以前まで書いていた記事の最終報告です!
一応の決着が出たのでご報告させて頂きます。
前回までのあらすじ
私は地方の高校生物教員です。
学校にて、4時間くらい連続で使ってPCRと電気泳動を体験させる実験を組まないといけなくなりました。さぁ大変!
どうしたものかと調べていた所、第一学習社の教科書に載っている「コメの品種判別をPCRと電気泳動でする」という企画が面白そう。早速取り組んでみたわけです。
しかし早とちり症のせいで予備実験は難航……紆余曲折あって岩手県教育委員会が紹介してくれている 精米からのDNA抽出→PCR→電気泳動 という方法を採用しました。が、精米からDNAをとるのはとても大変で時間を食います。なんとかならんのか……
この気持ちをTwitterで嘆いたところ、なんと多くの研究者の方が反応して下さり、多くの情報が集まってきたのです!結果、
ということを探求するに至りました。
前回までは、一連の実験の結果、
使っていた玄米をあきたこまちのものだと思い込んでいたが、実はあきたこまちではないせいでバンドが出ないのでは?
という可能性が出てきました。
そこで今回は、「本物のあきたこまち玄米」だとはっきりわかる玄米を改めて購入し、検討を進めました。
1st try
今回は、前回の反省を活かして以下の点を変えました。
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DNA液の濃度が薄すぎる可能性がある。前回はエタ沈*1後のTE溶解の時点でTEの量を、精米5粒と胚芽5粒で同量(50μL)にしていた。胚芽に対してはより少量でいいはずなので、15μLに溶かすことにした。
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最初に貰った助言では「ダイレクトPCRでは胚芽10粒」と聞いていたので、ダイレクトPCRをはじめとし胚芽を使用する場合は5粒または10粒で検討をした。
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ワンステップ法について試薬の再作成をかなり丁寧に行った。
- 胚芽や玄米・精米について、吸水を10分程度させてから処理するようにした。
- いずれの方法を使う場合も、胚芽をホモジェナイザーペッスルまたはチップ先でつつくことでしっかり磨り潰すことを心掛けた。
また、新たに紹介された方法があったため、そちらも実践してみました(今後「プロトコルK」とします)。プロトコールは以下の通りです。
15,000rpm 4℃ 5min 上清を100 uLくらい回収
— K96 (@96vmax) October 24, 2020
イソプロパノールを70 uL添加(もしくはエタノールを200 uL)し、室温10分静置
15,000rpm 4℃ 5min
沈殿を回収し、70%エタノールで2回洗浄
沈殿風乾後10〜20 uL TEに溶解しDNA溶液とする。
抽出Bufferは、
100 mM Tris-HCl(pH8.0)
20 mM EDTA
2% SDS
にしました。
また、本校には酢酸カリウムがなかったため、3M 酢酸ナトリウム(pH4.8)を調整し代わりに使用しました。
ツイートの中では1粒/100μLとありましたが、上でも述べたように「なるべく胚芽を増やそう」の機運があったので、やめればいいのに5粒/200μL と 10粒/200μL で検証しました。頭悪いですね。言われたとおりやればいいのに……
そんなこんなで今回のPCRチューブの中身はこんな感じです。
⑦ 胚芽3粒をチップ先でつついて破壊しダイレクトPCR
⑧ 胚芽5粒をチップ先でつついて破壊しダイレクトPCR
⑨ 胚芽10粒をチップ先でつついて破壊しダイレクトPCR
⑩ 胚芽5粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑪ 胚芽10粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑫ 玄米の胚乳部分1粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑬ 精米1粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑭ 以前抽出してバンドが出ることが確定している精米からのDNAを用いてPCR
⑮ プロトコルKで胚芽5粒を処理し得られたDNAを用いてPCR(buffer200μLに5粒溶かし、最後はTE15μL溶解)
⑯ プロトコルKで胚芽10粒を処理し得られたDNAを用いてPCR(buffer200μLに5粒溶かし、最後はTE15μL溶解)
結果
おぉー!!!!!!!!!ちゃんとバンドが出ている所がある!!!!!嬉しい!!!!!!
バンドが出たのは
⑪ 胚芽10粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑫ 玄米の胚乳部分1粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑭ 以前抽出してバンドが出ることが確定している精米からのDNAを用いてPCR
でした。簡易エタ沈とダイレクトPCR、そしてプロトコルKでは総じてバンドが出現しませんでした。
バンドが出た方について
まず、今回買ってきてもらった玄米はあきたこまちであることがかなり裏付けられました。それだけでもだいぶ嬉しいです。
①②をはじめとし胚芽から抽出したDNAでバンドが出るようになったことから、「胚芽からPCRができる」という説も裏付けることができました。しかし、5粒よりは10粒の方がPCRの時用いるには安心感がありそうです(ワンステップ法の際5粒使用ではバンドが出ていない)。吸水させてからやったのが良かったのかもしれない。今まで使っていた怪しい胚芽も、吸水・胚芽量・最後の溶解TE量を変えればもしかしたらバンドが出るのかもしれません(もう試す気力がないけれど……)。
今回試した中でダントツに簡便なのはワンステップ法ですね!とても簡単ですし、何よりPCR溶液作成と並行してできちゃいます(基本待ち時間ばかりなので)。私の場合、まず胚芽or胚乳をエッペンチューブに入れ溶解Buffer 100μLを入れる→ホモジェナイザーペッスルで砕く→ボルテックスで浮き上がらせる→ホモジェナイザーペッスルで更に砕く→ボルテックスの十分混ぜる の後は、95℃のヒートブロックに放置しながら横でPCRのマスターミックスを組み始め、ヒートブロック10minが終わったら遠心分離機に移して5分回す間マスターミックスが完成し、遠心後の上清をPCRチューブに入れたらマスターミックスを分注する……という感じで、これなら生徒も1時間のうちにDNA抽出とPCR溶液作成ができてしまうのではないかと感じられました。もし1時間の授業内でDNA出せる&PCR始められるとなると、2時間目は電気泳動、3時間目は結果を見て反省……なんてさくさく進められるわけです。操作も簡単ですし、ミスも少ないのではないかと思います。
バンドが出なかった方について
一番残念なのはなぜか今回胚芽・玄米胚乳で成功したワンステップ法が精米では成功していない所です。精米でもしワンステップ法が成立したら最高ですよね。だって玄米集めてくるの大変だし……。精米なら手軽に手に入ります。精米がワンステップ法でバンド出なかった理由は、おそらくDNA量が少ないからではないかと思います。胚芽にはもちろんDNAが沢山あり、玄米の胚乳部はアリューロン層等のDNA豊富な部位が存在します。精米はただの胚乳細胞たちで、かなりDNAが壊れたり消失したりしているはずです。もう一度やってみても駄目で、更に2粒に増やしてみても駄目でした。精米ってそんなにDNAないんだろうか、それとも夾雑物が多すぎるんだろうか……。
ダイレクトPCRについてはバンドが出なかったどころか、胚芽がPCR溶液を吸収しきってしまっていて、全く溶液を回収することができませんでした…。そのため完全吸水させた胚芽(12時間と1時間の吸水)で試してみましたが、結局うまくいくものを見つけることはできませんでした。ダイレクトPCRをしたい場合は、不純物に強い酵素を使わないといけないかもしれません。
プロトコルKが駄目な理由はやはり1粒/100μLを順守しなかったせい、あるいは酢酸ナトリウム調整ミスではないか、と思い…1粒/100μLを遵守した上で、3M酢酸ナトリウムはpH5.2にして再挑戦してみました。結果、うまく行きました!さすが研究者の方が実践していらっしゃる方法です。
ということで、結論
で抽出してきたDNA液に対してはPCRがかかります!!!!!!
ただし気をつけてほしいのは、本校で今回用いた酵素諸々のPCR周りの溶液は「1年以上古いものを家庭用冷凍庫(何度も開けられる)で保存していたもの」を用いていたということです。正直何年前のものか分からない酵素ばっかりだった……。
おそらくかなりへたっていて、酵素濃度が通常のPCR用の組成だと全然PCRがかからなかったため、今までの実験も酵素濃度を増やした条件で行っていました(一番安心感あったのはPCRチューブ1本につき1μLの量……多すぎる。0.5μLでも不安。)。つまり何が言いたいかというと、良い酵素を使えば他の方法でもPCRがかかる可能性は十分あるということです。古い酵素たちを使っても出た方法たちはかなり信頼できるのではないかと個人的には思います。
授業と並行して空き時間にちまちますすめるの大変だった……。なんだかとっても疲れたよパトラッシュ……。
一連のことに関して多くの人々からご助言を頂きました。本当にありがとうございました!
*1:岩手県教育委員会が紹介する「やってみよう!遺伝子実験」のp.27~30を参照