以前ここで暴露した失敗連続ポンコツ実験をやっと授業で実践しました。
一週間という長期戦で、かつ自分の配分などが正しいかどうか時間内にうまく収まるかどうか毎回心配でしたが、なんとかやりたいことは収めることができました。よかったよかった。(金曜日内耳が狂って学校行けず、授業できなかったので予定は狂ってしまったのだが……)
ので、反省してみたり、気づいた点を書き留めておいたりしたいと思います。
加えて、以前の記事でも述べた「胚芽からのダイレクトPCR」の検討も行ったので、中間報告をしたいと思います。
授業について
授業配分
1コマ目:マイクロピペットの使用訓練、バイオテクノロジーの復習、コメの品種作成についての講義、これからの実験の概略説明
2コマ目:DNA抽出前半、DNA抽出液の組成についての講義、DNA抽出の技法の概略説明
3コマ目:DNA抽出後半
6コマ目:電気泳動結果の振り返り、これからのバイオテクノロジーについての講義
という感じにしました。
時間感覚としては、本校は1コマ50分なのですが、大体これで運営できちゃう感じです。毎回片付けの時間も入ってます。
でも余裕があるわけではなく、毎回急ぎ足で、押さえるべきところを押さえるのに必死になりながらの運営でした……授業が終わると毎回安堵(無事済んでよかった)と疲労でぐったりでした。
生徒がしがちなことで予見できなかったこと
色んなトラブルを事前に予想した上で臨んだつもりだったのですが(説明にも織り交ぜた)、実際やってみるとやはり「そうくるか!?」みたいな挙動が割と多く、大変でした。
- チップラックをある一人の生徒が持ち上げ、蓋を外し、もう一人別の生徒がマイクロピペットのチップを付けようとする(なぜラックごと持ち上げる……?)
- DNA液をマイクロチューブから別のマイクロチューブに移す時に何故かプッシュボタンを途中で押して机上にDNA液をこぼす
- 「沈殿物に触らないように上清をとる」作業で、沈殿物が見えた方が絶対にいいのに何故かエッペン立てにエッペンを立てたまま上から覗き込んで上清を吸おうとする(エッペンチューブ持ち上げて沈殿見ながら吸おうよ…)
- 「沈殿物を浮かせないでね」と再三言ったのに、一度上清の吸い上げに失敗(半端な量とれた)時その液をエッペンチューブ内に押し戻す。結果沈殿物が浮き上がる
- PCR液を6チューブ分作らせ分注させると足りなくなる。二回同じチューブに分注するなど
- マイクロピペットを傾けた結果液がチップコーンに到達する
- 「コンタミしないように」と注意をしたのに廃液にチップ先を突っ込んだ後でそのチップをまたエッペンチューブに突っ込んでいく
- PCRチューブの蓋がしっかり閉められない(どの状態が閉まった状態か分からない?)
- ゲルを崩壊させる
- ゲルのウェル同士を貫通させちゃう
- ウェルアプライの動きがかなり不穏(無理な体勢でやろうとする)
- ウェルアプライに30分以上の時間が余裕でかかる
などなど。あとはやはり的確な量がとれないとか。「500μLないでしょこれ…」とか、そんなのはザラでした。訓練時に1μL、10μL、100μL、500μL、1000μLくらいの代表量については、量の感覚を付けさせる必要があったかもしれないなぁ。液の種類によっては取りにくいものとか動きが異質なものもあるし、余計に気を使うべきだったかなと思ったり。
他にも色々、授業やるなら気をつけた方がいいな~と思うこととか沢山ありましたが、また余力があるときにまとめようかと思います……実際の運営の様子も含めてアップしたい。
生徒が試した米
今回の実験では、コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ以外に、生徒の各家庭からお米を持ってきてもらって、珍しい品種などにトライするというのもやってみました。
生徒が持ってきてくれて試したのは、
などで、加えてイレギュラーなものとして
- インディカ米
- もち米
などもありました。インディカ米にいもち病耐性遺伝子なんてあるんかな……??シェアしてたら面白いよね……。
(実はある班でインディカ米のところに今回のプライマーセットでバンドが出ているらしい。確かではないが。出ちゃうんだ……)
検証:胚芽からPCRはできるのか
以前記事を書いた時から、色んな研究者の方に「精米したコメは無謀」とか「胚芽を使うべき」ということを言われていたので、胚芽を使ったPCR実験ができるか試してみたいとは思っていました。
もしかしたら抽出できたDNAは実は精米のときに取り切れなかった米ぬかのコンタミのようなものかもしれませんね。胚芽だと10粒分とかをすり潰さずエッペンに入れて、そのままPCRのバッファーとTaq、dNTPを混ぜてPCRしたら十分バンドでます。1粒でも出たと思う。それでSNP解析しましたからね。
— K96 (@96vmax) October 12, 2020
上のツイートにあるように、胚芽については、胚芽をチューブに入れるだけでPCRにダイレクトにかけられる説があるらしいと教えてもらったんですよね……これは検証したいなと思っていました。
そしたら、たまたま生徒の中に、「あきたこまちの玄米を持ってきた」という子がいたので、その胚芽を使わせて貰ってちゃんとあきたこまちのパターンを出せるか試してみようと思いました。
試すにあたり、まずは胚芽を使ったダイレクトPCRについて調べてみました。確立した方法があるならあやかろうと思ったのです。
しかし、全く情報を得ることができず、いきなり路頭に迷いました。そしてツイートしました(すぐツイートする癖よ……)。
するとそのツイートに対し色んな人から助言が頂けたのです。いや~Twitterってすごいね。
横からすみません。
— Meow meow meow mo meow meow 足利の馬場 (@ashikaganobaba) October 14, 2020
酵母は、普通にダイレクトに細胞をPCRにかけれます。BSAを0.02%になるように入れますが…。液胞のプロテアーゼからポリメラーゼを守るのかな? BSA入れないのであれば、菌体をtubeに入れて置いて電子レンジで10secチンしてから反応液入れてPCR…w こっちがアメリカでは主流です
マウス尻尾でのジェノタイプですが、アルカリ溶解法という方法(NaOH中で95度10分とTrisで中和するだけ)でホモジナイズなしでやっています。植物ではワンステップ法という似た手間の方法で出来るそうです。すりつぶした方がより良い様ではありますが。もしもご参考になれば。https://t.co/rKeYNW7ri5
— Yoshi/酸化物理神経糖脂 (@day_dreamer16) October 14, 2020
他にも多くの方々に反応して頂きました。情報ありがとうございました。
…ということで、じゃあやってみるかとセッティングしてみました。
まず使った玄米はこれ(双眼実体顕微鏡で撮影しました)。
この画像の右上にあるのが胚芽。胚芽はピンセットで一生懸命削り落としました。案外簡単にとれるよ。
1st try
最初の実験は割と甘く考えていたので、とりあえず胚芽入れて試そう~という気持ちで以下のセットを試しました。胚芽はピンセットで落とすと大体ボロボロになるので、あえて粉砕過程を入れずに処理しました。
① 胚芽1個をダイレクトPCR
② 胚芽2個をダイレクトPCR
③ 胚芽1個をPCRチューブに入れ、電子レンジで10secチンしてから反応液入れてPCR
④ 胚芽1個をワンステップ法で処理後PCR(1μL使用)
⑤ 胚芽2個をワンステップ法で処理後PCR(1μL使用)
⑥ 胚芽3個をワンステップ法で処理後PCR(1μL使用)
ちなみにワンステップ法とは…
溶解Buffer 100μL(100mM Tris-HCl(pH9.5), 1M KCl, 10mM EDTA)を作成し、そこに試料(今回は胚芽)を入れ、Vortexし、95℃10minインキュベートし、更にVortexしてから遠心12,000rom 5minかけて上清を用いる方法です。Twitterで教えてもらいました。溶解Bufferは手製で作成しました。
結果
惨敗!!!!!!!
なんも出てなくね?
本来、あきたこまちであれば1610bp(右端ひとめぼれの上側のバンドと同じ位置)のバンドが出るはずなんですが、一切なく、謎のスメアでいっぱいです。
ちなみに染色はUltraPower Safe dyeを使用しています。
正直めっちゃきつい。軽い気持ちで「出るって言われてるなら出るやろ~~」とか思いながらやってしまったので余計に辛い。そういう軽い気持ちでの検証系だったせいで、実のところなんにも検証ができていない(バンドが出なかった理由を考察するための材料が足りなすぎる)のも辛い。
とりあえず、なんでバンドが出なかったんだろうということに関して以下のことを考えました。
- 胚芽をちゃんと粉砕しなかったから出なかったのでは?→ホモジェナイザーを使って次はやろう。
- そもそも胚芽からDNAを回収できるか全く分からないぞ?→エタ沈で一度DNAを回収してみよう。
- 胚芽やこのコメ粒自体が駄目になっててDNAが出ないとか、または実はあきたこまちではない可能性はないか?→胚乳からDNAをエタ沈すればPCRがかかることは分かっているので、玄米の胚乳部分から同様のエタ沈作業をしてDNA回収しPCRかけてみよう
- PCR反応液が駄目だったんじゃないかな…→次は「PCRはちゃんとかかってる」ということがわかるような証拠を作る系にしよう
ということで、これら反省を活かし次の実験です。
2nd try
2回めの実験は色々検証可能なように、かなり考えてセッティングを作りました。
④ 「あきたこまち」だとはっきり分かっている精米5粒からエタ沈でDNA抽出しPCR(以降「あきたこまち」精米は「正米」とする)
⑤ 胚芽3粒から簡易エタ沈でDNA抽出しPCR(エタ沈作業を1回のみにする)
⑥ 胚芽5粒から簡易エタ沈でDNA抽出しPCR(エタ沈作業を1回のみにする)
⑦ 胚芽1粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑧ 胚芽2粒をホモジェナイザーで破砕しダイレクトPCR
⑨ 胚芽1粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑩ 胚芽2粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑪ 玄米の胚乳部分1粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑫ 正米1粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑬ 別種の玄米からとってきた胚芽2粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑭ さらに別種の玄米からとってきた胚芽2粒をホモジェナイザーで破砕しワンステップ法で処理後PCR(1μL)
⑮ 以前抽出してバンドが出ることが確定している正米からのDNAを用いてPCR
※ 簡易エタ沈:破砕→抽出液→ボルテックス→65℃10分→遠心10分→上清採取+100エタ→遠心→70エタリンス→TE溶解 というもの
なんでこれらにしたのかを一応書き留めておくと、
- ③④の比較→同じ対象部位同じ抽出法で集めたDNAからPCRがかからない場合玄米が「あきこまち」ではない可能性が高くなると考えた
- ①②⑤⑥→胚芽は夾雑物がかなり少なくDNA量も少ない可能性があるので米粒と同じエタ沈方法ではなく簡易な方がDNAを温存できる可能性があり、また簡易でできるならその方が都合が良いので試したかった
- ⑫→ワンステップ法は米粒1粒でもできると書いてあったので本当にできるか試してみたかった
- ⑬⑭→あきたこまちと思しき玄米があきたこまちじゃなかった場合、上の方法論が一つも検証できないまま終わるが、もし別種玄米を使ってバンドが出たらワンステップ法自体は正しいという証拠になるかもと期待したから
- ⑮→PCR自体がうまくいっているかどうかの判断証拠になる
…と、こんな感じです。胚芽3粒5粒はもしかしたら少ないかもしれず、本当はもっと試すものを増やすべきなんだろうけど、気力がね……
ということで、とりあえず上のすべてを作って泳動してみました。
結果がこちら。
すごい虚無感。ていうかなぜ右端をコシヒカリに私はしたんだ???
普通あきたこまちでしょうそこは。焦ってて間違えたんだな。
この写真をぱっと見る限り、玄米からエタ沈でDNA抽出してもバンドが出ていないことがわかります。つまりこやつ、あきたこまちじゃない可能性があるのでは???
バンドが出てるのは正米エタ沈と以前あきたこまちからとってきたDNAをPCRしたものだけ。正米のワンステップ法もうまくいっていないっぽいので、やはり本校の酵素ではワンステップが駄目なのではないかという気持ちになる。
よーく見ると胚芽からの簡易エタ沈の所にもうっすら???バンドが出ている気がする。ので、もう一度念の為残りの産物を使って泳動してみました。今度はちゃんと右端をひとめぼれにしました。あと⑮はもういらないなと思って外し、1st tryで作った3粒ダイレクトのPCR産物を代わりに流してみました。
急いでたせいでまたミスって、⑨の胚芽一粒ワンステップを入れ忘れて一個ずつ左に列がずれました。もうダメだ。ミスばっかりだ。(なので左からマーカー、①~⑧、⑩~⑭、⑨、3粒ダイレクト、ひとめぼれ である)
うん、簡易エタ沈のバンドは気の所為だったらしい。何も出てこなかった。
ただ、正米を使ったエタ沈もワンステップも、とても短い断片たちのバンドが最先端に集まってできていることがちょっと気になります。これは気にしなくていいのだろうか……???
何にせよ何故か毎回スメってしまいます。スメア消えてほしい。何が原因なんだ……思い当たる節が多すぎて限定しきれない(TAEは使いまわし、酵素は1年以上前のもの、dyeも割と古くなっているetc……)。これも色んな助言をTwitterで頂きました。本当にありがとうございます。
経験的にはゲルの厚さは問題にならないかと。ゲル濃度も冷却も良いと思います。アガロースが溶け切ってないということはないでしょうか?フラスコで溶かした液を光に当てた際に細かい結晶?みたいなのが残ってしまうことがあります。(それがここまで影響するとも思えませんが…
— やさい (@1wantphd) October 20, 2020
なんかPCRのDNAスメアっていうよりなんかポリマーとか糖質とかなんかそんな感じに見えますね…(非専門家です)
— Ryohei Thomas Nakano (MPIPZ) (@LuckyStrike1984) October 20, 2020
DNAが原因ならスッとスメる感じですが、上の方がはっきりとグネっているのでゲル感がありました。私もたまに変なスメり方をして不思議に思うことがありますが、器具などをきれいにしてやり直せば案外うまくいったりします。
— SOLIDIVORY / dessan (@Dr_Strangedeath) October 20, 2020
TAE自体は基本的に常温保存で問題ないですが、タンクから出して泳動槽に入れてあるバッファーは繰り返し泳動しているとバンドが汚くなることが多いです。定期的に交換(だいたい5回の泳動ごとに交換)すると改善できるかもしれないので、お試しください!
— KH(非リア王) (@HALIMranu) October 21, 2020
Ultrapower DNA safe dyeはHPみるとインターカレーターではないようなので、マーカーの他の成分?が染色されているかもしれませんね。染色液のメーカーにこう言う例があるか問い合わせてみるといいかもしれません!
— やまも (@youyamamomo) October 21, 2020
とりあえずここまでの結果から私が出した結論は……
これは品種が確定している玄米で試すしか無いな!!!
ということでした。はい。
品種確定玄米でやっても駄目なら何でやっても駄目でしょうという気持ちです。
ですので近々品種確定玄米で同じようにやってみるつもりです。
ついでに、次回やるときにはDNAの濃度もちょっと検討したいなぁと思っています。胚芽からエタ沈で出すとき、今は米粒5粒のときと同じ量同じプロトコルでやってしまっています。最後50μLのTEに溶かすのが多すぎるのではないか?20μLくらいが妥当なのでは?と思っていたり。
そもそも最初に貰った助言では「ダイレクトPCRでは胚芽10粒」とおっしゃっていましたし、純粋に胚芽量が少ないのかもしれません(手元のサンプルが少ないせいでケチケチやってしまったのがいけない)。米が沢山手に入ったら、ダイレクトは5粒と10粒で組んでみようかなと思っています。あとワンステップも同様に5粒10粒で行きたい。
あとワンステップ法については、試薬をもう一度作り直して試したいですね。正米で出なかったのがよくわからないので。ワンステップは不純物に強い酵素じゃないと駄目なんじゃないかな…???
取り敢えず今週はここまででストップ。続きを試したらまたご報告させていただきます。あ~うまくいってくれんかしら。
ここからはおまけ
おまけで今回胚芽3粒、胚芽5粒、玄米胚乳部分、精米胚乳部分からエタ沈でDNAをとってきた時の色んな資料写真を載っけておこうと思います。
まずすり潰し→DNA抽出液入れてボルテックス→遠心 の結果がこちら。毎回右から順に胚芽3粒、胚芽5粒、玄米胚乳部分、精米胚乳部分です。
やはり胚乳部分は半端なく不純物が多いのがわかります。胚芽はほぼないですね。
次が上清とってきて99%エタノール入れたとき。
胚芽の方は濁りがかなり少ないです。胚乳は恐ろしいほど濁ります。
遠心した結果
胚乳はDNAと共にかなり不純物が交じるのかかなり白いペレットが出ます。胚芽の方は既にこの時点でペレットが見えません。
エタノール飛ばしてTEに溶かしたのがこちら。
胚乳濁ってる…ひたすら濁ってる。
ここに更に99%エタノールを5M NaClと共に入れ、エタ沈させ遠心、70%エタノールでリンスして、更に遠心したあとがこちら。
胚芽の方もほんのり透明なペレットがありますが、胚乳の方は本当に汚いです。DNAあるぞ!!って感じもします。やはり胚芽からとれるDNA量少なめなんですかね。10粒使ってエタ沈したら変わるだろうか。
ということで、おまけでした。
今回の実験にご助言をしてくださった方々にこの場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございます……