あいまいまいんの生物学

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遺伝子のマッピングを解説してみる

今年の名大と京大では、「遺伝子のマッピング」に関する問題が出題されました。

具体的には、

名大生物 Ⅳ 設問(3)

京大生物 Ⅱ 問5

がこれに該当します。

 

遺伝子のマッピングは、一応授業で解説されるような基本事項さえ知っていればできるものではあるんですが、多分一度解いてみないとあまり実感がわかないというか

そもそも表がかなり怖そうで怯んでしまうというか

そういう面がかなりあるのかなと思いまして。

今回の記事では、遺伝子のマッピングというのが一体どんなもので、

どういう風に考えればできるのかな、というのを、噛み砕いて紹介できたらなと思います。

かなり我流なので、間違っている点があるかもしれません。そういう場合はコメント等でご指摘頂けると幸いです。

 

 

今回理解できそうな単語

遺伝子のマッピング(gene mapping)

マーカー遺伝子

 

事前にあってほしい知識(キーワード)

遺伝子、染色体、遺伝子座、配偶子形成、減数分裂、連鎖・独立、表現型、乗換え、組換え

 

 

遺伝子のマッピングとは?

特定の遺伝子について、どの染色体の、どの位置にあるのかを決める行為です。

つまりは、遺伝子の「所在地」を知る行為ですね。

例えばヒトなら、染色体が24種類ありますね。第一染色体~第22染色体、X染色体、Y染色体ですが、それらは全て違う情報を運ぶ、異なる配列のDNAたちです。

ここで、「血液型を決める遺伝子はどこにあるんだろう」となると、先ほど挙げた24種類の染色体のどれかに必ず乗っているわけです。しかしそれはどこか分からない。

加えて、どの染色体に乗っているかが分かったとしても、その染色体中のどのあたりに血液型を決める遺伝子が存在するかは分からない。

そんなわけで、遺伝子の所在が分からなくて知りたいなという需要が出たら、マッピングをする必要があるわけです。

 

マッピングをしたくなる場面の例を出してみます。

例えばこういう時…

・マウスは白毛と黒毛のものがいる。

→「毛の色を決める遺伝子はどこにあるんだろう?」と疑問に思った。

マッピング

 

・ある変異体を得る

→「変異体の変な挙動の原因となる遺伝子はどこにあるんだろう?(=どの遺伝子がおかしくなっているんだろう?)」と疑問に思った。

マッピング

 

って感じです。雑な例ですが……。

要するに、遺伝子のマッピングは研究をしている時でもよく使う、大事な手法なんですね。

今回紹介したいと思っているのは、

「どの染色体上に目的の遺伝子があるかは分かってる」

「けどどの位置にあるのか分からない」

という時、交配を通してマーカー遺伝子というものを基準にマッピングする手法です。

大前提として、「乗換えは一度の配偶子形成で最大一箇所にしか発生せず、多重乗換えは生じない」とします。まぁこれはそういうもんかと思っておいて。

 

 

ちなみに、こういうことを言うと、

「それって全ゲノムシーケンシングして、塩基配列だして、違う形質のやつの配列を比べた時に、異なる配列になっている部位を特定すればいいんじゃないの?」

という疑問を持つ人もいるかもしれません。

それは勿論手法の一つではあるのですが、普通にお金がかかるし時間がかかるし無駄が多いです。

あと、もし複数の違う箇所が見つかった時、どれが求めている違いなのかを特定する行為をどうせその後しなきゃなりません。

だったら最初から雑なアタリをつけておいて、その近辺の遺伝子だけPCRかけてシーケンシングして、配列読んでやっぱり違う箇所あるねって特定していった方がいいのではないでしょうか!(いや、色々技術が進展したら、今から紹介するような古典的なマッピング手法なんて淘汰されるのかもしれないな……)

(でもテクいことを知ってることはどこかで役にきっと立つと思うんだよ、うん)

 

 

もしあなたが勇者なら

では早速、遺伝子のマッピングについて紹介していこうと思うのですが。

まずは考え方を知ってもらうのがいいのかなと思います。

そこで、こういう状況を考えてもらいます。いいですか?考えてみてくださいね?

 

……

あなたは勇者です!

目の前に、縦にひょろ長い棒状の敵が出現しました。

敵はひょろ長い棒状の胴体のどこかに、一点「コア」を持っています。

このコアを壊さないと、敵は死なないので、あなたはコアの位置を特定する必要があります。

ちなみにこの敵は、コアが残っている場合、ちぎられても再生します。コアが残っている方から再生をして、完全な状態に戻ってしまいます。コアがない側のちぎられた破片はなくなります。

再生は一瞬で行われるので、ちぎる攻撃は毎回完全長の敵に対して行われることになります。コアの位置は固定です。また、敵は常に縦に立っているので、上と下が分かりやすくなっています。

取り敢えずこの敵は反撃してこないとして、好き勝手に敵を弄って、効率的にコアを探して倒してください。

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……

 

なんの話だよ、と思うかもしれませんが、これがマッピングに活きる考え方なので真面目に考えてくださいね!

皆さんはどんな回答を出したでしょうか。

私の場合、「どんどんちぎってみて、どっちの破片から再生するかを見てみる」という手法をとります。

本当は二分探索的なものをしたいですね。なのでまずは真ん中でちぎります。ちぎると上の破片から再生したとしましょう。そうしたら、「コアは上側にあるな」ってわかります。

次に上から1/4の所でちぎります。下側から再生したら、「コアはこの敵の上から1/4~1/2の間にある」と分かります。次はこの狙ったパーツの半分の所でちぎればいいですね。そうやって「ちぎる」行為を繰り返し、ちぎってもちぎってもコアと連動して動くように見える部位を見出せれば、コアの位置は特定できるのです。

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では、もうちょっと難易度を上げます。

敵の上下が分からない としたらどうしましょう?

つまり、先ほどまでは縦に立っていてくれましたが、再生するたびに横になったり、反転したり、向きが不明瞭になっちゃうんです。

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あなたならどういう工夫をしますか?

 

答えは、「マーカー」をつければいいんですね!

まず敵の身体に、4か所くらいマーキングをしましょう。4つの印は全て違う色にします。すると、敵がくるくる違う向きを向いても、同じ位置がどこだったのか追えますよね。

で、やることは同じく「ちぎる」を繰り返す行為なのですが……

例えばマーカーが赤・青・黄・緑という風に、端から等間隔に塗ってあるとしましょう。

真ん中でちぎって、赤・青がある側から再生すれば、赤・青が塗ってある側にコアがあると分かります。

次に赤と青の真ん中でちぎります。青がある側から再生します。青近辺にコアがあることが分かります。

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これ、俯瞰すると、毎回青とコアが一緒に動いていくように見えるわけですよね。ここがポイントです。

ただし、切る試行が沢山あると青とコアの挙動が分かれることも勿論あります(下図)。

 

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が、一応コアに近いマーカーはよく挙動が一致し、遠いマーカーは別挙動が目立ちますね。

こういう情報から、コアの場所を絞っていけるわけです。

 

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さて、そろそろ気づかれていると思うんですが、この細長い敵が染色体のつもりなんですね。

コアは目的遺伝子です。

つまり、「細長い敵のコアの位置を知る行為」≒「染色体上の遺伝子の位置を知る行為」なんですよ!

まとめると、染色体上の遺伝子の位置を知るには、

  1. まず染色体上に目印であるマーカーをつける(マーカー遺伝子を決めることで可能となる)
  2. 染色体をちぎる行為をくり返し、どのマーカー遺伝子と目的遺伝子がよく一緒に動くのかを見る

ということでできそうだということになります!

 

じゃあ、「染色体をちぎる」ってなんだ?どうやるんだ……?

……そう、「乗換え」ですね!!!!!!!!

配偶子形成の際、減数分裂第一分裂で生じる「乗換え」では、一本の染色体=敵だったものがちぎれるイベントが生じる可能性があります。

ということは、目的遺伝子の位置を知るには、目的遺伝子と、その遺伝子が乗ってるはずの染色体上にあるマーカー遺伝子を把握した上で、

そのすべてが乗っている染色体を持つ個体に、配偶子形成をバンバンさせて、乗換えをおこさせればいいわけです!

その結果、どのマーカー遺伝子と目的遺伝子がよく一緒に動いているかを見つけられれば、遺伝子の位置が特定できるわけですね!

 

 

今回の名大の問題を参考にしながら実際のマッピングをやってみよう

上で十分理論の基礎については説明をしてきたと思うので、実践例を見ながら遺伝子のマッピング行為を確認していこうと思います。

今回は、名大の問題でも出てきたマングローブキリフィッシュを例に出します。

マングローブキリフィッシュは、メダカに近縁な生物なのですが、

発達した卵巣内に精巣をもち、体内で卵と精子を作って自家受精するというちょっと特殊な脊椎動物です。こういうのを雌雄同体生物といいます。

名大の問題では、以下の設定が与えられていました。

  • マングローブキリフィッシュにはP系統とQ系統という、互いに塩基配列が微妙に異なる系統が存在する(同じ遺伝子座に違う対立遺伝子を持っている)。
  • A~Dの遺伝子が連鎖する染色体上に体色を決定する遺伝子があるらしい。
  • P系統は茶色、Q系統はグレーで、茶色がグレーに対し優性である(茶色が顕性である)。
  • 体色遺伝子をマッピングしてほしい!

ちなみに、P系統とQ系統は純系のはずなので、茶色にする遺伝子を「茶」、グレーにする遺伝子を「グ」とすると、P系統の遺伝子型は「茶茶」、Q系統の遺伝子型は「ググ」ですね。

A~Dの遺伝子についても、PタイプとQタイプがあると説明されていますから、この染色体に着目すると

P系統ではAP, BP, CP. DP. 茶 が連鎖

Q系統ではAQ, BQ, CQ, DQ, グ が連鎖していることになります。

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ここで、例えば体色遺伝子がCD間の、D寄りの位置にあったとしましょう。

つまり、P系統ではCP-DP間のDP寄りに茶が

Q系統ではCQ-DQ間のDQ寄りにグが存在するわけ。

 

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先ほど、敵の例でも挙げたように、この遺伝子の位置を知るには「ちぎる」=「乗換えを起こさせる」しかないわけですが、

例えばP系統が自分の配偶子を作ったとして、その配偶子の様子から乗換えが起こったか否かが見えるか、というと、答えは……

見えません!

だって乗換えしても、一本の染色体内で AP, BP, CP, DPと茶 というセットになることは変わらないんだもの。

てことは、乗換えが起こったことを可視化するためには、相同染色体が二種類の異なる染色体で構成されているもので配偶子形成をさせなきゃだめだ。

なのでP系統とQ系統の交雑体を最初に作ります。

 

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さて、交雑体であるF1さんが作る配偶子の種類と、それが持つ染色体の様子を考えてみましょう。

乗換えが生じない場合は、マッピングにおいて参考になりません。まず、乗換えが生じない場合に出てくる配偶子の染色体構成を考えましょう。

 

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まぁ、こうなるわな。

一応、AとDの外側で乗換えが生じても、この配偶子が出るから、AP,BP,CP,DP,茶 が出たからといって「乗換えが絶対起こってない」とはいえないんだけどね。

もし、AP,BP,CP,DPという風にマーカー遺伝子は全部元の組合せで揃っているのに、「グ」を持つ配偶子なんかが出たら、それはA~Dのマーカー遺伝子より外に体色遺伝子があるという議論になってくるわけですが。

今回はC-D間にあるからマーカー遺伝子より外側で乗換えが生じても AP,BP,CP,DP,茶 および AQ,BQ,CQ,DQ,グの組合せは変わんないです。

 

次に、マーカー遺伝子A~Dの間で乗換えが発生する場合、つまり敵をちぎる場合を想定してみましょう。

ちぎりはどう検出できるのか?勿論、配偶子内で、A~Dについて、PとQがごちゃ混ぜになってたらこれはあからさまに「ちぎり」が発生しています!

とはいえ言葉で言っても分かりにくいので、具体例を出してみます。

乗換えは、染色体上のどの位置でも同確率で生じるはずなので、取り敢えず三か所それぞれで乗換えが起こった結果を考えてみます。

 

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一番上の矢印で示したA-B間で乗換えが生じると、出来る配偶子は表のようになります。AQ, BP, CP, DP, 茶 と AP, BQ, CQ, DQ, グ というのが新規に出現した配偶子です。これは、先の敵の例でいうなら、Aという一番上のマーカーをぶちっとちぎりとったら、残りの部分にコアがあった、というのと同じことですね。

 

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次はB-C間で乗換えさせるよ。

AQ, BQ, CP, DP, 茶 と AP, BP, CQ, DQ, グ が新規に出現した配偶子たちです。これが乗換えが起こったやつですね。

AとBに関わらずCやDと体色遺伝子が一緒にいるので、A-B間には体色遺伝子がないと分かりますね。

 

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最後にC-D間で乗り換えたら?

AQ, BQ, CQ, DP, 茶 と AP, BP, CP, DQ, グ が乗換えたやつ。

ここから、A-C間には体色遺伝子はないねってなるわけです。 

Dと体色遺伝子の挙動がよく一致してるね。

 

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一応俯瞰できるように今までの全パターンの配偶子例をまとめてみましたよ。

薄いだいだい色の網掛けした配偶子が乗換えがマーカー遺伝子A~Dの間で起こったやつです。

濃い黄色は茶・Pとグ・Qが一緒に動いているゾーンを提示しているつもり。

Dが一緒に動く感、分かりますか?所謂完全連鎖みたいなもんだよな。

 

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なるほど!配偶子のマーカー遺伝子がどっちなのかと目的遺伝子がどっちなのかが見えればいいのね!

ってなってきたと思うんですが、

じゃあ実際配偶子の遺伝子型なんて簡単に見えますか?というと、まぁそうはいかないですね。

基本見やすいのは子の表現型ですから、子を作らせて、その結果から配偶子の様子を見れればよい。

普通はここは検定交雑を使っていきたいところですが、自家受精するタイプの生物はこれが難しい。コマッタナ

面倒くさそうだなぁと思うかもしれませんが、F1自家受精でも普通にマッピングは可能です。さっきのF1を取り敢えず自家受精させてみると、多分こんな奴らが出てきます(下図)。ちなみに、マーカー遺伝子の遺伝子型は、何故か分かるという体で行きます。*1

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いや、難しいやん!どう見ればいいか分かんないよ!とか思うかもしれませんが、落ち着いて考えましょう。

まず、今までの議論を振り返ると、乗換えがA~D間で起こってない配偶子は、AP, BP, CP, DP, 茶 または AQ, BQ, CQ, DQ, グ なわけでした。

ということは、体色の遺伝子型が分かれば、ある個体を構成する染色体で乗換えが生じていたかどうかは見えそうです。

なので、体色の遺伝子型をまずは書き足してみます。

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次に、「乗換えを起こした配偶子でできた子供」を見つけてみます。

そんなのわかんないじゃん、と思うかもしれませんが、上でも何度も述べたように

AP, BP, CP, DP, 茶 と AQ, BQ, CQ, DQ, グ がもともと連鎖してるんです。

なので、子にその配偶子がありそうならそれを削っちゃえばいいんです。

まず子供をもとになった配偶子(誰と誰が受精したのか)に分解するじゃろ?

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A~Dについては比較的簡単にいけますが、体色の遺伝子については注意が必要です。一応、A~Dよりも外側に体色遺伝子がある可能性も考えながら普通は表を見るのでね。

なのでPPPPだったら茶、QQQQだったらグ とは安直に言えないわけです。

 

絶対確定できる!ってところから決め打ちします。例えば「ググ」の場合は確定が可能ですよね!

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そんなわけで③④⑨⑩⑬⑭が確定したから引っこ抜いてみよう。見にくいからね。

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④を見ると、QはDのみで、他はPのタイプになっています。もしA-C間に体色遺伝子があったら、こうはなりません。C~Dの末端のどこかにいそう。
⑭ではC, DがQの型でA, BはPの型です。やはりA-B間には体色遺伝子がないよというのが推されていますね。

⑳では、Dの所がPになっているのに体色遺伝子がグになっています。ということは、Dより外側には体色遺伝子はないということになる。

これらの推論から、C-D間にあるのではないか、という予測を立てることができます。

 

てことは、もうPPPPときたら茶、QQQQときたらグ としていいよね。

C-D間にあるという仮説に則って本当に全ての個体が生じることが説明つくかな?と試してみる。

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つきそう。

茶だったらP、グだったらQの領域を配偶子内で塗ってみたよ。

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C-D間っぽいね!

CとDめっちゃ挙動一致してるやん、の気持ち。

 

ということで、なんとなく遺伝子のマッピング、伝わりましたかね?

 

 

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*1:雑な説明ですが、本来はPCRをかけて電気泳動した結果でP型かQ型か見分けられたり、表現型で判断できたり、そういうことができる遺伝子をマーカー遺伝子とするんですね。なので『分かる』ということで。

2021年度入試問題 生物 所感まとめ

今日までで気になっていた大抵の大学の入試問題が出揃いまして、全て解くことができました!

解いたのは北海道、東北、東京、岐阜、静岡、名古屋、京都、大阪、神戸、そして慶應です。

 

解き終わった証として(?)、毎度誰に需要あるのかはわかりませんが、解いた各大学について簡単な所感と、

あとは総まとめみたいなことをしていこうかなぁと思います。

東大と名大については過剰な力量で書いた記事がありますので気になる人はそちらを参照してください↓

i-my-mine.hatenablog.com

i-my-mine.hatenablog.com

 

 

各大学 所感

東大と名大は記事があるので、それ以外の大学の所感を軽く書いていきます!

北海道大学

ネタとしては、

1 血糖濃度調節(チャネルと電位を絡めた話)、腎臓

2 カエルの発生、ガードンの実験、ショウジョウバエの発生(分類含む)

3 マイクロサテライトで親子鑑定(進化含む)

4 樽前山のバイオームと遷移

という感じでした。

難易度はそう高くなく、どこかで見たなという問題が集まっている感じです。

北大と言えば木原均からのゲノム問題!という感じだったのに、今年はそれはなかったですね。一応ゲノムと進化の話はありましたが……

3では、親候補の大人たちと、その子ども候補の幼少個体たちのマイクロサテライトPCR電気泳動の結果を提示され、

今回の子どもたちに関して、親は決まった配偶者としか交配してないのか、それとも自由交配してるのか、どちらなのかを見極める、みたいな問題は良かったですね。そうか、そういうことも読み取れるなぁという。

いつもほどの綺麗さや感動はなかったかも……?

 

東北大学

ネタは、

1 異化経路の調節

2 ヒトデの卵成熟とホルモン

3 腎臓と循環系(血液・心臓)

でした。

東北は毎年ちょっと解きにくい、堅い問題を出すイメージがあるのですが、今年もそんな感じがあります。

とはいえ2と3はどこかで見たことがある典型的な問題で、特に2は易しいなと思いました。経験のせい?

ちなみに2はろ胞細胞とGSSの話ね。これ知ってるわ〜って思いながら解きました。問題文読まなくても分かっちゃう……(あかん解き方だ)。

しかし、個人的には1のグラフ選択問題とかが、なんかこう、腑に落ちない……綺麗さに欠ける気がします。

河合でも別解が出ていますし、別解出る生物の問題(しかもグラフ選択問題)ってどうなん?という……

あと、「化学浸透圧説」は単語として問うていいのか?という疑問もある。

教科書をあまり逸脱しすぎないで欲しい……。

 

岐阜

ネタは、

1 体内の恒常性、性ホルモン周囲の濃度調節

2 植物の光周性、春化に関する実験

3 ALDH2PCR電気泳動(プライマー設計から)、ALDH2の各国遺伝子頻度に対する考察

4 C4植物とC3植物の比較

5 正のフィードバック機構による遺伝子発現調節、マウス筋芽細胞の分化と調節タンパク質

という感じでした。

ネタはまぁ、どこかで見たことあるなぁというものが多いのですが、聞かれる形があまり見慣れないというか、

「これって本当にこれが答えでいいの……?」と不安になるような聞かれ方だったりして……

ちょっと解くのが険しい気持ちになりました。ウーム。

自分の解く力が足りないだけかもしれないが……一部が所謂「日本語ムズカシイ」状態な気がします。

 

静岡

ネタは

1 性決定と選択的スプライシング(明言はされていないが、ショウジョウバエのSxl周りの話だと思われる)

2 呼吸の分子機構

3 血糖濃度調節と糖尿病の種類

4 植生の遷移と光量(光周性)

といった感じ。

中身は何も迷わず解ける、順当に正統派な問題という感じで、ストレスなくさらっといけます。

程よい応用問題が差し込まれているのも好感が持てます。

2の呼吸の所なんかはくどい程基礎基本を聞いてくれるので、これは問題集で標準問題として重宝されそうな問題たちです。

 

京都

ネタとしては、

1 転写開始点選択とフィトクロム

2 疾患遺伝子のマッピング

3 イネの品種改良と栽培環境、受容器の情報処理と応答

4 植物の根を食べる昆虫と葉を食べる昆虫の関係性(食害応答)、生態系中のエネルギー

という感じです!各テーマごと使う知識が横断的なものになっている、所謂京大の生物といった感じの問題たち。

ネタも程よく馴染みがなく、かつ「へぇ~!」となるものを織り込んでいて素敵ですね!転写開始点選択とか、イネの品種改良とか、根食昆虫と葉食昆虫の関係とか……興味深いです!

ただ、今年はあまり凶悪なものはなくて、割と素直な気がしました。なので解けちゃいます!これは嬉しいですね。

教科書逸脱も、一箇所怪しいけれど無かったのではないか……?という気がします。過敏感反応……じゃなくてファイトアレキシンで答えればいいから、きっとだいじょうぶ……。

 

大阪

ネタは

1 プラスミド作成(制限酵素選択など)とセレクション

2 免疫とシグナル伝達

3 動物の発生過程(分化、アポトーシス、基礎知識)

4 LDH活性測定法

5 増殖因子のシグナル伝達と抗がん剤設計

といった感じ。1と3(2も?)は基本に忠実な標準問題ですが、4と5はちょっと楽しい題材ですね。全く見たことはない、という訳ではないですが……(特にLDHのやつは一回見たことあると簡単に解けちゃうんじゃないかな)

解くのはストレスなくさらさら解けます!良い問題構成だと思います。

 

神戸

ネタは

1 赤血球と酸素と呼吸

2 遺伝子の基本(発現、スプライシング、コドン、突然変異)

3 光発芽種子の基本

4 進化の総合説と血縁度(包括適応度)

という感じ!

基本的な問題が多いですね。問題も、1がちょっとムムムとなる以外は(日本語とか計算とか)、基礎基本なのでサラサラ解けるのではないかと思います。

 

慶應

ネタは

1 視覚、HubelとWieselの視覚野に関する研究

2 毒を持つ生物の進化、抗毒素抗体の作成

3 アメーバに感染する細菌類とミミウイルス

でして、いや~これは良いですね!!!

慶應は毎回ネタが良いです。歴史的変遷とか、権威ある実験とか、真新しい未知の事象とか持ってきてくれます。

古典実験が題材になると、授業でも使えてハッピー!

出題される問題自体も、聞かれることはちょっとオーバーキルなものが入ることがあるんですが、基本は良い意味で「難しい」ものが多く、ほどよく頭を使います!基礎のしっかりした理解も必要です!好きです!

特に今回のネタの中でも2と3はいいですね!1はそこそこ他大学でも過去に出題されているので。個人的には3が好きでした!

アメーバとマクロファージの関連性を考えると両方でレジオネラが増えることを解釈できる……というあたりは、おぉってなりました。

(私がミミウイルス大好きなだけというのもある)

 

 

個人的なおすすめ良問大学

今年の問題だと、まぁまずはやっぱり東大ですよね!

東大はずば抜けて今年も良かったです。

次は京都、名古屋、慶應 かな!

完全に個人的な趣味ですが。学びがあるし、面白いという意味で、これらをおすすめします!

 

出題分野の状況

各大学を解いて、国公立大学9校における今年の出題分野の傾向をざっくりですが出してみました。

割とメインを張っている出題のみに注目しています。

とはいえ個人的な価値観でラベリングをしているので(ラベル項目も自己流で立てているので)そこまで情報として価値があるとは思えないが……。

とてもよく出たもの(今回4大学以上で出たもの)

  • 性決定・生殖・受精
  • 遺伝子発現調節
  • 異化
  • 植物の光周性(長日、短日、発芽etc)
  • ホルモンと恒常性
  • 進化(そのものを問われる場合もあるが、最後の締めとして使う場合が多い)

よく出たもの(今回3大学で出たもの)

  • 遺伝(連鎖・独立・複対立)
  • 植物ホルモン
  • バイオテクノロジーPCR、泳動、制限酵素、遺伝子組み換えetcそのものに対する基本問題) ※手法としてはバリバリに使われるので無視

そこそこ出たもの(今回2大学で出たもの)

  • 発生
  • 遺伝子のマッピング
  • 酵素(グラフ、阻害剤など)
  • 植物の屈性
  • 植物の食害応答
  • ハーディ・ワインベル
  • 光-光合成曲線
  • 腎臓(濃縮率などの計算)
  • 植生・遷移・バイオーム
  • 遺伝子・ゲノム
  • 生態系

という感じ。

 

ほか 解いた感触的な話

上で出てきていないのですが、「神経」の所で学ぶイオンの移動と膜電位の変化が、神経ではない細胞において発生するものを用いた出題が多数ありました。

神経のことは知ってて当然、って感じかな……?

とはいえそれらの出題は一応現象自体を知らなくても解けるようになっているのですが。神経の所でイオンの移動と膜電位の変化の原理を知っていれば大丈夫です!

 

あとは分類と地質時代の話全然出なかったな!?ってなりました。

進化は出てたけど。なんならいい感じの締めの問題としてめちゃくちゃ使われてたけど(最近流行りですよね)。

分類と地質時代が出なかったのはなんでだろう?昨年度出したから?それとも今年の配慮?わからないですね。

 

遺伝はちゃんとやらなきゃ駄目だな~。マッピングも、授業で一回実践してもいいかもしれないな。うおー、大変だなぁ……。

 

なんにせよ、生物基礎からも生物からもちゃんと出るねという印象です。どちらもまんべんなく出ます。

ちゃんとどっちも勉強しようね!

 

東大・京大だけで見ると……?

これは完全に個人的興味なのですが、東大と京大を解いていてなんか被ってない??って印象が強かったのでどれくらい分野が被っているか見てみました。

東大・京大で被っていたのは

  • 遺伝
  • 遺伝子発現調節
  • 植物の食害応答

の所でした。

遺伝、遺伝大事だよ!遺伝やらなきゃ駄目ですわ。

あとやっぱり問題を多段階で発展してくような組み方をしようとすると、どうしても遺伝子発現調節とかシグナル伝達みたいなのは出るのかなという印象ですね。

たくさんの資料を組み合わせて考えるには都合良いからね……。

植物の食害応答が被ったのは意外でしたが、ホットトピックだったからかなぁ。

 

 

ということで、大学入試問題にずぶずぶに浸った3日間でした。

お疲れ様!!!!!!!

2021年度東京大学入試問題 生物 所感

待ちに待った東大の問題が出た!!!!!!!!!!!

早速解きました!

ここから見れる&解けますので興味有る方は是非。

東京大学 前期 | 国公立大二次試験・私立大入試 解答速報 | 大学入試解答速報 | 大学受験の予備校・塾 河合塾

 

せっかく解いたので、毎回誰に需要があるんだかよくわからないけれど所感を書きます。

 

概要

大問数は例年通り3題。

問題文の分量は例年より少なめ?な気がしました。感覚だから違うかもしれません。

ただ、前回は論述たくさんだったのに今回は総指定行数が減った気がします。例年並みに戻ったかな。

東大といえば毎年、良い題材がって、それを基に幅広い分野を横断しつつ、考察力を問うというものなんですが、

今年もまさにそんな感じの出題でした!大満足。

毎年東大凄いなぁと思うのは、その文章の読みやすさと回答のブレを作らせない誘導なんですが(答えがバチッと決まる!)、今年もその能力はいかんなく発揮されていましたね。

考察問題も昨年同様物凄く難しいものはなくって、リード文や実験状況を正しく落ち着いて読み取ることができれば答えが導ける問題で構成されていました。

 

最初にも述べたように論述指定行数が減っているため、時間に余裕をもって回答ができたのではないかと思ったり。

難易度は総合的に見て昨年度並みかやや易化、というところかな?

 

各大問ごとの所感

第1問

使う知識の分野としては、生体膜、遺伝子発現、シグナル伝達、呼吸……といったところ?

実験考察を中心とした問題です。

リード文に書いてある情報を丁寧に拾って整理できれば問題はないわけですが、複数の資料や実験が絡むので、まぁちょっと大変かもしれません。

個人的にはとてもいい塩梅な気がするが!

もはや論文読み取りに近い気がします。普段から論文読んでる人には楽なのではないか。

Ⅰ 水と生命、クマムシの乾燥ストレス耐性

水が生命活動維持に必須の存在であり、多くの陸上生物がそれを確保することを最優先課題とすることを述べた上で、

「水をほぼ完全に失っても一時的に生命活動を停止するだけで生きられる生物」としてクマムシを例に挙げる……という導入。

クマムシ!!!!!!!!!嬉しいね。テンション上がるわ。

クマムシ博士とか、昔流行ったけど今どうなってるんだろうなぁ。

 

さて、問題では、乾燥ストレス耐性の耐性度合いが異なるクマムシに関し、遺伝子発現との関連性を見ながら実験が行われます。転写阻害剤で処理したり~翻訳阻害剤で処理したり~……。

Aでは、水が生体膜安定化に果たす役割の説明を求められます。これってすごく基礎的な内容だけど、色んなことの意義を考えてみたり、なぜ?を普段から感じたりしながら生物の授業受けてないと、あんまり考えないだろうな。

教科書でもキャンベル生物学でも、「生物は化学物質だ!水が大事だ!」から入り、生物を組成する化学物質から理解する所を求めてくる訳ですが

そういう化学的視点というか、生物の素材を知った上での論理展開ができるのは大事だなぁと思ったり……。

Cは少々捻った実験解釈問題。乾燥耐性に関係ありそうな3つの遺伝子について、転写阻害剤と翻訳阻害剤暴露後乾燥を経験させ、それでmRNA量を見るという。

このグラフから、ストレス情報伝達経路の初期遺伝子がどれかを見極めるんですね。

シグナル伝達経路と転写調節の多段階的な繋がりのイメージを構築できないと答えられないなぁという印象でした。

簡単だけど、試験会場で焦ってたら「どゆこと!?」ってなりそう。良問。論文ですよ。真面目に。

Dは比較的単純なグラフ予想。「遺伝子がある」ことと「遺伝子が発現している」ことが別物だと分かっているかが問われている感じですかね。

Eは各薬剤がどのシグナル伝達段階を阻害する可能性があるかを結果から考えるもの。Cが理解できていればこれは答えられます。過不足なく答えられる正確さが肝ですわ。

特にEは、色んな議論をするときに大雑把な人だと難しそう。グループディスカッションとかやっても、雑に「ここらへんに効いてそう」で終わらせる人っているんだよな。

でも実際はそうじゃなくて、資料から厳密に「ここからここまでの間で効いてそう、これより後だと○○という結果になるはず……」って深く考えるのが大事なんだよ。


Ⅱ 線虫の乾燥耐性

線虫のトレハロース蓄積の話は自分が大学生の時には既に聞いた気がするな~と思って軽く調べてみると、2010年代までには分かってたことっぽいですね。

今回の問題では、線虫の乾燥耐性にはトレハロース蓄積が関わること、

トレハロースを作る基になる物質は呼吸経路の中で作られることが述べられています。

加えて、糖新生の話にも少々触れ、異化経路が逆方向に進められることを提示するなどしています。

このリード文に含まれる、乾燥耐性とトレハロース合成と呼吸と糖新生が全て最終的に問題で繋がってくるから、めちゃくちゃ良い!!!!!!アトラクションみたいな興奮があります。

さて、このあと耐性が低い変異体について実験を提示していくわけですが。ここで乾燥耐性が駄目な二種類の線虫株を用意し、さらに二重変異体の結果まで出してくるんですね。

結局問題を解くにはこの二重変異体の結果まで含めて細かく吟味しないといけなくなります。丁寧な検証作業が要されます。

いやぁ、でもね、本当にそれ大事な能力だから……!!!!!東大はいい問題作るなぁ……。


第2問

使う知識は、植物の環境応答(屈性、食害)、植物ホルモン、細胞膜の性質、チャネル……あたりかな?

こちらも実験考察を中心とした問題です。

またリード文の丁寧な読み込みと、たくさんのの実験データを整理・関連づける必要があります。

特に今回のグラフは、「屈曲角」の定義といった前提条件の把握が必要になるので、一筋縄ではいかないかも。

縦軸なんだこれ、と調べながらやるのって、もはや論文……。

Ⅰ 屈性とオーキシンオーキシンの酸成長説

Ⅰでは屈性やらオーキシンやら酸成長説やらが丁寧に説明されています。酸成長説の歴史的変遷とか、知ってるけど東大で説明されるとは。

この問題ではBがなかなか試される感じでした。問題としては、実験と結果の情報を見て、(1)~(5)の各記述に対し支持されるか否定されるかを答え、否定の場合根拠となる結果を提示しなさいよ~っていうやつなんですけど。

……なんと、(1)~(4)まで×が続くんですよ!怖くないですか?何を試されているんだ??

自分の思考に自信がないと正しく回答できないね。当てずっぽうな人や、やはり雑な人を削ぎ落としたいのだろうか。

Cは、IAAの極性輸送でなぜ排出輸送体の制御だけが重要になるのかを考えて説明せよという問題なのですが、これね、目からウロコでした!

与えられた情報から論理的に導けるんですけど、自分で導いて自分でなるほどね!って感動しました。勉強になるなぁ。

 

Ⅱ 植物の食害応答とカルシウムイオン

食害応答について述べ、食害応答をはじめ様々な入力に対しシグナル分子として機能するカルシウムイオンについて実験を行うというものです。

カルシウムのウェーブみたいなやつ、Twitterで動画が上がってたよね。去年かな?と思ったら、もはや3年前でした。年……

ちなみに動画はこういういやつな。

www.youtube.com

www.youtube.com

この問題自体も一応実験解釈問題なんですが、個人的には色んな事例とか知識を結びつけて考えれる面白い題材だな~と思いました。

例えば「細胞小器官にカルシウムイオンチャネルがあって、それを阻害すると風刺激時に細胞内カルシウムイオン濃度が上がらなくなりますよ」って伝えられます。これどういう仕組みでカルシウムイオン濃度上がってるの?って聞かれるんですが、ぱっと思いつく類似現象って多分「筋小胞体」なんですよね。

筋収縮のとき、細胞質基質のカルシウムイオン濃度を上げるのは、筋小胞体に蓄えられているカルシウムイオンが、小胞体膜上のチャネルが開くことで生じるじゃないですか。

それを連想すれば「じゃあ植物もそんな感じじゃね?」となるかな……と。

もともと全ての仕組みを知っていることも大事なのかもしれませんが、ある現象から「仕組み」「仕掛け」として何か特徴を抽出してきて、

他のことを考える時にそれを適用できるのって、大事ですよね。

……そういえばグルタミン酸の話は出なかったな。植物と神経を絡めるように発展しそうだったのにな……。


第3問

使う知識は性決定、発生、ホルモン、生態系、遺伝、脳のあたり。

性決定を題材にしながら、様々な視点で問いが立てられている楽しい問題です!*1

ただの知識暗記ゲーではなく、論理的思考力を要される問題になっています。

でもね、とにかく誘導がジェントルだから。そのまま引っ張ってって貰えれば答えれちゃうから。東大のエスコート力は半端ないぜ。

Ⅰ 脊椎動物の性決定

「皆、生物はオスかメスかの二者択一みたいに思ってるけど、本当はそんなことないよ?脊椎動物には様々な性決定や表現型が発生するんだよ?」というリード文。

この中身が単純にまず面白いですね。

色んな例を挙げてくれるんですが、それがどれも嫌味なく、しかも問題を解くのに過不足もなく、

読みやすく、わかりやすく、感動と驚きがある!

東大の文章力、凄いですよねぇ。大抵こういう例示どんどん挙げていく系って、後で「ほぼ無駄じゃん」みたいに思われるんですが。それを感じさせないんですね。

ちなみに性を取り上げるだろうことはなんとなく予想していました。ここ最近ずっと話題だからね。

Aでは雌雄モザイクのキンカチョウの発生原因を考察します。

私の頭の中では完全にミツバチの雌雄モザイクの話を思い浮かべながらやってました。ミツバチって、オス×オスでできた子とかおるんやで。

Bは、雌雄モザイクという存在によって、「全身の性は性ホルモンで規定される」という考えが疑問視される理由を論述します。いや~、いいですね!

Cは、外見メスで精子を作るオス個体が、繁殖戦略上どんな利点があるかを考えます。

つまり……女装するけれど男性生殖器を持ち女性を生殖対象とする生物?

そういう形態に利点があるのかなんて今まで考えたことなかったんですが、この問題で考えるきっかけになりました。そうか、オス同士の闘いに巻き込まれずに配偶者を獲得できるんだね!面白いですね。

Dは雌雄同体生物であるマングローブキリフィッシュを用いた遺伝の問題。ただの一遺伝子の問題なので簡単ですが、題材は楽しい。

ちなみにマングローブキリフィッシュは今年名大も出していました。大人気!

i-my-mine.hatenablog.com

 

EとFでは、制度と性決定のリンクを鮮やかに見せる問題になっています。

  • 一夫多妻ハレムの場合、大きい個体がオスに性転換する例がある
  • 一夫一妻の場合、大きい個体がメスに性転換する例がある

これらはそれぞれ利点があるのですが、制度によって性決定の方向性が全く変わるのは面白いですよね。

 

Ⅱ ヒトの男性脳と女性脳

「ヒトの性が二者択一で捉えられがちで、脳機能についても男性脳と女性脳と言われるけど、実際はどうかちゃんと考えたことある?」という、世間に疑問を投げかけるような問題でした。

中身自体はロジックパズルなんですが、大変おもしろく、また考えさせられる題材でした。

何より自分としては、男性脳女性脳のいわゆる俗な話題がまさか「生物の大学入試問題」という非常に高尚なものに昇華できると思っていなかった面があり……

「こんな風に問題にできちゃうんだ!!しかも凄くちゃんとしてるし、サイエンスの立ち位置から吟味できてるし、凄い……」という感動がありました。

こういうナイーブだったり揺れ続ける話題だったりを、例年東京大学は割と取り上げて平気で素晴らしい問題に昇華してしまうわけですが。

もうさすがだなぁとしか言いようがありません。凄いっす。

 

総評

題材も調理も最高に素晴らしい、まさに東京大学の問題といった感じの問題でした!

私は大満足です。今年もこんな良問に出会えてよかった。

やはり生物の問題の面白さは、一つは題材、もう一つは調理なわけで、

どれだけ面白い題材を持ってきても、問題がショボいとあまり盛り上がりませんし

良い問題を作ってみても、題材が並だとそこまで興奮できません。

しかし東大はそのどちらも完璧なので、もう大変興奮します。解いていて常に楽しいです!

加えて、丁寧さですね。作りがとても丁寧で、文章が「読める」、問題がすんなり「解ける」。これって凄いことですよ。

大抵の大学入試問題では、「何語を喋ってるんだ?日本語変じゃない?」ってひっかかったり……

向こうの聞きたいことが伝わってこなかったり……

「これ答え一意に決まらなくない?」ってもやっとした気持ちになったり……

そういうストレス源が絶対あるんですが。

東大はこれがないんですね。一切ないんです。

教科書準拠で、逸脱した知識問題とかもないんです!これも凄いです。大抵の大学は、難易度上げるよ~ってなると大抵逸脱してくるからな。愚かなり。

  • 教科書に載っている基礎知識を理解するとともに確実に身に着け、それを用いて丁寧な論理的思考を展開できる。
  • 複数の資料や情報を取りまとめ、整理・解釈する力がある。

そういう力を持っていれば東大の問題は解けちゃう!素晴らしい!

やはり東大は神です。

そして問題解くの純粋に楽しすぎる。毎月出してほしい。タダで味わえるアドベンチャーみたいで最高ですよ。

 

 

真面目に、一度でいいから東大の作問会議に立ち会ってみたいですね。

または作問してる人の作問中の頭の中を覗かせて頂きたい。

一体どういうブレインでどういう思考回路をしてどういう会議をしたらこんな良問ができてくるんだろう……と不思議でなりません。

私の中には美学があっても、それを実現できる作問力がないので……

生きている間に一回でいいから、東大の問題作りを側で取材とか勉強とかしたいなぁ……

*1:Twitterつながりの方から、「新学術領域じゃない?」とご指摘を頂き、確認したところ、それだー!ってなりました!!

新学術領域研究「性スペクトラム」トップ

もしかして過去の問題も新学術領域から出されているのかな……?

2021年度名古屋大学入試問題 生物 所感

2/25、26は大学入試二次試験前期日程の日!

まだ東大や京大は生物の問題が出てきていませんが、現時点で出ている名古屋大学(名大)の問題を解きましたので、所感を書き留めたいと思います。

 

ちなみに問題や回答はここから見れます。

名古屋大学 前期 | 国公立大二次試験・私立大入試 解答速報 | 大学入試解答速報 | 大学受験の予備校・塾 河合塾

 

概要

大問数は例年通り4題。

問題文の分量は例年並みですかね。

例年よりも、考察力を問いたいという意図の出題を軸に据えている気がします。とはいえ考察問題が極端に難しいというわけではないのですが……

リード文や実験状況を正しく落ち着いて読み取ることができれば答えが導ける問題で構成されていると思います。

例年だと、「これ本当に答え出るか?一意に決まるか?」と微妙な気持ちになる問題が時々あるのですが(これ事象丸暗記してないとここに提示してある実験からだけでは導けないのでは?みたいな気持ちになるのとか)

今年はきれいさっぱり解けました!すっきり。

 

題材も、全てではありませんが面白いものも取り上げていて、個人的には楽しい気持ちになりました!

真新しい題材でも、理解しやすい説明がなされていていいですね。

一部でアクセントとなる難易度高め問題がいい感じの配置で入れられているのもポイント高い(大問1の3遺伝子ハーディ・ワインベルグ、大問4の遺伝子マッピングなど)。

 

名大といえば単純な穴埋め問題(語彙知識を問うもの)がかなり多いイメージがあるのですが、今年は少なめでした。この方がすっきりしてていいと思う。

論述問題数は昨年とほぼ変わらないですが、昨年度はかなりベースの知識を必要としたのに対し、

今年の論述は実験をちゃんと読み解けていれば解釈・回答ができそうな良問になっているように感じます。

また、実験デザイン系の問題が名大では毎年出題されていますが、今年は多め(3問)です。

 

一番の驚きポイントは、昨年消え去った遺伝の問題があっさり復活し、しかも大問1と大問4の二つでメインに据えるという大きな扱い方をされていたところですね。

名大はやはり遺伝の対策が必須ですね……。

難易度は総合的に見て昨年度並みか、ちょっとだけ難化?難易度はかなり安定してるんじゃないかなって思います。考察系や処理系が苦手だと厳しいかも。

 

各大問ごとの所感

問題Ⅰ 血液型(遺伝、ハーディ・ワインベルグ、酵素反応)

難易度は並ですね。入り口感溢れるほど良い難易度の問題が最初に配置されているなという印象。

血液型の遺伝子やその周辺の酵素がメインです。

 

基本は典型的な遺伝の問題ですが(家系図など)、

三遺伝子のハーディ・ワインベルグ計算や、酵素反応グラフについてちょっと捻った聞き方をするなど、「丸暗記をしているだけか否か」をチェックするような問題が見受けられます。

まぁ、自分が出題者でもそれは突きたい所だよな。

 

〔文1〕血液型を決める遺伝子と酵素

リード文はよく見る文章ですね。なんなら授業でやるのでは?めちゃくちゃ普通の血液型の話です。

(1)は難易度0の基本問題。

(2)は血液型を規定する三遺伝子について、ハーディ・ワインベルグ計算を行う(ただし使用するパーツが決まっている)もの。

難しくはないんですが、初見で焦るとできないかもしれません。

特にハーディ・ワインベルグの計算の仕方を覚えていない丸暗記型のタイプには厳しいですな。導出方法をちゃんと覚えていれば、なんてことはない。ただの数式遊びだよ!でもそういうのが皆できないんだよなぁ……。

 

〔文2〕酵素E変異による免疫不全の遺伝

リン酸化酵素である酵素Eの遺伝子が変異すると免疫不全になる、というリード文からスタート。

(3)は家系図を見て優性劣性や性染色体・常染色体を答えるもの。なんですが、ここで「顕性、潜性」を表に出していることにちょっと感動!こんな時代になってきた。

とはいえ問題自体は、単純・簡単です。

(4)はよく見る酵素のグラフです、が、縦軸が反応速度で、横軸は基質……ではなくATPなんですね。酵素Eはリン酸化酵素なので、ATPをひっ捕まえてリン酸を貰ってくるわけですが。

聞かれていること自体はよくある「なぜこのグラフでは横軸が大きくなっていくと反応速度が頭打ちになるのか」なんですが、ここ丸暗記受験生だと恐らく「全ての酵素酵素-基質複合体を作るため」という回答をするでしょう。

しかし今回の問題文では基質とATPは別物扱いをしているので、この回答ではいけないわけで……

これもやはり理解がないと正しく答えられない問題だと思われます。なかなか細かい問題だな。

(5)は競争的阻害剤があるときのグラフ。簡単簡単。典型よ!

 

問題Ⅱ 「植物ホルモン」

難易度は並か、ちょい難くらい?文1はただの知識問題なんですが、文2がかなり沢山の情報が与えられるので、そういうのを処理する人には難しいかな。

ただ、文2はリード文に書いてある情報を正しく読みとって、冷静に処理できれば実際は全然難しくないです。

受験で沢山の情報をどば!と与えられた時、どれだけ平常心でいられるかがポイントだろうな~。

 

〔文1〕馬鹿苗病菌の発見

馬鹿苗病菌の歴史みたいな話がリード文になってます。

(1)では、「馬鹿苗病菌が分泌する化学物質が異常伸長の原因」であることを導くための実験をデザインします。ほとんどヒントはあるので、空白を埋めるだけなのですが……

難しいものではないんですが、培養液のイメージ(培養液には菌と分泌物が入っている)がないと答えられないかな?ともちょっと思います。

そんなイメージは生物学の過去の実験(破傷風とか、タバコモザイクウイルスの実験とか?)を学んでいれば幾らでも着く気がするんですが。ちょっと実践的な問題だなって気がしました。

(2)はただのオーキシンと重力屈性の話。知識。

(3)も植物ホルモンの知識ですね。知識ばかりで易しいね。

 

〔文2〕ジベレリンとDELLAタンパク質による伸長制御

文2は実験フェーズなわけですが、ここで情報量が一気に増えるので冷静な整理・処理が必須です。

内容・実験は全く難しくないんですが処理数が単純に多いですな。

かなりリアルな実験イメージを与える文章だなぁとも感じました。

(4)は簡単な実験デザイン(結果まで入れる)。

このデザインは、人体のホルモンの所でインスリンの学習をしていれば思いつくんじゃないかという気がしました。Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病の違いを勉強するでしょ?

(5)はリード文や結果が正しく解釈できているかを試す論述ですね。

読み取れていれば普通に答えられます。読み取れていれば。

(6)、(7)は(5)ができていないと総倒れする連鎖問題でした。これ落とすと辛いなぁ。

 

問題Ⅲ 「細胞接着(密着結合)」

実験解釈問題に加え、馴染みがあまりない現象に関する生理的意義について考察させるなど、中々アクティブな問題でした。

こちらも第2問に引き続き情報量が多いです。

難易度は並または少々難かな。


〔文1〕小腸とカスパリー線

(1)で中学生レベルの単語を問われるので逆に戸惑っちゃいました。柔毛、根毛て!

中学校の知識を定着させておくのは大事ですね……。高校でわざわざやらないぞ?

(2)は細胞接着に関わるタンパク質の知識問題。難しくないですよ。

でも、ギャップ結合に関わるタンパク質って、コネキシン?コネクソン?どっちで答えればいいのかな?この問題文だと、どっちでもOKな気がするんですが。

チャネルだと言われたらコネクソンだけど……

(3)は実験デザイン問題に近く、「なぜこの方法でこの目的に沿う選別ができるのか?」という質問でした。ちなみに選別したいものは、カスパリー線を作るやつと作らないやつです。

前提を理解していれば難しいことはないのですが、類似の実験系を見る機会がそうそうないだろう特殊なケースなので、ちょっと発想が難しいかもしれません(が、前提をちゃんと読んで整理すれば分かるとも思う)。

解いてて私も「へ~なるほどね~そうやれば確かめられるじゃん、頭良いな」ってなりました。

(4)では、リード文で説明された、カスパリー線形成に関わるタンパク質の細胞膜上での配置について、生理的意義は何かを問うというものでした。

図2が大ヒントになっているので分かるといいんですけどね。図2があからさますぎてちょっと笑っちゃったよ。

とはいえ焦ってると気づかないだろうなぁ。発想できないと難しい。

この問題も「へぇ~、植物、賢いジャン」ってなる。

 

〔文2〕乳腺上皮組織での密着結合形成

ひたすら沢山の条件と実験と結果を処理する問題ですね。

放射性同位体を用いた実験なので、検出される=どういう現象が起こったと言えるか、を理解できないと解けません。

今回の名大、色んな物質や素材を使って、「これ使ってこうなるってことはどういう意味なん?君にこの意味分かるの?」って聞いてくるの多い気がするな。なんか新傾向的だな。

実際実験やるときはそういう考え方や発想は大事だからとてもいいんだけども……。

(5)は放射性同位体検出の意味が分かればなんてことはないっすね。

(6)は処理ゲーム。

ただし糖質コルチコイド=副腎のみ と思い込んでいると間違えるので、あくまで資料ベースで処理せねばあかんです。自分の知識だけで解いちゃだめよ!

(7)は(6)まで解けていれば間違えないっしょ。


問題Ⅳ 「遺伝(ちょっとだけ進化)」

マングローブキリフィッシュという雌雄同体生物(自家受精をする)を題材にした問題。

単純に面白い!良い題材を持ってきたなぁ!

とはいえ中身のほとんどは遺伝の問題ですので、特に連鎖について理解ができていれば解けるでしょう。

〔文1〕マングローブキリフィッシュの紹介、自家受精が続いた時のホモ接合体の割合

(1)は物凄く丁寧で優しい誘導ありきなので、慌てずやれば解けるでしょう。

もしできない場合は焦りすぎか、遺伝の基礎の基礎がぐらついているのです。

〔文2〕自家受精による4つの連鎖遺伝子の染色体地図作成、色素遺伝子マッピング

この問題が恐らく一番の山場!

この問題の概要としては、

  • 全ての遺伝子がホモ接合の系統Pと系統Qがいる
  • 系統Pと系統Q由来の対立遺伝子は見分けられる
  • PとQをかけて雑種F1を作る(全ての対立遺伝子がp型とq型でヘテロ
  • ある染色体上に連鎖するA~Dの4つの遺伝子について、F1の自家受精により得られた10個体を得て、A~Dまでがp型かq型かを見、遺伝子型を表1にまとめる

という感じ。

そんなわけで、表1には個体1~10について、各遺伝子についてpとqの遺伝子型がダーッと並んでいるわけですが……

これはもう表1の見方が分からないとまず手がつけられないですよね。

こういう表を書き出して、色々処理する系の類題は、稀ではありますがあるんですよね。例えば2016年の京都大学とか。それを経験していれば大丈夫?な気がします。

しかし未経験だとまず無理な気がするな。

(2)では表1を使って、各遺伝子間の組換え価を出し、染色体地図を作ります。

組換え価は二遺伝子間でしか出せないことを忘れていなければ、あとは表の見方が分かっていればできるはず。

※ 組換えが生じていない時の配偶子は、A~DについてPPPPまたはQQQQであるはず。組換えが生じている時の配偶子は、A~DについてPだけorQだけで揃っていない時だぜ!

(3)はA~Dの遺伝子をマーカーとして、色素遺伝子をマッピングするというもの。

マッピングはねぇ……授業とかでどれだけやるかなぁ……かなりリアルな実験ぽいのでそりゃ知ってほしいけれど、中々伝わらないよ?

マッピング、今度ブログで説明しよかな。

だから今回も正答率低いと思う。

マッピングについて知らなくてもできるかもしれないけど、大抵は戸惑ってできないんじゃないかな……。

 

〔文3〕マングローブキリフィッシュは自家受精しかしないのか?

この文章では、マングローブキリフィッシュが自家受精だけを繰り返していくと、皆ホモ化しちゃって困るんじゃない?

本当に自家受精しかしてないの?という疑問を提示し、それを解明するための実験を行います。

X地点とY地点という2地点で個体を捕獲し、対立遺伝子の構成を調べてみるんですね。

その結果を見て何が起こっているかを考えるもの。

これは普通に楽しいわ。

(4)は進化的な背景というか、何がどうなってこうなったか、みたいなストーリーがばっちり見えていてとても面白いです。

 

〔文4〕マングローブキリフィッシュの雄性両性生殖

最後の文では、結局マングローブキリフィッシュにおいては、雄個体がまれに発生すること

そしてもしかしたら雄と雌雄同体との間で受精するかもしれない という話に発展します。胸アツ!

(5)では雄性両性生殖をしているか否かを確かめる実験をデザインさせます。

単純だけどいい問題です。

こういう「誰かと誰かを受精させて白黒はっきりさせようぜ!」みたいな問題、割と好きですね。*1

(6)は、雄性両性生殖が自家受精のみ生殖や雌雄別個体間での生殖に比べて良い点を挙げるというただの論述です。

これは普段から有性生殖と無性生殖のメリットデメリットが分かっていれば応用して答えられるでしょう。

 

 

総評

今回の名大は楽しかった!良い問題だったのではないかと思います。

個人的には、特に問題Ⅳでテンションが爆上がりでした。

だってこれ……

線虫じゃね!?!?!?!?!?

私線虫でこのロジック使って実験してたわ!!!!!!!!!

って気持ちになったんだもん。

線虫は雌雄同体なんで、放っておくと勝手にホモ化していくんですよ。そうやって純系を作るのは基本です。

が、線虫を35℃とかの高温でしばらく放置してから常温で育てると、X染色体不分離が起こるせいで子供にオスが出現するんですよね。割とレアなんですけど。

で、オスを見分けるポイントは基本しっぽの先がかぎづめ型になっていることなわけです。本当は慣れると太さとか長さも違うなってなってくるんですが。

で、線虫で狙ってヘテロや変異遺伝子を持たせるために、オスを出して交配させたり……

そのF1を大事に育ててセレクションかけたり……

マーカー遺伝子を基準に変異遺伝子をマッピングしたり……

もうなつかしさが半端ない!!!!!!!!!!!!!!

線虫の研究楽しかったなぁ……とはいえ実際はずぶずぶの沼なのですが。

まぁ何が言いたいかというと、私が線虫の研究で使っていた手法やロジックが、問題Ⅳにはてんこもりだったわけです。生物としての生殖形態も似てるし。

そんなわけでテンション爆上がりで解いてしまいました。公平なジャッジではないかもしれませんが、普通に面白いので良しとしてほしい。

というか今気づいたけど、つまりこの程度の問題を全て線虫に置き換えて出題できるってことだな?お、これは作問できそう……。

 

ということで、名大生物所感でした。

次は東大京大を解くぞ~、あとマッピングの記事も書く!

 

*1:どこの問題だったかは忘れてしまいましたが、イネが通常自家受精するのに、開花前一定時期低温に晒されると交雑率が上がるということについて、品種Xと品種Y(どっちかが純ウルチ、もう一方が純モチ、ウルチが優性)を使って実験するぞみたいな問題があってですね。品種X栽培区から離れた所に品種Yを置くみたいなセットを二つ作って、一方の品種Yは低温処理して、もう一方は放っておいて、品種Yにできたもみを収穫して交雑率を算出するぞという流れで、その場合XとYどっちがウルチ・モチならいいかな?という問題がありました。それも良問だなぁと思いました。

M5StackでFS90Rモーターを動かしてみる

M5Stackで久々に何か作りたい欲がむくむくと出てきた。

私は本当に波があるので良くない。波が来るまでは全く触らなくなってしまうので……

前回触ったのは1年前くらいだろうか?と思っていたら、7ヶ月前くらいっぽい。めちゃくちゃだなぁ。

まぁでも気が向かないと何も作れないし何も取り組みもしないので……。自分の性格だから仕方ないなぁと諦めている。

 

今回やりたくなったこと

以前までは温度などの情報をとる媒体としてM5Stackを使っていたが、そろそろモーターを使って何かを動かしたいなという気持ちになってきた。

とはいえ以前一度やってみた時には、全然うまく行かなくて、なんやこれもういいやって放り出してしまったのであった。学ぶモチベが低かったというか……。

取り敢えず動いたからそれで満足して放置してしまったので、今回はちゃんと制御ができるようにしたいと思った。

それで最終的に、

「ボタンを押すとモーターが動いたり止まったりするやつ」を作ってみた後に

「光センサーを用いて、光が当たると動いて当たらないと止まるやつ」を作り、

それを「光走性で動く虫」か「運動野の神経細胞に光受容体を発現させられているせいで光が当たるとめちゃくちゃに動くマウス」を作ってみようと思った。

動機がいまいちよくわからないかもしれないが、まぁそういうことで……作りたいんだからしょうがない。

 

取り敢えず色々弄ってみる

取り敢えずまずは適当に触ってみようと思って、手元にあったFS90Rのコードや光センサー用のコードをぽちぽちして何かを作り上げた。

本当に雑に触っただけでかなり頭がよろしくないコードだが、こうすると光が当たった時にモーターが回転を始めることが分かった。

#include <M5Stack.h>

int led1 = 16;

//PWMの設定
const double PWM_Hz = 50;   //PWM周波数
const uint8_t PWM_level = 16; //PWM 16bit(0~65535)

void setup() {
  Serial.begin(115200);
  M5.begin();
  pinMode(led1, OUTPUT);
  //モータのPWMのチャンネル、周波数の設定
  ledcSetup((uint8_t)1, PWM_Hz, PWM_level);

  //モータのピンとチャンネルの設定
  ledcAttachPin(led1, 1);

  //disable the speak noise
  dacWrite(25, 0);
}

uint16_t analogRead_value = 0;
uint16_t digitalRead_value = 0;
void loop() {
  M5.update();

  M5.Lcd.setCursor(175, 80);
  M5.Lcd.setTextColor(BLACK);
  M5.Lcd.printf("%d\n", analogRead_value);
  M5.Lcd.setCursor(175, 100);
  M5.Lcd.printf("%d\n", digitalRead_value);
  analogRead_value = analogRead(36);
  digitalRead_value = digitalRead(26);

  M5.update();
  if(analogRead_value<1000){
    for(int i = 3000; i <= 4000; i+=50){ 
      ledcWrite(1, i);
      delay(100);     
      Serial.printf("%d\n", i);
    }    
  }else{
   for(int i = 0; i <= 10; i+=10){ 
      ledcWrite(1, i);
      delay(10);     
      Serial.printf("%d\n", i);
   }
  }
}

 

何が問題かというと、

  1. なんで回るかどれだけ回るかどうしたら止まるかetcが何も分かってない(大問題)
  2. コードのパーツの意味がほとんど分かってない
  3. ボタンを押した時の制御がうまくやりきれてない、特に画面表示の変え方がうまくできない
  4. そもそも待機状態の時を作ることができてない

などなど、問題だらけの継ぎ接ぎコードである。

ということでまずはモーターの勉強をしなければならないぞ。

 

FS90Rを勉強する

さくっと調べてみると以下のブログに当たった。

windvoice.hatenablog.jp

このブログによると、

動作としては、回る方向(時計回り、反時計回り)と速度をPWMを使って制御する

のだそうだ。PWMってなんだ。

 

PWMとは、Pulse Width Modulationの略で、パルス波のデューティー比を変化させて変調する変調方法なのだそうな。

ちなみに デューティー比 = パルス幅 / 周期 のこと。

今回のFS90Rのパルス幅は、データシートによると、

700~1500μ秒で時計回り、1500μ秒で停止、1500~2300μ秒で反時計回り となるのだそう。

よって、例えば周波数50Hz、16bit PWMにおいて停止させたいなら

周期(μsec)=1/50*10^6 = 2.0×10^4 より

デューティー比 = 1500μsec / (2.0 × 10^4) μsec = 0.075

16bitより 0.075×2^16 ≒ 4915 という感じに算出ができる。

 

プログラムにおいては

ledcSetup((uint8_t)1, PWM_Hz, PWM_level);

でHz(PWM_Hz)とbit(PWM_level)を、

ledcWrite(1, PWM);

でPWMを決めて指示を出す感じだと思えばいいっぽい?

 

実際PWMの値を4915にしてみると、こう……なんとも言えない速度で微妙に回転を続ける。

ので、周辺を探った結果、ledcWrite(1,4800);で止まることを見つけ出した!やったぜ。

回したいときにはPWMの値をパルス波700~2300μ秒になるように決めてやればええんやね。とはいえ今回みたいに微妙なズレはあるのだろうが。

 

結局色々弄り倒した結果、ボタンAを押している間か、光が当たっている間だけ動き続ける何かができた。

回転速度とか数とかは結局ストップ時以外あんまりいじれていない。

「コード全然違くね?」と思うかも知れないが、これは夫のテコ入れがある。でも頑張って理解したから使わせてくれよ。

#include <M5Stack.h>

int led1 = 16;
//PWMの設定
const double PWM_Hz = 50;   //PWM周波数
const uint8_t PWM_level = 16; //PWM 16bit(0~65535)

void setup() {
  Serial.begin(115200);
  M5.begin();
  pinMode(led1, OUTPUT);
  //モータのPWMのチャンネル、周波数の設定
  ledcSetup((uint8_t)1, PWM_Hz, PWM_level);
  //モータのピンとチャンネルの設定
  ledcAttachPin(led1, 1);

  //disable the speak noise
  dacWrite(25, 0);
}

uint16_t analogRead_value = 0;
uint16_t digitalRead_value = 0;

enum RunningMode {
  MOTOR_CLOCKWISE = 0,
  MOTOR_STOP = 1,
  MOTOR_ANTICLOCKWISE = 2
};

struct Context {
  RunningMode current_mode = MOTOR_STOP;
  RunningMode previous_mode = MOTOR_STOP;
  int motor_position = 0;
};

void control_motor_stop_mode(struct Context* ctx) {
  //とくに毎サイクルでやることなし
}

void control_motor_clockwise_mode(struct Context* ctx) {
  M5.Lcd.setCursor(0, 100);
  M5.Lcd.setTextSize(2);
  M5.Lcd.printf("Now i is : %4d\n", ctx->motor_position);
  Serial.printf("%d\n", ctx->motor_position);
  ledcWrite(1, ctx->motor_position);
  ctx->motor_position += 100;
}


struct Context context;

void loop() {
  // static void (*control_fn_ptr)(void) = &control_motor_stop_mode; 

  M5.update();
  
  analogRead_value = analogRead(36);
  digitalRead_value = digitalRead(26);
  
  if(M5.BtnA.isPressed()){
    // switch to MOTOR_CLOSEWISE
    // here is a transition procedure from "other mode" to "MOTOR_CLOCKWISE"
    if (context.previous_mode != MOTOR_CLOCKWISE) {
      context.previous_mode = context.current_mode;
      context.current_mode = MOTOR_CLOCKWISE;
      M5.Lcd.clear();
      M5.Lcd.setCursor(0, 50);
      M5.Lcd.setTextSize(2);
      M5.Lcd.printf("btnA waspressed");
    }
    control_motor_clockwise_mode(&context);
  }else if(analogRead_value<1000){
    if (context.previous_mode != MOTOR_CLOCKWISE) {
      context.previous_mode = context.current_mode;
      context.current_mode = MOTOR_CLOCKWISE;
      M5.Lcd.clear();
      M5.Lcd.setCursor(0, 50);
      M5.Lcd.setTextSize(2);
      M5.Lcd.printf("Light!!");
    }
    control_motor_clockwise_mode(&context);    
  }else{
    // switch to MOTOR_STOP
    // transition from previous mode to MOTOR_STOP
    if (context.previous_mode != MOTOR_STOP) {
      context.previous_mode = context.current_mode;
      context.current_mode = MOTOR_STOP;
      M5.Lcd.clear();
      M5.Lcd.setCursor(0, 0);
      M5.Lcd.setTextSize(2);
      M5.Lcd.printf("Now base status"); 

      context.motor_position = 4800;
      ledcWrite(1, context.motor_position); // stop motor
      Serial.printf("%d\n", context.motor_position);
    }
    control_motor_stop_mode(&context);
  }
  delay(100);
}

さて、これでiの値をとって観察することもできるようになったし、次は回転の制御をして「ばたばた」させたり「動き回」ったりするようなクリーチャーを生み出せばいいかな?

緊急停止ボタンも作りたいところだが。 

 

手元に赤外線センサもあるのでそれを使って、何かが接近してきたら逃げ出すやつとか作ってもいいな。それってゴキb

まいばいお28 チャボのなぞ

先日こんな記事を発見しました。

research-er.jp

 

この記事をざっと読むと、大雑把に

  • チャボは短脚のニワトリである
  • チャボ同士をかけると1/4の確率で孵化しない卵が出る
  • チャボではIHH(インディアンヘッジホッグ)遺伝子が壊れていて短脚であることが分かった(IHHは骨の伸長に関わるものである)
  • チャボではNHEJ1遺伝子が壊れていて1/4確率で孵化しないことが分かった(NHEJ1はDNA損傷修復に関わるものであり、NHEJ1が完全に駄目な雛では発生中のDNA損傷が蓄積されて死んでしまうと考えられる)

という感じの情報が得られます。

最初はへ~と思い、Twitterでもシェアしたりしたのですが、だんだんと疑問が浮かんできて納得いかない部分が出てきました。

結局調べて一応満足行く結論を得られたので、ここで報告してみようかな~と思った次第です。

 

 

何が疑問だったのか

まず、自分がこのプレスリリースを読んだだけで感じた疑問を挙げていきます。

① チャボはIHH遺伝子やNHEJ1遺伝子について、欠損と正常のヘテロ体ということでよろしいか?

「NHEJ1遺伝子が壊れているため、1/4で致死することが説明できる」とあることから、恐らく普段のチャボはヘテロで、欠損ホモになった時だけ死ぬのだろうとまず想像しました。しかしプレスリリースの中にはそれを明言する文章はありません。ヘテロなのかを知りたくなりました。

加えてIHHについても、欠損ホモがチャボなのかヘテロがチャボなのかが知りたいと思いました。どちらでも行けそうな気がしますが、IHHは骨の伸長を司る因子ですので、それが両方とも欠損している場合生きられるのか……?という素朴な疑問が浮かびました。

そんな時、IHHについてフォロワーの方一人から、興味深い情報が得られました。

 「チャボ同士でも1/4で正常な手足の長さのニワトリが生まれる」……ということは、IHH遺伝子についてもチャボはヘテロで持っている可能性が高いと考えることができるでしょう。そうした場合、正常/正常ならWT、正常/異常ならチャボ、という風に考えることができます。そこで思ったのが、「IHH異常ホモはどういう形態を示すのか?」ということでした。

② IHH異常ホモの場合致死ではないのか?これだけで1/4孵化しない話は説明できるのではないか?

IHHについてチャボが本当にヘテロである場合、チャボ同士の交配においては1/4の確率でIHH異常ホモが発生します。

IHHは骨の伸長に関わるものですから、これが破壊されているものがホモであれば、骨の伸長や形成に異常があり、死んでしまうのでは……。

だとすると、じゃあNHEJ1遺伝子の異常の話がなくてもIHH遺伝子の話だけで1/4致死は説明できちゃうんじゃないか?

チャボでNHEJ1遺伝子が異常なのは事実だとして、致死についてNHEJ1遺伝子を無理やり絡める必要はないのでは……?と思ったんですね。

そして出てくる最後の疑問。

③ もしIHH遺伝子の異常ホモ=死、NHEJ1遺伝子の異常ホモ=死という構図ならば、IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子は「完全連鎖」でないと1/4致死の説明にならないのでは?

今回のプレスリリースでは、2つの遺伝子の関係性(独立・不完全連鎖・完全連鎖)については述べられていませんでしたが、もしチャボがIHH遺伝子ヘテロかつNHEJ1遺伝子ヘテロであると規定されるのであれば、この2つの遺伝子は「完全連鎖」の関係じゃないといろんな事象に説明がつかないのではないか?と思い始めました。

IHH遺伝子について正常をI、異常をiとします。

NHEJ1遺伝子については正常をN、異常をnとします。ただし今回、大文字小文字は優性劣性表現ではなく、便宜的に用います(異常ホモを探しやすくしたいだけなので……)。

この場合、チャボはIiNnで表現される遺伝子型の個体になるわけですが。

この2つの遺伝子が独立または不完全連鎖であった場合、チャボが作る配偶子の種類はIN, In, iN, in です。

こうすると、掛け合わせの結果表現型は [IN]:[In]:[iN]:[in]=9:3:3:1 になります。

ここで例えばIHH遺伝子異常ホモ=致死とした場合、4/16が死にます。

NHEJ1遺伝子異常ホモ=致死とした場合も、4/16が死にますね。

どちらか一方の遺伝子のみに致死性を求めるならいいのですが、もし両方ともに致死性が発生する場合、死ぬのは7/16になってしまいます。

チャボ同士の交配で1/4死ぬという話がおかしくなってきます。

「IHH遺伝子異常ホモでは死なない」と仮定したとしても、独立または不完全連鎖を想定すると、チャボはIINnとIiNnの二通り発生することになり、そうすれば自ずとチャボ同士の交配の結果が変わってきてしまいます。これは「1/4死ぬ現象が見受けられる」とか、「1/4野生型が見られる」ということの説明が困難になります。

よって、最もすっきりするのが、IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子が完全連鎖である(しかも異常-異常と正常-正常という乗り方をしている)と考えることだと思われます。

そうすれば、チャボIiNnから出る配偶子の遺伝子型はINとinのみになり、

できる子供の遺伝子型比はIINN:IiNn:iinn=1:2:1、うまく収まるのです。

致死の個体の遺伝子については常にIHH遺伝子についてもNHEJ1遺伝子についても異常ホモになりますから、どっちに死因を求めても良くなります。

 

ということで、この考えたことが合っているのか調べてみよう、と思いました。

 

調査①チャボのIHH遺伝子破壊について

調べ始めてまず分かったことは、「チャボでIHH遺伝子が壊れていることは今回のプレスリリースより前の研究で知られていたらしいぞ?」ということでした。

以下の研究がそれに該当すると思われます。

www.nature.com

2016年に発表されているので、プレスリリースの研究で初めてIHH遺伝子がだめになっていることが分かったのではないようです。てっきり名大の研究で初めて分かったと思い込んでいたのに……。

この論文をざっと見ると、

  • チャボではIHH遺伝子がだめになっている
  • チャボはIHH遺伝子異常と正常のヘテロである
  • IHH遺伝子異常ホモは骨の形成が正常に行われないので死ぬのだろう

ということが述べられています。

やっぱりIHH遺伝子が駄目なだけで、形態だけでなく1/4致死まで説明がつくと思われていたようです。

 

調査②チャボのNHEJ1遺伝子破壊について

次にプレスリリースの元になった論文を参照してみました。

www.nature.com

するとまず、IHH遺伝子異常だけでなぜ1/4致死の説明ができないかについて述べてありました。

なんでも、IHH遺伝子異常ホモ胚は、骨形成が起こる前の段階で既に死んでいることが多いのだそう。なるほど、それなら確かにIHH遺伝子異常のせいで死ぬという話は難しくなります……。

ということで出してきたのが、NHEJ1遺伝子なんですね。

論文の中では、

  • IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子は第7染色体において隣接する
  • IHH遺伝子とNHEJ1遺伝子がある領域についてがっつり欠損が生じている
  • チャボではIHH遺伝子についてもNHEJ1遺伝子についてもヘテロである

ということが導かれています。やはり、完全連鎖だったのだ!

IHH遺伝子およびNHEJ1遺伝子について異常ホモになった個体は、NHEJ1の機能がないせいで変異が蓄積し、骨形成前に死ぬのだと想像できます。とはいえNHEJ1はダイレクトに胚を殺すようなものでもないので、もしかしたら骨形成に行けるものもあるのかもしれません。骨形成まで行ったとしても、IHH遺伝子が駄目になっているので骨が伸びない。どのみち死んでしまうというのが、結論ぽいですね。

 

ということでまとめ

研究の具体的な中身を全然説明はしませんでしたが、論文を読んでもらえばそれは分かるので今回は私の疑問に関して答えをまとめます。

  • チャボはIHH遺伝子もNHEJ1遺伝子についても正常・異常のヘテロである
  • 2つの遺伝子は完全連鎖である
  • チャボ同士の交配結果1/4が死ぬのはIHH遺伝子もNHEJ1遺伝子も異常ホモ個体だからである
  • (ということは1/4で出る野生型は本当に何もないふつーの野生型なのだろう)

何気なくいつも読んでいるプレスリリースですが、やはり論文を読まないと駄目ですね……。

ていうかこれめっちゃ良い遺伝の問題になりそうだな。作問しようかな。

生物広報誌 冊子化計画④ FINAL

前までの記事はこちらから。

私が冊子化計画を思い立ってから発注するまでの日々(たった10日程度)の学び、心の機微等、変遷が書き留めてあります(んな大げさな……)。 

 

さて、前回(1/31)までに入稿が完了し、発注もかけてしまった私!

あとは冊子が届けば、「冊子化計画」自体は一応の終焉を迎えるわけです。まぁその後在庫を抱える等のアフターストリーはあり得ますが……「冊子化計画」は冊子にするまでのストーリーだからね。

 

ではそんな「冊子化計画」の終焉まで一緒にお付き合い下さいませ!!!!!!!

 

 

入稿翌日の12日目(2/1)

朝起きる。月曜日だ。出勤しなければ、と起きた瞬間そう思った。

初めての注文、初めての入稿で興奮冷めやらぬ気持ちも少々あったはずだが、「仕事だ」と思うとスッと冷め、淡々と通勤。割と心は冷静。

職場につき無心の労働。と思ったら、色々あって急に大量の仕事が舞い込み大変になってしまった。びっくりするほど大変になった。しかも自分の係ではなかったはずのことで……。

こんな急に忙しくなるんなら、事前に冊子作成作業終わらせておいて良かったなぁとしみじみ思ったり。もし今週までずれ込んでいたら、もはや冊子完成は一ヶ月後とかだったろう。

 

大量に降ってきた仕事をなるべくなぎ倒し、遅い時間にめちゃくちゃに疲れ果てて帰宅。ふと入稿した原稿が気になり、なんとなく開いて、QRコードのページを読み込んでみる。と。

あれ……???QRコードが読めないんですが……

なんと、入稿した原稿に貼ってあったQRコード(最終ページの、ブログやサイトへのリンク)が、全て不能になっていたのだ!!!!!!!!大変がっくし。

だから入念に入稿前に確認すべきだったのに……と思ったが、どうせ入稿を先延ばしにしてもこれは気づかなかっただろう。やはり校正してくれる人が必要……第三者目線がないと、誤りにそうそう気づけない。

差し替えについて調べてはみたものの、まぁ無理だろうなという感じだった。もう諦めるしかないのだ。

こうして一箇所異常が見つかると、他にも駄目な点があったのではないかと一気に不安になってくる。例えば表紙の解像度、これも不安である。ががばがばで、ぼやぼやだったりしないだろうか?中の漫画や文章にも不安が出る。切れてないか、読めない文字になってないか、文字化けしてないか、etc……無限に湧き出る疑念に対し、為す術もないので不安を抱えて眠る。なんてったって明日も仕事なのだ。寝なければ。天命を待つのみ……天よ頼む……。

 

失意の13日目(2/2)

相変わらず仕事をせねばならない。QRコードショックの余震を引き摺りつつ出勤。とはいえ仕事はやらねばならない。大量に降ってきた仕事をもりもり片付ける。

と、昼頃に栄光さんから「原稿確認したから作業に入るぜ!」というメールがくる。おぉ~、印刷作業がいよいよ始まる!ちょっと高鳴る心臓。

ドキドキしながらも全文読もうと、下の方にスクロール。すると、「この後料金確定したら決済してな!」という文を発見。同時に、やってしまった!と思って冷や汗がぶわっと出た。

というのも、自分は勝手が分からなかったので、入稿したらすぐ決済しなければならないものだと思いこんでいた。

そこで、注文詳細画面の右上にある決済のボタンを発見し、そこから手続きを既に終えてしまっていたのである!なぜ!!!

こうした場合、既に支払ったお金は宙を漂い無の扱いになってしまうのか?それともこのままで大丈夫なのか???

一気に不安になり、慌ててメールをしたところ、非常に丁寧な返事が返ってきた。お金は確認でき、金額変更がある場合はまた連絡するので手続きしてねということだそうだ。よかった、私の1万8千円が無にならなくて……。

それにしても、こんな調子で本当に大丈夫か?あまりにもミスが多すぎるというか、未確認事項が多すぎるというか。全部行き当たりばったりで、何も見えていないことをつくづく感じる。普段生徒には「全部書いてある!」とか「読めば分かる!」とか言ってるくせに、自分はできてないじゃないか!

こうなってくると、やはり表紙の解像度がぼやぼやだったり、中身の原稿がもう見るに耐えない状態になっているのではないだろうか……昨日抱えていた不安が更に大きくなる。でも物が届く予定日は2/13、まだ一週間以上も先にしかその答えは分からない。つまり、一週間以上も悩み続けなければならないのだ。そんなのは精神がもたない……。

忘れよう&割り切ろうと何度も思うが、そのたびに不安が湧いてくる。無限に出てくるアリンコを撃退しているかのようだ。またこの不安と夜を過ごさねばならない。不安と不甲斐なさとをぐるぐるさせた心を抱えて眠る。

 

購入者を把握していく14日目(2/3)

何かしていないと気が休まらないので、Twitterで「買ってくれる人は教えて下さい!」とアナウンスした。

すると、何人かの生徒や周囲の人が反応してくれ、申し出をしに来てくれた!昨日までの不安がちょっとかき消える嬉しさだ。自分の本を読みたいと思ってもらえるのは嬉しい。有料なのになぁ。ありがたいなぁ。

と、思ったより沢山の生徒にだんだん広がっていく中で、「皆にも通達したほうがいいですよ!」とアドバイスされたので、自分が担当していた子たち全員に「欲しければ教えてね~」の通知をする。

60部発注したが、既にこの日で60部を超えそうな勢いだったので、自分の発注数で間に合うのか不安になってくる。が、嬉しい悲鳴だ。

 

運命の15日目(2/4)

今日も出勤。通勤していると、栄光さんから「料金確定したよ~」という連絡がくる。もう入金したし大丈夫でしょう、と思いつつも開いてみると、

あれ……?前決済した金額より数百円低くなってる……???????

謎の数百円が引かれており、決済がされなければ云々……という文章が書いてある(一応触れておくがこの時点でも60部1万8000円を超えている)。予想外の出来事すぎて文章が目に入らないまま心臓がバクバクし始める。なんで……?どうすれば……?

慌ててまたメールをし、既に入金してしまったがどうすればいいかの指示を仰ぐ。

栄光さんからの返事はお昼には来ていた。それによると、この減額は「セルフチェック入稿」で安くなった分だったらしい。そんなことあるんか!全然知らないままにやってしまっていた(セルフチェック入稿は、デジタルデータで冊子型になったものが見れると書いてあったのでやったのだった)。それでも1万8000円は切らないのだけれど、もともとの金額に比べたら(2万超え)かなりお安くしてもらっている。すごい。

非常に丁寧な指示を頂いたため、すぐさま入金手続きを済ませた。いやぁ、栄光さんは安心できるなぁ……。

 

17時、仕事も終えてふとスマホを見ると、栄光さんからまた一件メールが来ている。

入金で失敗した?原稿に不備があった?などなど不安に駆り立てられながら急いでメールを開く。すると、

「商品発送作業しました。追跡番号はこれです」という、発送完了を知らせるメールだった。え、もう!?ってことはもう、本になっちゃってるってこと!?すごい!というか、入金したの今日の昼なんだけどな。

追跡番号も載せてくれていたので、いつくるのかな、予定日は2/13だったよな……と思いながら、ぼんやりと佐川急便のサイトで確認をしてみる。すると、お届け予定日の所には「2月4日」と書いてあった。そっか、2月4日ね、予定日関係なく早く送ってくれて嬉しいなぁ……明日かな?今日何日だっけ?

……いや今日じゃん‼‼‼‼‼‼‼

気づいた瞬間急激に跳ね上がる心拍。え!?今日届くの!?なんで!?

何度も発送の詳細を見るが、発送されたのは2/3で、2/4の今日にはもう地元まで来ている。しかも持ち出し中になっている。10:02に!!!!!!

今日手に入れば、木曜日なので、明日の金曜日に皆に配れるかもしれない!これは絶対に手に入れたい。何より不安でいっぱいなので早く開放されたい。どんどん心臓が高なっていく。

しかし、私は職場から家までめっちゃ遠い。間に合うか??????10:02持ち出しとなると、もう既に不在票コースではないのか。とはいえ詳細に何もないということは、まだ届けられていないということかもしれない。

そんなわけで、受け取れるのか、中身は大丈夫なのか、ともう心が穏やかじゃない。いろんな可能性を検討するフル回転の頭と、心此処にあらずの状態で、残りの仕事を急いで片付ける。

仕事を終えたと同時に猛ダッシュし、急いで帰宅。帰宅中でもずっとソワソワして落ち着かない。頭の中はずっと同じことの繰り返しである。受け取れるのか?もう届いてしまっているのか?冊子は変じゃないか?ぐるぐるもやもや……。

 

最寄り駅に到着してからもダッシュで家に向かう。やっとの思いで家に着き、ドキドキしながら郵便受けを見ると不在票がない!ということは、間に合ったかもしれない!でも、不在票がないだけで、今日はもう来ないのかもしれない!不在票の有無を確認すれば受け取れるか否かが確定すると思い込んでいたが、実際にはそんな風に確定はできず、より一層自分の中でぐるぐるが強まることになってしまった。なんてったって、今日届くことがそもそもあまり信じられないのだから……。

ところで自分は今日の夕飯に鶏つくねうどんを食べるつもりだった。昨日の時点でお肉等の材料も用意済みだったし、それを延期することはできない感じだった。つまり、このそぞろな気持ちを抱えて強制クッキングタイムである。

表紙の解像度……中身の漫画……文章のみやすさ……いろんな不安がぐるぐる回る頭で鶏つくねうどんを作る。

あまりにも気がそぞろなので鶏つくねが全て歪になり、お湯の量を完全に間違え、箸は気づいたら長さが違う二本を使っており。そんな心ここにあらずな状態でご飯を食べていると、唐突に「ぴんぽーん!」と音が!!!!!!!!!!!!!

 

届いた!!!!!!!!!!!!!

 

うわー!!!!!!!!!!!!!!!!!!

本になってる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

すごい!!!!!!!!!!!!!!!!

 

心配だった解像度系の問題はなんとかなったっぽい。うわーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!本当に本にしてしまったことだよ。

マウスの線とかがちょっとギザギザしてしまったのは、最初作画する時点で解像度やdpiの知識が足りなかったせいな。次はしっかりしたいところ……!!!!!だとしても最初の作品にしては、満足の行く出来になった!!

 

第二刷はQRコードを差し替えますよ。

外部に送るやつはなるべく第二刷にしたいなぁ。

 

 

後日談

生徒に頒布を始めましたが、予想以上に多くの生徒から「欲しい」という申し出を貰って大変恐縮という感じです……!!!

しかも既に貰いに来てくれた子から、「vol 2は出ますか?出たら欲しいんですが……」とか、「面白かったです!」とか、「このクオリティでこの印刷代で済むのは凄い」とか、色々感想を貰って本当にありがたいです。

貰ってくれる生徒も、生物選択者だけでなく物理選択の子、文系の子、なんなら私が一度も担当すらしてない子までいて、これは本当に嬉しい限りですね……

あとvol 2の表紙を描きたいという立候補まで頂きました。是非描いてもらいたいと思います。というか自分の生徒の中でもし寄稿してもらえるなら、次回作はそれも含んだものにしたいなぁ。

 

また、教員は勿論ですが、遠方の本当に様々なバックグラウンドの方が取り寄せてくれるので、それも本当に教師冥利に尽きます。

ちょっと緊張もあるのですが……。

なんていうか、うまく言葉が見つからないのですが、本当にこんな温かい人々に囲まれて幸せだな……という感じです。ありがとうございます……!!!!!!

 

早速部数が足りなくなったので、昨日第二刷を発注致しました。注文して下さった人には全員お届けしますので、もうしばらくお待ちください……!!!!!!*1

*1:※ 今回の頒布作業は、管理職許可をとった上で、「利益を生まない事業」として実施しています!