も併せて考えていくと、「光発芽種子は有利!」というイメージはやはりおかしいのではないか……

 

Pfrが発芽抑制?

とまぁ、ここまでは良かったんです。上の情報は大体幾つかのページに書いてあって、重複していたので確からしいのかなと思える情報でしたし。

しかしここで大問題が発生します。

「暗発芽種子ではPfrが発芽抑制を担う」という情報が急に出てきたのです。

jspp.org

ここに書いてある情報を引き抜くと、

「乾燥地に生えるような大型植物では、赤色光=Pfrが発芽を抑制している形式の暗発芽種子になっていることが多い。なぜなら乾燥地では水の確保が重要であり、赤色光が当たる=上に何もない=乾燥しやすい場所なので、そこで発芽を抑えられることが役に立つ。」

ということらしいんですね。

説明はかなり納得できるものなのですが(しかも植物生理学会だし)、いかんせん他のサイトに全然この情報が載っていない。Pfrが発芽抑制なんて、本当に事例があるのだろうか…?俄に信じがたい。

気になったので更に調べるべく、英語で検索をかけてみました。すると。

books.google.co.jp

link.springer.com

情報出るね!!!!!!!本当にあるっぽいな。

Springerの方の情報によると、スズメノチャヒキ属のある植物は完璧に暗発芽種子で、赤色光で発芽が抑制されるらしい。そうなんだ。本当にあるんだなぁ。

SEEDSの方は沢山色んなことが書いてあるので種子についてしっかり学びたければ読んでもいいのかもしれない。しかし気力があまりなかったので取り敢えず情報だけ拾ったけれど、やはりPfrによって発芽抑制がかかる事例はあるらしい。そうなのかぁ……

Pfrによって発芽抑制がかかるタイプは、核内にPfrが移行した後に発現制御される遺伝子群が違うのかな。それとももはやPfrが核移行するという所から違って、Prが核移行して遺伝子発現制御をする(光発芽種子のPfr同様?)のだろうか。うーむ、謎。

 

調べたけどよくわからないこと

  • キュウリが持っているという「種子フィトクロム」ってなんだ?
  • カボチャやケイトウはどういうメカニズムで暗発芽種子化しているのか(情報が見つからなかった)

このあたりはうまく調べられず情報が掴めませんでした。もうちょっと調べてみたいな。

ケイトウについては以下の論文に載っているっぽい。でも論文読めない。アクセス権ないから……)

www.cambridge.org

 

加えて、調べている間に「私って光発芽種子についてもあんまりよくわかってなかったのでは…???(発芽条件とか…)」と思い始めたので、そこについてもちゃんと勉強し直したいですね…。

 

ツッコミや情報あればコメントいただけると幸いです。

ではでは。