あいまいまいんの生物学

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まいばいお23 メダカと愛情

メダカと愛情のちょっと面白い話?

オキシトシンというホルモンがあります。

オキシトシンは間脳視床下部にある神経分泌細胞から直接脳下垂体後葉に分泌されるホルモンです。

9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、主な働きとして子宮の収縮や乳汁分泌に関与することが知られています。

それだけではなく、オキシトシンは良好な人間関係形成にも関与すると知られており、オキシトシンの分泌によって愛情や信頼などの感情が生まれると言われています。

 

さて、このオキシトシンはヒトも勿論持っていますが、他にも色んな生物で使用されていることが知られています。

そのうちの一つが「メダカ」です。

2020年2月、メダカがもつオキシトシンについて新たな研究結果が発表されました。今回はその研究について取り扱いたいと思います。

元論文は、Sexually dimorphic role of oxytocin in medaka mate choiceというものです!

 

「その愛情はどこから?」

メダカのメスには「そばにいたオス」を目で見て記憶し、そのオスの求愛を積極的に受け入れる傾向があります。親密になった人を好きになる、という感じですね。

一方オスは親密度に関係なくメスに求愛します。初対面でも構いませんし、親密さで区別がありません。なんだか面白い習性の違いですね。

 

この求愛行動とオキシトシンがどう関与するかを研究者は調べるために、ゲノム編集技術によって機能的なオキシトシンを合成できないメダカ(オキシトシン欠損メダカ)を作製し、異性に対する好みを検証しました。結果を一緒に見てみましょう!

Figureはここから見られるよ↓

https://www.pnas.org/content/117/9/4802/tab-figures-data

 

 

1.メスのメダカがオスの求愛を受け入れるまでの時間

f:id:I_my_mine:20200306223539p:plain


縦軸がオスの求愛を受け入れるまでにかかる時間を示しています。

「VF」というのは視覚的親密性、すなわち見慣れている(+)か初対面か(-)です。

WTは野生型です。

Aのグラフから行きましょう。oxt +/I22F(上付き文字にできないんだが?)というのはオキシトシンの正常型遺伝子と機能欠損型遺伝子を対で持っているタイプのメダカのことです。

ヒトやメダカのような2倍体生物は相同染色体を持つので、普通は正常オキシトシン遺伝子を二つ持ちますが、この子では一方が機能欠損しています。

oxt I22F/I22Fというのはオキシトシン遺伝子2つともが機能欠損している子です。

結果はどうでしょうか?

 

…野生型では初対面で40秒近く受け入れにかかっているのが、オキシトシンが全くない子では初対面にも見慣れた子にも同じ時間で受け入れをしていることが分かりますね。

 


更にBのグラフを見ましょう。

Bはオキシトシン受容体を欠損させてみています。

メダカにはオキシトシン受容体が1と2の二種類ありますが、オキシトシン受容体1を完全欠損させたoxtr1-/-と、オキシトシン受容体2を完全欠損させたoxtr2-/-で結果はどうなるでしょうか。

 

…oxtr2-/-の方は野生型とあまり変わりませんが、oxtr1-/-の方は初対面でも見慣れていても同じ時間で受け入れるようになってしまっていますね。

このことから、「メスが初対面オスを通常受け入れにくいのは、オキシトシンが分泌されてオキシトシン受容体1が活性化する結果動くシグナル伝達経路のせい」だと分かります。

 

 

2.メスのメダカがオスの求愛を受け入れるまでの時間

https://www.pnas.org/content/pnas/117/9/4802/F2.large.jpg

次にオスにおけるオキシトシンの役割を見てみましょう。

Aは、「オスと同じ遺伝子型のメスメダカと生まれた時から一緒に生活させて慣れさせた後で、同遺伝子型の見慣れたメスと異遺伝子型の初対面メスを提示すると求愛行動するかどうか」という実験の結果です。

縦軸が求愛行動の回数です。

WTは、初対面(oxt I22F/I22F)に対しても見慣れた子(WT)に対しても同じくらい求愛行動をしますが、oxt I22F/I22Fは明らかに初対面(WT)にぐいぐいいかないですね。

「相手がWTだから求愛しない」という可能性もあるので、Bで示すようにWTのメスとoxt I22F/I22Fのオスを一緒に生活させ、その結果求愛行動がどう変わるかをCのグラフが示しています。

ここから、遺伝子型関係なくoxt I22F/I22Fのオスは見慣れた子に求愛するようになっていることが分かります。

 

受容体について調べたのがEのグラフですが、oxtr1-/-のオスがあからさまに初対面(before)に求愛していません。

ここから、「オスが通常初対面メスでも受け入れるのは、オキシトシンが分泌されてオキシトシン受容体1が活性化する結果動くシグナル伝達経路のせい」だと分かります。

 

ついでにここには示していませんが、オスが示す配偶者防衛行動についても実験されており、その結果oxt I22F/I22Fのオスは初対面メスの防衛をせず、親密なメスに対しては野生型オスよりも強い防衛を示すことが分かりました。

オスはオキシトシンがないと、親密なメスを好み、強い愛着を示すようになるのです。

 

 

二つの得られた結果を統合すると、メスとオスではオキシトシン放出が真逆の行動を引き起こすことが分かります。

これまでオキシトシンは「愛情ホルモン」として、親密な他者に対する愛着を促進すると考えられていましたが、メダカのオスを見る限りそうとも言えないみたいです(出ないほど愛情らしきもの?が見えてきますもんね)。

動物種や性別によってオキシトシンの作用は一様ではなく、逆に愛着を下げる方向に働くこともあるということがこの研究から明らかになりました。

ヒトにおいても性別や個人差によってオキシトシンの作用が異なる可能性も考えられます。

 

愛情とは?親密とは?こう、何かが揺らいでくる感じがしますね…(しませんか?)

 

確か以前どこかの研究で、赤ちゃんが生まれると男性も女性も接するほどオキシトシン濃度が高くなって、父性や母性はオキシトシンによって形成されてくる、みたいな論文あった気がするんだけど…父性や母性とはやっぱり違うんですかね。何が同じで何が違うのかよくわからなくなってきました。うーむ。